21 パッション
芸は身を助くる
漲る力、抑えきれない。だが、これを制御できなきゃ俺は・・・・・・
「こっから、一歩も先に進めないんだぁー!」
ぐしゃっ。
卵の殻は粉々に砕け中味は容器に収まらず散乱し、磨き込まれた床を汚す。
『はい、やり直し。たかだか卵を十個割るだけが出来ないなんて。もう暑苦しいセリフでただでさえ暑い夏が・・・・・・』
優秀なAIを持つが故に冒険者の成かけの男の暑苦しさにはうんざりさせられる。だが、もし必要であれば何千度の高温にも零下二七三度極低温にも耐えて使命を遂行することが出来る自分自身を誇らしくも思う。
「くそう、な、何で上手くできないんだよ」
『はい、はい。嘆いても人を羨んでも先には進めませんよ。その馬鹿力を制御できない限り章様の側には近づけさせませんからね!』
(な、何なの?アイツ・・・・・・
昨日のステージの最中に私のダンスに目もくれずロボ婦警といちゃいちゃ演舞なんて舞ってさあ。どうも、力の制御が苦手みたいね。
ふっ、ここで懲らしめてやらなくちゃね)
「おっほん。ロボ婦警、島で貴重な食材を無駄にしてはなりませんよ」
『あ、これは章梦柔様、むさ苦しい物をお目に掛けまして申し訳ございません』
「俺がむさ苦しいだと、このポンコツロボットがチャンちゃんの前で恥を掻かせやがって」
「これ、仮にも師事しているロボ婦警に無礼じゃなくて。まあ、お前は力加減が下手なようね。今、少し暇だから手伝ってあげるわ。
ロボ婦警、椅子をそこに置いてちょうだい」
『章様、この者は超人的な力をつい先ごろ手に入れて制御が出来ぬ未熟者。近寄ると危険でございます』
「大丈夫よ、はい。あなた、名は何というの?」
「お、俺は・・・・・・ 林、林病迷。あなたの大ファンだ!」
「そう。林、変った名前ね。じゃ、私の肩を揉んでちょうだいな」
「え?だけど、そこのポンコツが言う様に俺は自分で自分の力が御し切れないだ。リンちゃんに、もしも怪我なんかさせたら。俺・・・・・・」
ふうー。
「優しいのね。大丈夫よ、私も鍛えているからそこらのモンスターに殴られたってへっちゃらよ。それに、あなたは私のことが好きなんでしょ?
だったら、大丈夫よ」
「俺のことを信じてくれるのか?」
「そうね、私のファンなら私を傷つけたりしないわ。あなたは、この島で私に力を貸してくれるのでしょ?」
「ああ、リンちゃんのために俺はここに来た!」
『章様、即死状態でさえなければ何とか蘇生させてあげますヨ』
林病迷は震える指先をそっと章の肩に触れた。
「何をしているの?さっさと肩を揉んでちょうだい」
「ああ、ごめん」
「うーん、いい気持ち。なんだ林、マッサージ上手いじゃないの」
「ああ、俺はさっきまでの訓練で真剣みが足りなかったんだ。それをリンチャンが身体を張って教えてくれたんだ。ありがとう」
「そんなんじゃないわ。肩が凝っていただけよ」
(想定外だったけど。まあ、結果オーライね。専属のマッサージ師も手に入ったし・・・・・・)




