第19話 女湯を覗きたい!
こんにちは! 鷹司タカシです!
一刻も早く、巨乳で美人の皇帝に会いたい……けど!
「皇帝陛下に謁見する前に、温泉で身を清めていただきます」
うひょおぉぉおぉおぉおお!
温泉! 温泉! だぁ~い好き!
「タカシさん、男湯はあちらです」
こちら帝都一の温泉施設。
入り口前で、宝百合ちゃんから不思議な指摘が入った。
「ぼく、まだ子供だから女湯に入っていいんだもんねー」
「カーチャンさん、お願いします」
あいよ、と返事をしたカーチャンが、ぼくに拳骨をかました。
「これ以上、殴られたくなかったら、大人しく男湯に入りなさい」
「うぅ……」
ぼくは泣いたよ。
よくも子供の人権を侵害しやがって!
カーチャンなんて全身タンパク質の筋肉ゴリゴリの肉体要塞の高身長マッチョだ、チクショーめ。
……そんなのに勝てるわけないや。
ぼくは素直に男湯の扉を開けた。
脱衣所も浴場も、地上のと比べて、構造上は特に違うところがない。
ただ、ここにも贅沢な素材が使われてる。
大理石とか宝石とか。
でも一番嬉しいのは、
「貸しきりだ!」
いやぁ~、最高だねぇ。
こんな広い温泉を独り占めできちゃうなんて。
ようやく、地底に来てよかったと思えたよ。
「らんら♪ らんら♪ るら~らr」
「あっ……あうああぁ」
「おひょぁ!?」
突然、背後から人の声。
ビビったし鼻唄聞かれて恥ずかしいし、思わず走り出しちゃって、滑っちゃって、転んじゃった。
「あっだっ、大丈……夫で……あっあああ」
どこかで聞いたことのある話し方だな。
お尻の穴まるだしの四つん這いの姿勢から、立ち上がって、振り返った。
「きみは……イカ人!」
生っ白い肌。
三角頭に大きな単眼。
胸の下には大きな唇。
どことなく憎めないこの人種を、ぼくは昨日の戦いで目撃した。
鷲羽人率いる「復讐連合」に属して、ぼくの命を狙って、そして、赤いドレスのお姉さんに殺されちゃった……。
きみの仲間が昨日死んだよ、なんて言えるはずもなく、ぼくは黙って目の前のイカ人を見つめるだけだった。
「……あうっ……あ、あああ、予言の戦士だだだから、あ……せな背中……流す、う、あっ……」
「結構です」
「あ……うっ?」
「いや、嬉しいよ? 接待してくれるってことでしょ? それは嬉しいけど……でも、きみ……男じゃん」
このイカ人は、おっぱいじゃなくって、雄っぱいを魔錻羅器で包んでる。
男に背中を流してもらっても、嬉しくはないかなぁ。
女の子にチェンジで!
と思ったけど、彼の瞳が潤んでいく。
はぁ……。
しょうがないから、ご好意をありがたく受け入れることにしよう。
……ふむ。
悪くないね。
マットの上に寝かされて、背中以外もあちこち洗われた。
洗うだけじゃなくってマッサージ付き。
「宝百合ちゃん、肌が綺麗ねぇ」
!!
「い、いえ、そんな……カーチャンさんこそ、胸が大きくて素敵ですよ」
「いやぁだぁ! もっと褒めてぇ!」
ふぉぉぉおおおぉぉぉおおぉお!
壁の向こうの女湯から、キャッキャウフフが聞こえてくるぞぉぉおおぉぉ!
いや、カーチャンには黙っててほしいけども!
「大きな胸には憧れます。わたくしも魔女ですから」
「きっと宝百合ちゃんも、大人になったら、たっぷり育つわよ。唇がぷっくらしてるし。うん。素質あるわね」
「本当ですk━━んっ。すみません。もう少し優しくお願いします」
もう少し優しく……?
もしかして、
「イカ人さん、女湯でも、こういう体を洗うサービスしてるの?」
「あぅ……あ、はい」
「……行ってきます」
ところが、イカ人に強く体を押さえられて、上体を起こすこともできない。
マットの上に横たわったまま、ぼくは心を燃やす。
「とめないでぇぇぇええぇぇぇえぇぇぇ。お願いぃぃいいいぃぃ。行かせてぇぇえぇぇえぇぇ。男なら、わかるでしょおぉおおおぉぉぉぉおぉぉぉ」
「わっから……ない。あっあっお、俺、お、おおお、男、好き、あっ」
「なるほどぉぉぉおおおぉぉおおぉ……お……? …………おぉ?」
*
すっきりした……。
浴衣を着ていても、体から湯気が立ちのぼる。
ぽかぽか、くらくらしちゃうよ。
この温泉施設の2階から上は、休憩所になってるそうだ。
ぼく達にあてがわれたのは801号室。
ノックなしに、すっとドアを開けると……
「んわぁああ」
力石の姐さんが上裸でくつろいでる!
なんで!
ちゃんと服を着ないの!
別に!
姐さんの硬そうなおっぱいなんて見たくなかったよ!
「早く魔錻羅器を装着してよ!」
「……」
「……姐さん!」
「……ん? ああ……。はいよ。ったく、うるさいガキだね」
なぁ~にが「うるさいガキ」だよ。
そんなこと言うくらいなら、ちゃんと大人らしく振る舞ってよね。
「ところで、他の二人は?」
「さぁね。まだ湯に浸かってんじゃないかい」
「……? 一緒だったんじゃないの?」
「あたいら甲剛人は湯が嫌いでね。あんなのが肌に触れたら、体が茹で上がっちまわぁね。そんなわけで、あたいだけ水浴びで済ませたもんで、ずっと別行動さ」
「ふ~ん。……あれ?」
休憩所の隅に、変な物がある。
ランドセルくらいの大きさで、見た目はゼリーかスライムのような感じ。
てっぺんから、触角のようなものが3本生えている。
近づいてみたら、変な臭いがした。
「そりゃマッサージ機さ」
「どうやって使うの? お金を入れなきゃ動かない仕組み?」
「金じゃなくって、魔力を入れるのさ。あたいが入れてあげよう」
そう言って、力石の姐さんが胸を寄せた途端、マッサージ機は触角を伸ばして、ぼくにからみついた。
「わっ。わわ。やだ、怖い、やめt━━おほぅ……気持ちいい……」
マッサージ機が、ぼくの体の凝り固まった部分を狙い撃ちした。
絶妙な力加減。
あちらとこちらの同時攻め。
こいつ……マッサージが上手い!
「失礼します」
ちょうどその時、宝百合ちゃんとカーチャンが休憩所に入ってきた。
「タカシ、何やってんの?」
カーチャンがドン引きする一方、宝百合ちゃんは懐かしがってる。
「マッサージ用の魔法道具ですね。わたくしもこれに病みつきになったことがあります」
「へぇ~。タカシ、ヨダレ垂らさないの。宝百合ちゃん、魔法道具っていうのは何なの?」
「魔力を注入することで作動する道具です。言わば、電気を使用しない機械ですね。ほら、先程わたくしが自動販売機で購入したのも、同じく魔法道具ですよ」
宝百合ちゃんが、浴衣のポケットから取り出したのは、棒の束だ。
その棒は先端が赤くて膨らんでる。
マッチに似てるけど、大きさからすると、つくしっぽい。
「おっ。気が利くじゃねぇの。あたい、これが大好きさ」
急にテンション爆上げの姐さん。
棒を束ごと引ったくって、胸を寄せた。
すると、棒の先っちょから勢いよく出るわ出るわ、大量の火花!
地上でよく見る手持ち花火だ、これ!
「ひゃっはーーー!!」
「あらあらあらあら! 奥さん、危ないわよ!」
周囲への遠慮なんて一切なく、力石の姐さんは花火を振り回す。
ひいぃっ。
ぐるぐる回らないで!
火花をぼくにぶっかけないで!
……あ、あれあれ?
「大丈夫ですよ。この花火は熱くないので、火傷や火事に至る心配がありません」
「便利ねぇ。私もやってみようかしら」
「どうぞ。温泉と言えば、これですから!」
カーチャンは棒を一つ手取り、胸を寄せて、花火に火をつけた。
鮮やかな紫色の火花がシャワーのように噴出すると同時に、白や黒、灰色などの花の形をした火花がぽんぽんと出てくる。
すっごく綺麗だ。
宝百合ちゃんはおっぱい=魔力がない状態なので、カーチャンに魔力を注入してもらった。
花火の棒はどれも同じ形だけど、実際にどんな火花が出るかは、魔力を注入してみるまでわからないらしい。
薔薇のような火花。
百合のような火花。
桜のような火花。
いいなぁ。
ぼくもやってみたい!
「ぼぼぼ、ぼくも、ふわぁ……」
だけど、マッサージが気持ちよすぎて、体に力が入らないよ。
「むぁ、マッサージ止めてぇ」
「魔法道具は注入された魔力を使いきるまで止まりませんよ」
そんなぁ……。
このまましばらく快楽から逃れられないなんて、天国みたいな地獄だ。
全身をほぐされるぼくの目の前で、花火はどんどん消費されていった。
そして、とうとう残り一本。
ここでようやくマッサージが終了した。
「もらいーっ」
ぼくは念願の棒に向かって、手を伸ばした……けど、
「ひゃっはーーーー!」
「ああああああ!?」
力石の姐さんが無慈悲に棒を奪い取って、魔力を込めた。
美しい彼岸花の火花が散る。
「早い者勝ちだぜぇ!!!」
「そんなのないよぉ! 大人でしょ! 大人は子供に譲るもんだよ。ほらほら、それをこっちに渡して。早く……あぁあ、終わっちゃったよ!」
どうなってるんだ、甲剛人って!
こんな無茶苦茶な人を里の長にしておくなんて、おかしいよ!
民主主義が機能してないね!
民主制なのか知らないけど!
くぅ~~~、悔しい。
「どうしてくれるんだよ、このこのぉ!」
「わっ。ちょっ。どうして、わたくしに当たるのです?」
「だって、姐さんとカーチャンには勝てないけど、宝百合ちゃんにならギリ勝てそうだもん!」
「予言の戦士ともあろう者が、なんと情けない!」
パシン、と重たい一発が頬に入った。
「あら。宝百合ちゃん、やるじゃない」
ひどい……。
地底に来てから、散々だ。
「あぁああぁあぁぁあぁぁあぁぁ。もう戦ってあげないいぃぃいぃぃぃぃぃ。予言の戦士なんか、もうやめるううぅぅぅぅうぅぅぅぅ。地底世界の敵とか知らないいぃぃぃいぃぃぃぃいぃぃぃ」
八つ当たりで床をガンガンしばいた。
すっかり皆をドン引きさせてしまったけど、構いやしない。
もうぼくはグレてやる。
「仕方ありませんね……」
宝百合ちゃんが溜め息を吐く。
「そのうち、また花火を買って差し上げますよ。今は我慢してください」
「今じゃないと嫌だぁあ」
「これから皆で出掛けます」
「ここで花火するぅ」
「いけません。皇帝陛下に謁見して頂かねばならないのですから」
「よし、行こう」
ぼくはすっと立ち上がった。
「やけに立ち直りが早いですね……」
ぼくを訝しむ宝百合ちゃん。
やれやれ。
きみは本当に鈍いねぇ。
「皇帝が美人で巨乳だってこと、ぼくは忘れちゃいないよ。さ、今すぐ皇帝のおっぱいを見に行こう」
「そういう下らないことには一生懸命ですね……」
「言っとくけど、花火の約束も忘れないから。特大の花火を買ってよね」
若干の侮蔑の混じった目を、ぼくはおっぱいに対する情熱に満ちた目で見返した。
ふと気がつくと、大人二人はこちらを見て微笑んでいた。