第20話 皇帝に会いたい!
こんにちは! 鷹司タカシです!
温泉でさっぱり♪
マッサージですっきり♪
そして……巨乳美人の皇帝に会いに行きます!
浴衣から正装に着替えて、ぼく達は特急列車に乗り込んだ。
帝都では、電車が移動によく使われるらしい。
「もしぼくが魔法を使えたら、絶対、空を飛んで移動するのになぁ」
「一々空を飛んでいたら、すぐ魔力がなくなってしまいますよ」
さも当然のように、宝百合ちゃんは言った。
でもさぁ、こんな宝石のように美しい景色だよ?
高い空から見下ろしたら、絶対絶対、最高だと思うけどなー。
「「「うー!」」」
一方、うー人は電車に乗ってテンションマックス。
電車に乗るのは初めてだそう。
はしゃいで騒いで走り回ってる。
「コラ! あんた達、静かにしなさい! 他のお客さん達に迷惑でしょ!」
カーチャンが筋肉を軋ませた。
「うー……。あいつ、怖い」
ガクブルになって、ぼくにすがりついてくる。
なんだか弟がたくさんできたみたいで、かわいい。
ここでも、その珍しさのせいで、うー人ばっかり注目を集めてるのが気にくわないけど。
やがて、皇居前駅で降車した。
ここが終点だ。
駅の他に建築物はない。
自然豊かな、のどかな場所。
そこから少しばかり歩いたところに、小高い丘。
全緑景樹がそびえてる。
そこには、
「宝百合ちゃんと同じ服装の人達がいるけど、知り合い?」
「わたくし同様、宮仕えの方々です。皇居の警備や、皇族の方々の身の回りのお世話をするのが務めです」
「ふーん……。で、その皇居って、どこにあるの?」
「彼らの立っているところです」
いや、なくない?
全緑景樹と、その影しか見当たらないけど……。
「あぇっ!? 影じゃなくって……穴??」
信じられないよ!
直径数百メートルほどの穴だ。
おっかなびっくり近寄ってみて、更にどっきりびっくり。
あまりに深くて、まったく底が見えない。
こんなところに落っこちちゃったら……。
考えただけで、キンタマがきゅっとなるよ。
「こちらが皇居への入り口です。ご覧の通り、無限回廊となっております」
宝百合ちゃんの説明を聞いて、納得。
だって、穴の中には階段があるもん。
穴の外側に、横幅70センチほどの階段が取り付けられてて、それがずっと下まで続いてるようだ。
「まさか、これを歩いて降りて行くんじゃないよね……?」
「そのまさかです」
「えええぇぇぇぇえぇぇぇぇぇ!!? いや……無理! 絶対無理! いやいやいや、だって、こんなの、足を滑らせたら終わりだよ??? 死ぬよ?」
ところが、そこにはエレベーターもエスカレーターも設置されてない。
理由を尋ねてみると、入る方法を限定することで、不審者の侵入を防ぐためだとか。
「本来なら、浮遊魔法を使用して難なく降下できるのですが、その……現在は、わたくし、魔力がなくなってしまっていますから……」
おっぱいがないってことを、顔を赤らめながら言う魔女っ子。
「あら、私はまだ魔力が残ってるわよ?」
「あたいもガキ一匹背負って行くくらい、余裕だぜ」
カーチャンと力石の姐さんが胸を張る。
「ああ……ですが、申し訳ないですし、それに、宮仕えの地位にある者が背負われるなd━━ひゃあぁ!?」
遠慮する宝百合ちゃんを、問答無用で担ぎ上げた姐さん。
いいぞいいぞ!
階段を使って降りるなんて、怖くてしょうがないもん。
魔女のプライドのために、命の危険に晒されて堪りますかってんだ。
「タカシとうー人は私の背中に乗んなさい」
「よう、勝負しようぜ」
力石の姐さんが、カーチャンに向かって、にやり。
「どっちが先に穴の下へ辿り着けるか」
え……?
「いいわね。やりましょ」
カーチャン?
「ちょちょちょちょっと待ってよ! こんなところで競走なんてしたら危ないに決まっt━━んばあぁぁぁああぁああぁぁあ」
カーチャンと姐さんは一斉に穴に飛び込んだ。
「ひぃいぃぃぃぃいぃぃぃぃぃいぃぃやっっっはあぁあああぁあぁぁぁあぁああぁ!!!!!!!」
「加速するわよぉぉぉおぉぉぉおぉぉぉおぉ!!!!!」
「きゃあああぁぁあああぁぁぁぁあぁぁあああぁあああぁあ!!!!!!!!」
「「「「「ううううぅぅぅぅぅううぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅ!!!」」」」」
「安全第一ぃぃいぃぃぃいぃいぃ、安全第一で行ってぇぇぇえぇぇぇぇぇぇええぇえぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
猛スピードで落下していくその恐怖は、ジェットコースターなんかの比じゃなかった。
だって、これ遊びじゃないから!
死ぬかもしれないから!
「ひぃぃぃいぃぃ。死にたくない死にたくないぃぃ」
「明かりが見えてきたわよ!」
次の瞬間、すさまじい衝撃とともに、カーチャンは着地した。
うぅ……体が痺れる……。
うなだれてるぼくに構いもせず、大人二人は盛り上がる。
「同時だったわね」
「やっぱ、あんた尋常じゃないね」
すごくどうでもいいよ、そんなの。
ぼくは、カーチャンの広い背中におぶられたまま、今いる場所を確かめる。
土の壁。
土の天井。
土の床。
ここは「道」に似てる。
でも、「道」とは違って、全体が明るいし、そこかしこに得体の知れない緑色の物体がある。
ぼくはカーチャンから降りて、緑色の物体に近寄った。
それは天井から地面へと繋がってる。
それぞれの物体は何本も枝分かれしてて、触り心地は……植物?
「これは全緑景樹の根です」
宝百合ちゃんも姐さんから降りて、こちらに来た。
「全緑景樹……って、ここの上に生えてる、あの木? へぇ~、根っこもこんなにでかいんだ!」
まるでジャングルのように、根っこが生え散らかしてる光景。
なんだか冒険したくなってきたぞ。
「わーーい」
「「「「うー!」」」」
走り出したぼく。
後に続くうー人達。
根っこを登ったり、滑ったり、大はしゃぎ。
「いけません! 危ないですよ!」
「だーいじょうぶ。宝百合ちゃんもおいでよ!」
「ここは穴だらけなのです!」
え?
「おわっ……」
うっかりバランスを崩して、緑の根っこを滑って、そのまま地面に落下……するかと思いきや、そこには大きな穴がぽっかり空いてるぅ!
「わったっ助けてぇ」
「じゃあな」
うー人は無表情で手を振った。
いや、助けてよ!
底知れぬ穴の中を落ちていく。
地底世界の地下空間の中にある穴……どんなところに繋がってるんだ?
「誰か、どうにかしてよぉぉおぉぉおぉ━━おおっ!?」
お尻に柔らかい感触。
暗くてよくわからないけど、ここは地面じゃない。
そいつはぼくを上へ上へと押し上げていく。
「タカシ! 大丈夫!?」
穴から出たところで、カーチャン達が駆け寄ってきた。
「うん。よくわかんないけど、この柔らかい物が、ぼくを運んでくれたんだ」
「あ、あぁっ、タカシさん、その手をお離しください! 失礼ですよ!」
「失礼ぃ~~?」
礼儀がこの状況とどう関係あるんだよ、そんなことより心配してよね、と思いながら、撫でさすってる物に目を向けた。
それは、人間。
「ひいぃぃっ」
ぼくは慌てて、カーチャンの脚にしがみついた。
「あはは。怖がらなくていいよ」
穴から姿を現したのは、全身エメラルド・グリーンのおっさん。
額に第三の目があって、服は魔錻羅器以外、何も身に付けてない。
まるで……
「ミコちゃんみたい」
「ミコちゃん……? 誰だい?」
「知らない? おっさんと同じで緑色の人だよ。かっわいいんだ、これが! あ、もしかして、親戚?」
ぼくの必死な思いをよそに、宝百合ちゃんはあわあわ焦ってる。
「このおっさんのこと知ってるの?」
「おっs……そちらのお方は皇族人でいらっしゃいます!」
一同の視線が、緑色のおっさんに集まった。
ってことは、このおっさん、偉い人!?
でも、風格はあるように見えないなー。
「「「バカ!」」」
舐めた口をきいてたら、カーチャン、姐さん、宝百合ちゃんから同時パンチを食らっちゃった。
暴力で躾しないで!
「申し訳ございません。この方は予言の戦士なのですが、まだこちらの世界の常識に疎くて……」
「地上の常識にも疎いわよ」
宝百合ちゃんの弁明に、カーチャンが要らない指摘を挟んだ。
「ははは。素直ないい子じゃないか」
おっさんったら、やっさしい!
「ぼくは皇位継承権も低いし、大したもんじゃないからね」
「なぁ~んだ、大したことないんだ? でも、雄っぱい大きいよ」
「ははは。ありがとう」
ぼくは再び拳骨を喰らいながら、おっさんに尋ねた。
「穴の中で何してたの?」
「仕事だよ。ちょいと疲れたから散歩しようと思って、飛んで穴から出てくる途中で、きみが落っこちてきたのさ」
「散歩なんかで気晴らしになるの? 女の子と遊んだりした方がよくない?」
「ここでは散歩が唯一の気晴らしかな。大人なんて、そんなつまらないものだよ」
大人にはなりたくないな……。
よくよく見れば、おっさんの笑顔は凍りついてるような気がするし。
きっと大人は大変なんだな。
おっさんとは、そこで別れた。
別れ際に、うー人の存在に気づいて、驚きまくってたのが面白かったな。
うー人に注目を持っていかれたのが、ちょっとむかついたけど。
ぼく達は地下空間の奥に進んだ。
全緑景樹の大きな根っこをよじ登ったり、穴に落ちかけたりしつつ。
ぐふふ。
遂に会えるぞ~。
宝百合ちゃんが言ってた。
「皇帝陛下は大層、美しく……胸も大きいです」
どうしよどうしよ。
もしいい感じの雰囲気になったりして、おっぱい揉めそうになったら。
揉むしかないよね?
揉みたい!
ぼくは、うきうきるんるんだった。
だけど、その気持ちは数分後に打ち砕かれた。
「よく来たのぉ」
皇居にまったりとした、とても大きな声が響いた。
声のした方に目を向けると、全緑景樹の根っこが何本も絡まってる。
植物が喋ったのかな?
「皆さん、頭をお下げください。皇帝陛下の御前です」
えっ!
皇帝がいるの?
どこどこ!?
カーチャンに無理矢理、頭を下げさせられながら、ぼくは必死に想い人の姿を探した。
どこにも……いない?
「面を上げよ。そして見上げよ」
言われた通りに見上げれば……
「あっ!」
そこにはエメラルド・グリーンの顔があった。
そうか、なるほど、体と同じ色をした根っこに絡まってるから、見つけづらかったんだぁ~。
…………。
………………。
「いやいや、おかしいよ!」
「おかしいのはタカシさんの態度です。目の前に皇帝陛下がいらっしゃることを考えて、背筋を正して、静かに、謙虚な気持ちd━━」
「そんなこと、どうでもいいよ! っていうか話が違うじゃない!」
「……?」
「だって、皇帝陛下は美人で巨乳だって、宝百合ちゃん言ってたじゃない!」
「それがどうかしましたか?」
どうもこうもないよ!
見上げたところには顔があって、ぼくらの足元には皇帝の足があるじゃない!
つまり、皇帝って……
「でかすぎぃ!!!!!!!!!」