第23話 濡れ濡れになりたくない!
こんばんは! 鷹司タカシです!
さぁさぁ、今からぼくのかっこいい無双が始まるよ!
前夜祭に現れた「揉む揉む団」とかいう不潔な不良集団にナンパされて、危うく胸を揉みくちゃにされちゃうところだったけど、ぼくは戦う!
なぜなら、今、ぼくの目の前には、おっぱいの大きな美少女がいるからだ。
円らな複眼、ストローのような口、背中に美しい羽……彼女は蝶に似てる。
だけど、おっぱいは哺乳類だ。
黒いワンピースに包まれた体は桃色。
きっと、おっぱいも桃色だろうな。
「ぼくが助けてあげましょう! だから、お礼に、おっぱいを揉ませてね!」
揉む揉む団がそわそわし始める。
「それって、レズじゃん」
しめた!
ぼくの服を掴んでた不良の手が緩んだ。
ぼくはそいつの薄汚い手を振りほどいて、蝶の少女に駆け寄った。
そして、彼女を庇うように両手を広げた。
「てめぇ……俺達に逆らうのか?」
揉む揉む団の皆さん、キレてらっしゃる。
「女だからって、容赦しねぇぞ」
ふん。
本当は男だもんね!
今はただ女装をしてるだけ。
さっきまでは着てるだけで恥ずかしかった白のワンピースだけど、今の状況では、むしろ頼もしいや。
だって、ほら、こんなにすーすーするんだよ?
動きやすいに決まってる。
「おうらぁ!」
まず最初に近づいてきたのは虎人間。
深い考えなしに、手をぼくに向かって伸ばしてくる。
ぼくはその毛むくじゃらの手をさっと避けて、それから魔錻羅器のホックを外してやった。
「えっ、おわ……ふぁ……」
突然、胸を締め付けから解放された気持ちよさに、彼はビックリしてる。
どうしてこうなったかも、わからないようだ。
ふふっ。
これ、ぼくの得意技なんだよ。
ブラジャーのホック外し!
おっぱい勧誘に敗れ続けた結果、自暴自棄になって獲得した奥義だ。
「何やってんだよ、ガキの一匹や二匹くらいさっさt━━」
「ほい」
「んふぁあ」
はい、二人目!
さあ、どんどん行くよ!
「ひゃん」
「やーばぁい」
「ちょ……見ないで!」
「えっちぃ」
こいつら、不良のくせに、女の子みたいなかわいい鳴き声しちゃってるよ。
ぼくなんかより、よっぽど女装の素質あるんじゃない?
「はわっ」
うっかり、ぼくもかわいい悲鳴。
だって、激しい動きをしてると、ワンピースの裾がひらりとめくれそうになっちゃうんだもん。
いやんなっちゃう!
「さ、行こう!」
「え……」
趣味で不良どものホックを外したんじゃない。
魔錻羅器は魔力を魔法に変換する道具。
それを外してやった今、魔法で攻撃されたり拘束されたりすることなく、逃げることができるんだ!
「あいつらがホックをはめるのに手間取ってる間に、ほら!」
これだけ言っても、まだまごついてる少女。
有無を言わさず、彼女の手を握ると、ぼくは人混みを掻き分け、全力で走り始めた。
ん~、柔らかくって、しっとりした手。
きっと、おっぱいも柔らかくって、しっとりs━━
「逃がさねぇよ!!!」
「あっ! 危なぶぇあっ」
後方から飛んできた石ころ。
危うく連れの女の子に当たっちゃうところだったから、ぼくが代わりに顔面で受け止めてあげた。
「魔法なんか使えなくたって、腕力で十分なんだよ」
あ……確かに。
これは完全に計算外。
「ひっ」
手を引く女の子からかわいい悲鳴。
やっぱり本物の女の子の悲鳴が一番かわいいねぇ。
「だっ大丈夫ですか……? ちっ血が出てますけど……」
「大丈夫大丈夫! それより、頑張って走って。追い付かれちゃうよ」
絶体絶命のピンチ。
おまけに、こんなに必死に走っちゃいるけど、ぼく達に逃げ込む宛なんてないんだ。
それでも……
「この子のおっぱいは誰にも譲らないよ!」
迫り来る揉む揉む団。
縮まる距離。
遂に捕まるかと諦めかけた瞬間。
「水の壁を抜けろ」
どこからともなく声が聞こえてきて、それと同時に、煙幕が放たれた。
瞬く間に、前夜祭会場一帯が煙に包まれ、人々は咳きこむ。
「ゲホッゲッホ。何なの? 誰がやったの?」
「めっ目にしっ染みます……ごほっ」
少女は蝶に似てる体の仕組みのせいで、どうやら目を閉じることができないらしい。
かわいそうに。
逆に、揉む揉む団のやつらは目を開けてられないようだ。
今しかない。
濃い煙の中を、人にぶつかりまくりながら走って、走って、走りまくった。
もちろん、少女の手を離しはしない。
やがて、ぼく達は煙幕の範囲から抜け出た。
だけど、そこで新たな問題が発生した。
「これって……噴水?」
目の前に現れたのは、どでかい水の壁だった。
水が川のように流れてるんじゃないよ?
壁のようにそそり立ってるの!
縦にも横にも、どこまで続いてるかわからない、そのくらい大きい水の壁。
これも魔法……なのかな?
だとしたら、揉む揉む団による妨害ってこと?
「どうしよう……」
「いっ行きましょう」
「どこに?」
「こっこの壁の向こうは、ちょっ蝶貴妃人の水製都市です」
「水洗トイレ?」
「すっ水製都市です!」
蝶貴妃人の水製都市。
まったく聞いたこともないんだけど、
「そこって安全なの?」
「あっ安全です。ちょっ蝶貴妃人というのは、わっ私の人種ですし、こっここが『日曜日の祝祭』の会場になるので……」
「そうか!」
「日曜日の祝祭」が行われる範囲に男性が入れば、去勢。
それは地底世界において常識らしい。
ここへ入り込めば、全メンバーが男性である揉む揉む団は追いかけて来やしないだろう。
「よーし、今すぐ、水製都市に入ろう! ……で、どうやって入るわけ?」
「そっそのまま進むだけです」
「えっ……?」
そんな簡単に?
流されたりしない?
防犯性能とかないの?
「なっないです。こっこの水の壁は防犯のためじゃなくて、境界線の意味で設置されているので……」
「なるほどぉ」
そうだよね、ここから先に男が入ったら去勢だもんね。
じゃあ、ぼくがこの水の壁に入るのはヤバイよね。
だってだって、水は壁のように立ったままの状態だけど、確実に流れてるんだもん。
ここを通れば、メイクとウィッグが落ちちゃうんじゃないかな……。
「待ちやがれ揉ませやがれーーー!!」
あれこれ悩んでるうちに、揉む揉む団が追い付いて来てしまった。
「あっあの、わっ私、羽に鱗粉があるから、みっ水を弾けます。はっ羽の下に入ってください」
「ありがとう! ぐふふ。失礼しまぁす」
彼女の綺麗な羽の下に頭を隠すと、わぁ最高!
目の前に、おっぱい!
揉みたい衝動を抑えつつ、だけど、さりげなく匂いを味わいながら、ぼくは蝶の少女とともに水の壁に飛びこんだ。
その間際、振り返ったぼくの目に入って来たのは、もう少しのところでぼくを掴みそうになってる不良の手。
「いつか絶対、揉んでやるー!」
やつらの遠吠えを背中で聞いた時、ぼくは水の壁の中にいた。
くぅ~~、冷たい!
頭には水がかからずに済んだけど、体がびしょ濡れ。
不幸中の幸い、壁は割りと薄かった。
水の壁を抜け出て、見えた景色、それは━━
水。
水。
水。
水。
一面、水。
いやいや、別にここに何もないわけじゃないんだよ!?
むしろ、見える限りでも、家とか階段とか街灯とか道とか、色々あるんだけど……それら全部が水でできてるんだ!
壁の中は広すぎて、奥までずっと続いているから、きっとまだまだ水でできた景色が続いてるはず。
「……綺麗だね」
「あっありがとうございます。わっ私もこの場所はすっ好きなんです」
「違うよ」
「えっ……えっ?」
「場所じゃなくって、きみが綺麗だってことだよ。……なーんつって! げへへへh━━」
揉む揉む団から逃げ切れた安堵のせいで、ぼくはすっかり油断してた。
やつの襲撃はそんなタイミングだった。
「揉み揉みさせろぉぉおおぉぉぉぉおおおぉ」
突如、水の壁から、一人のカマキリ人間が現れた。
揉む揉む団のメンバーの一人だ。
「ひええっ。ちょっとちょっと……きみ、正気なの? 男の人がここに入ったら、男の魂を切除されちゃうんだよ? わかってる?」
「んなこたぁ、わかってんだ。それでも俺は揉みに来た。揉ませろ!!」
筋は通っちゃいないけど、想いは通じるよ。
こいつは熱が下がらないんだ。
おっぱいを揉みたいって考えたら、そのことしか考えられなくなるタイプだ。
「おっぱい勧誘が一番下手なタイプだね!」
「うるせぇ! 黙って、おっぱいを差し出せ! さもねぇとおぎゃぁあ!」
それは見慣れたビーム攻撃だった。
何者かが発射した魔法のビームによって、おっぱいを愛する不良はぶっ倒されちゃったんだ。
「男性の侵入を確認。逮捕する」
飛んで来たのは、大人の蝶貴妃人。
綺麗な羽とたっぷりぽよよんなおっぱいに見とれて……いる場合じゃない!
だって、ぼくも男だもん!
もし、まあそんなことないと思うけど、でも、もし万が一ぼくが女装をしてるだけの男だってバレちゃったら、そりゃもう大変なことになるよ!
でも、大丈夫。
大丈夫なはずだ。
カーチャンも力石の姐さんも宝百合ちゃんも、皆、ぼくの女装を完璧だって言ってくれてたじゃないか。
だから、よっぽどヘマをしない限りは大丈夫……
「大丈夫じゃないかもっ!?」
水の壁を抜けた結果、白ワンピが濡れて、布の下が透け透けになってる!
胸は……ペッタンコだけど、女の子でもそういう子はいるんだし、ギリセーフっしょ。
だけど、下はヤバイかも……。
一応、女物のパンツを履かされてるんだけど、でも、やっぱりぼくも男の子だからね、男の子の部分がもっこりと自己主張をしちゃってるわけなの。
……ヤバイ……。
大人の蝶貴妃人さんに、じっと睨まれてる……。
少女の後ろに隠れようと思ったけど、何かに怯えてるようで、逆にぼくの後ろに隠れられちゃった。
仕方ないから、息子を両足で挟んでおこう……。
「そこのきみ!」
突然、大人の蝶貴妃人さんが呼び掛けた。
「ひいぃっ」
「わっわわっ」
ぼくと少女は一緒にビビった。
「何かあったら、報告するように」
「……はい!」
それだけのやり取りの後、彼女は不法侵入の変態を背負って、空を飛んで行った。
ふーっ。
緊張したぁ……。
さてさて、今度こそ安心して、お楽しみタイムだ♪
「あいつら、キモかったね~。見ず知らずの他人のくせして、急におっぱい揉みたいとか言っちゃって。ところで、助けてあげたお礼に、おっぱい揉ませてくれない?」
すると、少女は辺りをきょろきょろと見た後、ぼくを物陰に引っ張っていった。
……おやおや?
これって、もしかして揉ませてくれる感じ?
水でできた家と家の間の狭くて暗いところで、少女はぎゅっとおっぱいを寄せた。
黒いワンピースの胸元から、推定Dカップのおっぱいが谷間を覗かせてる。
おぉ……素晴らしい……!
肥沃な大地の恵みに感謝して、いったっだっきm━━
「おっおしまいです」
「え……?」
少女はもうおっぱいを寄せることをやめている。
「おっお怪我をなっ治しました」
「え? あっ、さっき石ころを投げつけられたところを……」
流血までしていた顔の怪我がすっかり治ってた。
彼女がおっぱいを寄せていたのは、もしかして、
「魔法を使ったの?」
「はっはい。わっ私……ちっ治癒魔法が得意なので……たっ助けていただいたおっお礼の代わりに」
「そっか。ありがとう。お礼はおっぱいでもよかったんだけど……。でも、すごいね」
「いっいえ、たっ大したことは……」
大したことありまくりだよ。
魔法を使えるだけでもすごいことなのに、その力を治癒に使って、こうして人の役に立ってるんだ。
ぼくより背丈の小さい子だけど、ぼくより断然立派だよ。
ぼくは何者でもない。
「きみの名前を教えてくれる?」
「あっわっ私は千祚代ともっ申します……。あっあなたは?」
「ぼくは……」