第11話 カーチャンにブラジャーを着けさせたい!
こんにちは。鷹司タカシです。
はぁ……。
ヤベーお姉さんに襲撃されるし、宝百合ちゃんのおっぱいが萎んじゃうし、挙げ句の果てには、ぼくが危険を冒さなきゃいけない状況になっちゃいました……。
納得はできる。
宝百合ちゃんがサポートに徹して、ぼくがカーチャンに魔錻羅器を手渡しに行く。
この状況でベストな選択だ。
「でも、めっちゃ怖いよーーーーー!!」
別にお姉さんの魔法が弱いんじゃないからね?
カーチャンだから、矢でも鉄砲でも筋力で防げるってだけだからね?
ぼくみたいな人間だったら、一発でも命中したら終わっちゃうからね?
「死にたくない~~~~」
「ですが、うじうじしていたところで、死を待つだけです。生き延びるには、あの者を倒さねばなりません」
「うぅ……わかってるよ……」
それに、これ以上、誰の悲しみも見たくない。
……だけど、勇気が……
「タカシさん。どうか、ご決意を」
必死な顔でお願いする宝百合ちゃん。
かわいいな。
頑張るご褒美に、おっぱい揉ませてくれないかな?
ぐしし。
……ん……?
あっ……。
「ああああああ!! うわああ! あ……ああああああああ!!!!」
ぼくは走り出した。
部屋を出て、廊下を通って、玄関から、外へ。
ぼくはバカだ。
もう宝百合ちゃんのおっぱいは揉めるほどのサイズじゃなくなってるんだ。
くぅーーーーっ!
悪いやつのせいで、こんなことに!!
「カーチャーーーーーーン!!!!!!」
「タカシ! 来るんじゃないわよ!」
やだもんね!
「あぁ~ら、何よ、そいつ。あんたのガキなの? 殺してやるわっ!」
お姉さんがパーティーバッグの口をこちらに向けた。
途端に飛び出す魔法の数々。
ひーっ。
頼んだよ、宝百合ちゃん!
「任されましょう!!」
玄関から威勢のいい声がした。
有言実行。
ぼくに襲いかかる魔法は、すべて方向を変え、あちこちに着弾した。
さすがだよ、宝百合ちゃん!
だけど、魔法の使いすぎで、無乳になっちゃうんじゃないかって心配だ。
「うおおおぉぉおおぉぉぉおお!!」
50メートル走12秒のぼくが全力疾走する。
カーチャンとの距離は残すところわずか10メートル……まあまああるな……。
「タカシ! お尻!」
カーチャンが叫んだ。
ぼくのお尻が何だって?
もう小学5年生なんだから、ペンペンはさせな……うわああぁあぁあ!?
ピンク色の触手っぽいものが、ぼくのお尻を狙ってるじゃないか!
しかも、ぼくが走る方向を変えても、付いてくる。
「宝百合ちゃーーん!」
「ぐっ……わたくしの魔力では制御できません!!」
ヤバイじゃん!
このままだと、お尻をいじめられちゃうよ。
「ここは、あたいが引き受けた!」
この声は……
「力石の姐さん!」
「タカシはカーチャンのところに走りな!」
生きてたんだ。
よかった。
全身スタボロなのに、ぼくを庇って、代わりに触手と戯れてくれた。
本当にありがたいなぁ。
おえっ。
「ちぃぃっ。死にかけのブサイクが邪魔しやがっt……あぁらら??」
お姉さんから魔法が飛んで来なくなった。
空では、鷲さんがお姉さんにしがみついてた。
「おばおね……!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
カーチャンがたくましい腕でぼくを抱き抱えた。
そして、そのまま家に向かって走って行く。
「あんた、どうして、こんな危ないところに来るの!」
「カーチャンにブラジャーをしてもらうためだよ! あっ、ちょっと待って待って。殴ろうとしないで。ほら、これ!」
「あら、ブラジャーじゃない。どこから盗んできたの! まさか、宝百合ちゃんのじゃ……」
ぼくを疑うのはやめてくれ!
無理矢理、カーチャンから降りると、ぼくはブラジャーをカーチャンに手渡した。
「これは魔錻羅器だよ! さあ、これを装着して、魔法を使って、あいつをやっつけて!」
カーチャンが困惑したのは一瞬だった。
ぼくの狙いを察して、魔錻羅器の装着に取りかかった。
だけど……
「うぐっ……これちょっときついわね」
一方、空では、まだ鷲のおばさんとドレスのお姉さんが取っ組み合ってた。
鳥人間の鳩胸と、お姉さんのFカップが、むにゅんむにゅんとくっついて、非常におっぱいおっぱいしてる。
「あんた、隙を見て、逃げてればいいものを……。よっぽど死にたいらしいじゃない」
「失うものなど、もう何もない……いや、そう思っておった……。されど……恨みは募る一方だ!」
「知るかぁ!」
お姉さんが、鷲さんを蹴っ飛ばした。
負傷してる翼を、わざわざ狙って。
鷲さんは地面へと落ちていった。
「鬱陶しいやつ……ん?」
お姉さんの目が、ぼくとカーチャンの方に向けられる。
カーチャンはまだ魔錻羅器の装着に手間取ってる。
「げぇえっ。あんた魔錻羅器を着けてなかったわけぇ!? じゃあ、なんであたしの魔法に耐えられてたの……? まぁ、いいわ。あんた殺して、家も化粧品も全部もらってあ・げ・る」
彼女はパーティーバッグを開こうとする。
チャンスは今、ここにしかない!
「お姉さん!! 綺麗ですね!!」
「え……あら、どうも」
「高級そうなドレスがお似合いで、空中を舞うそのお姿は、まさに高嶺の花!」
「なぁにぃ、この子。お世辞も言わずに、ズバズバ本当のこと言っちゃって。オーーッホッホッホッホ!」
「じゃあ、おっぱい揉ませてください!!!!!!」
「死ね」
くぅっ! おっぱい勧誘失敗だ。
だけど、十分に時間は稼げた。
「カーチャン!」
「はいよー!」
魔錻羅器を着け終えたカーチャンが、気合いを入れた。
「行くわよ! ビーーーム!」
「っ!」
お姉さんはバッグを開けて、ビームを吸収する構えを見せた。
「……」
「…………」
「………………」
……あれ?
「カーチャン……? 何も出てないけど……」
「あら、変ねぇ。これ不良品じゃないのかしら」
「何だよ! 魔法も知らねぇのかよ! 脅かしやがってぇぇええぇぇl!」
ぶちギレたお姉さん、パーティーバッグを一旦、閉じて、それから、また開こうとする。
言うまでもなく、ぼく達を殺すつもりなんだろう。
やっぱり、練習もなしじゃ魔法を使えないのかな?
「カーチャンさん!」
我が家の玄関から、貧乳魔女が指示を出す。
「気合いだけではいけません! 使用する魔法を想像しつつ、胸を寄せてください!!」
「だってさ、カーチャン」
「うふふ。なんだか恥ずかしいわ。こんな感じかしらね……えいっ」
胸を寄せる……どころか、鷲掴みにして、胸と胸をぶつけたカーチャン。
全身から強烈な光を放ったと思いきや、その直後、すさまじい量のビームをぶちまけた。
力石の姐さんの特大ビームよりも断然でっかい。
爆音。
ぼくは両手で耳を守りつつ、ビームの行方を目で追った。
お姉さんのバッグから出たビームもすごい。
だけど、それとは段違いのビームが、彼女を飲み込もうとしてた。
カーチャン、強いのは筋肉だけじゃなかった!
「何っなの、こいつぅぅぅうぅうぅぅぅぅう!!!」
「ぼくのカーチャンだぞおぉぉおおぉぉぉぉ!!!」
お見事。
カーチャンの特大ビームは、地底世界の敵を、木々や土ごと消し飛ばした。
大音量の衝撃が消える。
訪れる静寂。
鳥や虫の鳴き声以外、何も聞こえない。
ほどよい日差しが気持ちいい。
戦いさえなければ、今日はとってもいい一日になってただろうな。
「カーチャン……終わったね……」
「一応、やつの死体を確認だ」
触手魔法を退治した姐さんは、感慨に耽る暇を与えてくれない。
でも、それが正しい。
「行こう、カーチャン。……カーチャン?」