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ズンタッタの知人

「城ぉ!?」


 開墾地の塀を作り、僕の仕事は終わったと思っていたら、新たな仕事を言い渡された。


「そうです。この都に相応しい、立派な城です」


「城なんて必要なのかな?」


 正直、そんな物が必要だとは思えない。

 大きいだけで特に使い道が無いからだ。


「必要も何も、王たる者が下々と同じ高さに住むというのは如何なものかと。それに貴方は、王は王でも魔王ですよ。私達のドルトクーゼンにあるバイエルヴァイス城も立派ですが、それに負けない威容のある城を作りませんと。他の国々から侮られてしまいますぞ?」


 他の国からナメられても、特に困る事は無いと思うのだが。

 むしろ油断を誘えて一石二鳥じゃないのか?

 そもそも城作りとか、何も知らんし。


【でも名古屋城とか大阪城は知ってるだろ?】


 知ってるだけなら知ってるよ。

 姫路城や熊本城も知ってるし、ゆるキャラで有名な所にも城があるのは知ってる。

 だけど名前を知ってるだけで、外観の写真を見せられてもどの城かも分からないし、中なんて観光用に作り変えられた所しか知らないよ。


【それもそうか。名古屋城の中とか、普通に歴史とかのパネルがあったしなぁ。当時の城の中なんか、俺達みたいな現代人には分かるわけないか】


「魔王様?」


「あぁ、ごめん。城についてちょっと考えてた。でも僕等、城作りなんか出来ないよ?ズンタッタは城作りとか出来るの?」


「流石に私も城は作った事無いですな。あっても砦の中にある山城程度でしょうか」


「それに城とかって、王が作るモノじゃなくない?普通は家臣が建造して、ハイどうぞみたいな感じじゃないの?」


「普通はそうでしょうが、魔王様は魔法でチョチョイと作ってくれるかなって」


 チョチョイってなんだ。

 そんな簡単に作れたら、僕だって渋ったりしないっつーの。


「仕方ない。城作りに使えそうな人材を探そう。誰か心当たりある?」


「ない事はないですが、ヒト族ですよ?私の知人に、建築に関する腕が帝国一だった者がおります。しかし同じ王派閥だった者なので、今は散り散りになり何処に居るのやら」


「うーん、そうだなぁ。じゃあ募集しようか?」


「募集、ですか?」


 若狭での丹羽さんの諜報魔法、森の囁き。

 アレはハッキリ言って、どの魔法よりも使い勝手が良いと思った。

 何故なら、聞くだけじゃなくて話す事も出来たから。

 本来は草魔法の上位に当たる魔法みたいだが、草魔法の伝書で勉強がてら、丹羽さんにこの魔法だけは教わったのだ。

 魔力量にもよるらしいが、遠方でも使用は出来るという話だった。

 僕くらいの魔力量なら、安土から若狭への諜報魔法も使用可能だという事だ。

 しかし丹羽さんが若狭から安土へと使うには、少々キツイらしい。

 二言三言で魔力が半分くらい減るという話だった。

 それなら会話ではなく、此方から手紙のように一方的に伝えて頼むという事なら出来る。

 そういう使い方が出来るという事だ。


「丹羽さんに伝えて、多方面に人材募集をしていると伝えてもらおう。それこそ、帝国にも王国にも。見知らぬ騎士王国や連合にすら伝える」


「それで私の知人を、どのように探すのですか?」


「募集主をズンタッタにする。安土という都市で、ズンタッタが人材募集をしているぞ、ってね」


「私の名前を使うのですか!?しかしそうすると、帝国から横槍が入るのでは?」


 そっか。

 そういう可能性もあるのか。

 そりゃ帝国の軍人を、勝手に雇用しているようなもんだし。

 どうしようかな。


【ズンタッタって、なんかあだ名とかないのか?例えば王派閥の連中から呼ばれてた名前とか。ヒポポタマスなんだから、タマちゃんみたいな?】


 タマちゃん・・・。

 そりゃこの容姿でないだろ。

 でも、その案が使えない事はないかもしれない。


「ズンタッタってさ、王派閥の連中にだけ呼ばれてたような名前ないの?あだ名とか二つ名みたいな」


「二つ名ですか?一部の者からは、ジャック・ザ・ズンタッタと呼ばれてましたけど。個人的にはあまり好きじゃない呼ばれ方ですね」


 ジャック・ザ・ズンタッタって、どういう意味?

 切り裂きジャックみたいな感じか?

 そんな切り裂き魔には見えないんだけどな。

 本人に聞くのも悪いし、由来はいいとして。


「その名前で募集したら、集まると思う?」


「そうですね。仲の良かった者には伝わりそうです。もしかしたら他の王派閥の者も、これを聞いて安土へと来てくれるかもしれません」


「じゃ、それでやってみよう」


 翌日、若狭へと諜報魔法、森の囁きを使用して丹羽さんへと内容を伝えた。

 直後に御意という言葉だけ返ってきて、数日後に各所への伝令を出したという連絡が来た。


「後はどの辺りまで伝わってくれるか、ですね」


「そうだな。人任せだから文句は言えないけど、どのくらいまで広まっているんだろう?」


 僕達の知らない土地まで広まっていれば、かなりの確率で知られるとは思うんだけどね。

 それに丹羽長秀っていうこの世界でも有数の有名人が、魔王の城を作るなんて宣伝すれば、どの国も興味はあるはずだ。


「そういえば、門番や衛兵達には先に知らせないと駄目だ」


「何故です?」


「だって、ヒト族が此処にやってくるなんて、攻撃を仕掛けに来たのかと勘違いするだろう?」


「それもそうでした。私も此処での生活に慣れてしまったせいか、だいぶ感覚が麻痺してしまってますな」


 笑いながらそんな事言っているけど、それはそれで好ましい事なんだよね。

 人と魔族が一緒に暮らせるっていう証拠なんだから。




 数ヶ月が経ったある日、珍しく鐘の音が鳴り響いた。

 城も無い状態だが、一応城下に当たる町の連中は、皆塀の上を見上げた。


「ヒト族が来たぞぉ!」


 それはどっちの意味でのヒト族なのか。

 侵略行為をしに来た、帝国や王国の軍隊。

 もしくは雇用目的で現れた、城作りの出来るズンタッタの知人連中。

 吉と出るか凶と出るか。


「門番は中へ入りなさい。確認をして敵対行動を取っていないようなら、私が出ましょう」


 長可さんが騒がしい門前までやって来て、指示を出していた。

 上の者が出てきた事で、落ち着きを取り戻す衛兵達。


「数にして約五十。帝国の旗を持っております!あ!槍の先に白い布が取り付けてあります!」


「分かりました。丁重にお迎えしなさい」


 武装を解いた帝国兵を迎える為、門番は再び外へと出て行った。

 そして鐘の音を聞いて走ってきたズンタッタが、まもなく迎え入れるというタイミングで、門前に到着。


「遅かったな。どうやら作戦が成功したようだぞ?」


「まさか、本当に現れるとは・・・。数は!人数はどれほどおりますか!?」


 同じ王派閥の人間が、どれだけ来たか知りたいのだろう。

 そもそも王派閥って、どれくらい居るんだ?

 疑問に思ったが、おそらくは既に生き残りは少ない気もする。

 聞くのは藪を突くような行為だと思ったので、やめておいた。


「約五十人みたいだぞ。白旗を持って現れたという話だが、まだ油断は出来ない。ズンタッタは下手をすると裏切り者の粛清対象になるだろうから、見えない所に隠れていてくれ」


 門番との応答が終わり、次は長可さんの出番だ。

 若狭遠征からそのまま担当をしてもらい、引き続き交渉の席に着いてもらった。



 そう長くない時を待っていると、長可さんが此方へとやって来る。


「やはり丹羽殿の伝令を聞き、やって来たと申しております。代表者の名前は、ビビディ・キャメル。城作りの件で雇用してほしいとの事です」


「ビビディ・キャメル!?奴が私の言っていた男です!」


 ズンタッタは興奮して出て来てしまった。

 聞き耳を立てていたのだろう。

 そして、本当に目的の人物が来てくれるなんて。

 ラッキーとしか言いようがない。

 しかし、キャメルか。

 カバの次はラクダとはね。

 帝国は名前に動物が入ってないと駄目なのかな?


「よし!彼等を迎え入れよう。最近完成した会議場を使おう。初めての来客だしね。一応念の為、ゴリアテ達の部隊を呼んでくれ。万が一ってのがあるから。もし暴れるようなら、悪いが有無を言わずに斬れ」


 ズンタッタにはそのように伝え、彼も会議場へと向かう事となった。



「お初にお目にかかります。私はドルトクーゼン帝国子爵、ビビディ・キャメル。帝国軍工兵部隊の部隊長を務めております。いや、おりました」


「はじめまして、キャメル殿。僕は阿久野真王。真の王と書いてマオだ。魔王をしている」


 ビビディさんは、あまり軍人という見た目ではなかった。

 少し腹が出ていて、背も高いわけではない。

 どっちかというと、その辺に居るアラフォーサラリーマンみたいな感じだった。

 ズンタッタよりも、イッシー(仮)の前の姿。

 斎田さんに似た印象がある。


「しかし広いですね。帝国でもここまで広いというか、高い部屋はありません」


 新しく出来た会議場の中で、最も大きい部屋を選んだ。

 この部屋は扉も天井も高くしてある。

 今後どのような種族が来ても、応対出来るようにとの配慮らしい。

 今回はヒト族だからこんな大きな部屋は必要無いけど、初めて使うならデカイ部屋かなぁと思った。

 後は見得かな?


 上座には僕が座り、その横には長可さん。

 後ろには太田が護衛で控えている。

 下座には代表のビビディさん。

 それと二人の兵が真後ろに立っている。

 他の連中は、違う部屋で待機中。

 丁重に扱うという事で、いつものラーメンを出している。

 ちなみにラーメン屋台白い兎は、気付くと二店舗目が出来ていた。

 それはまた、おいおい話すとしよう。


「疑うようで申し訳ありません。本当に本物の魔王様でございますか?」


 気まずそうにしながらも、やはり子供の外見から怪しいと思ったようだ。

 担がれているのでは?

 そう考えてもおかしくはない。

 僕だって、この子供が大統領です!って知らない国で言われても、マジかよ!?って言うと思う。


「本物ですよ。魔力量、戦闘能力。そして頭脳においても、他を抜きん出た存在でございます」


 長可さんが横で説明をしている。

 でも少しだけ唇が震えていた。

 笑いを堪えているような気がするんだけど?

 本当にこの人は、綺麗じゃなかったら怒ってるよ!?


「失礼な言、誠に申し訳ありません」


「気にしてないからいいよ。僕だって帝国の王が子供だったら、疑うもんね」


「寛大なお言葉ありがとうございます。それで、本題なのですが」


「城を作ってほしい。って事よりも、その募集した者の名前が気になってしょうがないんでしょ?」


 遠回しに言うよりも、さっさと進めたい。

 だからこそ、此方からズンタッタの件を口にした。

 その言葉にちょっと驚いたような顔を見せた後、苦笑いをしながら答えてきた。


「かないませんな。本当に子供とは思えないような頭脳の持ち主ですね。はい、私はズンタッタ・ヒポポタマスの所在を知り、伺ってまいりました。あの、それでズンタッタは生きているのでしょうか?」


「生きてるよ!勝手に殺すなよ。と言っても、最初は敵対してたから、死んでる可能性もあったけどね」


 魔族に捕まってるとでも思ってるのかな?

 それでもちょっと考えれば分かるんじゃない?

 普通ならズンタッタ・ヒポポタマスという名前を出す。

 それを敢えて、ジャック・ザ・ズンタッタという、一部の人間にしか分からない名前を使ったのだから。

 それだけの間柄だって事くらいは、察してほしい。


「太田、ズンタッタ呼んできて」


 数分後、太田はズンタッタを引き連れて、部屋の中へと入ってきた。


「ビビー!」


「ズー!」


 ガッシリと熱いハグをした後、彼等はその喜びから薄く涙を溢した。


「まさか、生きているとは思わなかった。兵を率いて出て行ったが、その後の消息は不明。後日、MIAとして戦死扱いとなっていたのだぞ!?」


「分かっている。どうせ王子からしたら、我々は邪魔なだけだからな。出兵させて魔族を連れて帰れば御の字。死んでも懐は痛まない程度にしか考えていないさ」


 仲が良いらしく、フランクな喋り方をしているズンタッタを見るのはちょっと新鮮だった。


「さて、これで僕がズンタッタを利用しているような人間じゃないと分かってもらえたかな?」


「はい!城の件ですが、誠心誠意手伝わせていただきたく思います」


「それは助かります。では、細かい事は隣の長可さんから・・・ん?」


 見間違いじゃなければ、この部屋の中に動物が居る気がする。

 入ってきた時には居なかったはずなのに。

 尻尾のようなモノがチラッと見えた気がした。

 気のせいかな?


「魔王様?どうかされましたか?」


 長可さんが途中で言葉を遮った僕に、何かあったのかと問いかけてきた。

 そして長可さんの方を向いたその時、僕は椅子を倒す勢いで立ち上がった。




「招き猫が居る!」

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