第16話 おうちに帰りたい!
こんにちは! 鷹司タカシです!
「道」に突き落とされたと思ったら、またジャングルに逆戻り!
スズメバチの大群から、うー人の里を取り戻そう。
うー人の里は、「道」に繋がる岩から数十メートル離れたところにあった。
1メートルにも満たない高さのログハウス。
公園には、鞄に入れて持ち運べそうなサイズの遊具や、ぼくの靴と同じくらいの大きさのベンチ。
うー人の身長に合わせて作られた小さな里は、まるでオモチャみたいで、かわいい。
「ここにある物って、どれも木で作ってるんだね」
「俺達、木材の加工、得意」
「へー。それって魔法でやるの?」
「手作業」
やっぱり、うー人は魔法が苦手みたい。
さて、問題のスズメバチ。
おうちの外壁に、大きな大きな巣がある。
うー人の話によると、外壁だけじゃなくって、家の中も巣だらけになっちゃってるらしい。
さぁ、どうしたもんだろう。
カーチャンの助けもなし。
魔法の力もなし。
ぼくだけの力でスズメバチを退治しなきゃいけない。
そもそも、蜂の駆除方法なんて知らないし……。
「早くやれ」
「やっつけろ」
「殲滅しろ」
「もてなせ」
かわいい顔で生意気な口をきくうー人達。
わかってる、わかってるよ。
今、真剣に考えてるんだ。
おい、体力ザコのヒョロガリ野郎!
頭脳を研ぎ澄ませ!
経験と知識から導き出せ!
うー人に平和な暮らしを取り戻す方法を……!!
「よぉーし!」
「不幸話、聞かせるか?」
「違うよ。スズメバチを撃退する方法を思い付いたの! いい? よく聞いてね。今から、ぼくが指示することに従ってほしいんだ」
「うー!」
まずは板を作ってね。
なるべく長ーく、だけど丈夫な。
これは木材加工が得意なうー人にとって、めちゃ簡単な仕事だったみたい。
あっという間に完成した。
里から逃げ出す際に、大切な大工道具を持ち出してたのが幸いした。
次に重い物を探してね。
例えば、岩や石、そこらに生っている果実、大きな枝、大工道具など、何でもいい。
それができたら、皆で一緒に長い板を動かした。
先端部分が、スズメバチの巣食うログハウスの下に入るように。
そして、板を丸太の上に載せた。
そして、最後の指示。
「それじゃ、みんな、重い物を手に持って。ぼくが合図をしたら、一斉にこの板の上に飛び乗るんだ!」
ぼくは「道」に通じる岩を持った。
風呂桶よりやや大きいくらいなんだけど、持ってみると、これがすごく重い。
ふらっふらしながら、声を張る。
「っっっそおぉぉぉおおぉぉれっっっっっっっっ!!!!!」
ぼく達は飛び上がった。
そして、同時に板の上に乗った。
計算通り!
板がシーソーのように動いた。
丸太を支点として、ぼく達の立ってる方が深く沈み、反対側は高く跳ね上がった。
結果、ログハウスはたくさんのスズメバチを住まわせたまま、遥か彼方へ飛んで行って、見えなくなった。
「やった……大成功だ!」
ぼくは満面の笑みで、うー人の方を振り返った。
そこには、ぼく以上に喜んでるうー人の姿があった。
「「「「「うーーーーーー!!!」」」」」
ちっちゃい生き物が小躍りしてる。
かわいい~。
だけど、一人のうー人が不安の声を口にした。
「まだ、スズメバチ、いる」
そう、その通り。
巣とともに、ほとんどすべてのスズメバチにさよならした。
でも、巣や家の中にいなかったスズメバチはまだ里の中をうろうろ飛んでる。
安心して。
問題ないから。
「巣を失った蜂は数日の命なんだよ。蜂の成虫は、幼虫が分泌する液体を飲んで生きてるんだ。巣がなくなった今、もうそれは手に入らないからね」
子供向け図鑑で得た知識。
うー人を安心させることができたようで、ほっと一息。
だけど、それと同時に胸がちくりと痛んだ。
「どうした? 刺されたか?」
「ふふ。そうじゃないよ。……あのね、本当は、そうする必要がなければ、虫一匹の命も奪いたくはなかったんだ。だって、誰の悲しみも見たくないからね……」
人の命は何より大事だ。
虫は人じゃない。
だけど、命を持ってることに変わりはないし、その命は決して軽くない。
「お前、悪くない」
うー人が珍しく優しい声をかけてくれた。
「うーのこと、助けるためにやった。お前、いいやつ。意外と、性格、不幸じゃない」
「……ありがとう」
ちょっと余計な一言があったようだけど、聞かなかったことにしておこう。
今は、自分が他人のために役立てた感慨に耽っていたい。
それから、ぼく達は「道」に戻った。
里にいるスズメバチが全滅するまで、うー人は帰れない。
一方、帰れないのはぼくも同じだ。
「ぼく、カーチャン達とはぐれちゃったんだけど、どうすればいいかな?」
薄暗い「道」の中で、賭けに出た。
家が着陸した辺りの景色。
ジャングルの道をどうさまよったか。
覚えているわずかな記憶を洗いざらい、うー人に伝えた。
うー人のうちの誰か一人でも、ぼくの説明を聞いてピンと来れば、しめたものだ。
そして、ぼくはこの賭けに勝利した。
「わかる」
「本当!? もしよければ、ぼくをそこまで案内してもらえないかな……」
「お前、いいやつ。案内してやる」
「ありがとう!」
うー人は「道」とジャングルの地理を熟知してるらしく、すいすい進んで、とある岩の元へとぼくを連れてってくれた。
「この岩が、ぼくの家のそばに通じてるんだね?」
「うー人、嘘つかない」
「でも、もし違ってたら、どうしよう。それか、家が着陸したところに繋がってても、もうそこにはカーチャン達がいなかったら……」
「早く行け」
「ぎゃっ」
ぼくはまたしても、うー人から背中にドロップキックを食らわされ、岩の上に倒れ込んだ。
そして、顔を上げると、そこはジャングルだった。
おうちが着陸した開けた場所ではないけど、なんとなく見覚えがある……。
右を見て、左を見て、それから、後ろを振り返ると、ああ、そこにはボロボロの我が家が!
「ただいまー!」
大きな声を出して駆け出した。
ぼくは自分で思っていた以上に不安だったらしい。
安堵で心がいっぱいになって、涙が出ちゃいそうなんだもん。
早くカーチャンの筋肉質な胸に飛びこみたい!
宝百合ちゃんや力石の姐さんの顔を見たい!
住み慣れた我が家でまったりしたい!
「あっ! タカシさん! 皆さん、タカシさんがいましたよ!」
屋根の上に立つ魔女っ子が大きな声を張り上げる。
おお、懐かしい宝百合ちゃん!
相変わらず胸はないけど、かわいいよ。
次に再会したのは力石の姐さん。
硬い手で、ぼくの頭をごつんと叩いた。
「どこをうろついてたんだい、このクソガキは!」
「ひどいっ」
「ターーーーーーカーーーーーーシーーーーーー!!!!」
木々の間をすり抜けて走ってくるのはカーチャンだ!
ジャングルを駆けずり回って、ぼくを捜してくれてたようで、服や顔に無数の傷がついている。
感激!
そんなにぼくに会いたかったの?
今、ぼくを抱き締めさせてあげる!
「このバカッッッッッ!!!!!!!!!!」
「あっ。いだい。やめへぇぇええぇぇえ」
拳骨。
ビンタ。
高速お尻ぺんぺん。
ひどいよ。
やりすぎだよ。
ムキムキの人が振るっていい暴力じゃないよ。
「皆がどれだけ心配したと思ってるの! 謝んなさい! 迷惑かけてごめんなさいって謝んなさい!」
「ううう。ごめんなs━━」
「赦しません」
屋根から降りてきた宝百合ちゃん。
ビンタをプレゼントしてくれた。
「どうして、この人達は暴力ばっかりなのぉ! もしかして暴力を挨拶だと思ってるんじゃない!? 大変な旅から帰ってきた少年を労うのが、人として、仲間としての責任なんだよ!!」
「何を言っているのです。わたくしにはあなたを帝都までお連れする責任がありますし、あなたには予言の戦士達としての責任があるではありませんか。しっかりしてくd……あら?」
宝百合ちゃんの説教を終わらせたのは、ウーパールーパーにそっくりの、あいつらだった。
「「「「「うー!」」」」」
さっきまでぼくと行動を共にしてたうー人達、ぼくの後から岩を通って、ついてきたらしい。
「かわいいわねぇ」
カーチャンが頬を緩ませる一方、魔女と甲剛人はまったく逆のリアクションを見せた。
「うー人じゃありませんか! 生きていたのですか!?」
「あたしゃ初めて見たよ」