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チカの話

 驚いたな。

 こんな小さな子まで、召喚されていたなんて。

 此処に居るという事は、王子に利用される前にビビディが連れ出したってところか?


「何で此処に居るのか分かる?」


「わたし、おたふく風邪で寝てたのね。外に出れなくて、もうイヤだ〜!って思って、朝起きたらこの世界に来てたの。」


 そんな理由!?

 これはちょっと可哀想だろ。


【こんな子供まで利用しようとするのは、倫理的にどうなのよ?】


 駄目に決まってるでしょ!

 さっきの話だと、ズンタッタが帝国を出た後に脱出した感じかな?

 それ考えても、数年前?

 そうするとこの子、十歳前後で両親と引き離された事になる。


【俺等みたいにほとんど会ってないとか、小さかったから覚えてないならいいけど。そういうわけじゃなさそうだしなぁ】


「知らない場所で寝てて、怖いおじさんに連れていかれそうになったんだけど」


「私が引き取ったのですよ」


 ビビディが横から口を出してきた。


「猫と遊んできなさい」


 チカこと、遠藤元親に招き猫と遊んでくるように促し、ビビディは俺に話の続きをしてくれた。


「ズー、ズンタッタ・ヒポポタマスが出兵する直前、たまたまあの子を見掛けました。病気を患っていたのに、無理矢理に歩かされているのを見かねて、無理を言って引き取ったのです」


「召喚者を無理言っただけで、引き取れるものなの?」


【それ、俺も思った。帝国の中で召喚者、その程度の扱いなのか】


「そこは口から出まかせですよ。あの子はおそらく、エネルギー抽出の培養液に漬けられるはずでした。だから、病気の者なんかを入れて大丈夫なのか?もし病気が他の培養液の連中にも蔓延したら、どうするつもりだ?とね」


「なかなか凄い事言いましたね」


「流石に病人が召喚されたのは今まで居なかったのと、こんな子供が来たのも初めてだったのもあります。慎重論が勝って、だったら病気が治るまで待てばいいという判断を取られました。そしてまた適当な事を言って、私が病気が治るまで面倒を見ようと引き取ったのです」


「それで、その後はどうしたんですか?」


 引き取った後に、どうやって逃げたのか。

 それが気になる。


「しばらくすると病気も治り元気になったのですが、その頃に私が出兵をする事になりました。場所は滝川領。ドワーフの都市の防壁強化でした」


「ドワーフの!?それで、滝川一益には会ったんですか?」


 今の話が本当なら、やっぱり帝国はドワーフと繋がっているという事が確定なわけだ。

 そうなるとドワーフの都市には、帝国軍人も大勢滞在しているという事か?


「私は会っておりません。というより、途中で脱走しました。出兵の直前に王が軟禁されたという噂が流れ、王派閥の者達と連動して軍から抜けたのです」


「滝川領に向かう最中にですか?じゃあ今まで、何処に居たんです?」


「実は滝川領に向かう途中、多くの小さな町村を潰して回りました。そこで捕らえられた魔族は帝国へと連行され、残された町村は誰も残っていません」


「もしかして・・・」


「その町の一つに隠れ住みました」


 驚いたな。

 神経が図太いというか、よくそんな事思いつくもんだ。


「戦闘になって多少の家屋は壊れましたが、そんなものは資材があればすぐに直せます。それに一度潰した小さな町に、わざわざ戻ってくるほど暇な兵は居ませんよ」


「何人くらいで住んでたんですか?」


「最初は二十人くらいですね。その後、仲間が素性を隠して買い出しに行ったりしてる時に増えていって、最終的にこの人数です」


 五十人近くで住んでたら、もう隠れてるって言わないような?

 よくバレなかったな。


「あとは、あの子がね・・・」


 そう言うと、少しお怒りの様子。

 というよりは、心配してる感じか?


「あの子が何かしでかしたんですか?」


「流石に召喚者だけあって、我々よりも能力が高いのですよ。森の中に入って遊んでいたせいか、身体能力が異常に高くなりまして。それと召喚される前は、しんたいそう?なるものをやっていたらしいです」


「新体操!?」


「わたし、新体操で全日本ジュニアに出てたんだから!」


 招き猫を追いかけてこっちに走ってきた時、サラッと重大発言をして去っていった。

 全日本ジュニアって、やっぱり凄いよね?


【そりゃ凄いだろ。ただ野球でもそうだけど、小さい頃からそのまま大成していくかってわけではないからな。もしかしたらオリンピックに出るような選手になったかもしれないし、途中で挫折して競技自体を辞めていたかもしれない】


 経験者は語るってヤツだね。

 貴重なご意見、参考になりました。


「あの子は隠れ町での生活に飽きてしまい、時々町を抜け出していたんですよ」


「まあ、見た感じ同世代の子も居ないですしね。遊びに行きたくなるのも仕方ないかと」


「同い年くらいの魔王様が言うのでしたら、そうなのでしょう」


 いや、全然同い年じゃないです。

 中身はもうアラサーです。

 ・・・自分でアラサーって認めると、なんか凹んできた。


「そうして買い出しに行く連中に隠れてついて行き、他の町へと遊びに行ってしまうのです。何とも言えないのが、そこで貴重な情報収集をしてくるので、あまり強く怒る事も出来ず、今までズルズルと来てしまったんですが・・・」


 情報収集か。

 壁に張り付くあの動きを見れば、確かに出来なくはないと思う。

 小さいし、見つかりづらいだろう。

 でも、そこはやっぱり怒るべきじゃないかな?


【そしてまた泣かれると】


 うっ・・・。

 痛い所を突くんじゃないよ。


「ちなみに今回の安土の情報も、あの子が聞いてきたんです。ズンタッタズンタッタ!って歌いながら帰ってきましたよ」


 そりゃ、日本人からしたらズンタッタって名前だと思わないし。

 子供からしたら、それこそネタにされるレベルだろう。

 それが幸いしたからこそ、来てくれたんだけどね。

 感謝してもいいけど、危ない事をしてきたんだから、敢えて言わないでおこう。


「あの〜、猫が目の前で消えちゃったんだけど。アレも魔法なの?」


 招き猫は役目を果たして、帰ってしまったようだ。

 残念そうな顔をしているが、十分遊んだと思うぞ?

 僕等が初めて見た時なんか、捕まえてすぐに居なくなっちゃったし。


「アレは招き猫っていう幻獣なんだよ。僕と縁がある人や物。まあいろんな何かが近くに居ると、教えてくれるんだ」


「ふーん。でも今回は誰が縁がある人だったんだろうね」


 お前だ、お前!

 自分だと分かってないのか?

 十二歳って小学生だっけ?

 僕、こんなに頭悪かったかな?


【お前は特別マセてたと思うぞ?なんというか、スカしてた気がする】


 は?

 そんな事してないよ!?

 僕は別にマセてもいないし、スカしてもいない!


【あくまでも、俺からしたらそう見えたってだけだから。俺からというよりは、同級生からって言った方がいいのかな?お前とどうやって接していいか分からんみたいな相談されたし】


 僕聞いてないよ!?

 小学生の時、女の子はよく喋ってたけど、男の子の友達が少なかったのはそのせいかぁぁ!!

 今思えば、あの頃が一番モテた気がするよ・・・。


【それは俺も思ったよ。スポーツ出来るとモテたからな。今はそんなの全く関係無いし。ちょっと悲しい・・・】


「ところでわたしたち、今度から此処に住むの?」


「そうだね。しばらくは此処に滞在してもらう事になるね」


「そうなんだ!此処にはいろんな人が居るから、楽しそう!」


 いろんな人か。

 いろんな種族の魔族が居るからな。

 この子にとっては、魔族もヒト族も関係無いんだろう。


「そういえば、ビビディさん達の住居ってどうなってるんだ?」


「ズンタッタ殿が、既に手配していると報告を受けています」


「流石はズンタッタだ。仕事が早い」


「ズーめ。魔王様から認められているとは。流石だな」


 正直、ズンタッタは凄い。

 下手な魔族の町長よりも、指揮や統制については言うまでもない。

 それに加えて知識もあり、めちゃくちゃ弱いわけでもない。

 魔族の戦士と比べると、ミスリルを装備していないと非力かもしれないけど。

 それでも頼りになる人物だ。

 そんなズンタッタと仲が良いのだから、この人もそれなりに凄いのだと思うんだけど。

 さっきの話を聞くと、大味というか大雑把というか。

 どことなく、いい加減な気がしないでもない。


「おじさん、お腹空いた」


「そういえばそうだな」


 チカがビビディの袖を引っ張りながら、訴える。

 よくよく考えたら、安土に来てから何も口にしていない。

 お腹が空くのも当たり前だった。


「ラーメン食うか?醤油と味噌、どっちが良い?」


「ラーメン!?ラーメンが食べられるの!?」


 その食いつき、やはり日本人だなと思う。

 この世界では食べられない物の名前を出すと、皆同じ反応を示す。

 佐藤さんも斎田さんも、やはりラーメンの誘惑には勝てなかった。

 ちなみにちょっと前から、味噌ラーメンの開発に成功している。

 今までは納得がいく味が出せなかったのだが、コーンとバターの組み合わせに合う味を求めた結果、ハクトがとうとう完成させてくれたのだった。

 新味が出来たと諜報魔法で丹羽さんに伝えたら、若狭へ早く来てくれという一言が返ってきた。

 まあ、それはおいおい考えておこう。


「ハッハッハ!僕に不可能は無い!そのうち塩ラーメンも完成させるからな」


 塩ラーメンは、未だに完成に至っていない。

 醤油と味噌は大豆が関係しているが、塩ラーメンはその名の通り塩がメインだ。

 しかしその塩が問題だった。

 この世界、塩が高い。

 岩塩しか採れないからだ。

 海に行けば早いじゃないか。

 そう思っていたのだが、海は森なんかの比ではないくらい危険らしく、馬鹿な事言うなと一喝されたくらいだった。

 貴重な塩を試作でガンガン使うわけにもいかず、故にほとんど作る事すら出来なかった。

 あと単純に美味い塩ラーメンって、あんまり食べた事が無いのも大きな理由でもある。


「まだ諦めておられないのですね」


「当たり前だよ!僕はまだ豚骨と坦々麺という大きな課題も残っているんだ。塩なんかで躓いていられない」


 長可さんから呆れられた声を掛けられるが、それはそれ。

 僕にはまだ、作っていない味があるんだ。


「わたしは醤油!いや、味噌もいいな〜。おじさん、味噌頼んで半分ずつ食べよう?」


「うん?よく分からないから任せるよ」


 この二人の会話は、ちょっとしたお爺ちゃんと孫みたいな感じに聞こえる。

 親子よりもこっちの方がしっくり来るのは、何故なんだろう?


【可愛がり過ぎだからじゃないか?親バカっていう感じでもあるしな】


 なるほど。

 親バカって言われると納得だわ。


「じゃあ、屋台に行こうか。ラーメン屋は複数店舗あるから、他の人達は違う店舗に行った方が、待たなくて済むよ」


「では、私が皆様をお連れしましょう」


 僕と長可さんで分かれ、別々の店舗へと向かった。



「魔王様!いらっしゃいませ。今日はどうされますか?」


 挨拶をしてくれたのは、ハクトからラーメンを教わって独立した獣人だった。

 ハクトは料理人専門でやっていくわけではない。

 彼の中では、僕との旅が優先なのだ。

 だからこそ、自分が弱いままだというのは嫌だと言うので、今は魔法の訓練を再開している。

 今ではハクトの弟子が十人近くは居る。

 若狭でも出店しているが、向こうはまだ醤油オンリーである。


「僕は味噌ラーメンにトッピングネギ追加。それとチャーシューご飯もお願い」


「は〜、本格的なラーメン屋だよぉ!凄い久しぶりに食べる」



「はい、醤油ラーメントッピング全部入りと味噌ラーメンの味玉入りです」


 どうやらビビディは、食べ方が分からないらしい。

 チカが教えて一口食べた。


「何ですか!これは!?」


 うむ、いつもの反応だな。

 もはや驚かれるのにも、慣れてきてしまった。

 チカの方はもう、夢中になって食べている。

 気持ちは分からなくもないけどね。



「魔王様!ちょっと相談したい事がございまして」


 前田さんが珍しく此方へとやってきた。

 この人は防衛担当の総責任者の立場になっている。

 要は防衛大臣みたいなものだ。


「どうしました?何かありましたか?」


「外壁の事で、少し改良を加えてほしいのですが」


「アレ?この人、前田さんに似てる」


「え?」


 何でチカが前田さんを知ってるんだ?

 チカって、この都市にも情報収集で入り込んだのか?


「如何にも、私は前田だが?」


「あ、この人も前田さんなんだ」


「違う前田に会った事あるのか!?」





「あるよ〜。前田利益さんだったかな?けいじって呼んでくれって言ってたよ」

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