プロローグ1:選ばれた記念日
その日は特に疲れていた。
勉学を終え、部活に励み、その帰路だった。
辺りは少し薄暗く、家までの道のりはいつも通りに途方もなく遠く感じた。
しかし気持ちとは裏腹に、いつもの通学路とは別の方に足を進めた。
決して近道などではない。寧ろ遠回りの道だ。
その道はなんの変哲も無い夕焼けに染まる河原の道だった。
少し家に着くのは遅くなる。
が、この道の雰囲気や匂いが今の自分にそう判断させる。
鼻腔を抜ける砂利の匂いや川の匂い。
ここにいるだけで周り全てが五臓六腑に染み渡っていくような気がした。非常にリラックスできる。
歩くペースを下げ、周りに誰もいないことを確認した。
お気に入りのイヤホンを耳からぶら下げ、お気に入りの音楽を耳へと流し込む。
いつものルーティンだ。
決してテンポのいい曲では無い。
この場、この瞬間はそれでは意味が無いと体が感じている。
もはや歩いているのか止まっているのかわからないスピードで歩き、目を閉じ、そっと口ずさむ。
その感傷に浸り、目を開ければそこに見えるはずの、沈みそうな夕日に照らされた薄明るい空を思った。
プツッ。
唐突に耳から音楽が途絶えた。
なんだこんな時に。故障か?
そう思い目を開ける。
あれ…??
あたりは暗い。いや何もない。
何もない空間だから暗い…黒い。
失明した??難聴になった??
突発性の失明、難聴はよく聞く病ではある。
しかしそのどちらでもないことに気づいた。
目の前に小さな光が見えたのだ。
そしてその小さな光から水の音がした。
その光に縋るように必死に体を動かした。
おかしい。まるで夢のような感覚。体が動かしづらい。
一向に進まない感覚とそのもどかしさに苛立ちを覚える。
悪い夢なら覚めてください…
そう思いながらより一層体を動かし続けた。
すると少しづつ…少しづつではあるが光に近づいていく。
自分が近づいているのか、光が迫ってくるのか…
水の音も次第に大きくなる。
次第に大きくなる水の音を聴きそれが滴り落ちる雫や川のせせらぎの音ではないことが分かった。
まるで氾濫した川。時化の海。
しかし躊躇したのは一瞬だった。
躊躇した思考を頭で認識するよりも先に体が動いた。本能のように。
そして、この世界の僕は、"死んだのだ"