聞き取り
ハリエットの家は大きな木の上に作られていて、らせん状の階段をのぼった。
日本にあったらドラマの撮影とかでテレビ局から問い合わせが後を絶たないだろうな。
家の中はログハウス調で温かみのある落ち着いた造りだった。
うん、あこがれる。
ハリエット曰く、この村に建つ家々はどこもこんな感じらしい。建築技術はこれ一本ということか。
ダイニングに通され、腰を掛けると、お茶を用意してくれた。
柑橘系の紅茶のようだ。
一口すすると、口の中にさわやかな香りが広がる。
自然に目をつむって堪能してしまうほど、上品な香りだった。
隣でソフィーもティーカップ片手に目をつむっている。
二人で紅茶を堪能していると、訪問者が現れた。
魔物の被害者のようで、包帯をあちこちに巻いている。
「魔物について、話そうと思って来てやったよ」
あまり信用されていないようだけど、ハリエットのおかげでいろいろ話を聞かせてもらえそうだ。
「ありがとうございます。どうぞおかけになってください」純也は向かいの椅子に座らせる。
相手が腰を下ろしたところで、ここは自分の家ではないことに気が付いた。
探偵のスイッチが入ってしまい、勝手に人の家で自由にしてしまった。
エリオットは別に嫌そうな顔はしていないが、ソフィーは「何考えてんの?」みたいな顔をしている。
「勇者様なんだろう? 秘めた能力で早くあの魔物を倒してくれよ」
「え、あ、はい。そうですね。その前に魔物特徴などを教えてください」
期待されても困るが、期待を裏切るのもよくないと思いテキトーにはぐらかしておく。
「ああ、わかった。絶対仲間の敵を取ってくれ」けがをした男が身を乗り出してこちらに訴える。「あれは魔女だ」
「魔女……ですか……」
「ああ、ありゃ魔女だ。森に小屋があってそこに住んでいる。それで人間やエルフを捕まえては食ってるんだ」
「こわ……」ソフィーが眉をひそめ、手を口に当てている。
「そしてその奥の遺跡にはゴーレムがいる。今までいなかったのによお」
魔女とゴーレム。何だよこの組み合わせ。
なんとなく違和感がある。もう少し詳しく聞いてみる必要があるかもしれない。
「ちなみにゴーレムが守る遺跡には何かあるのですか?」
「遺跡にはなにもねえ」
「遺跡にあった貴重なものはこの村で保存しています」ハリエットが補足する。
「そうですか……」
今のところの情報で検討する。
何もない遺跡を守るゴーレム。
ゴーレムは基本、自立しない。誰かの操作下にある。
遺跡に守るものが出来たと仮定すると、魔女が遺跡に何かを隠しゴーレムを作って守っている、というストーリーが考えられる。
遺跡に守るものがないままと仮定した場合は、魔女が遺跡にゴーレムを作っただけ、というストーリーになる。
このどちらかの場合は魔女を倒せば、ゴーレムも動きが止まる。
それ以外に考えられることは、魔女とゴーレムに関連性がない場合だ。
まずは同時に自然発生したというストーリー。この場合は、それぞれを倒す必要がある。
魔女が現れ、それとは別に遺跡に守るものができたのでゴーレムが配置された、というストーリー。この場合は、守るものがゴーレムの召喚者という可能性がある。そうなると少なくとも魔女、ゴーレム、召喚者と順に相手にしなくてはならない。
とにかく魔女を倒してから判断するのがいいだろう。
その後、魔女について詳しく聞かせてもらった。
つばの広い三角帽子をかぶり、長いローブをまとい、杖を持っているとのこと。
うん、これは魔女だ。テンプレート的魔女だ。
攻撃は主に氷を使ってくるらしい。
「仲間の何人かは、足を凍らされちまってよ……。身動きが取れなくなったところを連れてかれたよ」けがをした男が悔しそうに言う。
「氷の魔法ですか……」純也は頭を描く。
不安そうにけがをした男がこちらを見ている。
「純也は使えったっけ?」ソフィーが耳打ちする。
「いや、俺が使えるのは火水雷土風の基本属性魔法だけだ。氷は中級魔法だから使えない」純也もけがをした男に聞こえないように話す。
「どうするのよ。強そうじゃない。太刀打ちできるの?」
「ソフィー次第かな?」
そろそろけがをした男と、ハリエットがしびれを切らしそうなので、話を戻す。
「ゴーレムについてもお話しいただけますか?」
「おう! あいつにも恨みがあるからな」
けがをした男の話によると、ゴーレムは岩魔法を使うらしい。これも上級魔法。土魔法よりも強いものだ。
それに岩となるとソフィーの剣が効くか怪しいところだ。
多分ソフィーも気が付いているのだろう。少し不安そうな顔をしている。
「魔女から逃げるために遺跡に行ったのによお、ゴーレムがいるなんて思わなかったぜ。くそ。そこでも何人かやられちまって……」けがをした男がドンっと机を拳でたたく。「結局逃げ切れたのは俺一人だ……」
「お察しします……」純也は黒い服を着た襟足の長い警部補よろしく、おでこに手を当てて言った。
「っとまあ俺に話せるのはこんなもんだ。勇者様よお。俺の仇を、いや、村を守ってくれ!」けがをした男が、席を立ちながらそう言った。
「最善を尽くします」純也も立ち上がる。
「任せてちょうだい」隣でソフィーが胸を張っている。
けがをした男が出て行くと、ハリエットが紅茶を注いでくれた。
「私は風魔法が使えます。ゴーレムの討伐では力になれるでしょう」
「そうなのか! それはありがたい」
ソフィーが少し嫌そうな顔をしているのは気になるが、力強い味方だ。
「報酬はあげられないわよ」
ソフィーってケチだったっけ? と、純也は思ったが口に出さないようにした。
「もちろんです。この村を守れれば、それ以上の報酬はありません」
「それならいいけど」
ソフィーが渋々なのかよくわからないけれど、ハリエットの同行を許可した。




