表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/1299

木下家と滝川家

「慶次ぃぃぃ!!」


 名前を聞いた前田さんが、何やら怒り始めた。

 何がどうしてこうなった。


「この前田さん、怖い・・・」


「おい、怯えてるから落ち着いてくれ」


「申し訳ありません。取り乱してしまいました」


 怒った理由を聞いてみたところ、あまり子供には聞かせたくないというので、少し離れた所で小声で話してくれた。


「どの町で出会ったのかは知りませんが、子供と仲良くなっているという事は、おそらく仕事をサボっていたはず。今や敵となっておりますが、恩のある滝川殿に仕えているのであれば、サボるなど言語道断ですよ」


 何故サボっていたと決めつけているのだろうか?

 休憩中とかその日は休みとか、そういう可能性があると考えないのかな?


「それに今思い返せば、私の愛馬も勝手に連れ出してますからね。思い出してきたら、段々腹が立ってきた!」


【それ、松風じゃね?漫画でも出てきた馬だろ】


 アレか!

 その辺は史実に近いんだな。

 でも勝手に連れて行かれた後の前田さんを想像すると、ちょっと笑える。


「そういえば、此処に居るのは内緒だよって言ってた。あ、内緒なのにバラしちゃった」


 振り返ると、チカが真後ろに立っていた。

 内緒話の意味が無い。

 子供は、この辺の空気は読めないのか。


「アイツめぇぇ!やっぱりサボっていやがった!」


「だから、その顔をやめろと言っている」


 犬歯をむき出しで唸る姿は、怒っている犬と変わらない。

 近寄りたくないのである。

 そんな姿を子供の前で見せたって、怖がられるだけで得なんかありゃしない。


「ところで、何処で会ったかは覚えている?」


「うーんと、あんまり大きくない町だったよ」


「どんな人が居たか覚えてる?」


 これはどの領地で会ったか、ある程度の指針になるから聞いてみた。

 もしドワーフが多い町なら、滝川領だろう。

 でも獣人だったら?

 エルフの可能性は?

 ミノタウロスやオーガの可能性だってある。


「人?人なのかなぁ」


「そうか。ヒトじゃないのか」


 この子が人じゃないって言う事は、おそらくエルフとかじゃない可能性が高い。

 見た目はヒトに近いから、エルフなら人って言うだろう。


【お前、今日は冴えてるな】


 フッフッフ。

 バックにあの音楽を流してもらいたいくらいだな。

 てれてーてーてれてーてーててー。

 名探偵阿久野、復活!


【自分で名探偵って言う奴は、名探偵じゃないフラグでも立ててるのか?】


 そんな事はない。

 とりあえず続きを聞こう。


「毛深いとか羽があるとか、そういう印象に残ってるのある?」


「ある!ネズミさんだった!」


 オイィィィ!!

 答え言ってるじゃねえぇかぁぁあ!!

 名探偵は?

 名探偵の活躍は?


【無いなあ。もうネズミの獣人って分かりきってるし】


 空気読めよ!

 僕の活躍を皆に知らしめる為、もう少し遠回しに言うとかさぁ?


【お前、そんな事言ってたらヤラセじゃないか】


 ヤラセでもいいじゃない!?

 バラエティだってさ、ヤラセって分かってても面白いモノは面白い。

 その辺は周りも空気読めば、分かるって事だよ。


【それをこの十歳ちょいの子に求めるというのか?】


 ・・・ごめんなさい。

 それは無理があったね。


【とにかくだ。前田さんが認めるくらい強いなら、仲間に引き入れるのが先決だ。場所を確定させて、会いに行くくらいはしても良いと思うんだが】


 それはそうだ。

 なによりも、帝国に捕まっていないのも大きい。

 滝川一益が帝国と手を組んだとしても、ドワーフじゃない慶次の身の安全なんか保障されてないからね。


「ネズミの獣人達が何をしていたか、分かる?」


「それが、戦うの準備って言ってた。もうすぐ大きな戦いをするって・・・。隠れてその話を聞いてたんだけど、途中でネズミの人達にバレそうになったの。それで逃げてる時に犬の人、前田さんに会ったの。何でか分からないけど助けてくれて、代わりに此処に居るのは内緒だよって言われた」


 おいおい。

 大きな戦いをするって、戦争か!?

 そんなの聞いてないぞ!


【ネズミの獣人って、木下だっけ?秀吉だよな?】


 そうだね。

 しかもネズミの獣人が戦争するって言ったら、隣の滝川か帝国のどちらかだろう。


「魔王様。今の話が本当であれば、この世界の支配図が大きく変わります」


「前田さん。いや又左。明日の朝、代表者を会議場に集めてくれる?」


「かしこまりました」


「ビビディさん。今の話、前から知ってましたか?」


 そう。

 チカが知っていたなら、保護者のビビディが知らないわけがないのだ。

 何故それを話さなかったのか。

 場合によっては、手を借りるのはご遠慮願いたい案件でもある。

 彼はその話を聞いて、顔色を変える事は無かった。

 やましい気持ちなど持っていないとでも、言うかと思ったんだけどな。


「正直な話、私にも打算というものがあります」


「打算?」


 僕等に手を貸して、何か利益を得るという事だよな。

 そんなの王派閥の復興くらいしか、思いつかないんだけど。


「ズンタッタは既に魔王様に傾倒しているようですが、私は違う。私の王はただ一人!」


「ドルトクーゼン国王だけって言いたいのか」


「その通りでございます。私の願いは王を助け出し、ドルトクーゼンを以前の国に戻す事。今の帝国は、全く別の国と言っても過言ではない!」


 王子は認めない。

 王はただ一人か。

 もし王が病死でもしたら、どうするつもりだったのだろうか。


「それで、その打算の中に僕等はどんな力があるのかな?王を助けろというなら、今は難しいと思うけど。いつかは助けたいとは思ってるよ」


「王を助けるのは我等が役目。しかしその力が足りません。今はまず、王派閥の集まる場所が欲しい。その為に安土を、私達の拠り所とさせていただきたい」


 やっぱり図太い奴だな。

 魔王が住む城を作る代わりに、この城がある都を集合場所にさせてくれって言ってきた。


【別にいいんじゃないか?それくらい】


 なんとも言えないんだけど。

 元々、帝国は魔族を捕らえる為に襲ってきているのだから、いつかは此処も危ないかもしれない。

 でもそれは、今すぐの危険ではないかもしれないんだよね。

 それなのに王子派閥からしたら厄介な王派閥の人間を、わざわざ集まる場所が魔族が集まる都だって言ったら、攻め込んで一石二鳥で済むから今から行っちゃうか?って話にもなるかもしれない。


【そんな事は、起きてから考えればいいじゃない。逆に言えば、今は王派閥の連中とは敵対する事は無いって事だろ。敵の敵は味方ってね】


 そこまで簡単に考えていいものなのか、ちょっと疑問には思うところもあるけど。

 確かに疑わしいと言って行動しなければ、先に進む事も出来ないか。

 だったらやる事は決まったかな。


「その案を飲んでもいい。しかし、この安土に居る間は、僕達の支配下に入ってもらう。もし王を助けに行くと言っても、勝算も無いようなら僕は許可しないからな」


「それでよろしゅうございます。私達を受け入れてくださり、誠にありがとうございます」


 跪くビビディ達と、そのご一行。

 周りの人達が一斉に同じ行動を取った事で、チカは凄いと喜んでいた。

 別に組体操とかしてるわけじゃないから。

 ただ跪いただけだから。


「明日、魔族の方で今後の事を決める会議がある。だからビビディ達も参加してくれ」


「かしこまりました。魔王様」




「さて諸君。今回から新たな仲間が加わる事になった。ヒト族ではあるが、城作りでは帝国一らしい。ズンタッタの知り合いだから、仲良くしてやってくれ」


 ビビディ達を紹介して、今後の話を進めた。


「今回の会議だが、木下領での動きについてだ。どうやら戦争の準備をしているらしい」


「戦争ですか!?相手はもう分かっているのですか?」


「いや、そこまでは掴んでいない。しかし普通に考えれば、相手は帝国かもしくは隣の滝川領との戦だろうね」


 それはほぼ確定だと思う。

 何しろ彼等が戦う理由なんか、襲撃してくる帝国。

 それに協力している滝川くらいしか居ないからだ。

 ただし、何故周囲に助けを求めないのかが気になるところではあるけど。


「我々もそれに介入しろと?」


「うーん、どうした方が良いと思う?」


 僕的にはそれこそ打算的に動くのであれば、様子だけを伺い何もしないのが得策だと思っている。

 木下勢が不利になるようなら、手を貸して恩を売る。

 木下勢が有利ならば、木下滝川両軍の戦力を把握出来るだけでも大きい。

 だけどこの案は言えない。

 この案は、同じ魔族を見捨てているようなものだから。

 敵ならば構わないと思うが、実は味方でしたってなるとね。

 それに発案者が僕でしたなんてバレたら、気まずくて顔なんか合わせられないし。


「行きましょう。ただし今回は潜入捜査という形を取り、本当に極少数のみで向かうのがよろしいかと」


 前田さんが珍しく、率先してマトモな意見を言ってきた。

 そう。

 マトモな意見を。


「今回の件、私は少なからず関係しています。安土の防衛任務を甘く見ているわけではないですが、私も参加させていただきたいと思います」


 うーん、これは迷うな。

 理由としては、前田さんの武器にある。

 あの人の槍、長過ぎなんだよね。

 軽く五メートルを超える長さの槍を、潜入捜査でどのように持ち込むつもりなのか。

 言っている事は理解出来るのだが、流石にそれを考えると即決しかねるんだよなぁ。


「潜入ならば、私が行きましょう」


 お?

 前田さんの影から猫田さんが出てきた。

 そうだよ。

 この人の方が向いてるじゃん。


「そうだね。前田さん留守番で猫田さんは参加にしよう」


 マジかーって顔やめなさい。

 だってアンタ、潜入とかよりも対多数で槍ぶん回せる防衛の方が向いてるもの。

 諦めておくれ。


「あとは誰が良いかな?」


 個人的には太田とゴリアテは不可。

 デカ過ぎて潜入に向かない。

 ネズミの獣人という比較的小さめな部類の中で、二メートルもあるのが歩いていたら、目立ってしょうがない。


「だからお前等は駄目ね」


「え!?ワタクシ何も言ってませんが!?」


 言う前に釘を刺してるんだよ。


「俺も行こう」


 え!?

 まさかこの会議に来てると思わなかった。

 てっきり、子供達と一緒に居るものだと思ってたから、頭の中から存在を忘れていたよ。


「佐藤さん。あんまりこういうのに、参加したがらないと思ってたんですけど」


「確かに俺は、もう帝国と関わるのは避けたいと思っている。今では子供達に野球を教えている方が楽しいしね」


「じゃあ何で急に参加すると決めたんですか?」


「さっき前田さんが、少なからず関係しているって言ってたじゃない?でも前田さんは参加出来ない。まあ理由はなんとなく分かるんだけどね。あの槍じゃあ潜入には向かないわな」


 あぁ、なるほど。

 みたいな顔を本人はしている。

 今更気付いたのかよ!


「俺は能登村で、前田さんに助けられたと思っている人間だ。勿論キミには更に感謝している。だから俺は、前田さんが関係しているというなら、是非とも力になりたい」


「佐藤殿・・・」


「それに俺も前田さんとの手合わせで、かなり強くなったと思ってるのもあるよ?」


 なるほど。

 ボクサーなら手ぶらでも行けそうだ。

 どうせだからミスリルで手甲でも作って渡せば、コンクリくらいは簡単にブチ抜いてくれそうな強さはある。

 参加してもらおう。


「よし!じゃあ佐藤さんと猫田さん。それと僕で行こう。あまり多くても危険が伴うし」


 そんな時、思わぬ声が上がった。


「ハイ!わたしも行く!」


 え?

 チカちゃん?


「だって、わたしが喋ったから行くんでしょ?だったらわたしが行くのが普通じゃない?」


 普通ではないと思うんだけど。


「それにわたし、帝国のブラックキャットって呼ばれてるんだからね!」


「ちょ、ちょっとチカちゃん!?」


 ビビディが慌てて止めに入るが、既に遅い。

 それとブラックキャットって、誰が呼んでるの?


「ブラックキャットねぇ」


 チラッと猫田さんの方を見たけど、全く興味を示していなかった。

 猫の獣人の前でブラックキャットって名乗るのも、なかなか肝が座ってると思う。

 まあ子供だから、深く考えていないだけとも言うが。


「それにわたししか、前田さん会ってないじゃん!顔分からないじゃん!」


「私は知っている」


 猫田さんがその言葉に反論した。


「むぅ!猫さん卑怯だぞ!ブラックキャットの方が凄いんだから、わたしも行く!」


 何が卑怯なのか分からないが、どうしよう。

 何か良い案はないものか。


「子供が私達について来れるものか」


「魔王様だって子供じゃないの!わたしはブラックキャットなんだから、大人より凄いのよ!?」


「魔王様とお前を一緒にするんじゃない。だったら、私達について来れるか、その力を示してみろ」


 なんか、猫田さんの言い方がボスっぽい。

 僕より魔王みたいな言い方だな。


「力を示すって何をするの?」


 そうだね。

 潜入捜査だから、戦闘能力よりも違う力が必要だけど。

 戦うってわけじゃなさそうだな。

 何をさせるんだろ?




「かくれんぼだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ