シルバーウルフ
ソフィーのもらってきた依頼は、魔物の討伐と素材の回収といった低ランクの依頼だった。
ソフィーにはぜひ頑張って討伐していただきたいかぎりだ。
「それにしても大丈夫なのか? 初めてなんだろう?」街を出て問題の場所まで歩く中で純也は聞いた。
「だ、大丈夫に決まっているじゃない。毎日剣の練習をしていたんだから」上ずった声で答えるソフィー。
緊張が伺える。無理もない。
緊張というのは交感神経が働くので戦闘にはちょうどいいかもしれない。まあ何事にも適度というものがあるが。
それにしても久しぶりに街の外に出た。
転移したとき依頼だ。
「残念よね、勇者なのに能力がないなんて」ソフィーが石を蹴っ飛ばしている。「能力があれば冒険者ギルドの依頼なんて簡単に片づけられるのに」
「全然残念ではない。あっても片づけない」
「他の転移勇者は全員規格外の能力を持っているのに。前代未聞よ」
「お褒めいただきありがとうございます」
「褒めてないわよ」
話をしながら歩いていたらあっという間に現場にたどり着く。全然街からは離れていない。
周りを見ても特に何も気配はない。というよりこんなに街に近いのに魔物や獣が現れるというのか。これだから街の外には出たくない。
「純也はそこで見てて。素材回収のとき手伝ってくれればいいから」
「喜んでっ!」日本でバイトをしていた時の返事をしてしまった。
「全然喜ばしい立場ではないわよ?」
純也は倒木に腰を掛ける。その際にどっこいっしょと言いそうになったので、普段から身体を動かしてもいいかなと少しくらいは思った。
ソフィーは鞄から何かを出してそこらへんにまき始めた。
餌か? 魚でもないのに集まるのだろうか?
剣を構えるソフィー。目をつむっている。精神を研ぎ澄ませているようだ。
ソフィーが少しかっこいいと思えた。だが純也は剣士になりたいとまでは思わなかった。
がさがさと草むらから狼のような魔物? 獣? が現れた。
「現れたわね、シルバーウルフ!」
名前からは魔物か獣かは判断できなかった。あとでソフィーに聞こう。
シルバーウルフという生き物はソフィーと距離を取り、毛を逆立てぐるるると唸り威嚇をしている。
対峙するソフィーの剣を持つ手にも力が入っている。
剣の切っ先に太陽の光が反射し、きらりと光った。
それを合図と見たのか、シルバーウルフは勢いよく飛び出しソフィーに襲い掛かった。
ぎりぎりのところでソフィーは身をかわす。
判断が遅れたためぎりぎりになった、というようではなさそうだ。シルバーウルフの動きを観察し、最小限の動きでかわしたように見えた。
ソフィーの顔には余裕が見える。
これは恐らく勝てる。安心して見ていられる。まるで娘の柔道の初試合を観覧しにきた親の気分だ。
体勢を立て直したシルバーウルフは、もう一度ソフィーに飛びかかる。
野生の勘で、ソフィーには勝てないとか思わないのだろうか? あまり賢くない種族なのかもしれない。
それに同じ攻撃方法だ。飛びかかる以外に攻撃技を持っていないのだろうか?
二回目ともなればソフィーも避けるだけではなかった。
身をかわすと同時にシルバーウルフののど元に剣を突き上げた。
一本。そこまで。
ソフィーは初討伐で完全勝利という素晴らしい成績を残した。
実に誇らしいではないか。感動した。
そんなソフィーの剣はシルバーウルフの赤い血でどろどろになっている。
だがソフィーは嬉しそうだ。
右手にシルバーウルフが突き刺さったどろどろの剣を持ちながら、にこにこと笑顔のソフィーが左手を振ってこちらを見ている。
グロい。実にグロい。だから剣士にはなりたくない。
「早速皮を剥いで素材を回収するわよ」
ソフィーが短剣にもち替え、シルバーウルフを捌き始めた。
血がいっぱい出ている。内臓がどろりとこぼれている。
グロい。実にグロい。だから冒険者にはなりたくない。
「そ、それにしても一匹狼でよかったな」純也はシルバーウルフの解体から目をそらして言う。
「まあね。私は昔から一匹狼でやってきたから」テキパキと解体をするソフィー。「それにその方が分け前が多いわ」
「いやいや、ソフィーのことじゃない。シルバーウルフのことだよ。狼は群れで行動する種族だからな。シルバーウルフは例外かもしれないけど」
「え、そうなの?」
「え、知らなかったの?」
嫌な予感がした。
なにやら背後から気配を感じた。
純也とソフィー恐る恐る振り返る。
そこにはシルバーウルフの群れがこちらを伺っていた。




