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事件

 休憩中の襲撃にソフィーは緊張感が高まったが、純也がボウガンの練習から戻ってきて、すぐに相手の警戒を解いてくれた。

 剣と杖で戦うより話し合いの方が、平和的で望ましい解決方法だとは思うけれど、そのために嘘をつくのはどうなのだろう。ばれた時に大変なことにならなければいいけれど。

 というより、そもそも突発的にそんな嘘をつける純也に感心してしまう。

 遺跡の調査と資源の回収が依頼のはず。保存状態だとか被害状況の確認は依頼にはなかった。

 それに物騒なことというのは酒屋のマスターが言っていたちょっとしたことだ。

 よくもまあこんないけしゃあしゃあと、あることないことを言えるものだ。

 もしかしたら普段の生活の中でも嘘をつかれていたのかもしれいない。身に覚えがないだけで、純也の嘘による誘導があったのかもしれない。今後はしっかり警戒しておこう。

 だけどこのハリエットというエルフとの会話は純也に任せた方がいいのだろう。上手いこと話を進めてくれることを期待したい。


「この森に強力な魔物が出るようになったのです」真剣な表情でハリエットが話し始める。「魔物自体はこの森には前からいたのですが、倒せないほど強い魔物はいなかったのです」

「森に村を作れるわけですからね。この森で一番強いのがエルフということになるのでしょうね」純也が納得したように話をする。


 なるほど。確かに。魔物より弱ければそこを生活拠点にはできない。


「はい。しかし、遺跡にいつの間にか魔物が住み着いて、力を蓄えていたのです」ハリエットが眉間にしわを寄せる。「討伐するために出て行った村の者の何人かは帰ってこず、帰ってきてもかなり負傷していました」

「それほど強力なのですね……。」神妙な面持ちで話を聞いている純也。「それは何としても解決したいものですね」


 しかしこの表情は嘘の可能性もある。すっかり純也の信用を失っている。


「ええ。このままではこの森に住めなくなってしまいますから……。それにその魔物がこの森を出てしまうのも避けたいものです」

「その通りですね。昨日はふもとの集落で一泊したのですが、あの集落の方たちの笑顔が消えるのは心が苦しいですしね」純也が嘘みたいなまじめな表情をして、心にもないことを言っている。「もしよろしければ、その村に連れて行っていただけませんか? ぜひその帰還者にお話を聞かせていただきたいと思うのですが」

「あなたたちが私の村に?」

「ええ。ぜひお願いいたします。お手伝いできることがあるかもしれません」

「そうですね。わかりました。ご案内しましょう」ハリエットが頷く。「しかし少しでも不審な動きをしたらその時は容赦はしませんよ」

「ご心配なく。私には秘めた能力はありませんから」

「勇者様なのですか? そうでしたか。それは心強いですね。もっと早くおっしゃってくれればよかったのに」驚いた表情をするハリエット。

「ええ。一応。しかし繰り返しになりますが、秘めた能力はありません」

「勇者様なのにですか?」

「ええ。勇者様なのにです」


 純也が見極め帽子の話をハリエットに伝える。


「でも純也は推理力がすごいのよ」話に加わるのはここだと思ったソフィーが発言する。「必要な時には嘘をついてまで平和的に解決ができるわ」

「余計なことは言うな」

「え、あ、まあ、そ、そうね、冗談は置いておいて、純也に任せれば解決策が見つかるわ」

「そうなのですね」ハリエットが顎に手を当て、首をかしげている。「そういうことであれば、あなたは何をするのですか?」

「わ、私は剣士よ。策士が純也で、実行が私。スタインバーグ家を知らないの?」

「剣士なのですね。スタインバーグ家は私は知りませんが、有名なのですね」

「そ、そうよ。覚えておきなさい」

「はい。覚えておきます」ハリエットはなんだか大人の対応をする。「でも村では剣を出さないようにお願いしますね」

「わかっているわ」


 純也が魔法で水を出して焚火を消す。しっかりと水をかけている。山火事になったら魔物の出現より厄介なことになるかもしれない。慎重になっているのだろう。

 山火事になったら、魔物も討伐できるかもしれないと思ったけれど、エルフの村まで焼けてしまったら元も子もないと思い直す。


「魔法が使えるのですね」

「基本的なものだけですが」

「勇者様、私に対しては敬語を使わなくて結構ですよ。ソフィーさんに対する話し方で構いません」

「そ、そう? わかったよ、ハリエット」純也が少し照れくさそうにしている。「じゃあ案内よろしく」

「はい。それではご案内いたします」ハリエットが道なき道を進んでいく。


 さすが森に住むだけある。もう方向なんてわからないのに、迷うことなく進んでいる。

 森の住人がいるということで、安心感が出てきたのか、二人で歩いていた時よりも気持ちが楽だ。

 鳥の声や遠くを流れる水の音が心地いいと感じる。それに木漏れ日もきれいだ。普段街では味わえない自然を堪能できている。


 前を歩く二人は何か楽し気に話をしている。

 もうハリエットは純也に打ち解けたのか?

 少し二人の歩くスピードが速いと思ったけれど、頑張ってついていく。この森に置いていかれたら大変だ。泣いてしまうかもしれない。


 小一時間歩いただろうか。ここらへんで少し休憩したいなと思ったところで、開けた場所に出た。

 そこはエルフの住む村だった。

 アーガルムやトルルの集落とは違い、木の上に建てられた家々が並んでいた。

 明らかに人が住むところではなく、エルフの住む村と表現するのに相応しい村だった。

 冒険者をやっていてよかったと思った。

 こんな素敵な場所に来られるなんて冒険者の特権だ。

 でも依頼とは別で来たかったとも思った。

 今度純也と二人で観光にきてみようかしら。


「ここが私の村、ユーテラスです」ハリエットが入村を促す。


 純也と並び、村に足を踏み入れる。

 まるでファンタジーだ。純也はよく、アーガルムはまるでファンタジーだと言っているけれど、この村、ユーテラスこそがファンタジーだ。

 ユーテラスの住人たち数人が寄ってきた。


「ハリエット! その人たちは!?」一人のエルフの男が腰の剣に手を掛けながら言った。


 歓迎されていないようだ。かなり不信感を持たれている印象だ。


「大丈夫ですよ。私が保証します」ハリエットが男たちを制する。「トルルの遺跡と魔物の調査に来てくれ勇者様です」


 村の男たちはなんだか納得いっていないようだけれど、ハリエットの言葉に従っておとなしくなった。


「私たちは調査に来ました。皆様の中に、突然森に住み着いた魔物について知っている人がいたら教えていただきたいです」純也が身振り手振りで話している。


 純也には本当に感心する。

 普段は無気力脱力でだらけた感じなのに、必要な時にはちゃんとする。

 そして少し胡散臭いけれど、説得力のある感じを醸し出す。

 日本にいた時は詐欺師だったのだろうか。


「この方たちは私の家にお連れしますので、お話がある方はお越しください」ハリエットが純也に続いて言う。


 純也とハリエットが目を合わせて頷いている。

 いつの間にかハリエットの家に行くことになっていたのか。

 二人が前を歩きながらそんなことを話していたのか。

 なんだか疎外感。

 純也と二人の冒険のはずなのに……。

 二人がこちらに合図もせずに歩き出した。

 ハリエットの家に向かうのだろう。


「おいていかないでよ」


 ソフィーは初めて純也の腕に自分の腕を絡めた。

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