表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/1299

カミの導き

 俺達が丹羽さんの私室で極秘会談を行なっていた頃、城内の一室でも別の極秘会談が行われていた。

 部屋の中は薄暗くしており、扉を開けただけでは室内に誰が居るのか分からない。

 この扉が外から開く事は無いと思われるが、特に開かれても問題は無い。

 ただ、集まっているとしか思われないからだ。

 そして、この集団のリーダーである男が口を開いた。


「皆、昨日までの戦闘、ご苦労だった。魔王様と丹羽殿の間にあった軽い亀裂も無くなり、今日から交渉が始まっている」


 暗い中で周りを見渡すリーダー。

 その顔は暗くて確認出来ない。

 しかし周囲の者達は、声だけで彼が自分達のリーダーだと理解していた。


「隊長。それでは私達は、本日よりあの作戦を開始するという事でよろしいのでしょうか?」


「うむ。交渉担当の森殿に確認したが、我等の仕事はほぼ無い。他の部隊との持ち回りで、守備を交代制で行うのみとなった」


「おぉ!それでは本来の目的である例のアレを!」


「そうだ。これから安土に戻るまでの期間、我々は城下町の探索に出掛ける」


 その言葉に、周囲の者達も喜びの声を上げた。

 先日までの戦闘で、多少の怪我を負った者も居る。

 それでも本来の目的の為なら、負傷者だろうがやる気は十分だった。


「行くぞ、お前達!我等がカミの為に!」


 バァンという派手な音を立て、薄暗い扉は開かれた。

 薄暗かったその部屋は、外の明かりを取り込み室内の様子を見る事が出来る。

 そこにはホウキやモップ、大きなバケツに雑巾などが置いてある。

 そこは掃除用具を置く為の物置部屋だった。

 そんな部屋の中に居たのは約五十人ほど。

 日本であれば、そんな大きい掃除用具入れなんかねーよ!と言われてしまうだろう。

 しかし此処は異世界。

 誰も違和感を感じていなかった。


 部屋から出てくる一行。

 掃除用具入れに使っている部屋から、大勢出てくるのを見た城で働く人達。

 何故こんな場所から?という疑問を抱くものの、お客人という立場から誰も突っ込んだりはしなかった。


「あの〜、すいません」


「え!?あ、ははははい!ゴホン!何でしょう?」


 近くに居た侍女をしていると思われる女性が、リーダーと思わしき人から声を掛けられた。

 彼女は最初、とても挙動不審な態度を取ってしまい、自らの行動がこの城で働く者として相応しくないと恥じた。

 そして冷静を装い、その問いを聞き返した。


「ポーションを売ってる店を教えてほしいんですが」


「ポーションですか?城下で薬か回復と書いてあるお店を探すと、売っているはずですよ」


「ありがとうございました。今から城下町に行ってみます!」


 お礼を言った後、彼等は城から城下町へと消えていった。



「ねえねえ、さっき何聞かれたの!?」


 異様な集団が城から出ていった後、声を掛けられた侍女に城で働いている者が集まっていた。

 興味津々といった感じで、前のめりに聞いてくる。


「特に変な事は聞かれなかったよ。ポーションを売ってる場所が知りたかったんだって」


 大した事無かったという落胆の声が聞こえる中、彼女達の彼等に対する印象が聞こえた。


「石の仮面被ってる不気味な隊長に、よくあんなに付いていく気になるわよね」



 城下町へと繰り出した、第三部隊の一行。

 部隊の全員というわけではないが、約半数の人員が集まっていた。

 これも斎田さん改めイッシー(仮)のカリスマ性が、あっての事だろう。


「皆、聞いたな?薬か回復の看板を目指そう。俺達の明るい未来は、すぐそこまで来ているぞ!」


 約五十人ほどの集まりが出来ているのを見て、城下の町民は流石に怪しんでいた。

 あの辺りだけ、妙に明るくないか?

 その頭、光を反射してるよね。

 道行く人々の中には、そんな風に思った人も居た。

 しかし、流石に誰も声を掛けたりしない。

 遠巻きに見ているだけだ。

 何故なら、不気味なくらい気合が入っていたから。

 第三部隊の周りだけ、空気が戦場に近かったのだ。

 いや、彼等にとってこれからが、戦なのかもしれない。

 それくらいのやる気だった。


「隊長。私達は若狭ほど大きな町を知りません。どのように動きましょうか?」


「そうだな。俺も帝国・・・じゃなかった。とにかく、皆で一緒に探す必要は無い。だから分散して探して回ろう」


 その言葉を合図に、五人一組の小隊に分かれた。

 誰が言うでもなく、そのように動いたのだ。

 何も言わなくても動ける部隊。

 それは第一と第二には無いチームワークだった。


「若狭の中心を基点にして、東西南北で分かれて探していこう」


 彼等は期待を胸に、街の中を四散していった。



「あったぞ!」


 大きな通りを南の方へと歩いていると、教わった通りに薬と書いてある看板を見つけた。

 此処にポーションが売っているらしい。

 暖簾を潜り、店内へと入っていく。

 表の作りは和風なのに、内装に関しては洋風だった。

 棚に陳列されている瓶が大量にある。

 これは期待出来るかもしれない!

 瓶に貼り付けてあるラベルを読むと、確かにポーションの文字があった。

 しかしながら、その効果については書かれていない。

 なんとなく瓶の中を覗き込むと、無色透明な液体もあれば薄い青色、煎茶のような緑。

 はたまた、これは飲めるのかといったようなどギツイ紫色など、様々な色の液体が入っていた。

 素人には何が何だか分からない。

 やはり店員に聞くしかないのだった。


「すいません」


「は〜い!何かご希望ですか?」


 店内から出てきたのは若い女性。

 しかも妖精族のはずなのに、身体が小さいわけでもなく、ヒト族や獣人達とほぼ同じ大きさの女性だった。

 背中には虫のような羽も無く、ほとんど人と変わらない。

 そんな店員さんが、笑顔で対応してくれていた。


「あ、あの!何でも元に戻せる薬があると聞いてきたんですが!」


「何でも元に戻せる薬?・・・あぁ!」


 最初に考え込むような仕草をした店員さんだったが、思い出したかのように相槌を打った。

 分かってくれたか!?

 彼等は内心でガッツポーズ。

 俺達の未来はこれからだ!と言うセリフが、頭の中でリフレインしていた。

 しかし次の店員の言葉によって、天国から地獄へ落ちる事となった。


「申し訳ありません。それほどの高価なポーションは、私どものお店では扱っておりません」


「そんな!?」


 顎が外れるのではというほどの落胆ぶりに、店員さんは再度謝ってくれた。

 しかし無い物は無い。

 彼等は下を向きながら、お店から出ていった。

 次だ!次の店がある!

 一度の失敗で諦める彼等ではなかった。



 夕方になり、彼等は城下町の中心部へと歩いている。

 その足取りは重く、誰も口を聞かない。

 南から北上して中心部に着いた。

 その心は沈みがちになっていたが、まだ全てを諦めたわけじゃない。

 俺達には仲間が居るじゃないか!

 南側の店舗が駄目だったとしても、東西、そして北側にだってお店はある。

 そう。

 四分の一が駄目だっただけだ。

 確率的にはまだまだ余裕があるはずだ。

 そして西側と東側もほぼ同時に、街の中心部に戻ってきた。


「ど、どうだった!?」


 色良い返事を期待して聞いたものの、その顔から答えが分かってしまう。

 駄目だったと。


「元に戻せるような薬は売ってないそうだ」


 やはり同じような事を言われたらしい。

 残るは北側のみ。

 一縷の望みを託し、彼等は北側の探索に向かった者達を待っていた。


 そして北側の探索組が帰ってきた。

 少し小走りしているようにも見える。

 その様子が彼等には、それが吉報を持ってきたからだと思った。


「北側にあったのか!」


 皆がその答えを待っていた。

 走ってきたうちの一人が息を整え、彼等に言った。


「駄目だった。売っていたとしても、俺達には手に入る可能性は少ないらしい」


 その返事に、皆が落ち込んだ。

 そして、隊長であるイッシー(仮)は泣いた。

 仮面の中から涙が溢れているのが分かる。


「た、たいちょおぉぉぉ!!!」


 石の仮面を着けた男に向かって、むせび泣く男の集団。

 その異様さに、町民は避けた。

 とにかく怪し過ぎた。

 誰が通報したのか分からないが、衛兵まで来てしまったくらいだ。


「困りますよ。こんな所で大勢で泣かれちゃ。しかも男だけって」


「す、すいません」


 イッシー(仮)は、仮面が赤くなっているのでは?と錯覚するほど恥ずかしかった。

 こんな事で通報されるなんて。

 日本だったら・・・いや、仮面着けてなかったら生きていけないところだった。


「ところで、何故大勢で泣いてたんです?」


 衛兵の一人がイッシー(仮)に問い掛ける。

 求めているポーションの事を話すと、彼等は真面目に答えてくれた。


「そりゃ、フルポーションだ。主に軍でしか扱わない、超希少ポーションだよ。そんな高価な物は、普通のお店には取り扱ってないと思うぞ?」


 年配の衛兵が、詳しく教えてくれた。

 軍で扱っているのか。

 それなら、何故ズンタッタ殿は知っていたのだ?

 イッシー(仮)は心の中でそのような疑問を抱きつつ、城へと戻っていった。



 城に戻ると、既に交渉の大半は終わってるとの連絡が入った。

 ポーション探しも、残り時間が迫っているという事だ。

 しかし、今日一日という自由時間を使った結果、次の守備は第三部隊の受け持ちだった。

 もはや時間の猶予は無い。


「一か八かの賭けに出よう」


 近くに居た者だけが聞こえるくらいの声で呟いた、イッシー(仮)。

 聞こえた者達は、賭けが何なのか分からなかったが、隊長のその志について行くと決めた。



 イッシー(仮)は、城内を歩き回った。

 しかも中層から上の階ばかりを狙って。


「隊長。何をされるつもりですか?」


「まずはあの人を探す。話はそれからだ」


 隊長が言うあの人とは?

 ついてきた数人も分かっておらず、とにかく城の中を歩き回った。

 そして、ついに目的の人物を見つけたのだった。


「丹羽様!」


「ん?」


 イッシー(仮)は失礼に当たらないくらいの速度で、急ぎ丹羽長秀の元へと歩み寄った。

 そして跪き、こう言ったのだ。


「失礼を承知でお願い致します!フルポーションを売って頂けないでしょうか!」


 本来であれば、許されない行為だろう。

 自分の主君を差し置いて、城主に物を譲ってくれないかと頼むなど。

 それでも彼は諦めきれなかった。

 自分の為もある。

 しかし、それ以上についてきてくれた第三部隊のハゲの為、薄毛の為に願ったのだ。


「魔王様はこの事をご存知で?」


「いえ。少し前から休んでいるとの報告が入って以来、会っておりません」


 少し前から休んでいる。

 それはおっちゃんの必要麻酔針と、人形のフリしてやり過ごそう作戦の為、そのまま寝てしまったからだった。

 丹羽長秀はそれを知っていて、話をイッシー(仮)に振った。

 もし知っていると言ったのなら、彼は嘘をついている。

 報告は事前にしてあると言ったなら、起きるまで待ってみよう。

 知らないと言ったなら、正直者の馬鹿だと思ったのだった。

 ただし、馬鹿は馬鹿でも馬鹿正直な者は、そんなに嫌いじゃなかった。

 だから、理由くらいは聞いてやろうと思ったのだった。


「何故、フルポーションが欲しい?」


「元に戻せる薬が欲しいと、城下町の薬屋で聞いて回りました。そして返ってきた答えが、フルポーションは軍しか扱っていないとの事でした」


「確かに軍でしか扱っていない。それだけ貴重な回復薬だからだ。それと、今の言葉では答えになっていない。何故欲しいのだ?」


 イッシー(仮)は言葉に詰まった。

 髪を元に戻したい。

 本人には大真面目でも、他の人からしたらふざけていると思われかねない。

 しかも相手はこの都市の城主。

 下手な事は言えないと思った。

 しかしイッシー(仮)のそんな気持ちを、ついてきた者達は分かっていた。

 だからこそ、自分達が泥を被ろう。

 そのような気持ちで、言葉を口にした。


「我々は、この頭を元に戻したいのです!髪を、若かりし頃にあった髪を取り戻したいのです!」


 イッシー(仮)は、止められなかった自分を責めた。

 下手をすると、彼等は無礼な振る舞いをしたと罪を背負うのではないかと。

 恐る恐る丹羽長秀の顔を見ると、彼は驚いた様子だったが、怒っているようではなかった。


「ハッハッハ!そのような理由でフルポーションを求めるとは。髪を取り戻したいからという理由で欲しがった者は、お前達が初めてだ」


 大笑いしながら答える丹羽長秀。

 そしてその返答は・・・


「すまんが、その理由ではフルポーションを渡すわけにはいかない」


 やはり・・・。

 分かっていた事ながら、ハッキリと言われて落ち込んだ。


「だが、髪を増やすだけならフルポーションなど必要無いと思うのだが」


「え?」


「髪を増やすだけなら、育毛養毛のポーションが専用で売っておるぞ?」


 その言葉を聞いて、皆言葉を失った。

 じゃあ、何で俺達は売ってもらえなかったのか?


「お前達、城下町でどのように聞いた?」


「はい。無くなった物を元に戻せる薬が欲しいと」


「それではフルポーションと答えるだろうな。何故、育毛養毛のポーションが売ってないか聞かなかったのだ?」


 そういえば、何故そうやって聞かなかったんだ?

 イッシー(仮)は、店員とのやり取りを直接聞いていない。

 皆、落胆して無いと答えたから、そのような物は無いのだと思っていた。


「あ!店員さんが若い女の人で、恥ずかしかったからだ!」


 そんな理由かよ!

 丸一日掛けて探して、そんな理由でフルポーションを探す羽目になったのかよ!

 ついてきた数人も、東西南北ほぼ全ての店舗で、店員さんは若い女性だったと答えた。

 故に、毛生え薬が欲しいなどと聞かなかったのだと。


「ふむ。その気持ちは分からなくもない。お前達の苦悩も分かるつもりだ。だからこそ、私がそのポーションを用意しよう」


「よ、よろしいのでしょうか!?」


「構わぬ。その悩み、分かるつもりだからな。私も使っておるぞ」


 最後の一言は、俺達に聞こえるくらいの小声で話してくれた。

 俺は丹羽長秀に、親近感が物凄く沸いたのだった。

 しかも丹羽長秀の見た目は、全く薄い様子は無い。

 この事から、効果が抜群であると証明されたのだった。


「丹羽様!誠に、誠にありがとうございます!」


 そして俺達の旅は終わった。



 後日、交渉によって若狭へ防衛隊を派遣する事が決まった。

 そしてその先遣部隊として、第三部隊の大半が希望したのだった。




 理由は分かるよね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ