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召喚者だから?

 ヒト族でも魔法は使える。

 と、言われている。

 それはただの言い伝えであり、ヒト族自身も信じていなかった。

 だからこそ、ヒト族は魔法を使える魔族を恐れたし、魔法とは違う長所を見出して発展していった。

 しかし、言い伝えは本当だった。


「出でよ火球!」


 パスン!


 チカの掌から、本当に小さな火が出ているのである。

 俺はそれを見てツッコミを入れてしまったが、他の連中は完全にフリーズしていた。

 猫田なんか、顎が外れるんじゃないかと思うくらい口が大きく開いていた。

 弟と佐藤は、頭が真っ白になったのか、ボーッと見ているだけだった。


「うーん、せめてもう少し大きく出ないかな?」


 確かに魔法は使えたが、実用レベルではない。

 多分この大きさなら、焚き火の着火に使える程度だろう。

 本人としては不満足みたいだな。

 使える事自体が凄い事なのに。


「チカ!もう少し集中して、もっと大きな火の球を想像するんだ。そうだな。サッカーボールくらいのイメージをしてみろ」


「サッカーボール?だったら運動会で使った大玉くらいがいい!」


「あんまり大きいの作ると、魔力が無くなって気持ち悪くなるぞ?」


「それは嫌だなぁ。じゃあサッカーボールにする」


 現実へと戻ってきた弟が、熱心に教えている。

 あんな適当な教え方で、火花みたいなモノが出たんだ。

 ちゃんと教えれば、使えるかもって思うのも不思議じゃない。


「むむむ!出でよ火球!」


 ボゥ!パン!


「出た!ビー玉くらいの大きさになった!」


「ビー玉だと!?」


 いきなり俺と同じ領域まで来たというのか!?

 俺なんか凄い練習して、ようやく野球のボールくらいまでになったのに。

 コイツはすぐに大きい火球が使えるかもしれない。

 チカ、恐ろしい子!


「次は大玉をイメージして。出でよ火球!」


 ゴゥ!バァン!


「な、なんだと!?」


 早くも野球ボール並みの大きさになりやがった!

 俺より魔法のセンスがあるだと!?


「チカよ。お前を俺のライバルと認めてやろう」


「今の見る限り、ライバルどころか数キロは置いていかれてるよ。あと半年もしたら、超えられない深い溝が出来ると思う」


 辛辣な言葉が返ってきた。

 同じ血が流れているというのに、全然味方してくれない!


「あ・・・。なんかフラフラする。目の前が暗くなってきた」


 立ち眩みか?

 貧血みたいな症状みたいだ。


「魔力切れですね。やっぱり魔力量はまだ少ないのでしょう」


「寝てていい?」


 フラフラのチカを抱き抱えた佐藤さんが、キャリアカーへと運んで寝かせた。


「下顎が痛い・・・。しかしこれは本当に凄い。私達は歴史上で初めての光景を、目の当たりにしたのかもしれません」


 顎を押さえながら、今起きた出来事の凄さを語っている。


「猫田殿。チカが使えるという事は、俺にも可能性があるんですかね?」


「それは分かりません。あの子が特別なのかもしれないし」


「あの子が特別というなら、俺も特別ですよ」


「そうか。召喚者か」


 ヒト族という括りにはなるが、この二人は日本からの召喚者だ。

 もし使えた理由が召喚された者だからと考えると、この人が使えてもおかしくない。


「帝国に居た頃、魔法の練習とか無かったんですか?」


「無いね。練習するにしても、誰が教えてくれるのかな?」


「それもそうでした。ヒト族で使える人なんか居ないなら、教える人も居ないか。でも捕まえた魔族に教えを請うなんて事も・・・あるわけないか。だから捕まえて利用しようとしてるんだもんね」


 もしかしたら、召喚者の中には魔法適性がある人も存在しているかもしれない。

 でも、魔法を教える人が居なければ、そんな適性も宝の持ち腐れ。

 現状では特に警戒する必要は無いな。



「じゃ、佐藤さんも練習してみますか」


「出でよ火球!」


 何も起こらない。

 集中力が足りないのか。


「もう少し具体的にイメージしてください」


「出でよ火球!」


 やはり何も起こらない。

 佐藤は少し恥ずかしそうだった。


「やはり出ませんね。この子が特別なのか、それとも佐藤殿が適性が無いだけか」


 うーん、まだこれだけで決めつけるのもなぁ。

 想像力が足りないのか?

 それとも火球のイメージが湧かない?

 俺の火球も人と違うし。

 あ、そういえばそうだった。


「あのさ、火球のイメージを変えないか?」


「どういう事?」


「佐藤さんって、元々高校球児じゃない?だから、ボールを投げるイメージで使うといいんじゃないかな」


「それは、ピッチングをするように使ってみろと?火球を投げるイメージかな?」


 俺の予想だと、確実にそっちの方がイメージがしやすい。

 だって俺も、ビー玉から成長した時はそうだったし。


「出でよ火球!」


 その場でシャドウピッチングを始めた佐藤。

 指先からボールが放たれるというタイミングで、なんと人差し指と中指の辺りから火の球が出た。

 しかも速い!

 サイズは見た感じ、かなり小さい。

 だが、あのスピードならおそらくは、そう簡単に目視出来ないレベルだろう。


「凄いな!めっちゃ速かったぞ!」


「本気の兄さんほどじゃないにしろ、これなら戦闘にも使えるレベルだよね」


「見事です!」


 三人で褒めていたが、当の本人はそれどころじゃなかった。

 たった一球投げただけで、肩から息をしている。

 既に疲労困憊と言った様子だ。


「ちょ、ちょっと待って!皆の言葉、嬉しいんだけど!・・・ハァ〜、疲れた」


「魔力の半分以上を、今の一撃に込めたといった感じでしょうか。もし戦闘で使えば、その一撃で全ての敵を倒せないと、逆に危機を迎える事になりそうです」


 猫田の冷静な考察だったが、多分その通りだろう。

 当たれば凄いかもしれない。

 でも避けられたり外したりしたら?

 その時は、彼の命運が尽きる事を意味する。


「だったらさ、出来るか分からないけど。こんな感じの魔法は使えないの?」


「どんな感じよ」


「駄目だ。人形だと無理」





「試しに使ってみるけど、僕じゃ多分使えても弱いよ?」


 まずは両手に火球を出す感じで。

 その後に、それを両手に消えないように維持。

 その火球を、拳に纏わせる。


「こんな感じ」


「自分の拳に火球ですか!?それ、火傷しませんか?」


「うーん、特に熱さは感じないけど」


 実際に僕もその心配をしたけど、よく考えたら能登村の皆が野球する時、火球投げてるよなぁって思った。

 人の放った魔法はキャッチする時に危険だったけど、自分の魔法で投げた球は、特に火傷や凍傷なんかなってなかったなと。


「出でよ火球!」


「そう!そんな感じで維持出来れば、使えないかな?」


「正直キツイ。徐々に体力が減っていく感じがする。多分三分が限界だね」


【三分って言ったら、一ラウンドしか無理じゃないか】


 なるほど。

 それだけは堪えられるって事ね。


「佐藤さんにとって、その三分が最後の切り札になるかもですね」


「俺が本当にピンチの時に使えって事か。これがホントのラストラウンドって事ね」


「生死が関わる時など、余程の事が無い限りは控えていいと思います。ただ、普段から練習すれば、もっと魔力量も増えるかも?」


 炎を両手に纏ったまま、木を殴りつける。

 その威力に折れた木は、殴った所から煙が出て、遂には炎が上がった。


「強いな。だけど、もう限界だ。これ以上やったら、俺も後ろで寝込む羽目になる」


 そう言うと、その場にへたり込んでしまった。

 やはり相当な負担が強いられるみたいだ。


「ついでだから、この折れた木の炎で料理しますか」




 夕食を食べた後、僕は魔法について考えてみた。

 ヒト族でも使える事は使える。

 しかし、その負担は大きい。

 理由は魔力量だと思われる。

 じゃあ、その魔力量を補えるクリスタルが大量にあったら?


「まさか、そんな事は無いよな」


【どうした?】


 いやね、この事が帝国にバレたら、クリスタルの回収に躍起になりそうだなって。


【クリスタル?何で?】


 だから魔力量が少ないなら、その魔力を補充する為にクリスタルを沢山使えば問題無いわけでしょ。

 そうすれば、魔族同様に魔法を使用出来るだろうし。


【理屈ではそうなるな。でも帝国の、いやヒト族全体の考えとして、魔法は使えないと思っているわけだろ?だったらそんな心配は、する必要無いんじゃないか?】


 それもそうなんだけど。

 いつかはバレそうな気がするんだよね。

 特に召喚者がかなり呼ばれている、このご時世ならね。

 とは言っても、その確率も低いとは思っているけど。


【今からそんな事ばかり考えてても、しょうがない。余計な心配は、心労を抱えるだけだぞ】


 それもそうだね。

 魔法を使ってくるヒト族が現れたら、それはそれで考えよう。




 翌朝、気持ち良く寝ていたら、お腹にドスッと重たいモノが乗っかってきた。


「ぐぇっ!」


「おはよう!早く起きて魔法教えてよ!」


「はぁ?もう少し寝かせてくれよ」


「猫さんが早く起きろって言ってるよ」


 猫田さんの指示か。

 それなら仕方ない。


「おはようございます」


「おはようございます。佐藤さんは身体の調子どうですか?」


「特に異常は無いよ。倦怠感も無いし、疲れや筋肉痛も無い」


 一晩経てば、大体は回復するようだ。

 チカがあんなに元気なんだから、分かっていた事ではあるけど。


「まおうさま。早く魔法教えてよ」


「何でだよ!猫田さんに教えてもらえばいいじゃないか」


「いえいえ。私が教わるよう、頼んだのです」


 何でそんな事言うんだ。

 アレか?

 面倒な事は押し付けようという魂胆か?


「面倒だからではないですよ」


「あ、そうなの?」


 心の声が漏れてたか?

 顔に出てたかな?


「理由は簡単。魔王様は各属性魔法に加え、様々な魔法が使えます。この子に合った魔法もあると思いますので、それなら魔王様に聞くのが一番だと判断しました」


 理屈は間違ってない。

 でもそれなら、僕も猫田さんに聞きたかった魔法がある。


「猫田さんも変わった魔法使ってますよね。あの影の中に入るヤツとか」


「影魔法の事ですか。これも特殊と言えば特殊ですね」


「それの使い方、教えてください。どうせだから、チカと佐藤さんの二人も」


「なるほど。まあ覚えられるかは分かりませんが、それでもよろしければ」


 これ、結構便利な気がするんだよね。

 諜報魔法、森の囁きが今のところ一番使えると思うんだけど。

 この魔法も使い方次第では、かなり有用性は高い。


「わたしも影の中入れるかな?」


「そうだね。入れるといいね」


 チカに話し掛けられた佐藤さんは、無難な答えを返している。

 でも、どちらか一人しか使えなかったら、それはそれでちょっと気まずい。

 特にチカが使えなかったら、凄い泣きそうな気がする。




「最初はこんな感じですね。どうです?使えそうですか?」


 僕は難なく使えた。

 やはり魔王の身体は凄い。

 意外にも、兄さんも使えた。


【意外って言うなし。でも、俺も使えると思わなかった】


 相性の問題かな?

 身体強化しながら使えれば、かなり凄い事になりそうだ。

 そして肝心の二人だが。


「猫さん!猫さん!わたし消えてる?」


「頭だけ見えてる」


「これは使いやすいね!昨日の火の球より、全然疲れないし」


 チカは、この魔法ととても相性が良いらしい。

 昨日の火球のように、ちょっと使ってすぐに魔力切れではなく、魔族と同じようにほとんど使いこなしていた。


「・・・いいなぁ」


 このセリフから分かる通り、佐藤さんは使えなかった。

 何と言うか、影に飛び込もうと頭から地面にダイブまでしたのに。


「へぶぅ!」


 ゴチン!という派手な音を立てただけで、彼は頭から地面と垂直に立っていた。

 流石はボクサー。

 首が鍛えられてるようで。


「俺にも合う魔法、見つかるといいなぁ」


 子供っぽい言い方をしていたけど、敢えて聞こえなかった事にしよう。


「今は訓練の段階です。私が合格というまでは、木下領での使用は禁止します」


「はい!猫さんの言う通りにします!」


「僕も分かった」





 猫さんの言う通りにしますって言いながら、猫田さんの影に入るのはアリなのか?

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