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連載小説「王様の履歴書」  作者: 大春冬彦
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第六話 黙して語らず

その後、余は気が気ではなかった。

 二日連続で、ただ黙って外国紙の記事を読むしかなかった。

 王座の間で仕事をしていた時に、内務大臣マルサスから「陛下。いきなりのホテルの営業停止処分は性急ではありませぬか」と不満が出たが、無視した。奴は何もわかってないからだ。

 早馬で使者が戻り、パトラッシュの王からの回答で「パトラッシュ栄光新聞社に言って、記事を出さないように注意しておいた」との返事が来た。余は深く安堵した。

 だが恐ろしいことに、父がパトラッシュ国を出て、また別の場所へ移動したらしいのである。いったいどこへ行ったのか…消息は不明だった。

 そして、その二日分の記事というのが以下のものだった。

 


 【外交の思い出①】

 【朕がさ、何つーの? げんしゅくな? ふんいきの中、王やってたとき?家来たちが言うの。

 「へいかへいかへいか」

 朕が「何だ」って聞くと、

 列のまんなかの奴が

 「外国から使節が来てます」て言うから

 「じゃ会おう」って言ったんだな。

 んで、金ぴかの使節がずらずら行列つくってやって来た。何か忘れたけど、脇の奴が言うには、遠くの国から来たんだってさ。

 はるばる来られて、なんかこっちも悪いから朕も「くつろげや」って言っといた。

 そしたら使節の先頭の奴が朕の言ったことを軽くスル―しやがって

 「へいかに献上したいものがございまする」とか何とか言ったみたいなんだな。ま、これはそばにいた通訳が言ったことなんだけども。

 んで、朕が「それは何じゃ」っておごそかに訊いたら

 「動物の白いきばでございます」って言ってたみてーでさ。そのあと通訳に何の動物か質問しろって言ったら、質問をした後、向こうの返事を聞いた通訳が「聞いたことがありません。現地の動物です」って言ってきた。

 「どんな動物じゃ」って朕が訊いたら

 使節は説明を始めたけど、ざっくりとしかわからなかった。

 そいつの話だと、何か、とにかく「でかくて、強くて、くさくて、硬い」らしい。

 その動物見せたいけど、連れて来れないからきばだけ持って来ましたって言ってた。

 実際、どうでもよかったんだけど、それ聞いたら朕も興味が出て来て

 「今度つれて来い」って言ったわけ。

 そうしたら「はい」とか言ってたけど、たぶん嘘つかれたな。その後、あいつらその動物連れて来ねーもん。テキトーだよ、王の前だからさ、見栄はって言うんだろうな、ああいうのって。

 んで、「きば見せて」って言ったら、茶色い布でくるまれたでかいの見せてきた。泥が付いた白いやつ。よく掃除しとけよー。

「泥?」って言ったら

「この泥は生まれつきのものです」とか言って、嘘つけ~~~~って思ったけど、はっきり言うのも何だか悪いんで「そうか」とだけ言っといた。

「倉庫に入れておけ」って家来に命じて ほかんさせたけど…

あれ、今どこ行っちゃったかな。

 んで、献上が終わったら先頭の奴が何かしゃべりだして、今後の二国のはってんのために我が国に金くれ とか先頭の奴が言うから「何に使うんだ?」って聞いたら「二国のはってんのためにホテルつくります。王様来たときそこに泊まれます」とかいまいち容量のえない答えしてたわ。だいたいホテル建ててどうすんだよ、うちに何のメリットがあるんだ。変じゃね!?

 「つーか、まずお前の国に行かねーと思う」って正直に言ったら

 「来てください」と言うから

 「今度な」って言ったら

 「いつですか」って食い下がるから

 「金曜」って言ったら

 「いつの金曜ですか」って、うるさいから、これは話が長くなると思って

めんどくせーから「こいつが行くって」ってそばの大臣の背中をどんと押しといた。

 使節の先頭の奴も後ろの連中もみんな喜んでたよ。その大臣以外は。

 んで、まあ帰ってった。大臣連れてね

 そしたらその大臣、戻ってこなくなっちゃったんだよね。今向こうでどうしてるのかな、あいつ。元気かな。ま別にいいけどさ。だいたい金、家来なんていっぱいあるしー。 

 けど、あとであの国に朕の家来を出して、見に行かせたら、ホテル建ててないらしいんだよね。じゃあ朕のやった金はどうなったのかなと思うね。使節の先頭の奴のうちに案内されたけどやたら豪華だったらしい。家来は最初はホテルかと思ったって言ってたよ。あの先頭の奴、そこに金使ったんじゃねえの?ふーん、お国柄だなって思ったね。たぶんみんな盗っ人だよ、あの国】

 余はここまで読んでこう思った。

 父上……ツッコミ放題だよ‼外交問題に発展するよ!やめてくれよ!たしかに使節寄こしたこの国もカスだけど、あんたの品格も問われるわ!赤裸々(せきらら)に書きすぎ!応対てきとーすぎだ!そして、この盗っ人の国がどこの国か特定できちゃうだろ!やばいだろ。文体が王らしくない。あんたギャルか!



【外交の思い出②】

 【で、そのあとのことなんだけど、次に来た使節ってのが何かおごそかに怒ってるんだよな。

 「何怒ってるんだ」ってきくと

 使節が「わたくしどもの国境でふんそーが起きてます、へいか」ってしんこくな顔して言うわけ。

 朕が隣りの大臣に「やばくね?」ってきくと、そんなでもないって言うんだな、これが。よくあるらしい。今年に入って二十九回目だって。原因は何だって聞いたら使節の奴が「知らないなんてあなたは本当に王ですか」と言うんだよ。

 「当たり前だろ」って堂々と言ったら「考えられない」とか言って、驚いた顔してたよ。んで説明始めた。何か難しいことを、ごちゃごちゃ言ってたけど、要は 俺達の土地に踏み込んで来たお前らが悪いみたいな感じだったよ。

 だから「じゃあ明日からお前らの物だ。やる」って言ったら喜んでた。それでそのあとまた5年ぐらいして同じ顔触れが丸ごと来たんだよ。

 「わたくしどもの国境でふんそーが起きています、へいか」ってしんこくな顔して言うんだよ。

 またかって思って、原因は何だって聞いたら「知らないなんてあなたは本当に王ですか」って驚いてるんだよ。

 前置きはいいから早く言えよって言ったら、説明始めて、要は 俺達の土地に踏み込んで来たお前らが悪い みたいな感じだったよ。やばくね?

 だから「前と言ってること同じだろ」って言ったら、「違います」とか言うのさ。そうじゃなくて似たようなもんだろって言ったら、黙ってた。

 あいつら、やばくね?結局同じだもん。

 実際変わんねーよ、どんどん侵食してくるからさ、終わらねーんだよ。五年前にやった土地もへいかがくれる前は 我々のモノでした とか言いだす始末だしさ。

 「だいたいお前らのもんでも俺達のもんでもねえべ、地球のもんだべ。呼んで来いよ」って言ったら、何がおかしいのか笑ってたよ。どこまで意地きたねえのかね、ああいうのは。何でもあの国の民全体があの土地は我々のモノだと思ってるらしいんだよな。全員だぞ、マジあり得なくね?

 いったい全体、どうやって思わせるのかねぇ。こっちも不思議に思ったから「どうやるんだ。催眠にでもかけるのか」って聞いたら、すごくバカにした感じで「違います。教育です」って言うわけ。

 「嘘じゃねえの?」って言ったら「ちがいます。世界中みんな知っています」だってさ。

 それからだよ、そこと戦争になってさ、前に使節で来たそいつらが今度は捕虜になって来たわけ。世界中知ってますとか言ってたけど、どこも味方してなかったな。どうでもいいんだろうな、世界なんてほんとは国のことに関心ないんだよ

 「うちの国に住め」って言ってやったら喜んでいたよ。国民にもしてやった。

 んで、十年後、久しぶりに会ったらすっかり我が国になじんでてさ、けど「あの土地は、私の元いた故郷の国のものです。へいか、返してください」だってさ。しつこいと思ったね。まあ、向こうの王もいまだにしつこく言ってくるんだけどさ。教育の成果だよな。孫の世代とかどうなるんだろうな。やばくねェ?しかもこっちはあの土地にそんな執着してないしさ】

 ここまで読んで余は思った――素直すぎてやばいわ。口調も完全に庶民だわ。威厳もくそもないですわ、王の品格が問われますわ、また開戦になるかもな…。

 だが、これで終わりだ。もうこれで記事が出ることはないのだ。



翌日、余が母と妃とともに優雅に朝食をとっていると、大臣のルクサが慌てて入って来た。

 「陛下、記事が出ました」

 「何だとーーーーーーーーーーっ‼今度はどこでだ‼」

 「それがジクトヘツァ公の領地の新聞です。公爵万歳(ばんざい)新聞という名の地方紙です!」

読み終わるとめらめらと炎が燃え上がるのを感じた。しかも記事の(はし)の方に地元のお笑い評論家なる者が父の自叙伝について高評価をしていた。そして院王と王の漫才が見たいなどと書いていた。

 「おのれ~‼」

 余は席を立つと、愛馬「神聖なる権力と永遠の勝利号」にまたがり、供の者も連れずに王宮を飛び出した。目指すは北のジクトヘツァ自治領である。

 叔父の治めるジクトヘツァ領はここから割と近い。馬で飛ばせば三時間の距離であった。

 ジクトヘツァ公の館の前に着くと、余は馬を止め、衛兵に余が来たことを叔父に告げさせた。

 余は館の中へ通された。目をショボつかせた叔父が出て来た。

 「おお、どうしましたか、陛下」

 「叔父上‼こちらの公爵万歳新聞のことで来たのです!即刻、あの新聞に掲載している父上の自叙伝の記事を載せないようにしてください‼あれは恥の塊です!」

 「わ、わかった…ではさっそく新聞社に使者を送り、そう伝えよう」

 「ところで父上はやって来ませんでしたかな‼」

 「ああ、来たよ。けど昨日出て行った」

 「おおおおおおおおっ‼」――惜しい、惜しい‼実に!!!

 「ところで、陛下。お仕事熱心なのもいいですが、もう少し民との触れ合いも大事にしてはいかがですかな。民の考えを知ることも王の務め。今日はせっかくこのような場所まで来られたのですから、ぜひともこの領内の――」

 「――分かりましたー‼では戻ります!」

 余はそう言うが早いか、外へ飛び出した。

 「あ、陛下。まあお茶でも飲んで……あ…行ってしまった…」



 余が王宮に帰ったときには、午後三時を過ぎていた。

 余はすぐに宝物庫へ行った。そこにいる魔人と話すためだ。

 「あ、陛下じゃん。どうしたの!」

 魔人は宝物庫の中に座って雑誌を読んでいた。

 「魔人よ。前にお主が言った通りの場所に父がいたようだ。だが、その父がまた行方不明なのだ。今の居場所を教えてほしい」

 「えー、またかよ。わかった…待ってな」

 魔人は何かに集中するように目を閉じた。何かつぶやいている。呪文だろうか。

 「いた…見える…」

 「どこぞ」

 「この国だ。都ハールングだ。すでに戻っているようだ……」

 「何と」

 「四角い白い建物の中だ。その建物は……大勢の人がいることもあるが、いないこともある……そこは暗くて、高い場所があるのが見える。明かりが灯る場所だ…」

 「おお。そうか。そんなところにいるのか。どこだろうな…その場所に行ったら、余はどうすればいいのだ」

 「えーと。もしそこで会ったら陛下は思いのたけをグドリに言うがいいぜ。声はなるべく、はきはきと。その高い場所で話すときは前を向け。グドリも前を向いて話すのがいい…」

 「わかった!任せておけ!」

 余は宝物庫を出ると、王座の間で家来たちを集め、魔人の言った建物の特徴を伝え、さがすように命じた。

 

        


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