第3話 ここがどこかを知りたい!
こんにちは! 鷹司タカシです!
突然化け物に襲われていたら、突然女の子に助けられました!
何が何やらわかりません!
「ようこそ、予言の戦士達」
ぼくん家の屋根の上に立つ彼女はそう言った。
予言の戦士達なんて呼ばれたことないけど、状況からして、ぼくとカーチャンのことを指してるみたい。
一方で、化け物どもは戦闘を停止した。
この小さな女の子こそが、化け物どもに命じてぼくらを襲わせた黒幕ってわけか。
黄金色のミディアムヘアー。
黒いトンガリ帽子。
透き通るような白い肌。
黒いポンチョ。
まるで魔女っ子だ。
化け物がいるなら、魔女がいてもおかしくはないけど……
「わわわー!?」
どうしてどうしてこうなるの!?
魔女ファッションの少女は、何の前触れもなく、屋根から飛び降りてしまった!
悩みがあったの?
生きることが辛かったの?
何でもぼくに相談してくれればよかったのにーー!!
「あら、すごい。浮いてるわよ」
……うん。
一気に落下してしまうかと思いきや、ふわふわ空中を浮いて、ゆっくりとぼくらの近くで着地した。
これは……魔法……?
「納得できない! なんで戦いをやめなきゃならないんだっ!」
化け物の一人が声を荒げた。
男のくせにブラジャーを着けている化け物だ。
どうやら、ぼくとカーチャンをぶちのめさなきゃ気が済まないようで、血走った目が殺意に満ちている。
ふん。
今更、意気がったところで怖くないよーだ。
さっきまでカーチャンにビビり倒してたじゃないか。
っていうか、男がブラジャー着けてんじゃないよ。
せめて、ブラジャーの上に服を着なよ!
「やめないかい」
別の化け物が制止する。
おやおや?
こいつだけ服装が他のやつらより少し豪華だ。
と言っても、上半身がブラジャー一丁の半裸であることに変わりはないけど……。
多分、こいつが化け物どものリーダーなんだろうな。
「でも! こいつらは俺達の敵じゃないですか! ここで逃がせば、いつまた襲われるか……」
「わかってる! あんたの言いたいことはわかってるよ。だけど、あんたもあいつと拳を交わして、気付いただろ?」
そう言って、やつはカーチャンに目を向けた。
「あの人は悪い人じゃないってさ」
そして、そいつはカーチャンに近づき、握り拳を差し出した。
「あたいは甲剛人のまとめ役をやってる。皆からは力石の姐さんって呼ばれてんだ。あんたの拳……気持ちよかったぜ」
それに対して、カーチャンも同じように、握り拳を差し出した。
2人の拳が力強くぶつかった。
「あ~ら、あんた達の拳も最高だったわよ。まっすぐな心意気が伝わってきて」
いやいやいや、何を熱血不良バトル漫画みたいなセリフを言ってんだよ。
「友好的な関係を築けたようで、何よりです」
一歩進み出たのは、例の魔女っ子だ。
化け物どもは彼女に向かって頭を垂れる。
「わたくし達は、手を携えて、世界の危機に対処しなければなりません」
くるりとカーチャンに向き直り、
「わたくしは宝百合と申します。あなた方を迎えに馳せ参じました」
ぼくより背の低い少女は、ぼくよりしっかりしている。
礼儀正しく、落ち着いていて、まるで大人のようだ。
だけど、大人っぽいのは性格だけではないんですねー!
「きみはEカップだ!!」
「!!」
彼女は目を真ん丸にした。
「コラ! タカシ!」
「金髪ロリ隠れ巨乳魔女っ子……ポイント高いz━━」
「やめなさい!」
ひいぃっ。
強烈な鉄拳がぼくの頭部に落とされ……
「大変素晴らしいです!!!!」
え??
な、なぜだか、魔女っ子の宝百合ちゃんに褒められてしまった。
「初見の人物の胸の大きさを、瞬時に且つ正確に見抜くとは……さすが、世界の危機を救うと予言された戦士!」
これまで女子におっぱい勧誘をしかけるたび、セクハラだの変態だのと罵られてきた。
だけど、ようやくぼくの才能を正しく評価できる逸材に出会えた!
宝百合ちゃん、きみならきっとOKしてくれるはずだ!
「おっぱい揉ませてください!」
「ひええ、変態です!?」
「タカシ、初対面の人に何言ってんの!」
「宝百合様に失礼じゃないか!」
Oh……。
宝百合ちゃんとカーチャンと力石の姐さんに強めに叩かれた。
一体どうして……??
「宝百合ちゃんだっけ? ごめんなさいね、タカシが変なこと言っちゃって」
「い、いえ……少し動揺してしまいまして。場所が違えば文化も異なるものです。あなた方の世界では、これはごく普通の挨拶なのでしょう」
「ううん、犯罪なのよ」
「え……」
あれあれ?
何とか誤魔化せそうなチャンスだったんじゃない!?
ったく、カーチャンが馬鹿正直に答えたせいで、宝百合ちゃんが軽蔑の表情を浮かべてるじゃないか。
「で、ですが……やはりタカシさん……? の能力は素晴らしいと思います」
お?
「わたくしのように、しっかり胸部を隠している者のカップサイズを見抜くのは、それこそ百戦錬磨の猛者でなければできない芸当ですから」
そうそう!
宝百合ちゃんの服って、やけにゆとりがあるから、パッと見、胸のサイズはわかりづらいんだよねー。
ま、ぼくレベルのおっぱい名探偵なら余裕ですけども。
「そうかしら。特技というより、ただのセクハラじゃないかしら」
カーチャン!
余計なことを言うなよ!
「いえ、予言の戦士たるに相応しいご立派な特技と存じます」
えへへー。
やっぱ、ぼくってすごい?
それは嬉しいんだけど……
「ねえねえ、さっきから気になってたんだけど、『予言の戦士』って何のことなの?」
「言葉の通りです。あなた方がこの世界にいらっしゃることは、事前に把握しておりました。と言っても、かなり直前になってしまいましたが……」
説明が物足りなさすぎるよ……。
「そこで、あなた方が本物の予言の戦士達であるかを確かめるため、少々手荒ですが、甲剛人の皆様に体を張って頂いた、という次第なのです」
「手荒すぎるよ!!」
「あらぁ、夕食前のいい腹ごなしになったわ」
「カーチャンはね! ぼくは命の危険を感じたよ!」
まったく、なんてタフなやつらだ。
どんな漫画の世界だよ。
……世界……?
そうだ!
最大の疑問がまだ解けていない。
我が家がここに着地した時からの疑問。
「ぼく達は……どこに来てしまったの……?」
「……心してお聞きください。ここは、あなた方、地上人には与えられなかった特別な場所……」
……地上人……?
宝百合ちゃんの表情が少し曇ったような気がする。
間を持たせるのは、躊躇いか、それとも……
「地底の楽園です」