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自白屋娘 箱根路を走る  作者: 蓮時
5/13

その五


  翌日、競羅は天美を呼び出して、一連のことについて話し始めた。

天美は、じっと聞いていた。初めて聞く話らしく、厳しい顔をしながらも。そして、一連の話をし終わると、競羅が声を出した。

「それで、あんたは、どうするつもりだい?」

「どうって、その数弥さん、たてたマラソン作戦のこと」

「ああ、そうだよ。成り行き上、こんなことになったけど、気が進まないのならやめてもいいのだよ。もともと、こっちの個人的な理由なのだから」

「でも、ざく姉に、お世話なってるし、今回の事件、わったしも興味あるから」

 天美はそう答えた。年上に敬語が使えないのと、助詞が言葉足らずなのは、やはり、日系人であるため、日本語をきちんと学んでいないからである。

「そう言ってくれると、ありがたいね。こっちも千里には申し訳ないというか。何かしてやりたいのだよ。それで、あんたは、この事件どう思うのだい?」

「殺されたと思うのだけど」

「何か引っかかることあるのかい」

「そう、もし、毒殺だとしたら、そのお友達の人、ワインに毒、入ってること知らなかったということになるでしょ。そのワイン、どうやって手に入れたかということだけど」

「会長からだろうね」

「それは、おかしいと思う。脅迫してる人間の、もらいもの、飲む人なんている?」

「そうか、それは、ありえないか」

「でしょ。となると次は贈り物、親しい人の名前で送れば飲むよね」

「親しいというと」

「たとえば、ざく姉とか」

「おい、冗談を言うなよ」

「だから、それは、犯人が、ざく姉の存在を知っている場合、あとは両親とか親戚の場合だけど、それも、調べないといけないし」

「では、あんたは真犯人が、知り合いを名乗って送ったと」

「それ以外だと、懸賞に当たったとか、キャンペーンとかいって送りつけるの。でも、まさか、知らない人からの飲み物、疑わずに飲むなんてありえないよね」

天美は笑いながらそう説明をしていたが、競羅の方は顔色を変えて言った。

「それは、ありえるよ、千里だったら」

「えっ! そうなの。だって知らない人が送り元でしょ。いくら、うっかりでも」

「あんたが思っているより、うっかりやさんは日本人に多いと思うよ。犯人も千里がそういう性格ということを知っていたのだと思うよ。こっちは引っかからないけどね」

「となると、やっぱり毒殺かな」

 心なしか天美の目が光った。

「ああ、これで、あんたの疑問がとけたね」

「でも、贈り物っていう可能性、警察、捜査しなかったの」

「しなかったかたから、こういう発表になったのだろうね。だいたい、今、あんたに話したように、最初の応対から、無理心中と決めていたようだったし」

「うーん」

天美は難しい顔をして考えていたが、すぐに、

「それで、そのお友達さんが話してたという過去の三人の選手たちの事故死だけど、そっちの方は、数弥さんどう思ってるの?」

「それは、怪しいと思い始めたから、調べてるのは思うけど」

「だったら、所長さんに頼めば」

 天美はそう声を出した。所長というのは二人の共通の知り合いである、私立探偵社の所長、外村御雪のことである。競羅と同年であった。

「えっ、御雪にかよ」

「そう、数弥さんじゃ限界あると思うの、手っ取り早く、情報得たいなら、やはりここは、御雪さんに頼まないと」

「しかし、御雪かよ」

「所長さんなら、ざく姉やわったしの頼みなら、いつも安くしてくれるでしょう。今回の事件、わったしが思うに、やはり、過去の三件の事故死、調べないと進まないと思う。もし、ざく姉が、いつまでも、そのお友達さんが、無理心中の実行者と思われててもいいなら、そうしなくてもいいけど」

「あんたも、数弥と同様、痛いところをついてくるねえ」

競羅は渋い顔をした。そして、納得したように声を上げた。

「気が進まないけど、御雪のところに行ってみるよ。あんたも、ついてくるのだろうね」


  翌日、電話でアポイントを取った二人は、新宿区羽衣町の雑居ビル内にある御雪の事務所、フェアリーサーチ探偵社を訪問した。何かと天美に、いやがらせをしたり、つらくあたる助手の川南絵里は友人たちとのキャンプ旅行に行っているらしく不在であった。

そこで、競羅は今回の依頼について説明をしていた。ただし、御雪に説明するときは、いつものように、天美の能力、強善疏につながるような部分は、すべて隠していたが、

 話を聞き終わったあと、御雪は口を開いた。

「なるほど、よくわかりました。今回のご訪問の目的は、競羅さんが、お友達の千里さんというお方の濡れ衣を果たしたい、ということですね」

「ああ、そうだよ。だから、加倉井周辺に起きた事件について調査して欲しいのだよ」

「さようで御座いますね。他ならぬ競羅さんのお頼みですので、特別なお値段にさせていただきます。お話によりますと、三件の事故死についてでしたか」

「そうだよ。本当にそんな事故があったのか、千里の妄想なのか、確認をしたいからね」

「承知いたしました。でしたら、経費込みで、一件三万ということでいかがでしょう」

「九万かよ」

「さようでございます。本来なら、日当経費込みで、六十万ぐらいが相場だと存じますが」

「わかったよ。それで手を打つよ」

 競羅が仕方なさそうに答えた。そして、そのあと、

「それで、奴自身の疑惑捜査の方はいくら、かかるのだい」

「さようのことですが、そちらの方は、調査の前に競羅さんが直接、ご自分の目でいかような人物か確認をされた方がよろしいかと」

「そんなことができるわけないだろ」

「さようで御座いますね。では、少し、お待ち願えますか」

 御雪はそう言うと、ノートパソコンのスイッチを入れた。そして、軽く操作を続けると、そのノートの液晶画面を競羅の方に見せた。そこにはある画面が映っていた。

 それを見て声を上げた競羅。

「これは、奴だね」

「さようで御座います。加倉井陸上競技連盟会長の講演ポスターで御座います」

「講演だって」

「さようで御座います。五日後ですか、今週の日曜日の午後二時から、角興ビルのホールで講演会が行われる予定です」

「おいおい、角興ビルって、この近くだよ」

 思わず競羅は声をあげた。そして言った。

「それで、この講演会、誰でも参加できるのかい」

「予約をされれば、どなたでもよろしいかと、ただ、提示されています通り、お一人につき三千円の聴講料がかかります」

「一人三千円か」

「さようで御座います。いかがなさいますか。ご出席でしたら、わたくしの方からアポイントを取らせていただきますけど」

「あんたも出るのかい」

「わたくしは都合が御座いますので、さすがにその日は」

「わかったよ。では、この子と行くから二人分、予約を頼むよ」

「承知いたしました。そちらの関係者に伝えておきます」

「それで、さっきの三人の調査のことだけど、講演会の日までにはできるかい」

「できますけど、また、いかような理由ででしょうか?」

御雪は少し不審な目をして尋ねた。

「理由なんかないよ。奴に会うのなら、その前に調べておいた方がいいだろ」

「確かにさようで御座いますね。わたくしとしましても、調査に日にちをかけることはできませんから、関係者への聞き込み等、迅速にさせていただきます」

 その御雪の言葉を聞きながら、競羅は、

〈どうせ、資料室勤めの警官とかをたらしこんで聞き出すのだろ。元手は、そんなにかからないのに九万も取りやがって〉と思っていたが、

「わかったよ。とにかく早くやっておくれよ。なけなしの大金を払うのだからね」

「承知いたしました。あさってまでに調べておきましょう」

「では、頼んだよ。講演会の方もね」

 競羅はそう言って、御雪の事務所をあとにした。


御雪のビルを出て、まわりを確認した後、競羅は笑い出した。

「ははは、これで、あんたも面倒なことをしなくてもよくなったね。本音をいうと、あんたがカメラの前で能力を使うことになりそうだから、気が進まなかったのだよ」

 競羅の笑みを横に天美は複雑な気持ちであった。それを知ってか知らずか競羅は、

「そういうことで、来週の日曜日、作戦決行だよ。数弥には悪いけど」

「本当は走りたかったけど、こうなったら、仕方ないよね。それより、所長さんのとこ行ってよかったでしょ、安いお金で引き受けてくれたし」

「と言ってもね、十万近くかかったよ」

「さすがに、ただっていうわけにはいかないでしょ」

「まあ、こうなったら、きちんと結果を・・」

 チャンチャンチャララララ

と、そのとき携帯の着信音がした。画面を見ると数弥である。

「あ、あんたか、あれから、事故死した三人のことわかったかい」

「いや、まだすけど」

「それなら、どういう用事でかけてきたのだよ?」

「この間、言っていたでしょ。マラソンに出場をするために、天ちゃんのタイムを計るって、その話がついたんすよ」

「なんだ、そのことかよ。あれは、もう用がなくな・・」

 と、ここまで競羅が言いかけたとき、

「ざく姉、それは!」

天美が声を上げた。その声に反応をした数弥、

「横に天ちゃんがいるんすね!」

「ああ、いるけど、実を言うと。今度の試験、用がなくなったのだよ」

「用がなくなったって、天ちゃんが嫌がってるんすか!」

 数弥のボルテージが上がった。

「そういうわけではないけどね」

「それなら、受けてもらわないと困りますよ。僕も、担当の佐倉さんに無理に頼んで、日をあけてもらったんすから」

「断れないのかい」

「そんなこと、さすがにできませんよ、佐倉さんも乗り気すから。それで、今週の土曜か日曜のどちらかの、天ちゃんに都合のいい日に決まったんすけど」

「と言われてもね」

「とにかく、天ちゃんがいるなら代わってください」

 そして、天美は電話出た。そのあと、二言三言話すと、その通話を終えた。

「どうだったのだい?」

「日曜は、例の仕事できたから、土曜日にした」

「そうかい、まあ、余計なことを話さなかったようだし、それならいいよ。ある程度は数弥の顔を立てないとね。結果的には特ダネがとれなくなるのだから」

「でも、久しぶりにタイム計る機会できた」

天美は、よほどうれしいのか喜んでいた。その横顔を見ながら競羅は言った。

「まさか、あんた、その一万メートルを、目一杯で走るつもりではないだろうね」

「そうするつもりだけど。せっかく計ってもらえるのだし」

「それは、まずいよ。こっちは、とても信じられないけど、数弥の話だと、あんたが、一生懸命、真剣に走ったら、一万メートル、三十分ぐらいなのだろ」

「それって、当たってるかも」

「おいおい」

 そう思わず答えた競羅はくびを軽くふると、

「だからこそ、まずいのだよ。スポーツ記者の前でそんな目立つようなことをしたら大変だよ、毎日毎日、次から次へとマスコミが押しかけてきて何もできなくなるよ」

 競羅の説明を天美は難しい顔をして聞いていたが、すぐに、思い直すように次の言葉を、

「確かにそうね」

「ああ、今回、三十五分、いや三十六分ぐらいで走ったらいいと思うよ。真剣にタイムを計りたくなったときは、つきあってあげるから」

「それで、マラソン大会の方は出してもらえるの。今回、成功したら、ざく姉としては用がないわけになるのでしょ」

「あんたは出たいのかい」

「もちろん出たい。日本のそんな場所を走れるなんて!」

 天美の目は輝いていた。

「わかった。そっちは任務が成功しても出場させてあげるよ。何にしてもね、今週末は忙しいことになったよ、あんたの試験と奴の講演会か。結果的には、それだけですんだから、まあ、よしとするか」

 競羅はそう軽い笑顔を浮かべながら答えていた。



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