第25話 秘密を貫き通したい!
植物まみれの廃屋が千祚代ちゃんのおうち。
もう夜も遅くて危ないし、女子同士だから別にいいじゃんという理由で、上がり込むことに成功しました!
こんばんは! 鷹司タカシ、男子小学生です!
さてさて。
家の中も植物が伸びたい放題だ。
引っこ抜いてあげよう。
「ダッダメです!」
「どうして?」
「ほっほら、みっ見てください。こっここには水のベッドや水の棚、みっ水のトイレがあるでしょ?」
「水のトイレはただの水洗トイレじゃない」
「とっとにかく、しょっ植物がなければ、そっそれらはただの水なんです」
ほほう!
確かに、水のベッドに飛び込むのは、水の中に飛び込むのと同じだ。
水の家具はそれ自体では役に立たない。
そこに植物が育っていて、初めて機能するんだ。
というわけで、早速ベッドに寝っころがってみた。
うーん!
悪くないね。
茎も葉っぱも柔らかいし、それが水の上に浮かんでるんだ。
ハンモックで寝るような、いや、それ以上の浮遊感が心地いい。
「ところでさ、千祚代ちゃん」
「はっはい」
「ぼく、お腹が空いたんだけど、このベッドに生ってる実は食べてもいいの?」
「たっ食べ放題です」
やったね!
早速、ぼくは寝転んだまま、ベッドに生えた実をひとつ摘んだ。
イチゴに似てる見た目だけど、外側には種がなくて、つるっつる。
一口かじってみる。
「美味しい! これ美味しいよ、千祚代ちゃん!」
「わっ私もこの果物がすっ好きです。あっ、タッタカシさん、たっ種に気を付けてたっ食べてくださいね」
「大丈夫大丈夫。ぼく、種好きだから何の種でも食べちゃうんだ。スイカでもメロンでもカボチャでも、絶対に種は捨てないで食べる! 特にピーマンの種は美味しいよ! あー、だけど、梅はダメ。梅の種には毒があるからね、食べたらお腹が痛くなっちゃったよ」
千祚代ちゃんは特に何も発言せず、ベッドに腰かけた。
そして、果実ひとつ摘むと、それをストロー状のお口で吸い始めた。
果実は見る見るうちに萎びた。
完全に吸い終わると、千祚代ちゃんは食べかすを水のベッドの中にポイ捨てした。
「ちょっとちょっと、何すんの! ちゃんとゴミはゴミ箱に捨てなきゃダメじゃない」
「こっこれは有機物だからいいんです」
「……んん?」
「ほっほら、みっ見てください」
そう言って、千祚代ちゃんが指差したのは、さっき彼女が捨てた吸いカス。
水の中をゆらゆら揺れてる。
だけど、それが水に生える植物の根本に来たところ、どんどん小さくなって、最終的には消えてしまった。
「どういうこと!?」
「ねっ根が有機物を、きゅっ吸収するんです。えっ栄養確保のために」
「へぇ~。食虫植物みたいなものかぁ。便利だねぇ」
ぼくもヘタを水の中に捨ててみた。
やっぱり、それは吸収されて消えてしまった。
それから、千祚代ちゃんと一緒して、果実を食べまくった。
ここにはベッドの上だけでも数種類の果実がある。
フルーツ食べ放題。
見た目の割りに結構いい家じゃんか。
しかもしかも、お花も咲いてるし。
「このお花とか、かっわいいじゃん」
ぼくはベッドの上に一輪のお花を見つけた。
「……?」
「どうしたの?」
「いっいえ、みっ見かけない花だな、と思って。わっ私達、蝶貴妃人は植物には、くっ詳しいですから、すっ水製都市の中にある植物の名前は、すっすべて把握してるはずなのですが……」
「ふーん。珍しい花なのかな。……食べてみよっか?」
「きっ綺麗だから、ひっ引っこ抜かないでおきましょう」
「それもそうだね」
さてさて、満腹になったし、体力ザコのくせに走り回って疲れましたし、そろそろ寝ようか。
千祚代ちゃんとおやすみの挨拶を交わして、ベッドに寝転がって、目を閉じて、さぁ夢の世界へ……
「いや、行けるわけないよね」
「どっどこに?」
「寝れないってことだよ! どうして、千祚代ちゃんも同じベッドに寝てるの!?」
こんな至近距離にDカップがあったら興奮して目が覚めちゃうよ!
「すっすみません……。ベッベッドがこれしかないので……なっ馴れ馴れしかったですよね。いっいくら女の子同士でも。……ゆっ床で寝ます」
「……ぼくが床で寝るよ」
「いっいえいえ、そっそんな━━」
「いいのいいの! いいからいいから!」
「でっでも……」
客人にそんなことさせるのは申し訳ないと、千祚代ちゃんは引き止めてくれた。
ありがとう。
でもね、そもそも、実はぼく男の子なんだよね。
だから、むしろ、ぼくの方が申し訳ないや。
優しい女の子に嘘をついた自分への刑罰として、床で寝ることを自分に命じるよ……。
「……ふっふふっ」
「何がおかしいの?」
「だっだって、ねっ寝場所をこんなに譲り合ってるのがおかしくって……ふふふ」
「うん……ふふっ。あははは」
結局、ぼく達はひとつのベッドで寝ることにした。
「きょっ今日は疲れたのですっすぐ寝られそうです」
「ぼくも」
「まっ魔法を使うと眠たくなりますよね」
「魔法使ってたっけ?」
「ほっほら、走る時に……」
「あー。あの時かー。やけに走るの速いと思ったんだよね。……そう言えばさ、どうしてあのおばさんから逃げ出したの? 知り合いっぽく見えたけど」
「うぇあっ? ……あっあっ……タッタカシさんは同性が好きな方ですか?」
「ん? んん? えっ……?」
「ほっほら、いっいつも胸のことを口にしてるじゃないですか」
急にそんな話を振られたら、ごまかし方を思い付かないよ。
「……うん。ぼく、レズなんだ」
「へっへー」
「あー、だけど、親は理解があるから大丈夫。何も困ってないから。普通だよ、普通」
「そっそうですか……。りっ理解ある親御さんでよかったですね」
まずいことをした。
千祚代ちゃんが両親を亡くしてること、すっかり忘れてたよ。
親の話題なんて避けるべきだった。
……いや、避けるべきじゃないのかな。
「ねえ、もしよかったら教えて。千祚代ちゃんのトーチャンとカーチャンが死んだのは、地上から現れた悪いやつらの仕業なの?」
「いっいえ、ちっ違います。えっえっと……じっ事故で亡くなりました」
「そっかぁ……。じゃあ、千祚代ちゃんには、予言の戦士の助けは必要ないねぇ……」
「……いっいいえ。でっできることなら、よっ予言の戦士に救ってもらいたいです。ひっ人の悩みは、ちっ地上人集団の存在だけじゃないです。……にっ日常にも苦しみはありますから……」
……千祚代ちゃんの言ってること……ぼく、よくわからない……。
必死で……考えようとしても……まどろんできちゃって……頭が……働か……な……い……。
* * *
ふぁ……おはようございます。鷹司タカシです。
まだ眠たいのに、謎の鳴りやまない音のせいで、もう目が覚めちゃいました。
ぽんぽんぽんぽん……ずっとうるさいんだよ。
何の音なんだろ?
カーチャンが台所で料理してんのかな?
いやいや、ここは実家じゃなかった。
千祚代ちゃんの家だ。
だけど……
「千祚代ちゃん、どこ?」
彼女の姿はどこにもない。
水のベッドの上にもいない。
寝相が悪くて床に転がり落ちてるわけでもない。
トイレにもお風呂にも、どこにも見当たらないんだ。
もしぼくの方が早く起きてたら、千祚代ちゃんの乱れた黒ワンピから覗くピンクおっぱいを堪能できたかもしれないってのに!
待ってても埒があかない。
ぼくは水の壁を通り抜けた。
あーあ。
全身びしょ濡れ。
水の家を鏡にして確認してみたら、ウィッグはずれてるし、メイクはぐちゃぐちゃになってるし、最悪のコンディションだ。
ぽん、ぽん、ぽん、ぽん。
あの音が空から聞こえる。
見上げれば、白い煙が空で弾けてる。
お祭りの始まりを知らせる祝砲なのかな?
「そんなことより、千祚代ちゃんは……あっ!」
千祚代ちゃんは家からそう遠くないところを歩いてた。
ぼくは必死で走って追いかけ、追い付いた。
「待ってよ。ぼくを放って、どこに行くのさ」
「どっどこにも行く宛なんてないです。でっでも、こっここにはいられないんです」
「どうして?」
「つっ……つらいからです」
千祚代ちゃんの目から、大粒の涙が溢れ落ちた。
思わず、彼女の肩をぐっと掴んで引き寄せた。
「頼って。どんなことでもいい。ぼくには特に何もできない自信がある。でも、頼って。だって、ぼくたち友達でしょ」
「とっ友達……でっですか?」
「そうだよ! 友達の悲しみなんて見たくないよ。行く宛がないなら、ぼくと一緒にいよう!」
ずっと一緒にはいられないかもしれないけど、でも、きみをどこかに連れてってあげることはできる。
それまで、ぼくと旅をしようよ。
「……はっはい」
決まりだ!
そうと決まれば、善は急げ。
ぼく達はカーチャン達と合流するため、移動を開始した。
きっと、カーチャン達もとっくに水製都市に入って来てるだろう。
不思議だな。
千祚代ちゃんと手を繋いでると、祝砲よりも早いリズムで鼓動が鳴るよ。
おっぱい勧誘に敗れ続けてきたせいで、仲良くしてくれる女子なんて一人もいなかったもんだから、こんな経験は初めてだ。
これって青春?
もしかしたら、片や女装男子とは言え、女子同士だから楽しいのかな?
は~。
こんなことだったら、最初から女の子に生まれてればよかったかもなー。
女子同士の戯れってことで、おっぱい揉み放題になるしさ。
だけど、楽しい気分も束の間、人通りの多いところまで来ると、やけに注目を浴びてしまう。
ねえねえ、皆、ぼく達を見つめながら、何をひそひそ話してるの?
メイクの乱れ?
着衣の乱れ?
心の乱れ?
怖じ気づくぼくと千祚代ちゃんの行く手を阻む通行人さん。
「ちょいと、あんた、もしかしてこの人じゃないだろうね?」
そう言って、通行人さんが突き出したのは、たくさんのお花を編みこんで作られたアート作品……じゃなくて、よぉ~く見れば、ぼくの顔を再現してる!
「これは一体!?」
「指名手配犯の似顔絵だよ!」
「「ええぇーーーーーーっ!!?」」
ぼくと千祚代ちゃんは同時に叫んだ。
人々がじりじり近寄ってくる。
「こいつを捕まえたら賞金をもらえんだよ!」
「「ええぇーーーーーーっ!!?」」
何が何だかわかりゃぁしないけど、こんなのとにかく逃げるしかない。
千祚代ちゃん、昨日みたいに、ぼくの背中を押して走ってよ!
「待~~~~て待て待て~~~~~い!」
ぼく達を囲う群衆を割って来たのは、青年の蝶貴妃人。
「そこの犯罪者のきみぃ。ぼくと決闘しようよ。……そのかわいい蝶貴妃人ガールを賭けて、ね」
「「ええぇーーーーーーっ!!?」」