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かくれんぼって難しい

 俺達が捕まって、既に三十分以上が経過した。

 猫田は身体強化に加え、今までの経験から来る勘なのか、俺達では予想だにしない所を探していた。

 残り時間は既に十分を切っている。

 ふと立ち止まった猫田は、頭の中で何やら整理を始めたらしい。


「行動が読まれている?」


 自分が行く先に、その存在は無い。

 しかし、僅かながらの痕跡は残っていたりする。

 その事から、向かう先が間違っているとは言えなかった。

 彼の頭の中で、読まれている先の更にその先を、どうするべきか考えた。


「物見櫓、ではないな。その先を・・・」


 立ち止まった事で、新たに見えてきた事があった。

 彼の行った場所に、再度行っている。


「ゴミ置き場か!?」


 彼の足は、急ぎゴミ置き場へと向かった。





(あの猫さん、足速いなぁ)


 ゴミ置き場近くに隠れていたチカは、頭の中で猫田を褒めていた。

 彼女の行動は単純だった。

 猫田が行った場所なら、すぐには戻ってこないだろう。

 だから行った場所に隠れて、また時間が経ったら次の場所へと移動する。

 ただそれだけだった。

 ただそれだけなのだが、普通とは違ったところがあった。


(ん?何か違う気がする)


 周りを見回して、誰も居ない事を確認。

 急いでゴミ置き場から出た。

 その後、屋根伝いに移動を開始したら、下の路地に猫田がゴミ置き場に走っていくのが見えたのだった。


(あっぶな〜!あのままだったら見つかってたよ。もうすぐ時間なのに、こんな所で捕まりたくないもんね)





「むぅ」


 この場所に居たと思われる痕跡はある。

 しかし何故、気付かれたのだろうか?

 あの子には何が見えている?

 残り時間も、もう僅か。

 だが、諦めるにはまだ早い。

 私が先の先の先を読み切れば、居場所は分かるはず。

 それが失敗したら・・・。

 もしかしたらビビディ殿には、謝らなくてはならないな。


「残り三分です!」


 近くに居た人が時間を知らせてくれた。

 最後の一手と言ったところだろう。

 何処だ?

 何処に居る?


「猫田殿?」


 動かない私を不審に思ったのか、声を掛けてきた。

 しかし今は、その声が邪魔でしかない。


「どうしましたか?」


「あの子が何処に居るか、考えているんだ。少し静かにしていてくれないか」


「す、すいません!では、時間になったら会議場前にお越し下さい」


「・・・会議場!?そうか!最後は最初に戻るのか!」


 その言葉に私は、急ぎ会議場へと走った。

 会議場に着いたところで、何処に居るか分からない。

 間に合うか!?





 もうすぐ一時間か〜。

 どうしようかな。

 一時間が経っても誰も呼びに来ないと困るし、会議場近くまで戻っておこう。


「うわ〜、さっきより人増えてる」


 会議場近くまで戻ってきて、何処かに隠れようかと思ったけど、これだと外は無理かなぁ。

 会議場の中は、入ってもいいのかな?

 いいよね?

 入っちゃおう。

 裏に回ると、小さな扉が一つだけあった。

 良かった。

 表からだと人が多過ぎて無理だと思ったけど、裏口から入れるなら簡単だね。


「おじゃましま〜す」


 施錠されていない事を確認して、一言だけ挨拶した。

 さっきの広い部屋みたいなのはすぐにバレちゃうし、狭い部屋がいいよね。

 何処がいいかな?


「ん?この感じ、嫌な気がする!」


 外から何か来るのが感じる。

 だから違う所に行かないと!

 うーん、彼処は開くのかな?

 天井の一部が上に開くようになってるっぽい。

 屋根裏にでも行けるのか、物が置ける程度なのか。

 とにかくあっちに行かないと、わたし捕まっちゃう!

 急がないと!





「退いてくれ!急いでいるんだ!」


 会議場の近くに行くと、大勢の人で賑わっていた。

 あの賭けが盛り上がっている証拠だろう。

 しかし、そんな事はどうでもいい。

 今は一刻も早く、会議場周辺を探さなければ。


「いや、違うな。周辺じゃない。会議場の中!」


 この人数だ。

 外に居たら、誰かに見られている恐れがある。

 そんな危険を冒すより裏口から中に入って、時間まで待った方が得策だろう。


 案の定、裏口の施錠はされていなかった。

 後は、どの部屋に居るかだな。

 もしこの会議場内に居なければ、完全に私の負けだ。

 広い部屋は見通しが良過ぎるから、おそらく居ないだろう。

 そう考えると、やはり小さめの部屋が狙い目か?


 この部屋にも居ない。

 既に三部屋は探した。

 もう時間も無い。

 次が最後だ。


 部屋を出ようとしたその時、何かの気配を感じた。

 探したのに気配を感じる。

 もう一度探すと、次の部屋は無理だろう。

 しかし私は、私の勘を信じる!

 この部屋で見ていない場所。

 何処だ?

 部屋の中は全て探したのだ。

 部屋ではない場所?

 屋根裏か!?





 もう残り時間も無い。

 わたしの勝ちだー!

 早く終わりの合図来ないかな〜?

 そしたらわたしは、外に行ける。

 今度はわたしが、おじさん達の役に立つんだから。

 こんな所で負けてられないのよ!


「見つけたぞ」


「え?」


 後ろを振り返ると、蓋が開いていた。

 知らぬ間に猫さんが入ってきてた。

 逃げる間も無く、背中をタッチされた。


「ふぅ。制限時間には間に合っただろう」


「負けちゃったの?」


 次の瞬間、鐘の音が鳴り響いた。


「しゅ〜りょ〜!!」





「猫田さん。捕まえたのかな?」


「どうだろうな。時間ギリギリだったし、間に合わなかったかもしれないぞ」


 俺達は会議場の前の階段に、腰掛けていた。

 ハッキリ言おう。

 視線が痛い。

 ダントツ人気の俺が、ダントツに早く捕まった。

 そして対抗だったはずの弟も、ついでと言わんばかりに捕まった。

 二人揃って、五分弱か?

 猫田さんと一緒に戻ってきた時、俺達に賭けたであろう人達の視線は、怒りというより憐みを感じたよ。

 魔王なのに最初に捕まっちゃうって・・・。

 そう言いたいんだろうな。


「待ってる時間の方が、長かったね」


「言うな。皆がチラチラ見てくるのを堪えるのも、もうすぐ終わるんだから」


 もし俺達が魔王じゃなかったら、石とか投げられててもおかしくないヘボさだった。

 だからこそ甘んじて受ける。

 誰か文句言ってくれー!

 ダサい!

 使えない!

 チビなのに魔王!

 何でもいいから、罵ってくれ。

 皆の我慢が逆に痛い。



「会議場の扉が開いた!出てきたよ」


「え・・・。猫田さん、泣かしちゃってるじゃん」


 先に出てきたのは、猫田さんだった。

 少し憮然とした感じがあるが、時間に間に合わなかったのか?

 そして後ろから付いてくるチカは、泣きながら歩いている。

 どういう事だ?


「結論から聞くと、どっちが勝ったんですか?」


「制限時間内には、私が捕まえた」


 という事は、猫田さんの勝ちか。

 結局、全員捕まった。

 まさかの大穴かよ。

 全員捕まる方に賭けてた連中が、大声で叫んでいる。

 その声が一層、チカを泣かせる原因にもなっている気がした。

 そして賭けの元締めをやっていた蘭丸、もとい本当の元締めの長可さんが出てきた。

 実は蘭丸が動いていただけで、裏で指示を出していたのは長可さんだった。

 あの人も裏で何やってるか分からないから、ちょっと怖い。


「では、結果発表します。今回の当たりは全員捕らえられるという結果になりました」


「いや、ちょっと待ってほしい」


「猫田殿?」


 結果に異議があるのか、猫田さんがストップをかけてきた。

 何か言いたい事があるのか?


「そうか!ズルしてたんだな。だから俺達、あんなに早く捕まったんだ」


「そうなの!?なんだ、そういう理由があるのか。やっぱり僕はヘマしてなかったんだな。良かった良かった」


「いえ、二人は簡単でした。こう言っては何ですが、少し馬鹿なのかと思ったくらいですね」


 ば、馬鹿!?

 まさかのおバカ呼ばわり。

 これには弟も絶句している。


「ちょちょちょ!僕等の何がそんなに酷いのさ!?兄さんはともかく、僕が馬鹿って。納得出来ないんだけど!?」


「おい。兄さんはともかくって何だ?俺は馬鹿って呼ばれても仕方ないって言いたいのか!?」


「だって、その通りでしょ。馬鹿は高い所が好きって、よく言うしね」


 え?

 そうなの?

 別に高い所が好きってわけではないんだけど。

 初めて知った。


「二人とも説明しますので、ちゃんと聞いてください」


「はい」


「ちゃんと!聞いてください」


 凄みのある言い方に気圧され、何故か俺達は正座してしまった。


「まず、呼び方はキャプテンで宜しかったですか?先に貴方の方ですが、何故あんなに早く見つかったと思いますか?」


「足跡とかが残っていたから?」


「それもあります。が、それが決定的ではない。簡単に言いましょう。魔力を全力で使って走っていた為に、魔力探知で追えば道筋が分かりました。途中から屋根に登って足跡を消したつもりでしょうが、逆に高い所に行った事の証拠となっています。そのまま魔力を追った先が、物見櫓です」


 魔力探知か。

 やり方は知ってるけど、俺の場合は視力とか聴覚を身体強化でしているから、全然考えてなかった。

 今となると、ちゃんと訓練しておくべきだったな。


「ダサっ!魔力全開で走って、その魔力の痕跡を辿られるなんて。そりゃすぐに捕まるよ」


 本当の事なので、反論の余地無しだった。

 言い方はムカつくが、じゃあコイツはどうなんだ。


「そのような事を仰っておりますが、よろしいのですか?」


「え?何で?」


「人形魔王。いえ、魔王様でしたね。魔王様が見つけられた理由は、ご自分でお分かりですか?」


「いや、まだ分からないです」


 自分の事も分かってないのに、人の事を馬鹿にするとは。

 駄目な奴だな。


「では教えましょう。魔王様はその姿になる時、何を使っていますか?」


「魂の欠片の変身魔法」


「そうですね。変身魔法ですね。では、その姿になっている時、魔力を使っているのはご存知ですか?」


「なんとなくは分かる。長時間この姿で居ると、魔力切れになるし」


「なるほど。分かっているのなら、ご自分が発見された理由も分かりますよね?」


「え?あ!もしかして!?」


「気付いたようで何よりです」


 何?

 自分達だけで完結しないでよ。

 俺にも分かるように説明プリーズ!


「キャプテンの為に説明すると、人形の姿を維持するという事は、魔力をずっと使っているという事です。その魔力を追えば?」


「なるほど!え!?じゃあコイツ、魔力だだ漏れで移動してたって事?俺の事を魔力全開で使って〜とか言ってた人は、ずっと垂れ流しで歩いてたんですかぁ!?」


「う・・・。言い訳出来ない」


「五十歩百歩の意味、分かりました?ハッキリ言いましょう。こんなんで潜入調査なんか出来ませんよ!もう少し魔力調節の鍛錬に励んでください!」


「すいません!」

「すいません!」


 二人揃って、シャキッと背筋を伸ばす。

 面白そうなんて言って、参加するんじゃなかった・・・。



「話が大きく逸れましたが、本題です」


 そういえば、ストップかけたままだったな。

 怒られたせいで忘れてた。


「・・・泣きやみなさい。今回の勝負、私の敗北だ」


「まげだ〜!ぐやじい゛〜!え?」


「私が会議場へと辿り着いたのは、たまたま助言があったから。それを考えると、私が勝ったとは言えないと思ったんだ。もし、あの時に会議場なんて言葉が出なかったら、私は最後まで町中を探していただろう」


「そしたらわたしは?」


「あぁ、合格だ」


「やったあぁぁぁ!!!」


 喜びのあまり、ジャンプしながら万歳している。

 泣いたり喜んだり、忙しない子だな。


「凄いな。僕等はすぐに捕まったのに。逆に猫田さんに敗北を認めさせるなんて」


「そうだな。この子もやっぱり召喚者なんだなと、今更ながら思ったよ」


「そして僕等は白い目で見られ、挙句怒られただけだった」


「悲しいけど、現実なのよね」


 ハァ、改めて思う。

 やらなきゃ良かった。



「では、正式な結果発表でーす!今回の勝負、モトチカ・ビビディだけの生き残りとなりました。なんと、彼女だけが生き残る方を選んだ方は、一人だけです。倍率なんと、約八百倍!」


「八百倍!?しかも一人って」


「すげー数字だな。誰だよ、そんなビッグギャンブラー」


「あ、僕だ」





「なにぃぃぃ!!!」

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