第14話 ジャングルをさまよいたくない!
こんにちは! 鷹司タカシです!
どんな危険が潜んでるかわからないから、外には絶対に出ちゃいけません!
と言われたので、こっそり家を出ました。
ジャングルで食糧探しだ!
ほらほら、早速、おいしそうな木の実を見つけちゃったぞ。
リンゴに似てる赤くて丸い果実。
ちぎって、服で拭いて、味見してみy――うあぁぁああっ!?
赤い実から細い管がうにょっと伸びて、ぼくの手に差し込まれてるじゃないか!
「何だよ、これ! えいえいっ。離れろ!」
思いっきり手を振って、果物を投げ飛ばした。
管は手から抜けたけど……すごい痒い!
「植物じゃなくって蚊みたいな虫だったのかなぁ……」
ふと見上げれば、木の枝から垂れ下がる無数の果実が、こちらに向けて、凶悪そうな管を伸ばしてる。
「ひーっ。キモイ!」
後先を考えず、その場から走り去った。
そしたら、偶然にも、ウサギがぼくの視界に入った。
ウサギか……。
動物さんの命も殺したくないけど、食べなきゃ人は生きられないもんね。
「ごめんねぇ。食べさせてもらうよぉ。動かないでねぇ」
抜き足差し足忍び足。
茂みの陰に潜むウサギに、そぉ~~~っと近づいて……
がぶぅ!
「がぶぅ?」
ウサギのお尻は茂みに隠れて見えない。
ぼくから見えているのは可愛い顔だけ。
その可愛い顔が前後左右に揺れ、ぐるんぐるん、やがて宙に浮いて、茂みの向こうへと消えていった。
……ん?
浮いた??
魔法を使えるのは人間だけらしい。
ウサギが空を飛ぶ魔法を使うなんてこと、あるはずない。
じゃあ、今のは一体……
次の瞬間、その疑問は解けた。
茂みの向こうから、ウサギを頬張るライオンが現れたんだ。
いや、ライオンに似てるけど、ライオンじゃない。
その皮膚は黄色く、そこから黒い毛がわさわさ生えていて、全身をぬるぬる動かして移動する……つまり毛虫みたいなんだよ。
「ひっ……」
毛虫ライオンは歩くのが遅い。
ゆっくり歩いて、茂みを通り過ぎたところで、ぼくと目が合った。
毛虫ライオンは小顔を険しくして唸り、こちらに向かって進んできた。
当然、逃げる一択。
毛虫っぽいので動きも遅い。
体力ザコのぼくでも逃げきれるなんて、あいつ大したことないな~。
だけど、ようやく気持ち悪いライオンの姿が見えなくなったところで、背後に何かの気配を察知した。
今度は何だろう?
また気持ち悪い生き物じゃなきゃいいんだけど……。
恐る恐る振り返ると、湖を泳ぐ大きなプレシオサウルス。
「あっ。なーんだ、首長竜だ。えっ、首長竜!?」
それは図鑑や映画の中で見た姿とそっくり同じだった。
青みがかった灰色の皮膚。
天に向かって長々と伸びる首。
島のように広い背中。
大きくて、そして、美しかった。
ネス湖にはいなかったけど、こんなところにいたのか。
ぼくはプレシオサウルスにしばらく見とれた。
ようやく、
「これは食べれないなぁ……」
と我に返ったところで、ある重大な事実に気づいた。
「……道に迷った……」
家からここに至るまでの間、一切、目印を残さなかった。
ただでさえ、ジャングルの景色には代わり映えがない。
そんなところで闇雲に移動したら、そりゃそうなる。
今頃、カーチャン達はぼくがいなくなったことに気づいて、捜索してるかもしれない。
皆のお荷物になるのが嫌で、いい格好しようとしたのに、結果的にはやっぱり皆の足を引っ張ってる。
申し訳ないよ。
恥ずかしいよ。
ぼくのことは探さないでください。
「あー、クソ! 一体どうしてぼくがこんな惨めな思いをしなくちゃならないんだ。地底なんかに来たくて来たんじゃないぞ! 何が予言の戦士だよ、くだらない! あー、おっぱい揉みたいなー、チクショー!」
ガサッ。
「ひっ!?」
音がした。
音のした方を見れば、何のことはない、風で草が揺れる音だった。
ほっとすると同時に、恐怖が込み上げてきた。
ジャングルは種の宝庫だ。
地上のジャングルだって、舐めてかかっちゃいけないけど、地底のジャングルには首長竜だっているんだ。
ティラノサウルスだっているかもしれないぞ。
想像もつかないほどの危険生物が潜んでいるかもしれない。
だけど、どうすればいいの?
家への方向がわからないし、ぼくには魔法を使うことも何もできない。
こんな時に、カーチャンがそばにいてくれたら……
「カーチャーーーーーン! 助けてぇぇぇええぇえ!!」
「へへっ」
「!?」
これは草の音じゃない。
間違いなく人の声だ。
そう遠くないところから聞こえた。
だけど、周りにあるのは、木や草や土ばかりで、人らしき姿はどこにm━━あああ!!?
あちこちに目を向けてる際、草か葉っぱだと思って見過ごしかけた緑色の何か……それは人だった。
全身が━━というのは髪の毛も皮膚も目も爪も何もかもがってことだけど━━緑一色なんだ。
それも、とても綺麗なエメラルド・グリーン。
「人間なのかな……?」
そんな疑問が浮かんでしまうのは色のせいだけじゃない。
額に第三の目があること。
ほぅ……と思わず溜め息が出ちゃうくらい美しいこと。
さらさらの髪はオールバックにまとめられて、さりげなく耳に緑のピアス、引き締まった腰とすらりと長い脚。
そして、何より大切なこと。
そう、おっぱい。
だって、裸なんだもん!
黒のブラジャー以外は、服どころか靴も履かないで、すべてを曝け出してる。
「ぉぉおおおおおぉぉおおぉぉおっぱい!!!!」
ぼくは無意識に駆け出した。
おっぱい目掛けて。
迷子になってること、お荷物になってること、危険な状況にあること、そういう嫌なことをすべて忘れて、ただひたすらおっぱいを求めた。
「お願いします! おっぱい揉ませてください!!」
揉ませてもらえるなら、何でもする覚悟だ。
それなのに、緑色のかわいい少女はぼくから逃げる。
「どうして? ねぇ、どうして逃げるの? コミュニケーションを取ろうよ! 言葉は要らない。体だけのコミュニケーションで十分なんだ!」
彼女は身軽だ。
中学生くらいの身長。細い体。小振りなとんがりおっぱい。
体が軽くてもまったく不思議じゃない材料がこれだけ揃ってる。
障害物を難なく飛び越えて、おっぱいぷるんぷるん、ぼくを翻弄するいけない女だ。
体力のないぼくはすぐ息が上がっちゃった。
膝から崩れ落ち、ひどく喘いでると、彼女の方からぼくに近づいて来てくれた。
「お近づきになれて嬉しいですおっぱい揉ませてください」
土下座作戦だ!
「そいつぁ無理だぜ」
「そこをどうにか!」
「どうだかなぁ。俺とおめぇは物理的には近づけても、精神的には近づけねぇんじゃねぇか?」
「物理的に近づけたんで十分ですおっぱい揉ませてください!」
「わははっ。おもしれぇやつ。おら、これでも揉みてぇか??」
エメラルド・グリーンの女子は、腰を突き出して、股間を見せつけた。
昔々、カーチャンのそれをお風呂場で見て以来……いや、カーチャンなんて女の子のカテゴリーに入る人間じゃないから、これは初めて見る女の子の女の子の部分なんだ。
「こ……こんなふうになってr━━ああぁぁあ!??」
なんてこった!
さっきまで女の子だったところが男の子になっちゃったよ!
信じられない!
女の子はどこに行ったの!?
んもうバッキバキの男の子だよ!
しかも、ぼくのより断然デカイじゃないか!
一瞬のうちに絶望と混乱と憤怒の感情が寄せては返して、ただ虚無だけが残った。
「さすがにもうおっぱい揉みたかぁねぇか?」
下の女の子はいなくなっても、上には女の子が残ってる。
だけど、下が男の子になってるんだから、もう上はおっぱいじゃなくって雄っぱいなんだよ。
自分でも何を言ってるのかわからなくなってきたけど。
「もうおっぱいは要らないから、道案内を頼みたいんだけど」
「だーい好きな親に助けてもらやぁいいんじゃねぇか?」
「その親がどこにいるかわかんないんだよ! カーチャンに頼めるんだったら、最初からそうしてるって!」
彼女━━いや、彼? は、ぼくの抗議を一笑に付した。
「すぐ親に頼るなんて、どうかしてらぁ。おめぇのことを助けてくれるたぁ限らねぇぜ?」
「そんなことないよ?」
「親の愛には裏がある。そのうち、おめぇにもわからぁ。ほら、立ちな」
言いたいことを言うだけ言って、緑色人間は歩き始めた。
よかった。
どうやら、道案内してくれるらしい。
ぼくは立ち上がって、緑のお尻を追いかけた。
「ぼくは鷹司タカシ! きみの名前は何ていうの??」
「教えてやらねぇ」
「教えてよ!」
「おめぇとはもう会うこともないだろ?」
「そうかな……? でも、なんだか……きみとはまたどこかで会う気がするんだ……」
急に緑色人間は足を止めた。
振り返って、その三つの目でぼくじっと見つめる。
「どうしてでぇ?」
「え……なんだろ……まぁ、正直に言えば口説き文句なんだけど。もう一回女の子に戻ってくれない?」
「わははっ。おめぇやっぱりおっぱい大好きなんだな」
その発言と同時に、三つ目の青年はぼくを突き飛ばした。
セクハラに暴力で対処するのは卑怯だぞ。
倒れたら、すぐに立ち上がって、猛抗議してやろうと意気込んだものの、お尻がなかなか地面につかない。
転倒するまでの時間がやけに長いんだ。
え?
これって走馬灯?
「俺の名前はた……わ……みこ……だ!」
「えっ? 何? たわわなおっぱいのミコちゃん!? よく聞こえn━━あれ? どうして遠くへ行っちゃうの? 置いてかないでよぉ!」
すさまじい速さで、ミコちゃんがぼくから離れていく……と思ったのは間違いだった。
ぼくだった!
ぼくの方が移動してるんだ!
この速度、この角度、この浮遊感。
間違いない!!
ぼく、今、落下してる!