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安土へのスパイ

 ネズミ族の協力の下、ドワーフの家臣達は一益の洗脳により拉致されたと思われる秀吉の捜索を思案する。

 しかし秀吉の所在が分からない。

 まずは情報を集める為に、一益の友人である九鬼嘉隆を調べる事を決意。

 九鬼は滝川領内に居ると思われる為、木下領である長浜から滝川領である上野国へと行かなくてはならなかった。


 上野国へは猫田単独で行ってもらう予定だったのだが、そこでチカが自分も一緒に行くとゴネてしまう。

 どうにかして説得を試みるも、あえなく失敗。

 それを見たネズミ族の異端児集団の代表であるテンジが、その役目を代わりに請け負うと言ってきた。

 代わりに上野国へと行くのは、猫田も驚く凄腕の忍者、ラビカトウだった。


「ラビカトウだよ!よろしくね!」


 僕の顔でアイドル顔負けの挨拶をするラビカトウ。

 チカが興奮しながらカッコ良いって言っていたので、同じ仕草で挨拶をした。


「オーラが違う」


 寺子屋で鋼の精神を手に入れたつもりだった僕は、その心は見事に砕け散ったのだった。





「あの・・・なんかすいませんでした」


 ラビカトウは、崩れ落ちた僕に対して謝ってきた。

 むしろ謝られると更に惨めなのだが。


「と、とにかく、ラビカトウ殿が凄い事は分かった!これなら私も安心して任せられます」


 猫田さんが、話を逸らそうとしているのが分かる。

 かなり気を使わせてしまっている。

 そろそろ立ち直らなくては。

 燃え上がれ!僕のメンタル!


「フゥ。何かあったかな?」


「え?」


「何かあったかな?」


「何も無かったかと!」


「え〜!まおうさまがへこ・・・ムグ!」


 僕の鋼の精神力は、先程の記憶を脳の隅っこまで追いやった。

 何も無かった。

 そう。

 何も無かったのだよ。

 何か言おうとしているチカの口を、佐藤さんが咄嗟に塞いだのが見えたけど。

 何の事だか分からない。



「ま、魔王様?うちのラビカトウに任せてよろしいでしょうか?」


 テンジさんが不安そうに聞いてきたが、むしろこのような凄腕の人なら此方から頼みたいくらいだ。


「ラビカトウさんって、何にでも姿は変われるの?」


「極端に大きかったり小さかったりしなければ、変装する事は出来ます」


 魔法ではなく変装なんだ。

 それ考えると、僕と元々の身体のサイズは変わらないって事?

 なかなか興味深いけど、こういうのは礼儀として聞かない方が吉だろう。


「上野国と一言で言っても、なかなか広いです。ラビカトウ殿の役に立つか分かりませんが、此奴も連れて行ってください」


 首根っこを掴んで慶次を差し出す猫田さん。


「え?拙者?」


 掴まれながらも振り返る慶次。

 何か言いたそうだな。


「どうした?滝川領なら詳しいだろ?」


「それはまあ。でも拙者、働きたくないでござる」


 バチン!


「痛い!」


 バチン!バチン!


「猫田殿!やめるでござる!拙者!イタ!やめて!僕行くからやめて!」


 無表情の猫田さんに往復ビンタを何発もお見舞いされ、とうとう根を上げた。


「行くにしても、滝川領へ戻れば拙者の姿は目立つでござるよ。ラビカトウ殿のように変装も出来ないし、拙者では役に立たないのではないでござるか?」


「あれ?慶次殿に貸し与えた、あの変装魔道具はどうした?」


 変装魔道具?

 あのでっぷりお腹の狸ネズミの事かな?

 変装用の魔道具なら、何であんな姿を選んだのやら。

 それよりも、あの脱いだキグルミはどうしたんだっけ?

 僕の覚えている限り、コイツ持ってきてないぞ。


「あ!魔王様との戦闘に集中してて、忘れたでござるな」


 テヘペロみたいな顔をして、ドランさんに謝っている。

 謝っているというより、煽っているようにしか見えない気もする。


「お前、何やってくれてんのよ」


 真顔で怒りを表すドランさんだったが、次の一言でその怒りも鎮めてくれたようだ。


「大丈夫ですよ。私が回収しておいたので」


 チッ!という舌打ちが聞こえ、再びビンタの嵐が舞う。


「怠け者のお前に一言教えておこう。働かざる者食うべからずという言葉を知ってるか?」


「知ってるでござる。だから拙者、働く時は自分で決めているでござる。拙者、まだ本気出してないだけ」


 バチン!


「アウ!嘘です!そろそろ本気出そうかなと思ってました!」


「ラビカトウ殿。ふざけた奴ですが、こき使ってください。言うこと聞かないなら、少しくらい刺しても良いので」


「は、ハハハ。分かりました。道案内の程、よろしくお願いします。それと私の事は、ラビとお呼びください」


 渇いた笑いをした後に、慶次に向かって道案内を頼んでいた。

 頬を赤くした慶次も首肯して、了解の返事をする。


 しかしラビカトウ。

 カトウじゃなくて、ラビって呼ぶのか。

 いきなり下の名前で呼べって、急に距離を詰めてきた感じがする。

 そもそもラビは名前なのか?

 プロレスラーとか芸人みたいな感じだと、てっきり思っていたのだが。

 本人がそう言うなら、僕達は異論は無いんだけども。





「それでは慶次殿。早速参るとしましょう」


「行きたくないでござ・・・ハッ!」


 ビンタ準備をしている猫田さんに気付いた慶次は、颯爽と長浜から旅立って行った。


「傾奇者っていうより、馬鹿者って感じだな」


 思わず口に出してしまった。

 苦笑いしながら猫田さんがフォローをし始めた。

 アレだけビンタしたけど、認めるが故なのかもしれない。


「実力はあるんですけど。怠け癖とやる気が噛み合わないというか、やれば出来る子なんです」


 なんか現代日本でよく聞きそうなセリフだ。

 猫田さん、いつから慶次の保護者になったんだろう。



 それはさておき、安土を出てから結構経ってるし。

 向こうの様子を確認しておくのも良いかもしれない。


「ちょっと安土へ連絡取ってみます。城の進捗が気になるし」


「返事はどうするんです?」


 あ、忘れてた。

 こっちから送っても向こうからは無理か。


【ツムジ呼んだ方が早くね?】


 それもそうなんだけど、ツムジにばかり頼るのも悪いかなって思うんだよね。

 でも今回は仕方ないか。


「ツムジ、安土の様子教えてくれる?」


 返事が無い。

 聞こえてないのかな?


「ツムジ!聞こえる?」


「あ!魔王様!ちょっと今、大変なのよ!」


「大変?」


「帝国の密偵が来てたみたいで・・・」


 あれ?

 また聞こえなくなった。


【何かあったっぽいな。一度詳しい話を聞く為に、こっちに呼び出した方が良くない?】


 聞こえないのに呼び出せるのかな?


【試しにやってみればいいじゃん。魂のなんちゃらが繋がってとか言ってたし、それくらい出来るんじゃないの?】


 物は試しだね。

 よし!

 来い!ツムジ!


「にゃあ!こっち来れた!」


 目の前の空間が歪み、中から変な声を出しながらツムジが現れた。


「大丈夫か?何があった?」


「アタシは大丈夫。でも安土の皆、というより蘭丸が心配かも!」


 蘭丸?

 帝国の密偵が来てて、蘭丸に何かしたのか?

 その前に、猫田さんや佐藤さんにも伝えるべきだろう。



「その帝国の連中によって、死傷者が出たりしたのか?」


「怪我人なら少し居るけど、ほとんど軽傷よ。撹乱が目的だったのか、戦闘はそんなに強くなかったから」


 密偵だから、ミスリルの装備で固めてるわけじゃないもんな。

 そんな装備してたら、私は帝国兵ですって言ってるようなものだし。


「敵は何人だ?それと、さっきの声が聞こえなかったのも、その撹乱のせいか?」


「敵は五人だったけど、四人は太田とゴリアテ達によって倒されたわ。でも、残りの一人が問題なのよ」


 四人は倒したんだ。

 やっぱり防衛組は頼りになるじゃないか。


「利家様はどうされている?」


「あの駄犬?使えないわよ。と言いたかったけれど、流石だわ。密偵が確認された直後の指示が的確で、正直驚いた。あの人の敵を見極める嗅覚、凄いわね」


 猫田さんからの質問に、辛辣な答えを返すかと思いきや、そうでもなかった。

 むしろ褒めている。

 第一印象は最悪だったかもしれないが、こうやって認めてくれるとありがたいな。

 それに褒められて嬉しかったのか、猫田さんの尻尾もいつもより動きが速い。

 犬が喜ぶ時に尻尾振るのは分かるけど、猫も同じだっけ?


「それで残りの一人が問題って、どういう事?」


「それがねぇ・・・」


 チラッとチカの方を見ている。

 もしかして、ビビディさんに何かあったのか!?

 築城の仕事もそうだが、それよりも彼に何かあった方がマズイ!

 チカにとってはこの世界での親代わり。

 日本の両親とも離れてしまったのに、またその親代わりとも言えるビビディさんにも何かあったとなると、この子は本当に不幸だ。


「チカに言いづらい?もしかしてビビディさんに何かあったのか?」


 小声で聞き返したが、まるで関係無かったかのように返答された。


「ビビディさん?あの人は城作りに一生懸命だから、全然関係無いわね。そうじゃなくて、チカには少し言いづらいかなと思って」


「わたしが何?わたしに言いづらい事って、何なの?」


 どうやら聞こえてたらしい。

 自分の事が話題に出たからか、興味津々といった様子だ。


「その最後の一人っていうのが、自称帝国のブラックキャットを名乗ってるんだけど」


「えー!ブラックキャットはわたしだよ!しかも猫さん先生にも弟子入りしたんだから。そんな偽物とわたしを一緒にしないで!」


 猫田さんに弟子入りした自分こそが、真のブラックキャットだと言い張るチカ。

 そもそもブラックキャットって何なのよ?

 ただ言いたいだけじゃないの?


「で、そのブラックキャットが何をしてたんだ?」


「やっぱりズンタッタさんの名前使ったからか、それとも魔王に相応しい城という話が気になるのか。帝国が密偵を送ってきたわけ。それで城作りが完成していないなら、妨害活動を行うように命令を受けてたらしいわ」


 まあ遅かれ早かれ、魔王という言葉を公に出した時点で、帝国が動いてくるのは予想済みなんだよね。

 その妨害活動も城作りに対してしてくるとは思わなかったけど、何かしら情報操作とかしてくるくらいはするとは思ってた。

 例えば、他の国に対して真の魔王は自分であるみたいな事を見聞するとかね。


「その辺の話は分かった。その妨害活動って、何をしていたんだ?」


「それはさっきの会話にも影響あったけど、魔力操作に対しての妨害みたい。使えないわけじゃなくて、上手く調整が出来ない程度なんだけど」


 それで会話が途切れ途切れだったのか。

 あんまりよく分からない妨害活動な気もするけど。


「甘く考えない方が良いわよ?例えば玉子を割るのに、そっと割るつもりが握り潰すみたいな、意識せずに力が入ったりするみたいな事だから。怪我人はこの妨害活動でも出てるみたい」


 石材運びとかもあるし、そういう連中からしたらとんでもない妨害かもしれない。

 いきなり力が抜けるとかもありそうだし。


「でもさっき言った通り、あの犬の指示でその犯人も倒された。でも、その妨害装置が見つかってないのよ」


 捕まったんじゃなくて倒された。

 遠巻きに言ってるけど、これ生きてなさそうだな。

 生きていれば尋問をするだけなのだから。

 そうなると、残りの自称ブラックキャットが鍵を握ってるわけだ。


「それで、蘭丸が心配っていう話は?」


「それがね、その自称ブラックキャットちゃん。蘭丸の事を気に入っちゃったみたいなの」


【おい、ちょっと待て。そのブラックキャットって女か!?ブラックキャットちゃんって言ったぞ!】


 僕も聞いてたよ。

 また蘭丸がモテるだけの話か。

 イケメン爆ぜろ!


「気に入られただけで、特に問題無いんだろう?じゃあ、そのまま気に入られたまま話を聞き出せばいいじゃないか」


「それが、彼を帝国に連れて帰りたい。そして彼と一緒に過ごしたいなんて事言い出したのよ!」


 なんだと!?

 それは許せんな。

 一緒に過ごしたいなんて、女子から言われた事無いのに!


【おいおい。それよりもまず聞く事があるだろう?それの確認をしてから、俺達は今の言葉を言うべきだ】


 分かってるさ。




「ツムジ。そのブラックキャットって可愛いの?」

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