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連載小説「王様の履歴書」  作者: 大春冬彦
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第五話 出生の秘密

 余は翌々日の朝、妃と母上とともに優雅な朝食の時間を過ごしていた。父がいないのが何だか不気味だったが、すでに新聞社はおさえたので、昨日の朝も記事は出ていなかった。というか発禁処分にしたので新聞自体が出ていなかった。だから落ち着いていた。

 そこへ大臣のルクサが慌ただしく入って来た。余はそうとうな胸騒ぎを覚えた。

 「陛下!大変です。記事が出ています!」

 ルクサの手には新聞紙が握られていた。

 「何だとーーーーーーーーっ‼どうしてだ。シュタット経済新聞はおさえたはず」

 「はい。それが外国の、パトラッシュ王国の新聞なのであります!そこにグドリタス様の自伝が出ているのです!」

 「ふざけてるのかーーーー‼なぜパトラッシュの新聞に‼」

 「わかりませぬ。しかし確かです」

 「あ…そうか。そういうことか…魔人の申した通りだ…父上だ!父上がそこに逃げたのだ。だから新聞に掲載されたのだ!」

 「ここでございます!」

 余はルクサからパトラッシュ栄光新聞を受け取ると、読み始めた。

 【まえがき――ヴィリヒドヴァ・シュタット王国のシュタット経済新聞で連載している院王の自叙伝の続きをここに記す。】とある。おそらく父がこの新聞を買収するか何かして掲載させたのだろう。もともとパトラッシュ王国と我が国は大ドザイル王国の一部だったので使う言語は同じである。政治的な理由で、いちようパトラッシュ語、シュタット語というように区分されているが、実際は方言程度の違いしかない。

 余は記事の続きを読んでいった。


 【魔人とカラオケ行って、ナンパ行った時のこと】

【ピンクとカラオケ行く約束してたから、朕さー、宝物庫行った。

 ピンクは宝物庫でこたつに入って、みかん食ってた。

 「ういーーーーーーす」

 「おおっ。ピンク!」

 「グドリちゃ~ん、来るのおせーよー。よし、じゃさっそく飯食いに行こうぜ~。どっか、うまい店紹介してくれよ」

 「そうだな。じゃ、駅前の回転寿司に連れてってやるよ。おごる」

 「おーし!何かテンション上がって来たー」

 朕とピンクはそこで寿司食った。ピンクは高い皿ばかり注文しやがった。トロとかタイとか。まあ貴族と庶民から徴収した税金で払うから別にいいんだけどさー。

 んで、そのあとカラオケに行ったよ。とりあえず朕が電話で生二つ頼んで、そのあと、機械に「北酒場」を入れといてやった。もちろん会計は貴族どもと庶民どもから徴収した税金から出すから平気だった。

 ピンクさあ、かなりはしゃいでたよ。途中から酒入ったからTシャツ脱いでもうノリノリ。体が緑になってたよ。魔人は酔うと緑になるらしいんだな。

 二人で八十曲ばかり歌ってたら少し疲れて来たんで、ちょっと休むことにした。

 「グドリちゃんはまだ歌える曲ある?」

 「いやーそろそろねえなー。何、ピンクまだ歌えるの?」

 ピンクはニヤリとして言った。

 「アニメの歌とかよくね?」

 「いいな。行っちゃえよ」

 「オレ「キューティー・ハニー」歌っちゃおうかな」

 「ああ、あの「ハニー・フラッシュ‼」って叫ぶやつだろ。いいねー」

 んで、そのあと奴はアニメの曲を立ちながら十曲歌ってた。朕は黙って聞いていた。

 「ふう~、歌ったぜ~。五百年ぶりのカラオケさいこー!」

 「朕「賛美歌」歌うからマイク貸してよ」

 「ああ。いいぜ。ん?ちょっと待てよ。賛美歌だと!?」

 見ると顔が少し硬直している。

 「どうした?」

 「やめてくれよ。神の歌じゃん、それ。そういうのダメだって。(たた)えるのやめてくれよ。むかつくから」

 「ええ~!?だって魔人だろ。悪魔と違うんだろ」

 「魔人だって魔物なんだよ。そりゃ昔は人間だったよ。けどさ、今は魔族なんだよ。平気な訳ねーべ」

 言われてみればそうである。

 「不便だな~。人に戻れねーのかよ」

 「いや~戻れっかなぁ~?今さら無理じゃね?」

 「神に祈ってみろよ」

 「ダメだよ‼つーか、なぜそうなる!オレァ魔族なんだぜ!プライドってもんがあるだろうが。それに嫌われてるからダメだろ?オレァ根っからの魔人だぜ」

 「やってみろよ」

 「やだよ。したくもねえ」

 「ふーむ。じゃ、カラオケ出て他のとこ行こうぜ」

 「そうだな。どこ行く?」

 「飯は食ったし…そうだな、教会行くかァ」

 「おう……って、待てよ!何で教会行くんだよ。ダメだろ」

 「え?」

 「オレァ魔物だぜ。教会なんて無理だよ。体が受けつけねえっつーの!」

 意外だった。朕は首をふりふり訊ねた。

 「マジかーーー。何か不便だな。じゃ、どこならいいんだよ」

 「そうだな。ユニクロ行きたい。新しいTシャツほしい」

 「いいぜ。ところで、魔人って魔法使えるんだよな?」

 「あたりめーじゃん」

 「空飛べるの?」

 「いや。無理だよ、どうやるんだよ」

 「じゃあ、透視は?」

 「できない」

 「壁抜け」

 「無理」

 「何ならできる?」

 「手品」

 「それマジックだろ!朕が言ってるのは魔法だよ」

 「ああ。そういうのか、それなら願いをかなえることならできる」

 「あー。でも願い事は三つだけとか、四つだけとかそういうやつ?」

 「いや。いくらでも」

 「マジかよ」

 「うん。何か言ってみ」

 「じゃあ……えーと、えーと。朕、子供欲しい!」

 「…はい。かなえたぞ」

 「え」

 「かなえた」

 「かなってないじゃん‼」

 「いや。グドリちゃんの未来だよ。もう子供いるから。未来でかなえといた」

 「あ、そうなんだ」

 「他にあるか」

 「じゃあ、えーと……朕、彼女が欲しい」

 「…はい。かなえた」

 「かなってないじゃん‼」

 「いや。お前の未来だよ。もう彼女いるから。未来でかなえといた」

 「マジかよー。今すぐ、ここでわからないのかよ」

 「そこまでは……かなうまで時間差があるもんなの。そういうもんだよ」

 「朕に彼女できるの、どんだけ先の話になるわけ?」

 「十年後にできるようにしといた」

 「そんなにかかるのかよ。待てねーよ。もっと早くセッティングしてくれよ。朕やだー」

 「いや。一番早くて十年だったんだよ。それより早く彼女つくりてえなら、努力しないとダメだよ。行動しろよ。そうすればもっと早くできるよ」

 「どんな?」

 「ナンパとかー?」

 「フツーのやり方じゃん。それ!」

 「仕方ねーべ。魔法って、わりと地味なんだよ。だから自分で努力したほうがいいって。じゃ、この後ユニクロ行かねえで、とりあえずナンパ行ってみるべ。なっ?」

 こうして朕は魔人ピンクと渋谷駅前へ行った。週末の夕方ということもあって、仕事帰りのサラリーマンがたくさんいて、いつもより人が多かった。

 ピンクはキョロキョロしながら

「よし。今は駅員もキャッチもいねえし、たぶん大丈夫だろ」

 と辺りを確認していた。

 朕はここにきて臆病風に吹かれ始めていた。 

 「何か緊張するぅ~」

 「大丈夫だよ。リラックスしていけよ」

 「ダメダメ~。朕、自分から声なんてかけれな~い。恥ずかしいぉ~。だって、王様だよ~、それがナンパしてるなんて沽券(こけん)にかかわるよ~」

 「しょうがねえな。じゃあ…オレがここで誰か指名するからグドリちゃん、オレが指名した女にかならず話しかけてよ。それなら行けるべ?」

 人に言われてやるのならできるような気がした。

 「おっけー…やってみるよ」

 「じゃあ、あの長い服着たコ!」

 魔人ピンクの人差し指の先には黄金のサリーのような衣装を着て、白いイヤリングをした、長い黒髪の女性がサンダルで優雅にシャナリシャナリ歩いていた。

  朕はその女性に近づいて、おそるおそる訊いた。

 「あ、あの~…」

 女性はつぶらな黒い瞳でこちらを見つめた。

 「何でしょうか」

 「結婚してください」

 「いいですわ」

 後ろで「マジかー‼一発目でぇー⁉早過ぎだろー!」と叫ぶピンクの声が聞こえた。

 こうして朕はその女性と結婚した。それが今の王妃マリリーヌドである。

                              (つづく)

 ここまで読んで朕は思った――カラオケで歌いすぎ。父上。あんたよくそんなにたくさん歌謡曲知ってたな。仕事してない印象あたえるからやめてください。それから、あんたらの恋愛結婚のなれそめって、そんなんだったのかよ!駅前ナンパで出会ったんだ。マジかよ!初耳だぞ。っていうか渋谷ってどこ!?そんな場所聞いたことねえぞ!そんな話ここに書くなよ!王族の威厳も何もねえわ!あああ。魔人のせいだ、奴の!

余はプルプル手を震わせて言った。

「は、母上。これは、これはまことですか…」

「何がですか」

「ナンパで父上と結ばれたことでございます」

「そうよ」

「あっさりと……王の威厳が!余の品格が!ああああ!」

「庶民は気にしませんよ、そういうの。むしろ親しみがもてると喜ぶんじゃないかしら」

「あり得ません!それに庶民が気にしなくても、この余が気にします!」

「そんなかたいことを…」

「王族とはかたいものです!」

「誰が決めたのですか。そんなことを」

「古よりのならわしです!王家の常識です!」

「そうなの?」

「そうです‼しかも何で横に「昨日のツッコミ」まで出てるんですか!」

王妃が目を丸くした。

「まあ、本当ですの!では…では…」

「さよう。王宮内に内通者がいるということです!」

「まあ‼」

「妃よ。驚いているようだが、まさか…」

妃は眉をひそめて、

「いやですわ、陛下。わたくしを疑ってらっしゃるのですか」

「そばで余の新聞の感想を聞いていたのはお前だぞ」

すると母が言った。

「それは私もでしょう」

「じゃ、母上ですか」

「ちがいます。知りません」

「ではルクサーーーっ。お前か!」

「まさか。陛下!わたくしではありませぬ」

「ぬぬぬぬ…いや、ぜったいこの三人の中に関わってるのいるぞ!他に考えられないし!」

王妃はなおも食い下がった。

「わたくしではありません」

どうせ正直に言わんだろう。もうどうでもよくなった。

「ルクサよ」

「ははあっ」

「父の足取りを追う。早急に国中のホテルの名簿を調べよ。父の滞在歴があるかどうか調べるのだ。そして急ぎパトラッシュ王国のネロ王へ早犬――じゃない!早馬を送り、父の言ったことを新聞に載せないように頼んでまいれ。」

「わかりました」



夕方、ルクサ大臣が余の部屋に入って来て、結果を報告した。

「グドリタス様はドザイル旅館と一番星ホテルに滞在していたそうでございます。そこから国境を越えて隣国パトラッシュへ入国したものと見られます」

「ご苦労。ドザイル旅館と一番星ホテルは営業停止な。理由はむかつくから。内務大臣マルサスに伝えよ。そして先方にそう伝えよ」

「ははあっ。それからすでにパトラッシュのネロ王へ使者を送りました。二日後の朝刊には間に合うでしょう」

「そうか…いや、待て‼明日と明後日の朝刊には間に合わんのか‼」

「それは無理です!距離がありますので。明後日なら何とか」

「ううう…二回も記事がでてしまうのというのか…」


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