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連載小説「王様の履歴書」  作者: 大春冬彦
7/8

第七話 芸披露 

 翌朝、余が母と妃とともに朝食を取っていると、大臣のルクサが慌ただしく部屋に入って来た。手には新聞が握られている。

 「またか!」

 「はい。陛下。記事が出ております!」

 「何だとーーーーーーッ!!!!!今度はどこの新聞だ‼」

 「はい、シュタット経済新聞でございます‼」

 「またそこかーーーー‼何でまた出してるんだーーーっ‼発禁処分にしたはずなのに‼」

 「ところが命令を無視してまた朝刊を出しているのでございます!そして「おいらの履歴書」も‼」

 「おのれーーーーっ‼グドリタス‼」

 余はルクサの手から新聞をひったくると、読み出した。



 【現状を(かんが)みるに】

 【朕は今逃走中である。息子のハウプラルド三世がしつこく追って来るからだ。朕のこの自叙伝が気に入らないらしいのだ。だから追ってくる。

 まあ院王ってのも大変だよ。引退したはいいが、そんな自由ではないからなァ。

 朕はどっかで気楽に第二の人生を歩みたいんだが、王族という責任ある身の上だし、なかなかそういうわけにはいかん。しかしこのジクトヘツァ領のぶどうはうまい。

 だが、最後まで食べる時間はないだろう。息子の魔手がすぐそこまで迫っているからだ。そろそろここを立ち退かねばならない。めんどくさい。

 息子との鬼ごっこは今後も続く。なぜ息子は追いかけてくるのか。それは「王」だからだ。なんちって。いやいや、「追う」から逃げたくなるのだ。あいつはしゃれが分かってねえ。 

 今日は野宿かなぁ。まあ仕方ないか。

 王宮はテーマパークにしたらいい。あんな格式ばったもんは必要あんめえ。

 王が王である由縁はあんなものではない。それは何物にも左右されないはっきりしたものなのだ。だから王の権威なんて必要ない。朕は嫌じゃ。

 実際王の仕事はそんな楽しいもんじゃねえ。責任はあるし、慣習に従わなきゃいけないし、それでいて仕事は中身がないこともある。

 もうちょっと王の仕事も気楽にやりたいもんだ。どうでもいい仕事もあるからそんなのはなくしてもいいんじゃないかな。やらなくても誰も困らない】

                               

 余はここまで読んで思った。あれ?今日はリアルタイムの内容だな、短いし、割と大人しめだな、と。いやいやいや‼それではダメだダメだダメだ!父の意見に寛容になってはいかん!まったく、王族の仕事を何だと思っているのか!権威をそこなうことはなはだしいわ!そう、こんな感じで否定しなくては!

 そこへ宮廷大臣のメロオスが入って来て「陛下!グドリタス様の場所がわかりましたぞ」

 「何だとーーーーっ!!!どこじゃ、申せ!」

 「大衆(たいしゅう)演芸(えんげい)文化(ぶんか)ホールでございます!」

 「あそこかーーーっ‼」

 余は席を立つと、愛馬「神聖なる権力と永遠の勝利号」にまたがり、供の者も連れず大衆演芸文化ホールへ向かった。



 三十分後、大衆演芸文化ホールの四角い建物の前に愛馬を止めた余は、馬を飛び降り、青い観音開きの扉を両手で押して中へ入った。

 大理石の広間には誰もいない。シーンとしていた。

 余はそこを通過し、奥にある部屋へ続く扉を開けた。

 部屋の中は真っ暗だった。ここのどこかに父が隠れているかもしれない。奥に高くなった舞台が影のように浮かんで見える。余は闇の中、客席の間にある通路を進んで行った。だんだん目が慣れてくる…。

 そう言えば魔人はこう言っていたっけ――「建物の中だ。大勢の人がいることもあるが、いないこともある。そこは暗くて、高い場所があるのが見える。明かりが灯る場所だ…もしそこで会ったら陛下は思いのたけをグドリに言うがいいぜ」

 ここだ。間違いない。そして父はあの舞台のどこかに身を潜めているのだ。

 余は舞台の脇に小さい階段があるのを見つけ、そこを上がった。

 舞台の真ん中の客席寄りのところに何か白いものがうずくまっているのが見えた。おそらく父だ。やはりここに隠れていたのだ。

 余はそこへ近づいて行った。

 「父上‼」

 「…ん?誰じゃ。この真夜中に」

 「もう夜中ではありません‼朝です‼」

 「何と。そんなに眠ってしまったか」

 ピンクの言う通りだった。

 父はもぞもぞと動き始め、起き上がった。余と父は暗闇の中、並び立った。

 たしか、ピンクはこうも言っていた――前を向いて、はきはきと言え、とか。よし。

 「父上‼何ですか、今日の新聞のあれは!おかしいでしょ!」

 「そうかー?どのへんが?」

 「まず、王族としてやる気が感じられません」

 「やる気なくても王族やってる人なんかいっぱいいるじゃーん。世界に」

 父の言い方にイラっときたので、冷静に返すことにした。

 「だから何ですか。じゃあ世界中の王族はやる気を出してください、あなたも含めて」

 「やる気なんてもらってないよ。なんでヴィシュタイン朝が始まったときに、創神アラヌスは朕にやる気をくれなかったんだよ」

 余はわざとバカにしたような声色で答えた。

 「そのときは父上が生まれてないからです」

 「生まれたらくれよー。やる気ねーと王様つとまんねーよ」

 「父上、その口調おやめください。庶民にバカにされます」

 「庶民?しねーよー。だって、あいつらだって普段こんなしゃべりだべ?そうだ、これからは、こういうしゃべり方が高貴なしゃべり方だと変えればいいんじゃね?」

 「高貴な気がいたしませぬ。じゃあ庶民はどういうしゃべり方をすればいいんでしょうか」

 「んー…「ですわ」とか?」

 「逆でしょ!!」

 「そうか。とにかく朕はこの口調でいいべ」

 「威厳がありません!王と庶民は違います。王とは徳と品と威厳で国を治めなくてはなりません」

 「庶民だって税を納めなきゃならないじゃん」

 「それは「おさめる」の発音が同じだけで意味が違います!」

 どこかでくすくすと笑うような声が聞こえた気がした。だが、気のせいだろう。

 「国名だってさー、何がヴィリヒドヴァ・シュタット王国だよー。ヴィとかヴァとか言いにくいんだよ!簡単にしろよ」

 「今更何言ってるんですか!」

 「あとこのヴィリヒドヴァ・シュタットさ、カラオケ代高い」

 「知らねーよ!」

 「あ、お前今高貴な言葉使ったな?「知らねーよ!」って」

 「使ってません」

 「使ったじゃん」

 「使ってませぬうぅぅぅ~っ‼」

 「使ったよ」

 「言い掛かりはやめてください父上!」

 「はぁ…お前も王になってからというもの、よく嘘をつくようになってしまったな」

 「嘘ぐらい王者たるもの、堂々とつけぬようでは国は治められません。庶民だってついていますからな!嘘は必要です」

 「果たしてそうかな」

 「何ですと?」

 「では、息子よ。教えてやろう…ここ、レストランな?朕は店員やるから、お前客な。いらっしゃいませー」

 「は。いきなり何を言っているんですか」

 「いいから」

 「じゃ、じゃあ、どうも?これでいいですかな」

 「ご注文は何にしますか」

 「パスタ」

 「はい、かしこまりました。今からパスタ作りますね!じゅ~じゅ~。はい、できましたよ!ご飯の上にハンバーグがのってるやつ!どん!」

 「ご飯の上にのってるやつって雑だな!ロコモコのことか?あんた自分のメニュー把握してないの?しかも注文と違うじゃん」

 「だって嘘だもん。パスタはありません」

 「むかつくな!」

 「だろ?」

 「いや、だろ?っておかしいでしょ!まず、レストランとして。じゃあいいよロコモコ食べるから」

 「はい、どうぞ」 

 「ぱくぱく。あ~ロコモコうまいな~」

 くっ…なぜ余がこんなことをせねばならんのじゃ……。

 「嘘だよ。それハンバーグ丼だよ!」

 「嘘なのかよ!」

 クスクスと客席の方で笑い声が聞こえた気がした。

 「な。嘘はよくないだろ。じゃあ、今度は正直者のケースな。いらっしゃいませ~。ご注文は?」 

 「パスタ」

 「ありません!」  

 「シチュー」  

 「ありません!」

 「パン」

 「ありません!」

 「何でないの?」

 「な?正直な奴って気持ちいいだろ?」

 「気持ちよくないわ!何ならあるわけ?」

 「ウイスキーなら」

 「それバーじゃん!!」

 「な?はっきりしてる奴って、不思議と気持ちいいだろ?ウイスキー飲めよ」

 「やだよ!」

 「朕の酒が飲めないってのか。このヤロー」

 「酔っ払いかよ!じゃあ、いいよ、ウイスキーは何があるのよ?」

 今度は笑い声がはっきり聞こえた。だが、余は何だか妙にうれしかった。今は父との会話に集中しよう-ーそう思った。

 「罪と罰がございます」

 「何かまずそうな名前のウイスキーだな」

 「はい、ロシア作品です」 

 「何だよそれ…あ。それはドストエフスキーだろうが。まあいいや、酒しかないのか?」

 「実は…正直に言いますと、つまみがあります」

 「え!あったの?じゃあをそれもらうぞ。ピーナツか?」

 「実は…あの、正直に言いますと、ほんとはパスタもあるんです」 

 「むかつくな!」

 「実は作るのがめんどうで言い出せませんでした。な?怒る気しないだろ?」

 「むかつくよ!じゃあ、いいよ。パスタ注文するわ」

 「はっきり言ってまずいですよ?」

 「いいんだよ!そんなこと言わなくて!」

 「私は正直者です。真実を伝えなくては」

 「使命感にかられることか?」

 「真実はいつも一つ!」

 そう言って父は長ズボンを脱ぎだした。すると青っぽい色の短パンが現れた。そしてポケットから蝶ネクタイと眼鏡を取り出し、眼鏡を掛けた。その後、なぜか蝶ネクタイに向かって話し出した。何かの真似をしているようだったが、声はそのままだった。

 「あんた何半ズボンになってるんだよ!」

 「ようやくわかったんですよ、犯人がね」

 「何の話だよ!」

 「事件の犯人ですよ、けど私の出る幕はなかったんですよ」

 「事件?いつ?」

 「この前です。犯人は複雑なトリック使ってましてねー、密室から煙のように姿を消して、しかもちゃんとアリバイを用意していたんですよ。で、その犯人は三つ子だったんですよ」

 「何かすごいな。で、その三人は捕まったのか?」

 「はい」 

 「そうか…」

 「実に気持ちのいい青年達なんですよ~。私がね、君達は三人とも犯人か?って聞いたら、すぐ名乗り出てくれたんですよぉ~。私は感動しました。いやぁ~!はきはきしてて、やはり正直は気持ちいいも――」

 「――そんなわけないでしょ!」

 「え…」

 「そんなわけないでしょ!そこまで計画しておいてすぐ白状するか!」

 「え…」

 「あんた、レストラン経営してたんじゃないのかよ!向いてないよ!」

 「んじゃ、やめさせてもらうわ……どうもありがとうございました~」

 父は前へ頭を下げた。

 すると客席の方で「わはははは!」という声が聞こえ、パラパラと拍手が起こっていった。そのうち、それは会場中を覆うような音響になった。突然部屋の明かりがついた。

 「や!?」

 客席の真ん中に五十人ほどの人達が座り、こちらを見ていた。

 「こ、これは?彼らは?」

 「フフフ。息子よ。奴らは庶民よ。新聞記者、ホテル業者、八百屋、肉屋、百姓などだ」

 「なっ⁉」

 「朕がここに呼んだのよ。そしてお前を待ち伏せしておったのさ」

 「な、なぜ…」

 すると、席にいた記者の一人がこちらに叫んだ。それはシュタット経済新聞のあのヴォートという男だった。

 「陛下。お見事なツッコミ芸でしたよー」

その後、別の者も口々に言う。

 「そうそう!」

 「間合いもよかったです」

 「言葉がポンポン出て来てた」

 「え!?余が見事なツッコミ?」

 父がニヤリとした。

 「フフフ。お前にはツッコミの才能がある。だからここでみんなに見せておきたかったのだ。お前ももうちょっと庶民と関わらなくてはいかんぞ」

 「し、しかし…庶民と関わるなどと…仕事が忙しくて…」

 と余は不覚にも照れながら答えた。

 「庶民と関わらないと、庶民が何を考えているかわからんだろうが。お前の理想の王のあり方はすでに古いもので、庶民の理想とは、ちとズレとるんだ」

 「え!?そんなことがわかりますか」

 「息子よ。周りの、この反応を見てみろよぉ。お前は十分に仕事は真面目にやっている。あとは寛容さだろぉ。庶民も楽しく、面白い人間が好きなのだ。徳というのは何も威厳があることではあるまい。面白さは人の心をほぐす力がある。距離を縮めるのだ。それがこれからの王としての姿勢ではないのかァ。あん?威厳とかプライド、王の権威などよりはるかに大事ぞ」

 「面白いなどと…政治とは関係ありませぬ。それにそんな姿勢を見せたら批判されます」

 「たしかに政治とは直接はない。そう、人と人の間の潤滑油のようなものじゃ。それに批判はとくにあるまい。今の庶民は楽しさを求めておるのだから。この国は争いも少なく、豊かで民度も高い。そのようなことでいちいち目くじらなど立てる者は少数じゃ。これからはもうちとお前は肩の力をぬいて、政治をやってくれよ」

 「そうか。では、では……父上は余にこれを教えるために新聞にあのようなことを書いていたのですか」

 「まあそういうことだね」

 「しかし…そんなことを言われましてもね。ヴィシュタイン朝二百五十七年の歴史が許さないのでは?」

 「何言ってんだよ、そんなもん。たかだか二百五十七年じゃねえか。それに歴史が許さなくても関係ねえ。人が許してんだからいいだろ」

 「いやいや…しかし、王位とはそういうものではありません。神に与えられたものですぞ」

 「神はわりとざっくりした性格かもしんねーぞ。そんなもん気にしねえって!気にしてたら朕の前に現れて注意するべや。それがないってことはどうでもいいんだよ。それより庶民がどう思うかだ。お前、朕をさがしている旅の最中「おいらの履歴書」を読んだ庶民の反応を耳にしたことはなかったか。あれ、けっこう評判いいんだぞ」

 「ああ…たしかに…」――そう言えばそうだった。町を馬で走っていると、たまに記事が面白いという評判を聞いた。そうか、父は余を外に出させて巷の庶民の会話を聞かせたかったのか……。

 「だろ?面白いもん。庶民達は今の王は威厳がないと、バカにしていなかったろ?」

 「ええ。そうですが…」

 たしかに王の権威のことなんて言っていなかった。そう言えば、妃も母も叔父もそれにこだわる朕を少し諫めていた…もっと寛容に、と。ああ……もしかして余の方が間違っていたのやもしれぬ。

 「な?もっとリラックスして行こうぜ」

 「……寛容ということですか」

 「そう、その方が今よりずっとうまく行くって。民もそれを望んでおるわい」

 そうかもしれない………民は王の権威など気にしないのだろう。

 「ここにいる庶民の反応を聞いてみろよ」

 すると、客席の右端にいる赤と黒の毛織物の服を着た男がこちらに向かって叫んだ。

 「陛下は立派にお仕事をされていまさあ!おかげでこの国は潤っていまさあ!でも、陛下のお顔を拝見する機会があまりごぜえません!どーかもっとー、市井(しせい)に来ていただきてえ」

 その男の隣りに座る、白の頬かむりをした女が言った。

 「陛下に私共のことをもっとよく知っていただきたいのです。私は陛下は厳しくて怖い人だとばかり思っていました!でもまさか、こんなに面白い方だとは知りませんでしたよ!」

 すると、余が顔もよく知らぬ庶民たちは口々に言った。

 「陛下とたくさんお話してみたいです!」

 「何か今度一緒にお茶でもしましょうや、陛下!」

 「もう怖くて真面目な顔はやめてくれよ!ほんとは暖かい人なんでしょ!」

 「優しくて面白い陛下が一番素敵です!」

 「陛下ー。広いお心でお慈悲をお願いします。わしら、楽しいことが好きなんです」

 「今度パブに来てくれよ。一杯おごるから!」

 要点のぼやけた素朴な意見ばかりだったが、何だかそれがかえって心に響いた。父の言葉以上に。

 おもむろに父が口を開いた。

 「どうだな、息子よ。これが庶民の感想のようだが?」

 「なるほど…それは分かりました。これからは余も寛容さをもって治めるようにいたします。しかしですね、父上。それはそれでですな、あなたのやっていることは――」

 「――はいはい。そんなことは分かっているわ。ふむ。では、シュタット経済新聞の発禁処分の取り消し、それとホテルの営業停止処分を解いてくれぬか」

 「…では、そういたしましょう。それはそれでですね――」

 余が父に説教しようとすると、客席から口々に声が上がった。

 「楽しい王様よろしく!」

 「陛下ー!よかったですよー!」

 「王様万歳!(おも)(しろ)王万歳!」

 「優しい王様万歳!」

 「面白王万歳!!」

 意外だった。そして不覚だった。余は庶民に喝采されて説教より先にデレデレしてしまったのだ。それにしても民はこんな簡単なことで喜ぶものなのか。そしてこんな簡単なことが余にはなかなかできずにいたことに。

 父が余を見つめて言った。

 「お前が死んだ後の送り名を考えといてやった。お前は「三遊(さんゆう)(てい)」に決まったぞ。「三」は名前は「ハウプラルド三世」だから。「遊」は「遊ぶ」な」

 「何ですか、それ!まだ早いでしょ。勝手に決めないでください」

 「これからは三遊帝ハウプラルドと名乗れ」

 「はあっ⁉」

 その後、客席にいたある記者から「落語家になりませんか。応援する記事を書きますから」という申し出を受けたが、断った。


 その夜、仕事が終わったあと、余は王宮の宝物庫で魔人のピンクとしゃべっていた。

 ピンクはビンに閉じ込められても、父と喧嘩してもいなかったのだ。あれはすべて余をあざむくための芝居だったそうだ。

 「だいたいグドリが魔法なんか使えるわけねえべ。オレはビンの中へ自由に出入りできるんだよー」

 とピンクは言った。

 父は余に寛容に治めることを教えるため、あらかじめ準備していたのだ。以前、記者が奥の院を訪れて父の昔話を聞いて帰ったらしい。それが「おいらの履歴書」に掲載されていたのだ。その後、父は大臣ルクサに新聞を毎朝余に渡すように命じ、朝食の席で余が言ったことを逐一(ちくいち)報告するように言い、大臣メロオスをシュタット経済新聞社に派遣して「昨日のツッコミ」を掲載するように手配したらしい。

 また、余から逃げるために、最初の記事が出る二か月前から、隣国のパトラッシュ王国へ入国することは先方の王へ手配済みであったし、ジクトヘツァ領へ行くことも叔父へ通達済みだったそうである。

 「しかし、お前にはだまされたぞ、魔人ピンクよ」

 「いっひっひっ。陛下。実を言うと、オレは魔人じゃねえんだ。魔人というのは嘘なんですよ」

 「え?では何なのだ」

 ピンクは少し考えるように宙を見てからサクッと言った。

 「ま、神だ」

 「嘘をつけ。どう見ても魔人って感じではないか」

 「ほんとに。ドザイル地方の創神だ」

 「え…何と。では、なんじが伝説の創神アラヌス?」

 当たり前のようにピンクが答える。

 「そうだけど?」

 「マジ?」

 「うん。昔からこの辺住んでるんで。オレ」

 「このドザイルの地が誕生した当初からいたというあの伝説の神アラヌス様とは…!」

 「昔のことはもう覚えてないけどな。ま、呼ぶときは「ピンク」とか「魔人」でいいよ。その方がオレも気楽だしー」 

 余は開いた口がふさがらなかった。

 神はこんなにもざっくりした性格だったのだ。



              

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