06 もっと聞かせて
「リミ!前!!!」
私は目の前にジャイアントワスプを見つけてしまった。
羽音おっきいし顎カチカチさせてて怖いし…。
Lv23…。
今のリミと力を合わせても勝てるかどうか怪しい。
だけど今はイオくんもいるんだ。
イオくんはLv16で私たちより少し低いし、なにか怪我をさせてしまったら…。
落ち着いて…。落ち着いて…。
今はイオくんを守ることが最優先。
「イオくんは下がってて!」
リミとアイコンタクトを取りつつイオくんを守るように前へ出る。
ジャイアントワスプは移動速度も攻撃もとっても速いし、常に防衛に気を配りつつ、何とか攻撃を通さなきゃ。
解毒剤は3つ持ってるし、少し刺されるぶんには大丈夫。
顎で喉や顔に攻撃されるのをいなすか…。
けど私が避けちゃったらイオくんに攻撃が当たっちゃうかもしれない…。
どうしよう。
「俺は大丈夫だよ」
後ろからイオくんの声がした。
大丈夫って…。安心させようとしてくれているのかな。
イオくんはナップサックを投げて腰についていた筒?のようなものを手にする。
そういえばイオくんは剣を使うって言ってたけど剣なんて持ってないな。
スキル重視で戦うのかな?
筒からスキルだすとか!
ソフィの予想とは裏腹に、筒からは紫の光線が伸びる。
なにあれ!すっごく綺麗。
紫色でイオくんのマントとも合ってるしあんなに光る剣見たことない!
でもイオくんはLv16だよ?!やばいやばい!
「ああ!イオくん!危ないですよ!?」
イオくんはずんずんと前に進んでいって私達から遠くなる。
ジャイアントワスプはイオくんを警戒してるみたいだけど…。
これでイオくんがもし負けちゃったら私…。
イオくんはそれでも進んでいき、ジャイアントワスプに剣を向けて体制を取った。
凄く綺麗な形だなぁ。
私よりずっと綺麗でかっこいい。
私がイオくんに見惚れていると、ドゴンという音とともにイオくんの姿が消えた。
あ、あれ?
イオくんは?どこにいったの?
イオくんの立っていた場所の土が少し抉れている。
まさかジャイアントワスプの必殺技みたいなのがあったのかな。
イオくんはどうなっちゃったんだろう…。
辺りを見渡してもいない。
後ろも、横にも。
イオくん…。
だめだめ。イオくんに気を取られすぎちゃった。
先ずは敵に集中しなきゃ。
もしかしたら私もリミも…。
そうしてジャイアントワスプを見るとイオくんを見つけた。
イオくんはジャイアントワスプの奥にいた。
よかった…。
安堵したのも束の間、ジャイアントワスプに動きがあった。
ジャイアントワスプの目に光がなくなり、周りから赤い光が現れてジャイアントワスプを覆う。
その赤い光が全体を覆ってから、キュパーンという音と共に弾け飛ぶ。
弾け飛ぶと光はどこか空間に無くなり、見えなくなる。
この世界での、死
あぁ。
頭が痛い。あのときからずっと。
今のイオくん同じような状況で、私を庇ってくれたお母さんをいつも思い出す。
いつも優しくて、いつも傍に居てくれた大好きなお母さん。
あの日、あの時、私がもっともっと強ければ。
お母さんに今も会えていたのかな。
あれから私はこの光を見ると思い出して自然に涙腺が緩む。
だから私はここまで――――――――――
「いやー、やりすぎちゃったな」
イオくんの声だ。
私はハッとした。
そうか、ジャイアントワスプを倒したのか。
って!
え!1人で!?この速さで?!
一体何が起こったんだろう…。
笑顔でイオくんがこちらへ歩いてくる。
「え!何今の!何その剣!!」
真っ先に声を出したのはリミだった。
リミの方を見ると目をまんまるくさせてイオくんを見つめていた。
「いやぁ。ごめんごめん」
「どうやって説明したらいいか分からないけど…」
少し考えるように顎に手を当てる。
とりあえずイオくんが無事だったのならいいんだけど…。
「んーと、俺はまあ特別なスキルをもっていて、この世界を謳歌してるって感じかな!」
「それでごめん、Lv16じゃないんだ。」
「ええ!なにそれ!めっちゃかっこいい!!」
なぜリミは動揺せずにいられるのだろう。
リミは相変わらずイオくんを見上げるようにしてテンション上がりまくっている。
「本当のLvは??」
「んー、隠しておこうかなー」
「えーなにそれ!」
「おしえておしえて!」
リミとイオくんは楽しそうにお話してる。
私は置いてけぼり!!
私だってイオくんのこと知りたい!
「どんなスキル出せるの!!」
リミの質問がさっきから止まらない。
「わ、私も!イオくんのこと気になります…」
ようやく声を出した。
イオくんはどんな人なんだろう。
昨日会ったばっかりなのにとても仲が良くなったように私とリミはイオくんに詰め寄った――――――
あれから次の街を目指し、歩きながら沢山イオくんと話した。
あの姿を消したのはただ走っただけで、私たちが目で追えなかったこと
『スキル 修復』をしたのはイオくんだったこと
目立ちたくないからずっと実力を隠していたこと
剣道部の顧問があんまり好きじゃないこと
剣のことは最近でよく分からないこと
沢山話した。
より仲良くなった!
話してる途中はイオくんもリミもすっごい楽しそうだったし私も楽しかったし!
もっともっと一緒に旅がしたいって思った。
そしてそして
彼女がいないこともわかった!
一緒に旅できて嬉しいってイオくんも言ってたし。
楽しい旅が始まる!!
なんでこんなに強いのかは教えてくれなかったけどた…。
ソフィはそんな高揚に包まれていたが日は落ちていき――――――
「もうすっかり夜だねー」
リミが言った。
俺がクソデカ蜂を倒してから結構歩いたな。
結局クソデカ蜂はダッシュ斬りで倒した。
思ったよりスピード出てびっくりしたのは内緒。
イアさんのドヤ顔を感じた。
『私のおかげですね』
いやいや、この身体能力はあんたじゃないだろう?
Lvアップの途中で休憩みたいな感じで貰えるんだろう?なにもイアさんのおかげでは…?
『…。』
ふん!
勝った。
「お!見えてきたね!」
イアさんにマウントを取っていると目的地が見えてきたようだ。
今回は宿空いてるといいな…。
「なんか今日は一日が早く感じます!」
ソフィがそう言う。
楽しんでくれてるのかな?だとしたら俺はとっても嬉しい!
「うん!私も!」
続けてリミも言う。
しかし俺はあえてこう言う。
「そうだね。でも、疲れてるだろうし、ささっと寝ちゃおうか」
この落ち着きよう。
この余裕さ。
この流れに乗らない感じ。
完璧だ。
これが歳の差だよ。
前世も合わせたらとんでもない年の差さ。
「でも、荷物もすっごい軽くなったし、ほんとうに楽になったよ!」
「ありがとね!」
そう。俺が『スキル 収納』でソフィたちの荷物を必要最低限にしてあげたのだ
リュックはほぼすべて預かってある。
ソフィたちは剣、回復のポーションと、それくらいである。
「そうそう、本当にありがとうごさいます」
いいともいいとも。
えっへん。
既に俺はもうほとんど隠していたことは話したが、2人は笑って許してくれた。
むしろありがとうと言われたくらいだ。
とてもいい気分である。
Lvなど、隠すところは隠したが、ソフィたちは興味津々で全ての話を聞いてくれた。
彼女について聞かれたのが少し気になるが、もちろんいないのである。
哀しいのである。
美少女2人と一緒に旅ができて本当に楽しい。
こんな経験は前世1回もないのだ。
本当に嬉しい。
だってこれからずっと一緒に魔物倒したり、ご飯食べたり、訓練したり。
最高である。
向こうも向こうで得があるようだし、離れるべきでは無いそうだその通りだ。
この思い出は来世になってもその先でも、絶対忘れぬ思い出となるであろう。
そんなこんなで今回の宿がある街へ着いた。
昨日の街よりも都会らしく、街並みも道も街灯も家も少しヨーロッパの方を感じる作りだ。
そして今回の宿は…。
高いとこにした!
べっ、べつに女の子いるからちょっといいとことかそんなんじゃないんだからね?!
いっつもこんなとこだし?!
かっこつけるためじゃないし?!
とは言っても今世はまだ16歳の冒険もアマチュア。
お金は前世から引き継がれないし意外とカツカツである。
とは言ってもご飯とかは今の今まで節約してきたし少しの贅沢なら大丈夫!
女の子もいるんだしさ!
しゃーないしゃーない。
街の中を少し歩くと宿に着いた。
外見からすごい。
中心には白の大きな両開きの扉。
左右には円柱の支えになる柱がボンボンと。
壁は白い石のようなものが積み上げられており、窓はなく、その代わりに外が少し見えるように小さくくり抜かれている感じである。
なんと言ってもその大きさ。
完全に神話の遺跡のそれである。
「き、今日の宿ここ…?」
リミが完全におどけながら俺に聞く。
「そーだよ。」
慣れた口調で、さぞ当たり前かのように。
「私こんなところ初めてです…。」
「うん、僕も。」
ソフィとリミが口を揃えて言う。
俺も今世では初めてだ。
少し緊張したが慣れた手つきで部屋を借りることができた。
4人部屋の広い部屋。
もちろん俺が全額払う。
もうすっからかんである。
値段を見たリミが口をパクパクさせるくらいだ。
ちょっと面白かった。
部屋は2階だった。
向かっている途中、リミが
この階段を登る途中でさえ我々はあのお金を払っている…。
とか言っていた。
払っているのは俺だけどな!
そんなこんなで部屋につき、まずすることは…!
「うー!」
「ベットにだーーいぶ!」
あ!俺が1番にやろうと思ったのに…!
リミに先を越された!!
ぐぬぬ、やりおる。
「えー!なんだこれ!」
「すっげーふかふか!」
リミが顔を埋まらせながら手でベットをバシバシ叩きながら言う。
「ほ、本当です!」
ちゃっかりソフィもである。
しかしソフィはお上品に座るようにしてベットを確かめている。
これが違いか…。
「はいはい、よかったねー」
そういって入口付近のクローゼットからハンガーを3つ取り出し、マントを脱いだ。
ソフィやリミもようやくマントをぬいで顔全体が見えるようになった。
このマント、顔正面は見えるんだけど髪とかが見えなくなってしまうのがもったいない。
目元や口などが見えるのは救いだが。
いつでもソフィ全体を拝ませて欲しいものだ。
「ここの風呂、部屋にももちろんついてるけど温泉もあるから入ってきちゃえば?」
「温泉ですか!!」
「えぇ?そりゃあの値段だもんな…」
「泳げる…!」
ソフィもリミも温泉には喜んでくれているようだ。
この世界の温泉付き宿はほんとうにお高い。
そりゃ旅する人を沢山入れたいからスペースがいくつあっても足りないためである。
『スキル 解放』
2人のパジャマと荷物用の手提げを出してあげてと。
「ほら、行ってらっしゃい」
「ありがとうございます!」
「いってきまーす!」
そういって彼女らは部屋を後にした。
「イオくんさー、ほんとにすごくない?」
温泉の脱衣所でリミが口を開いた。
「そうだね。スキルもたくさんだし、足も早いし、剣もなんかすごいし…」
「あの剣なんなんだろうねー?」
そう言いつつリミは一足先に全て脱ぎ終え、温泉内へ向かった。
「ひゃっほーい!」
私も早くはいりたい…!
温泉なんてむかし家族で行ったっきり、ここ数年は入っていない。
あのいつもよりあっつい感じ、循環して注がれる水の音、全部が心地よくて好きなんだよね。
そうして私も中に入る。
「ねーね!ソフィ!誰もいないよ!!」
「もう湯船の入ってるの?ちゃんと体洗った?!」
「お湯で流したからいいのー」
「後でちゃんと洗ってねー?」
そういえばリミとお風呂を一緒に入るのは初めてだ。
いつもは宿の部屋についているシャワーだけだし、たまに浴槽までお湯を貼っても狭くてさすがに1人ずつだ。
リミは何も抵抗はなさそう。
意外でもなんでもないや。
私が髪や体を洗っていると後ろの湯舟からジャバジャバだのゴボゴボだの沢山聞こえてくる。
リミは本当に元気だな…。
「ソフィ!ここ湯船溢れるギリギリまでお湯貼ってるから縁に頭乗せると浮くよ!!」
「すごいすごい!」
私が体を洗い終わって湯船の方へ行くとそう言われた。
「こらリミ、あんまり遊ばないの」
「体も洗いなよ」
湯船に足をつける。
あっつい。けどそれがいいよね。
全身を入れた頃にリミの方を見ると今度は平泳ぎをしているようだ。
本当にこのお風呂おっきい。
横もそうだけど縦にもちょっと深くなっている。
泳ぐのにちょうどいい深さだね、リミ。
「ねえソフィ!これからもっと楽しくなるね!」
イオくんがいるからだろうか。
今日はイオくんのこと沢山知れたし、本当に楽しかったなあ…。
「そうだね」
そう言ってリミに微笑む。
その後実はちょっと私も泳いで、この温泉を満喫した。