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一時帰還

 ラビカトウの変装が凄いのは分かった。

 鋼のメンタルを誇る僕も再び立ち直り、一緒に行くと言って聞かなかったチカの為に、猫田の代わりに滝川領である上野国へと行ってもらう事になった。

 猫田も畏敬の念を発するような凄腕だが、やはり道案内が必要。

 そこで滝川一益の世話になっていた慶次を、ラビカトウと同行させる事にした。


「拙者、働きたくないでござる」


 その言葉の返答が往復ビンタであったが、何とか送り出す事に成功した。


 その後、安土での城の進捗などを聞く為に連絡を取ると、帝国の密偵が安土へ侵入していた事が発覚する。

 しかし防衛の任に就いている慶次の兄、利家の活躍により五人のうち四人は倒したという報告があった。

 しかし残りの一人に問題があるらしい。

 自称帝国のブラックキャットを名乗るその者は、蘭丸に付き纏い帝国へ連れ帰りたいと言っている。

 イケメン爆ぜろ!

 僕は、いや僕等は蘭丸が心配だったので、心からの言葉を送った。

 そして僕達は肝心な事を聞いた。


「そのブラックキャット、可愛いの?」




 ハッキリと言おう。

 人の好みに口出しをするつもりは無い。

 オーガの連中がムキムキ筋肉質な女性が好きなように、相手のタイプというのは分からないものなのだ。

 ムキムキ筋肉質な女性が、蘭丸を連れ帰りたいのかもしれない。

 それは看過出来ないが、ある意味ザマァとも思・・・いや、決して許してはならない。

 それでも言いたい。

 女性に連れ帰りたいなんて言われるの、めっちゃ羨ましい。


「可愛いかって言われたら、可愛いのかな?」


「よし!僕等も安土へ帰ろう」


「はや!何で!?」


「決まっているだろう!?そんな裏山けしからん相手、僕が一度見たい、わけではなく、蘭丸を救出する為だ」


 そう救出する為に行くのだ。

 決して、その子の顔が見たいからではない。

 おそらくだが、生かされているのもあまり敵意が無いからだとも思う。

 そうじゃなかったら、蘭丸を負傷させて拉致すれば良いのだから。


「魔王様!そのような些事は、安土の方々に任せておけばよろしいのでは?」


 猫田さんはそう言うが、一応僕にも考えがある。


「蘭丸は僕の親友なんだよね。もしも何かあったら、どうするのか答えられる?」


「それは蘭丸殿も覚悟の上ではないのですか?」


「蘭丸の覚悟と僕の気持ちは別物でしょうよ。アイツに何かあったら、それはそれで安土に残った連中を許せないかもしれない。特に防衛を任せた又左にはね」


 自分の主である前田さんの名前を出され、口を紡ぐ猫田さん。

 自分の考えで主に悪影響があるなど、あってはいけないのだ。

 だから黙るとは思った。

 ズルイのは分かってるけど、本当に危険が無いとは言い切れないし。

 僕の中で蘭丸とハクトは、やっぱり特別な存在なんだと思う。


「じゃあツムジ。悪いけど安土まで飛んでいってくれる?」


「それは良いけど、此処を離れて大丈夫なの?」


「すぐにまた戻るから。それに今は上野国へ密偵を送っていて、戻ってくるまでは何も出来ないしね。だからそれまでは問題無いよ」


 ツムジの心配はありがたいが、僕も蘭丸が心配だから。

 そっちを優先させたい。

 あと、可愛い子の顔を見たい。


「ちょっと!なんか今、違う事考えてなかった?」


「とんでもない!蘭丸は無事かなって思ったくらいだよ」


 危ない危ない。

 ツムジには隠し事が難しいな。


「じゃあ行こうか」


「ちょっと待って!」


 飛ぼうとするツムジの前に小さな影が現れた。

 案の定、チカである。


「わたしが帝国のブラックキャットなの。だから偽者の顔を見に行くわ!」


「え・・・」


 振り返って猫田さんの顔を見たが、別に反対ではないようだ。

 むしろ小声で、そのまま置いてきてくれ的な事を言っていた。

 佐藤さんはそれを聞いて苦笑いしている。


「二人乗れるのかな?」


「子供なら大丈夫。でも、その分の速度も距離も落ちるわよ?」


 それを聞いたチカは、既に乗る気満々で腕をブンブン上下に動かしていた。


「やった!わたしも飛べる〜」


 お前、空を飛びたいだけじゃないよな?

 疑いたくなるような気持ちになったが、下手に声を掛けて拗ねられても困る。

 僕はさりげなく今のセリフを流して、チカを後ろへと乗せた。


「二人用の鞍が役に立つ時が、ようやく来たわね」


「今までツムジには、人形の僕と兄しか乗せてないんだっけ?」


 いつかツムジが大きくなったら、二人乗りも出来るかなと作ってみたんだけど。

 使う機会が無くて、お蔵入りしてた物だった。

 こんな所でまた作り直すとは思わなかったけど、あの時の経験は役に立っているようだ。

 ちなみに鞍と言っても、作りはかなり違う。

 チカの安全も考慮して、足は鞍に固定出来るようにベルトが装着されている。

 そして手ぶらだとブンブン振り回しそうだと思ったので、またハンドルのような物も付けておいた。

 見る人が見れば、再びおまる呼ばわりされるかもしれないが。


「これでよし。じゃあ出発しますか」


「猫さん先生、佐藤さん。いってきま〜す!」


 手を振りながら別れの挨拶をするチカ。

 空へと上がり、再び安土へと戻るのだった。





「ツムジちゃんは凄いね〜!」


「チカもあの影魔法、凄いわよ!」


 空の旅路に男一人と女二人。

 実際は中身入れれば男も二人だけど。

 三人寄っていないのに、女二人で既に姦しい。


 二人乗っているというのもあり、僕はツムジの体力を考慮して休憩を早めに取ったりしていた。

 食べ物は僕が主に取ってきたのだが、水はチカが取りに行くと言い出した。

 しかし一人では危ないので、休憩のはずのツムジを連れて、一緒に水の確保に向かったのだった。

 先に戻り二人を待っていると、僕の知らない間に急速に仲が良くなっていた。


「魔王様!この子凄いわ。テクニシャンよ!テクニシャン!」


 普段使わない英語を交え、ツムジはチカが如何に凄いかを語り始めた。

 主に凄いと言っていたのは、マッサージという名のモフモフが上手いという事だった。


「ツムジちゃんは可愛いね〜!まおうさまはこんな可愛い子連れているなんて、ズルイ!」


「聞いた!?魔王様は、もう少しアタシを呼んでくれてもいいんじゃない?そうすればチカとも一緒に居られるし」


「・・・そうだね。考えとく」


 うるさくてどうでもよくなった僕は、適当な返事をしておいた。

 それからというもの、チカが寝ている時以外は、ほとんど二人で会話している。

 ほとんどが女子トークというヤツなのだが、たまに興味深い話もあったりした。



「それでね〜、あのバカラスが信長様の時に先に仕えたとか言って、凄い自慢してくるワケ。本当にムカつくわ!」


「ツムジちゃんのお母さんは、よく怒らなかったね。わたしなら喧嘩しちゃうかも」


「最初はイライラしてたみたい。だけど乗り心地がお母さんの方が良かったからか、信長様はあのバカラスをあんまり呼ばなかったのよね。それからは顔を合わせると、俺が先だ〜とかお前は時勢を読み遅れたんだとか、負け惜しみばかり言ってるわ」


「バカラスって、前に聞いた八咫烏の事?」


「何?魔王様もしかして、あのバカラスに興味あるの?」


 ちょっと声色が険しく感じるが、気のせいだろう。


「そりゃツムジが言うくらいだから、多少の興味はあるさ。でもその話で僕の前に現れないって事は、八咫烏は時勢が読めてないって事じゃない?」


「それよ!アイツ、今回は全く役に立ってないし。次会ったらボロクソ言ってやるわ!」


 というような、グリフォンと対を成す存在の八咫烏の話も聞けたりした。

 話と言っても、ほとんどが愚痴なのが微妙だったけど





 長浜を出て十日前後。

 ようやく安土が見えてきたようだ。

 何故、ようだを付けるかというと、僕が出る前とかなり様変わりしていたからだ。

 以前、僕が作った大きめの塀が無ければ、ちょっと分からなかったかもしれない。

 町も更なる発展をしていて、町の中で一番高かったと思われる物見櫓は既に無くなっていた。

 代わりに大きめの建物が増え、高さもちょっとした高層マンションのようなモノもあった。

 現代日本なら重機が必要な建築も、この世界では魔法でどうにかなってしまう。

 便利だなぁと思いつつ、これが本当に安土?というような疑いたくなる気持ちもあった。


「久しぶりだから、チカは最初にビビディさんの所に送ってあげよう。蘭丸は裏山けしからんので、後でも構わない」


「裏山?よく分からないけど、先にチカを送れば良いのね?分かったわ」


 これが石垣かな?

 城の土台だと思われる物を積み上げている所へ、ツムジは降り立った。

 周りを見ると、ノーム達も手伝いに参加しているようだ。

 彼等は土魔法も使えるので、建築関係の仕事も行えるのかもしれない。


「チカちゃん!」


「ビビおじさん!ただいま〜!」


 猛ダッシュして抱きつくチカ。

 うぐっ!という小さな呻き声が聞こえたけど、聞こえないフリをして僕も戻ってきた挨拶をした。


「蘭丸の件を聞いて、戻りました。これが城の土台ですか?」


「魔王様もお帰りなさいませ。そうです。これが今回作る安土城の土台になります」


 思っていたよりも大きい。

 大きいというか、面積が広いのか?

 学生時代に行った名古屋城よりも、広く感じる。


「チカは此処で、ビビディさんと一緒に居る?」


 チカは首を振り、僕と一緒に蘭丸の所へ向かうと言った。


「わたしの偽者に会いに行く。勝手にブラックキャットを名乗るなんて、許せないんだから!」


 お前が後かもしれないぞ?

 などと言うと泣きそうなので、そうかとだけ答えた。


「ビビディさんは、蘭丸の件はご存知なんですか?」


「それはもう。帝国の人間が密偵を送ってきたとあって、私達も最初疑われましたから。しかし長可殿や前田殿、アウラール殿が庇ってくださいまして、今に至ります」


「アウラールさんが!?久しぶりに名前を聞いたけど、あの人が庇うなんて思わなかった」


 アウラールさんは、イッシー(仮)もとい斎田さんが僕の魂の欠片を使い、色々と悪事を働かれたせいで、余所者には厳しい印象があった。

 しかしそんな中で一番の余所者である、王派閥とはいえ帝国兵の肩を持つとはね。

 彼も変わったという事だろうか?


「それで、上から見る限りは平和そのものだったんだけど。何か危険な事とか無いのかな?」


「そうですね。特に無いと思われます」


 無いのかよ!

 だって、帝国の密偵だろ!?

 どういう事!?


「あ!」


「何か思い出した!?」


「強いて言えば、蘭丸殿の貞操の危機かと」


「ふざっけんな!」


 貞操の危機?

 蘭丸の童貞がどうなろうと、知ったこっちゃないわ!

 クッソー!

 戻って来なきゃ良かった!


「まおうさま。早く偽ブラックキャットの所に行こうよ」


「そうだな。顔を拝んでからでも、悔しがるのは遅くはない」


「悔しがる?」


 何でもないと誤魔化し、チカと共に蘭丸が居そうな所へと向かおうとした。


「蘭丸殿なら、今は弓と槍の鍛錬に勤しんでおりますよ。魔王様と共に行けないのが、余程悔しいそうです」


 ほう?

 確かに最近は、ハクトは連れて行っても蘭丸は留守番が多かった。

 それはハクトがラーメンを作れるからであって、戦力に加算しているわけではないのだが。

 それでも連れて行っているのは事実なので、最初に旅に出た三人の中で、自分だけが取り残されるのが嫌なのかもしれない。


 ビビディさんに教えてくれたお礼を告げ、僕達は蘭丸達が鍛錬に励んでいるという練兵場へと向かった。

 練兵場の中からは、大勢の掛け声が聞こえてくる。

 剣や槍でも振るっているのだろう。


 中に入り奥へと行くと、鍛錬に励む獣人達から挨拶された。

 ちょっと戸惑いを感じたけど、魔王っぽく返事をしてその場を後にした。


 更に奥へと進むと、学生時代に見た弓道場のような場所が見えてきた。

 そして、明らかに稽古しているとは思えない声が聞こえてくる。


「蘭ちゃ〜ん。何処か遊びに行こうよ〜!」


「うるさい!俺に付き纏うな!」


「怒ってる蘭ちゃんも、可愛い!」


 何だ、この甘ったるい空気は。

 許せんな。


【あぁ、許してはならん】


 リア充許すまじ!


「こら〜!お前かー!勝手にブラックキャットを名乗っているのはー!」


 僕等が心の中で蘭丸爆ぜろと願っていた頃、チカが戸を開き中へと突撃して行った。


「何、この子?蘭ちゃんの親戚?」


「アレ?この子、マオ達と一緒に行った子じゃ?」


「うわぁ。何でこんな所に居るの?」


 会話になっていない声が聞こえ、チカは驚きというか、ちょっと引いたような声を発していた。

 僕も中へと行こう!


「お前はぁぁぁ!!イチャついてないで、ちゃんと稽古しろやあぁぁあ!!!」


 戸を一気に開いて、僕も突撃した。

 そして僕は、驚愕の声を上げる。





「うわぁ・・・。ギャルが居る・・・」

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