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報酬

「今夜は私のおごりよ。じゃんじゃん頼みなさい」


 今日のソフィーは気前がいい。

 初勝利で初給料。気持ちが高ぶらないわけがない。


「ありがとう。まあ適度に頼むよ」


 無欲な純也の普段の食事は質素なものばかりだった。

 ソフィーからあれが食べたいこれが食べたいと言われていたが、そのスタイルは変えなかった。

 いつからかソフィーは何も言わなくなったので、純也はこの生活にソフィーも慣れたのかなと思っていたが、やはり不満はあったようだ。

 このグリン食堂で絶対に食べきれないほどの量を注文している。パックして持って帰れるだろうか。


「依頼は一匹でよかったんだけど、結局五匹も倒せたから報酬が跳ね上がったのよ」


 ソフィーは未成年なので、お酒は飲んでいない。この世界でも日本と同じようにお酒は二十歳になってからということだ。

 それになのに酔っぱらっているよにみえる。雰囲気で酔うタイプなのだろう。

 純也はお酒は飲まない。酔っぱらいは他人も自分もめんどくさい。


「それで、その報酬の何パーセントを俺の事務所に入れてくれるんだ?」

「なんで入れるの?」

「住んでるんだから入れるだろう」

「いやよ」

「出て行くか?」

「いやよ」

「じゃあわかった。自分の分は自分で払う。それでいいな」

「いやよ」

「どうして。それぞれがそれぞれの会計を持てばいいだろう」

「いやよ」


 めんどくさい酔っぱらいだ。飲んでいないのに。

 今話しても明日には会話を忘れている可能性もあるかもしれないと思い話題を変える。


「それにしても五匹も倒すなんてすごいな」

「当たり前よ。私はスタインバーグ家の剣士だもの」


 父が嫌いだと言っておきながらも家は自慢なんだなと純也は心の中でほほ笑む。


「さすがだよ」

「でも怖かったわ」いつもより素直に話すソフィー。「地震があったんだけど気が付いた?」

「ああ、あったな」

「あれのおかげで勝てたようなものよ。次はもう少し準備をしてからじゃないと」

「そうだな。もっと賢くなったらいい」

「うるさい」


 その後は何度もシルバーウルフとの戦いの話を聞かされた。酔っぱらい特有のやつだ。

 絡み酒をするタイプだ。本当にお酒で酔っぱらったらもっと大変になるだろうと予想できる。

 こちらとしても影ながら見ていたので内容はわかっているのに、ソフィーの話すものは少し誇張して格好つけた演出になっていた。

 シルバーウルフとの戦いの講談を十二公演聞いたところで閉店時間になった。

 帰り道でも同じ話。気分が良さそうなので、うんうんと頷いて聞いておく。

 今日は一日が長く感じた。いつもの純也の三日分くらいの活動だったからだろう。

 自宅兼探偵事務所に着くとどっと疲れが出てきた。


 やはり見慣れたこの部屋が一番落ち着く。

 いつものテーブルにいつものソファ。

 棚にはお気に入りの本。きれいに並んだ本棚が純也は好きだ。

 気分の良いソフィーはベッドにダイブした。さっきまで返り血を浴びていたのにそのまま寝るのだろうか?


「おい、シャワー浴びたほうがいいんじゃないか?」

「そうね。それは言えてるわね」のそのそとソフィーが起き上がる。


 目を擦りながら浴室へ向かうソフィー。

 おもむろに棚に置いてあった一輪挿しの花瓶を手に取る。

 いつかの依頼者からお礼にともらったものだ。


「なんかこれ違和感あるわね?」

「ずっと置いてあるけど?」

「そうよね」それだけ言うと、ソフィーは花瓶を元に戻し、再び浴室へ向かった。


 ソフィーがシャワーを浴びている間に純也も一輪挿しの花瓶を手に取ってみたが特に違和感はなかった。

 何を言っているのだろう? 相当酔っているのかもしれない。

 もしかしたらジュースと間違えてアルコールを出していたのかもしれない。次からはあの店はやめよう。


 ソファに戻ると、どっと疲れが出てきた。

 たいした戦闘もしていない純也が先に寝てしまうとはなんとも情けないが、同じ話を何度も聞くのもある意味戦闘といえるだろう。

 返り血を浴びたわけではない。明日ゆっくりシャワーを浴びればいい。

 純也はそのまま眠りについた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんかこう、いろいろと「そうじゃねぇだろ……」と純也の肩を叩きたい気持ちに。 あれっ。 これは本当にわかってないやつなんですかね。 わかってるけど気がついてないフリを装う大人ではなく、実際…
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