6 解説者
お待たせです。
「ああ、こうなってしまいましたか・・・・・・」
どこからか、取り出した折り畳みテーブルとパイプ椅子をセッティングすると美人さんが座った。
(はあ、こんな仕事。でも私はネコのハンドラー、たとえどんな汚れ仕事でも完璧にやって見せる!)
(にゃんだーキック?!)
「わん、つう、すりー!」
何処かから下手なサンプリングの機械音声のような声がカウントする。
「はい、お待たせしました。あなたの心のアイドル解説者、東条斎酒です。今回は、謎の研究所が開発した遺伝子工学と化学療法の粋を集めた熊獣人と我らが猫型ロボット、その名も『ネコ』の対決というか。一方的な蹂躙を始めての方でも解り易く解説していきたいと思いますので、どうぞよろしくネ」
画面が切り替わると、スロー再生でネコが熊獣人に迫る様子が映し出された。
「はい、千分の一の速度でゆっくり再生しているのでお茶の間の方にもネコの動きが判ると思います。
はい、この斜め前に進路をとっていたのを不規則に振っていますね。これを高速で実行されると、脳が認識している予測出現位置とブレが大きくでるために複数のネコが存在するように感じてしまうのですよ。
はい、そうですね。これを上手く使ったのが大昔の忍者さんの影分身です」
(ふう、上手く視聴者さんに伝わるかしら。でも、私はハンドラー。頑張る!)
スロー再生が終わると、ネコが熊獣人の顔を薙ぐどころか逆に振り払われて壁に激突していた。
見下ろす、熊獣人。
ダメージが抜けきらないネコはやっとのことで這い出すと、相手に尻を向けて背中を地面に着け、身体を半身に逸らし腹を晒している。
「はい、動物は負けを認めると相手に弱点である腹を晒して命乞いをすることが有ります。ただ、今回の場合は少し違いますね。半身であられもなく腰を振る姿・・・・・・
そうです、これが『誘い受け』です。求愛のポーズですね(笑)」
『どこがですか!「誘い受け」なんて言うな(笑)』
『にゃんだーキック』
熊獣人は、警戒をしながらもネコに覆い被さるようにその巨体を重ねようとする。
閃光が弾け、赤黒い煙が周囲に漂い甘い香りがした。
「はい、スロー再生でお見せしましょう。
ネコの魅力に勝てなかった熊獣人がおもむろに覆い被って、しかしそのとき!
『誘い受け』の状態から、ネコの百八の必殺技の一つ『にゃんだーキック』が炸裂!
はい、『にゃんだーキック』はわずか一ミリ秒のうちに百回高速の両足交互蹴りで相手を粉砕する凶器の必殺技です。
はい、ではお時間となりましたので本日の放送は終了いたします」
テレビモニターを消すと長谷川警視は笑みをこぼした。
「期待通り以上の仕事ぶりだね、そうは思わないかいロボ警部?」
「ええ予想以上に、彼女の解説振りは面白いですね」