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かくれんぼ

 ・・・ん?


【おい!起きてるか?】


 あ、あぁ。

 ちょっと聞き間違いかなって思って。

 頭がついて来れなかったみたいだ。


【かくれんぼの事か?】


 聞き間違いじゃなかったのか。

 正直、猫田さんの口からこんな言葉が出るとは意外だった。


「かくれんぼ!?」


 周りに居た人達も固まっていたようで、チカの大きな声で動き始めた。


「チカ!もういい加減にしなさい。皆さんが困ってるでしょうが」


「イヤ!わたしも行くの。わたしだけ何もしないのはイヤ。皆と一緒に頑張りたいの」


 困ったな。

 親代わりのビビディは、危険を冒してほしくない。

 でも本人は、皆の役に立つ事を証明したい。

 そんな感じか。

 どちらも、相手の事への思いやりから出てる言葉なんだよなぁ。

 どっちが間違っててどちらかが正しいとかじゃない分、反対意見を出しづらい。


「ビビディ殿。まずはこの試験に合格してから、言ってもらいましょう」


「ハァ。しかし合格するような事があったら、どうするつもりですか?」


「その時はその時で考えます。私は一切、手を抜くつもりはありませんから」


 ビビディと猫田さんの話し合いの末、まずはかくれんぼをしてからという事になった。

 手を抜かないという事は、合格させるつもりは無いと判断してのゴーサインだったようだ。


「チカ。この試験に不合格なら諦めるんだよ。皆さんの時間を使ってやるんだから、真面目にやりなさい」


「はい!頑張ります!」


 良い返事だ。

 そしてビビディも、なんだかんだで良い親父っぷりを見せてくれている。

 合格してほしくないけど、真面目に頑張ってほしい。

 そんな気持ちが垣間見えた。


【なあなあ。俺達も参加しようぜ】


 は?

 何でそんな事をする必要があるのかね?


【一人を探すだけのかくれんぼって、楽しくないじゃん】


 いやいや!

 これは試験だからね?

 楽しくないとかじゃないんだよ。


【お前、かくれんぼが下手だったもんな。多分チカより先に見つかって、ダサいと思われるのが嫌なんだろ?】


 下手だったんじゃない!

 わざと見つかりやすい所に隠れていたんだ!

 じゃないと兄さんは、半ベソかくじゃないか。


【泣いてねーよ!そこまで言うなら勝負しろ!俺がお前より先に見つかったら、さっきのは取り消してやる】


 ほほぅ?

 じゃあ僕が先に見つかったら、謝ってあげるよ。


「猫田さん。ちょっといい?」


「何でしょう?手を抜けと仰るのなら、お断りしますが」


「違うよ。僕達も参加する」


「え?僕達と言うと?」




「俺と」


「僕も参加するから」


 バッグの中の人形が出てきて、二人で参加表明をした。


「あ!人形が動いてる!やっぱりすご〜い!」


 そういう反応は悪い気はしない。

 しかし、俺達もガチの勝負が待っている。

 チカよ、お前は一人で頑張るが良い。


「何を偉そうな事考えてるんだよ」


「え?何で分かった?」


「顔がそんな感じだった。むしろ僕達がチカに負けたら、面目丸潰れだからね」


「あ!その可能性を忘れてた。マジか〜。遊び慣れてる子供の方が、上手に隠れそうな気もするんだよなぁ」


 今更になって、そっちのリスクに気付いてしまった。

 これで一番最初に見つかったら、どうしよう。

 俺カッコ悪いよな。


「魔王様達も参加ですね?では、今から三十分後に開始しましょう」




「隠れる場所決まってるの?」


「おいおい。ライバルに教えるわけないだろう?」


 これも駆け引きのつもりなのか。

 人形姿の弟から、隠れる場所を聞かれた。


「そんなつもりは無い。ただ場所が被ったら、二人揃って見つかるなって思っただけだから」


「そういう考え方もあるか。だが教えん!むしろ近くに隠れられて、そっちに目が向いてもらった方が助かる」


「言うねえ。僕が負けるなんてありえないけど」


 ありえないなんて事はありえない。

 慢心してもらった方が、俺としてはありがたいから何も言わないけどな。



「三十分経ちましたね」


 猫田さんが会議場前で待っていた。

 その三十分という短い時間に、何処で聞いたのか大勢の人達が会議場の前に集まっていた。


「この人達は一体?」


「応援団かな?」


 凄い盛り上がりを見せているが、何をしているんだ?

 人だかりのせいで、盛り上がっている場所が見えない。


「ツムジ!ちょっと乗せて」


「はいは〜い。久しぶりね」


「あ、俺も俺も」


 二人でツムジに乗り、皆の頭の上を通過していく。

 盛り上がりを見せていた場所には、大きな紙が貼ってあった。

 何だろう?


「視力強化して見てもいいけど、俺は字が読めないから。前まで行こうぜ」


「そうだね」


 紙の前には、長い木の棒を持った蘭丸が居た。

 何やら大きな声で説明している。

 周りの声が大きくて、まだ何言ってるか分からない。


「俺はキャプテンかな」

「じゃあ俺は魔王様で」

「穴狙いならあの子だろう!?」


 この会話、聞いた事あるぞ。

 大学の友達が新聞持って、予想してたわ。


「賭けられてるね・・・」


「あぁ。しかも隠れてやってるんじゃなくて、こんな大々的にな」


 俺達は馬やボート、自転車といった感じだろうか。

 ちょっと力が抜けてしまった。


「その前に、気になる事がある」


「分かってるさ」


「俺の倍率は!?」

「僕のオッズは!?」


 ツムジが前に行くにつれ、紙に書いてあるヘニョヘニョ文字がハッキリと見えてきた。


「なにぃぃぃ!!!」


「おい!どうした!」


「クッ!」


 はは〜ん。

 さては俺より倍率低かったな?


「蘭丸。これ何て書いてある?」


「おっ!?お前達か。面白い事になってるぞ。今はこんな感じだ」


 魔王、約二倍

 人形、約四倍

 チカ、約二十六倍


 端数は四捨五入らしい。

 それと全員見つかるのが四十倍で、全員見つからないが二百倍を超えるとの事。

 他にも色々あるらしいが、それは置いておくとして。

 こういう事だ。


「アイアムナンバーワーン!」


「人気だけだからな!まだ始まってないんだからな!」


 気持ち良い〜!

 負け惜しみが聞こえるのが、更に良いね〜。


「此処に居ましたか。そろそろ始めますよ」



「まずは此方を説明します」


 大きな紙にルールが書かれていた。

 読んでみると、鬼ごっこの要素もあるような気がする。


「大まかには、この四点を注意してください」


 ・制限時間は一時間

 ・安土の町からは出ない

 ・見つかった相手は触られたら敗北

 ・相手を傷つけるような道具の使用は禁止


「見つかっても、猫田さんに触られなければいいの?」


「そうですね。逃げ切ってまた隠し通せれば、問題無いです」


 そうすると、隠れるのは適当にしておいて、鬼ごっこ要素で逃げる事を考えるのもアリって事だな。

 俺の身体強化なら、こっちの方が向いてるか?


「チカちゃんも分かった?」


「分かった!一時間逃げ切ればいいんだよね」


 猫田さんの一言一言に、うんうんと頷くチカ。

 なんだろう?

 その姿に癒しを感じるんだけど。

 これが父性ってヤツなのか?

 俺、まだ結婚もしてないのに・・・。


「五分後には私が移動を始めますので、ご注意ください。では、まもなく始めます」


 五分後か。

 二人ともあまり遠くに移動出来ないかもしれないな。

 でも俺は身体強化すれば行けちゃうからね。

 ご愁傷様でした。


「それでは参ります。開始!」




「さ〜て、目的地は彼処だな」


 俺はこの安土で、一番高い建物を見上げた。

 それはこの安土を守る塀よりも高い、物見櫓だ。

 そしてその物見櫓の更に上。

 屋根に当たる部分に登って、隠れるという作戦だ。

 物見櫓に登る事はしても、その屋根の上に隠れているとは思わないだろう。


「そろそろ五分経つ頃か。動き始める頃だよな」


 感覚でしかないが、時間的にも丁度良いはず。

 俺は既に物見櫓の屋根に登って隠れているが、二人はどうなのだろう?

 ちょっとだけ下を覗くとしよう。


 猫田さんの姿が見えた。

 何かを探っているようにも見える。

 此方の方へと走ってくるが、気付いているのか?

 不意を突かれて、いきなり上を向くとかあるかもしれない。

 頭を引っ込めた俺は、通り過ぎるのを期待していた。


 そろそろ十分くらい経ったかな?

 他の二人は上手く隠れただろうか。

 俺とは違って、動き出しが遅かったしな。


「どうせなら、三人とも見つからないようにしたいなぁ」


「それは無理ですね」


 自分の独り言に返事をする声。

 それは紛れもなく猫田さんだった。

 そして振り返ると、ニコニコ顔の猫田さんが立っていて、俺の肩をポンと叩いた。


「マジかよ〜。もう見つかったのか・・・」



 さてと。

 兄さんは予想通り、身体強化で一気に見えなくなった。

 どうせ身体強化でしか行けなさそうな、遠い場所へと走っていったのだろう。


「やっぱり単純だな。もっと頭を使って隠れないとね」


 会議場というスタート地点から、遠くて見つかりづらい場所。

 考えているのは、そんなところかな?

 だけど、僕は違う。

 この姿では移動速度も遅いし、何より魔法もそんなに使えない。

 だからこそ頭を使って隠れないと、生き残れないのだ。

 そんな僕が考えた場所。


「それは此処だ!」


 その場所は、大小様々な木材や資材が置いてあった。

 そして紙や飲食した時に出るようや生ゴミや、不要な壊れた道具などが置いてある場所。

 この場所はゴミ置き場である。

 ゴミ箱の中とかは見つかるだろう。

 蓋を開けたら其処に居ます、みたいなのはよくある光景だ。

 だからこそ、今までのかくれんぼでは見た事が無い、新しい方法を取った。


 ゴミ袋が沢山ある中で、中身が見えない袋の口を開いた。

 そしてその袋の中へと入る。

 袋の中が一杯だと無理だが、少しの袋なら可能だろうとは思っていた。

 そのまま口を中から結んで、ゴミが散乱しないようにする。

 少し不格好な結び方だが、こんな事で怪しむ人は居ないだろう。


 もう十五以上経ったか。

 たまにゴミを捨てに来る人がいたが、僕がこの袋に入っている事に気付いた人は居ない。


「これなら一時間、やり過ごす事も余裕かな」


 ほとんどの人が通り過ぎていく中、僕は小声で呟いた。

 誰も返事をする人なんか居ない。

 これは勝ちだろうと思っていた。

 その時、僕は身体が宙に浮いたような気がした。


「不燃ゴミの方で良かったですよ。流石に生ゴミの中に、手を突っ込みたくはなかったので」


 上を向くと、ニコニコした猫田さんの顔が見えた。

 そして頭にポンと、掌を置かれた。


「絶対に見つからないと思ったのに・・・」




「おい!猫田さんが誰か連れて戻ってきたぞ!?」


 会議場の前では、誰かがそう大声で叫んでいた。

 賭けの対象の人物なのか。

 皆は一斉に視線を此方へと向けた。


「魔王様だ!魔王様が見つかってるぞー!」


 一番人気だった俺が捕まった事に、周りから大きな溜息が漏れた。

 しかも一番最初に見つかったのもあり、更に視線が痛い。


「待て!猫田殿の左手。何か持ってるぞ?」


 そして次に気付くのはこっちの方だろう。

 俺の次に見つかったみたいだが、何か臭い。

 アイツ、ゴミ置き場なんかに隠れていやがった。

 猫田さんは首根っこを掴んで持っているが、俺なら引きずるね。


「人形だ!人形も捕まってるー!」


 しかもアイツ、ピクリとも動かない。

 このまま人形のフリでもするつもりなのか?

 もう、とっくに皆にバレているというのに。


「猫田さん。ちなみに僕と兄さん、どっちを先に捕まえたの?」


「捕まえたのはお兄様の方です」


「へぇ。そうなんだ」


 アイツ、分かってて言っただろ。

 周りにわざわざ聞こえるように、皆の近くに来てから聞きやがった。


「でも、最初に気付いたのは貴方の方ですよ」


「え!?」


 ざまあー!

 最初に見つかってるんじゃんかよぉぉぉ!!


「面倒なので、先に遠い方から片付けようと思いまして。その後、帰りにゴミ置き場へと寄った次第です」


 うん?

 それは俺も気付かれていたって事か?


「ちょっと待って。ハッキリ聞くけど、どっちが先に見つかったの?」


「俺よりもコイツでしょ?」


「先に気付いたのはゴミ置き場ですよ」


「ハッハー!俺の勝ちだ!」


 やっぱり俺の方が・・・


「勝負でもしていたんですか?それならハッキリ言いましょう。どっちも駄目ですね」


「駄目!?」


「点数で言えば、五点と八点。むしろ同じと言った方が良いでしょう。五十歩百歩ってご存知ですよね?」


「五十歩百歩って・・・」


「俺達、二人とも赤点なのね」


 流石にハッキリ言われて、凹んだわ。

 コイツも項垂れているし。

 むしろコイツの場合、頭は悪くなかったから赤点経験なんか無いだろう。

 余計にショックかもしれない。


「さて、本命を探しに行って参ります。思ったより厄介だな」


「本命?」


「チカの方が俺達より本命だって言うのか」


 返事もせずにそのまま立ち去った猫田さんだったが、予想を裏切る展開へと発展していった。




「捕まらん」

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