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おっぱ異世界  作者: えすくん
第1章 異世界旅話
10/90

第10話 誰の悲しみも見たくない!

 こんにちは……鷹司たかつかさタカシです……。

 地底世界を脅かすのは地上の人類。

 そんな衝撃的な事実を知らされた時でした……。

 更なる衝撃がぼくを襲ったのは!!



「地上人が空を飛んできたぞ!」



 外から大騒ぎが聞こえる。

 ぼくと力石りきいしあねさんは窓にけ寄り、外を見た。

 今や誰も我が家に魔法を放っちゃいない。

 化け物どもは怒りをあらわにしながら、空を見上げてる。

 鷲さんも、カーチャンも、同じところを見ている。

 彼らの視線の先には……



「おぉ……おっぱい!」



 空中を華麗かれいただよう大人の女性。

 顔立ちは、なんとなく日本人っぽいけど、真っ赤なドレスに包まれた肉体は日本人離れしてる。

 露出された胸は、Fカップ!

 ちらちらのぞく黒いブラジャーはきっと魔錻羅器まぶらきだ。

 金色のつややかな髪は、オールバッグにセットされて、肩の辺りでくるんくるん巻かれてる。

 手には高級そうなパーティーバッグ。



「……最悪のタイミングです……」

「え、なんで? スタイル抜群だよ?」



 宝百合たからゆりちゃんったら、何を怖がってるのさ。



「魔物、見ーーーーっけ」



 綺麗なお姉さんが、高いところから、こちらを指差した。



「でへへ。ぼくのことかな? おっぱいにえた危険な魔物……なんちて」

「魔物はあいつさ」

「魔性の女ってこと? 確かにぃ~!」

「魔物以外に人を殺す生き物なんてありゃしない!!!」



 甲剛人こうごうじんおさは勢いよく窓から外に出ると、魔法の力で空を飛翔。

 目指すは真っ赤なドレスの女性。



「くたばれ、地上の悪魔!!!」

「何、あんた? すんごくブサイクね」



 力石りきいしあねさん、魔法のビームを発射。

 すっごい量。

 すっごい大きい。

 鷲さん達のビームとは比べ物にならない。



 ところが!

 お姉さんは、パーティーバッグを開けると、その中でビームを受け止めた。

 受け止めた、というか、延々と吸収し続けている。



「……っうぅ……!」



 やがて、力石りきいしあねさんはビームを止めた。

 お疲れ様です。

 一方で、Fカップのお姉さんの方は、汗ひとつかいてない。

 パーティーバッグを閉じると、涼しげな顔で、対戦相手をあおる。



「あぁ~~ら、もう、おしまいなわけ?」

「クソッ……化け物め……!」

「はぁ~?? あんた、鏡見たことないの? あんたの方こそ化け物じゃない。マジ生きてる価値ないってレベルの顔面だし……可哀想だから、死なせてあげるわ」



 お姉さんはそう言うと、バッグの留め具を開けて、力石りきいしあねさんに向けた。

 たちまち、バッグの中からビームが飛び出した。

 これ、さっき力石りきいしあねさんが放ったビームじゃない?

 だって、量と大きさがすっごいんだもん。


 あねさんは吹き飛ばされた。



「あああぁあぁああぁ! あねさん!」

力石りきいしあねさぁん!!」

畜生ちくしょう! 何もかもうばいやがって!!」



 復讐連合ふくしゅうれんごうに属する甲剛人こうごうじん数名が、お姉さんに向かって飛んだ。



甲剛人こうごうじんに遅れるな!」

同胞どうほうかたき!」



 更に、他の化け物どもも同じ行動に出た。

 いや、同じなのは行動だけじゃなかった。

 結果まで同じだった。

 パーティーバッグに魔法を吸い込まれ、自分の放った魔法で倒された。



「無闇に飛びかかってはならぬ!」



 鷲さんが大きな声を張り上げる。

 もうカーチャンのことなんて眼中にないようだ。



「魔力ではあやつの方が上だが、数ではこちらがまさる。集団の利を活かせ!」

「あぁ~、ごっめぇん。あたし、めんどくさい戦いは嫌いなのよね」



 赤いドレスのお姉さんは、バッグの中から、これまでに見たことのない魔法をたくさん放出した。



 爆音とどろく雷の魔法。

 暴れる植物の魔法。

 うねる水の魔法。

 きらめく粉の魔法。

 切れ味鋭い風の魔法。



 それらが一斉いっせいに、復讐連合ふくしゅうれんごうのメンバーに襲いかかる。

 ある者は体をられ、腕や足を失い、ある者は木端微塵こっぱみじんにされ、またある者はのたうち苦しみ、呼吸も満足にできない。

 木々はぎ倒され、土はえぐられ、動物たちはみかを失う。

 ぼくの目の前で、次から次へと命が消えていった。



 まるで夢を見てるような不思議な感覚。

 ぼくはまばたきすら忘れて、ただ静かに立ち尽くした。



「パーッと派手はでにやるの楽しいわぁ~。お仕事って、こうでなきゃぁね!」



 ぼくを正気に戻したのは血飛沫ちしぶき

 誰かの血がぼくの顔にぶっかかる。

 すぐそばに、魔法を食らって、今まさにくずれ落ちていく化け物がいた。

 化け物……と言ったけど、そいつの目から流れる涙は、化け物じゃなくて人間の涙にしか見えなかった。

 そして、その人は、倒れて、動かなくなった。

 地面に染み込む血の量から、してあげられることは何もないとわかった。



「どうしてえええええぇぇぇえぇ!!?!?!??」



 急激に込み上げた感情をこらえきれなくなって、ぼくは宝百合たからゆりちゃんにめ寄った。



「どうして! どうしてだよ!? どうしてこんなひどいことになるんだよ!!! こんな……こんなの……異常だよ!!」

「普通ですよ」



 宝百合たからゆりちゃんは意外なほど落ち着いてる。



「ごく普通の報復です。彼らは大切な存在を奪われたのです……地上人に」

「……」

「奪われたから奪い返したい。しかし、命は返ってこない。ならば、復讐ふくしゅうを。そういう単純な原理です。そして地上人は悪魔です。ただそれだけのことなのです」



 ぼくは空に浮かぶお姉さんをにらんだ。



「じゃあ、あのおっぱい大きいお姉さんが、本当の敵……」

「ええ。正確には、そのうちの一人……ですが」



 今やジャングルは、ほんの数分前までとは、すっかり様相をにしていた。

 土の上は復讐連合ふくしゅうれんごうの死体で埋め尽くされ、川は赤くにごってる。



「失うものなど、もう何もない……」



 復讐連合ふくしゅうれんごうのリーダーの独り言。

 地にひざまずき、うなだれている。

 攻撃を受けて負傷した翼が痛々しい。



 そのそばに、お姉さんがり立った。

 着地の瞬間におっぱいがポヨィンとおどったのを、ぼくの本能は見逃さない。

 こんな時でも、おっぱいは好きだ。



「あんたがこの不良集団のボスね」

「……殺せ……」

「ふぅ~ん。よく見れば、なかなかいい顔してるわね。あんた、剥製はくせいに向いてるわよ。あたしのお部屋にかわいぃ~~く飾ってあ・げ・る」



 そう言うと、お姉さんは、高級そうなパーティーバッグの口を開け始めた。

 わしさんに動きはない。

 また人が死ぬの?



 バッグの口が完全に開き、中から魔法のやりが飛び出てきた。

 やりが復讐連合のボスに刺さって、あわや焼き鳥の下ごしらえの図が完成するかと思われた……その時!

 カーチャンがやりはじいた。



「だ……誰??」

「主婦よ」



 さっすが、カーチャン!

 威風堂々(いふうどうどう)と、わしさんの前に立って、守ってあげてる。



「貴様……なぜ!?」



 鳥人間が困惑と同時に不快感をあらわにした。



「我らは敵同士のはず! それをなぜ助ける? そもそも、戦場において死を覚悟した者に助太刀すけだちなど、侮辱ぶじょくに他ならぬ!!」



 カーチャンはさわやかに応じた。



「馬鹿なこと言うんじゃないわ。命の大切さは、あんたが一番知ってるはずじゃないの」

「……!!」



 一方、お姉さんは、不思議そうな顔をしている。



「あんた……人じゃないの! あ~らっ! あそこにあんの、あんたの家? 家ごと、こっちの世界に来たわけ!? うっらっやっまっしぃぃぃ」



 この場で、ただ一人、テンションの高いお姉さん。



「あたし達の仲間なんでしょ? 化粧品とかちょぉだいよ」

「こんな厚化粧あつげしょうの知り合いなんていないわ」



 カーチャンの口から汚い言葉が出るのは珍しい。

 ああ、そうか。

 カーチャンも怒ってるよね。



 お姉さんは、せっかくいいおっぱいを持ってるのに、いい性格は持ってないみたい。

 いらついた様子で、すごむ。



「……ホッホッホッホ……。お願いしなくても、奪えばむ話よね」



 その発言を終えると同時に、お姉さんは、バッグから特大の炎を出した。

 カーチャンはやや姿勢を低くして、両方の手の平で炎を捕まえた。

 へー、炎って捕まえられるもんなんだ。

 でも、すぐさまお姉さんのバッグから粉の魔法が放たれて、粉塵爆発ふんじんばくはつ



 強い……!

 さすが、魔法の世界を危機におとしいれたってだけのことはある。

 化け物じみた強さのカーチャンを相手に、優位に立ってる。



「うぁうぅ~~~~~~っ」



 ぼくは頭をかかえた。

 あまりに強大な殺人鬼を前にして、ぼくは今、何をすべきなの?

 っていうか、ぼくなんかに、できることがあるの?

 逃げたい。

 でも誰の悲しみも見たくない。

 でもやっぱり怖い。

 おっぱいみたい。



宝百合たからゆりちゃん!! 教えてよ!!! ぼくはどうすればええぇああぁぁぁ!!? ……宝百合たからゆりちゃん、おっぱいが減ってない!??!?!!?」

「こんな時に、どこを見ているのですか!」

「おっぱい!」



 目の見えない魔女が怒りに任せて、両腕を振り回したって、全然怖くないもんね。

 それより、おっぱいの質問に答えてよ!

 EカップがBカップになっちゃってんじゃない!



「これにはちゃんとした理由があるのです!」



 顔を真っ赤にして、宝百合たからゆりちゃんは説明する。



魔錻羅器まぶらきを用いて、胸の魔力を魔法に変換すると、その分、胸がなくなるのです」

「えっ」

「先の戦闘行為において、わたくしは大量の魔力を消費しました。よって……まぁ……こういうことになったのです」



 なんてこった。

 魔法がおっぱいを犠牲にする残酷ざんこくなものだったなんて……。

 ……いや……待てよ……。



「そうだ、魔法だ!」

「はい?」

「魔法で、あのお姉さんをやっつければいいんだよ!」

「いえ……わたくしにはとてもかなう相手ではありません……」

宝百合たからゆりちゃんじゃなくって、カーチャンが、だよ!」



 そりゃぁぼくだってカーチャンだって、魔法なんて今まで一度も使ったことはない。

 だけど、もし魔法が使えるなら、形勢を逆転できるかも。

 だって、カーチャンは筋力だけで強いんだよ?

 魔法を使えるようになったら、もっと強いんじゃない??



「しかも、カーチャンの大胸筋なら多少減っても、何なら全部なくなっても、ぼく平気だもん!」



 ぼくは、半魚人から奪った魔錻羅器まぶらきを見つめた。



「これをカーチャンに装着させようよ……!」

「……魔法を使いこなすには、それなりの修業期間が必要です……けれど……」



宝百合たからゆりちゃんが力を込めて言う。



「予言の戦士ならば、きっと奇跡を起こしてくださるはず!」



 ぼくは窓の外を見た。

 相変わらず、ジャングルでは、カーチャンとお姉さんによる熾烈しれつな戦闘がり広げられてた。

 とは言え、カーチャンの防戦一方。

 お姉さんはバッグから、止めどなく魔法を放ち続けている。

 近づけば、巻き添えを食らってしまうだろう。



「どうやって魔錻羅器まぶらきを渡せばいい?」

「タカシさん、走りなさい」

「え? あ!」



 宝百合たからゆりちゃんのおっぱいが急激にしぼんでいくじゃないか!

 Aカップだ……。

 ガッカリ。



「かなり魔力を消費しますが、一時的に視力を回復させる魔法です。さあ、タカシさん。わたくしが道を切り開くお手伝いをしますから、カーチャンさんに魔錻羅器まぶらきを直接手渡しに行って来なさい!!」

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