7 検診
正義の鉄槌?
『服を脱いで下着姿で、床に表示される矢印に従ってお進みください』
冷たい機械音声の指示に従って服を脱いだ美しい女性が歩き出す。施設の中には、健康診断を受けに来た受診者以外に人の気配は無かった。
紅の災害以降減り過ぎた人口、つまり労働力を補うため様々な分野で無人化及びロボット労力の積極的な活用が成されてきた。健康診断でさえ、人間の医師が立ち会うことはほぼ皆無と言う状況になりつつある。
(面倒だなあ。いえ、これもネコのハンドラーとしての務め。お給料の内よ、我慢するのよ、斎酒)
「それにしても、一昔前の車検場みたいね」
全ての検査項目を終え出口に向かうと壁の一角が光っていた。斎酒が近づくと、検査前に脱いだ服がクリーニングされた状態で排出された。手早く衣服を身に付け出口から駐車場に出ると、スマートフォンにメールの着信表示があった。件名は健康診断の結果で、当然全て異常なしというものだった。
請求書と共に同内容のものが雇用先にも送信された旨が注意書きとして記されていた。因みに今回の検診費用は、三000霊子だった。
「ふう、今日のお仕事完了ね」
『ご苦労様、ユキ』
いつの間にか姿を現した三毛猫が東条斎酒の腕の中に静かに着地した。
「もう、甘えん坊さんね。ネコ!」
『やはり掛け替えの無いパートナー、ハンドラーの身体のことを心配しているんだよあ、僕は』
「あはは、ありがとう。ネコ」
(そうそう、ユキの身体の秘密が健康診断の検査機器ごときが見つけることは無いと思うけど、念には念を入れないとね。万一ということもあるし・・・・・・)
『ところで、ユキ。調査の方はどうだったの?』
「ちょっと、待って。はい」
斎酒は右耳のイヤリングを外すと僕に見せた。イヤリングには極小のモニタが備え付けられビデオサーバの内部に秘匿されたデータの一部がダウンロードされており、それが現在再生されていた。
『ほう、これは人気女優のヌードか。最近売り出し中のアイドルのヌードもあるなあ。これを裏ルートで売って小遣い稼ぎか。ふっ』
「今晩、決行するのね?」
『ああ、この程度の案件にこれ以上僕たちが時間を掛ける必要性は無いからね。
しかし、今更嘆いても詮無いことだけど・・・・・・
何の因果か、今じゃ警察の手先か。ふう』
「ところでネコ、何で警察のことを『まっぽ』と呼ぶの?」
『ああ、何でも警察制度が出来た頃警官に薩摩藩、現在の鹿児島県出身者が多かったことから、「さつまっぽう」が縮まって「まっぽ」になったらしいよ。釈迦が死んでからの世を称して末法と呼ぶ、これとは関係ないらしいね』
「ふーん、てっきりマッド・ポリスの略かと思っていた。何だかすっきりしたわ」
この後、悪徳クリニックに潜入したネコが不法な盗撮ビデをを処分するついでに脱税の証拠を国税局に匿名通報して莫大な追徴税を課せられ、その報道を見た一般庶民が留飲を下げたのは当然の成り行きだった。
ことの顛末を見届けた男は、自嘲気味に笑った。
「NEKOが、こんな些末なことにあの力を使うとはなあ・・・・・・」




