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丹羽さん殺人事件?

 丹羽長秀の私室で行われた、秘密会談。

 この後すぐに皆に発表する予定なので、秘密と言えるかは分からないが。

 とにかく二人だけの話し合いは終わった。

 魔王を旗頭とした、魔族をまとめ上げる為の連合を作る。

 丹羽さん曰く、魔王連合。

 連合名はともかくとして、連合を作る事には賛同した。


「こういう事は、迅速に連絡した方がよろしいでしょう。私の名前で、知り得る限りの町村へ安土へと向かうようにと書状を送付しますので。魔王様は、安土での受け入れを行っていただきたいと思います」


「そしてその話が、周囲の都市へと伝播していくっていうわけですね。魔王が若狭と協力して、帝国や王国から魔族を守るべく、都市への受け入れを行なっていると」


「その通りでございます。やはり魔王様は先代と違い、頭の回転が早い。話が早くて助かります」


 丹羽さんくらいに思慮深い人から褒められると、悪い気はしない。

 でも兄さんと話していたらこんな事は言われてないはずなので、買い被り過ぎだと言っておこう。



「話は変わるけど、少しお願いがあるんですが」


「私に協力出来る事であれば、何でも仰ってください」


 こう言ってくれると思っていた。

 というより、断られる事は考えていない。

 言い方は悪いけど、魔王の願いを断る事を出来ないからね。


「じゃあ遠慮無く。変わった魔法の伝書を見せてもらう事は可能ですか?」


「なるほど。しかし使う事は可能なのですか?」


「見てみない事には分からないですけど。多分大丈夫だと思いますよ?」


「随分と自信がおありのようですね」


「僕、四属性以外にも精神魔法や召喚魔法、その他色々使えるんで」


「そんなに!?しかも精神魔法まで・・・」


 何故か分からないけど、大半の魔法が使える。

 先代の魔王の身体のおかげなのか?

 それとも僕等が変わっているのか。

 どっちか分からないけど、使えれば問題無い。


「そうですか。ではこの伝書は如何ですか?」


 部屋の中にある書棚から、複数の本を渡された。

 流石は大都市。

 沢山あるかなぁと思っていたけど、やっぱりあった。


「草魔法と風と土の上位魔法か。阿吽みたいに巨大化するのは無いんですか?」


「アレは魔法ではなく、スプリガンの特性です。私も使えますが、種族の違う魔王様ではちょっと・・・」


 なんだ。

 駄目なのか。

 せっかく背が伸びると思っていたのに・・・。


【お前、前にも羨ましいとか言ってたよな?そんなに背が高くなりたいの?】


 こっちの気も知らないで、よく言ってくれる。

 僕が兄さんより背が低いの、知って言ってるのか!?


【ハァ?そんなに変わらんだろ。見た目ほとんど一緒じゃん】


 違う!

 僕の方が約二センチも低い!

 それは僕が、兄さんから見下ろされてるって事だろう!?

 だから二センチ以上背が高くなれば、逆に僕が見下ろす事になる。


【お前、やっぱりちょっとアホだな。つーかお前、そんな事考えてたのかよ!しかも俺に見下ろされるのが嫌だって、暗に俺の事を下に見てやがるな!?】


 フッ、そんな事は無いとも。

 ただ、運動神経が良いだけの馬鹿に見下されてる感があって嫌なだけだ。


【この野郎!喧嘩売ってやがるな!上等だ!表出ろ!】


 いいだろう。

 その喧嘩買ってやる!

 出でよ、僕の魔王人形よ!

 背中のバッグから、魔王人形を取り出す。

 傷つかないように丁寧に布に巻いてあるので、それを畳んで仕舞った。




「あの、魔王様?一体何をしようと・・・」


「久しぶりのこの人形姿だ。いい準備運動になるだろう」


「に、人形が喋った!」


 おもむろに人形を取り出し黙った俺に、丹羽さんは戸惑いを感じていた。

 そして人形が喋り動き出すと、それはもう驚いていた。

 やはりこんな魔法、妖精族の方でも見た事は無いみたいだな。

 だがそれよりも、コイツだ。


「お前、覚悟は出来てるんだろうな!?」


「兄さんこそ。この魔王人形の本当の力を見せてやろう」


「はい!はい!質問よろしいでしょうか!?」


 丹羽さんがその姿に似合わず、手を思い切り上げて質問をしてきた。

 ちょっと滑稽だな。


「何だ?質問か?」

「何ですか?質問ですか?」


「あの、この人形は一体?」


「それ、魔王ね。俺も魔王だけど」

「僕が魔王。そっちも魔王だけど」


「え?」


「だから、俺達が二人で魔王なんだよ!」

「だから、僕達が二人で魔王なんです!」


「何だそりゃぁぁぁ!!」


 叫んだ後、バタン!という音と共に後ろへ倒れてしまった。

 口から泡を吹いて白目だ。


「お、おい!?」


「これ、ヤバくない?」


「領主さまぁぁ!!何事でございますか!?」


 部屋の外から、衛兵が走ってくるのが聞こえる。

 こ、これはマズイ!


「泡吹いて倒れてる姿なんか見られたら、俺達が疑われるじゃないか!?」


「このバカチンが!疑われるどころか、下手したらその場で犯人扱いだよ!」


「ど、どうする!?俺、阿久野容疑者になんかなりたくないぞ?」


「先に衛兵に伝えてみるとか!?それか・・・」


「逃げるのか!?流石にそれは無理じゃないか?」


 ヤバイ!

 もうそこまで衛兵が来てる!


「ど、どうしよう!?どうすればいい!?」


 慌てて振り返ると、そこには倒れている人形が。

 さっきまでキビキビと動いていたのに、今は糸の切れた人形みたいだ。

 人形だけど。

 ま、まさかコイツ!?


「お前ずるいぞ!そのまま人形のフリして乗り切るつもりだろ!?おい起きろ!この野郎!」


 役立たずめ!

 仕方ない、誰かに押し付ける!

 丹羽さんの指先で文字を書いてと。

 犯人はヤ・・・

 あ、間に合わなかった・・・。


「領主様!」


 扉を勢いよく開けられた。

 領主の指先を持っていた俺。

 その横には泡吹いて倒れている領主。

 衛兵から見たら、カオスな光景にしか思えないだろう。


「あ、あの・・・。どういう状況ですか?」


「えーと、あの〜」


 しどろもどろとして、チラッと人形を見る。

 しかし動く気配は無い。

 この野郎、この手で逃げ切るつもりのようだ。

 絶対に逃がさんぞ。


「怪しい人物があの人形を、丹羽さんの頭に向かってぶつけたんだ!背後からドカンと」


「え?人形をですか?」


「それよりも丹羽さんを、医務室へと連れて行ったら?」


「そ、そうですね!」


 駆けつけた衛兵が担架を持ってきて、丹羽さんが運ばれていった。

 そして俺は逃がさんと言った!


「その人形も持っていった方がいいよ。だって凶器として使われたんだから」


「分かりました。犯人の心当たりは?」


「えっ!?」


「見てはいなかったのですか?」


 ど、どうしよう?

 こ、こんな時は・・・。


「うっ!」


「どうされましたか!?」


 俺はガクンと首を下へと傾け、一切動かなかった。

 説明しよう!

 これはあの有名な探偵になる時に使う必殺技。

 麻酔針で寝たおっちゃん作戦だ!

 俺はおっちゃんというより子供だが、この際そんな事は気にしていられない。

 これで寝たフリをして、一緒に医務室へと運ばれる。

 そして有耶無耶になるまで寝ていよう。

 それが良い!


「であえー!であえー!賊が侵入したぞー!」


 あ、アレ?

 なんか大事になってる気が・・・。

 いや、気にしたら負けだ。

 このまま寝ちゃって、起きたら全て解決してくれてたらいいなぁ。

 そんな事を考えつつ、俺は考えるのを止めた。




 起きたら、知らない天井だった。

 隣には魔王人形まで置いてある。


「魔王様。起きましたか?」


 丹羽さんが顔を覗き込んできた。

 寝起きにムサイおっさんの顔は嬉しくなかった。

 せめて可愛い女の子が起こしてくれるとか。

 普通はそういう事無いよなぁ。


「部屋での出来事は、私の心の中に仕舞っておきますよ」


「別に隠しているわけじゃないんだけど」


「そうですか?それとですね、寝ている間に全て終わらせましたので」


「終わらせたとは?」


「連合の事です。魔王様が天下統一を目指すと、大々的に発表しました」


「な、なにいぃぃ!!」


 驚きのあまり、叫んでしまった。

 俺達、知らぬ間に天下統一する事になってる!

 おい!

 お前、まだ寝てるのか!?

 人形をガクガクと揺さぶると、動き始めた。

 ようやく起きたようだ。


「ハッ!?夢か。何か知らぬ間に天下統一を目指す事にさせられてて焦ったわ」


 もしかして、その話を聞いて気を失っていたのでは。

 俺だってそう出来るならなりたかった。


「夢じゃねーぞ。俺も今聞かされたからな」


「さて、もう一眠りするか。まったく、夢なら覚めないでほしいよ」


 またパタリと倒れて動かなくなる人形。

 頭をガンと叩き、起こす。


「現実逃避するな!」


「なんだってこんな事に!」


「だって連合を作るという事は、魔族を全てまとめ上げるという事ですよね?そうなると必然的に、帝国も王国も黙っていないでしょう。戦争になりますよ?」


「戦争・・・」


 俺の中では、魔族がまとまって安全に生活出来れば程度に考えていたんだけどな。


「回避する事は出来ないのかな?」


「手っ取り早く戦争を回避するなら、帝国に降る事でしょうな。身の安全の保障は出来かねますが」


「そんなの駄目に決まってるだろ!」

「そんなの駄目に決まってるでしょ!」


 思わぬところで息が合ってしまった。

 ちょっと照れ臭い。


「ところで、再び私が質問してもよろしいでしょうか?」


「何ですか?」


「お二人の関係性は?」


「それね。僕達、双子なんですよ。元々は阿形吽形みたいに、二人だったんですけどね」


 異世界から来たとかは省きながらも、答えられる範囲で詳しい経緯を話した。


「そのような事情がおありだとは」


「納得してもらったように、俺達は自分の魂の欠片を探してる。こんな感じの小石ね」


「ん?最近何処かで見たような?」


「え!?」


「思い出したらお話しします」


 都合良く見つかるとは思えないし、ただの勘違いだろう。

 それよりも、だ。


「帝国に降る以外では無いんですか?」


「両方、頭首が変われば回避出来るかもしれませんがね。帝国は今、下克上で王子が頭首でしたか?以前のように友好的な国王に戻れば、という前提です。王国は難しい気もしますけど」


「ズンタッタ達の所属する国王派か。まあそれは最初から予定に入っているからいいとして。王国は無理かな?」


「彼処は王族がトコトン魔族を嫌ってますからね。むしろ魔族を嫌っていない王族が居れば、面白い事になるかもしれません」


 小人族の時の事を考えると、難しいか。

 まあ、それはそれで考えればいいだろう。

 弟がね。


「それと森殿達が行っていた交渉も、既に終わっております」


 交渉でまとまった事案はこちら。


 ・ノームとノーミードの安土への派遣

 ・安土と若狭の自由貿易

 ・安土から若狭への、防衛戦力の派遣

 ・異文化交流の定期的開催


 最初の一つ目は当初からの予定通り。

 これによって、安土の食料事情は改善される。


 二つ目も、右顧左眄の森などで取れた変わった果物や植物の購入など、出来る事になる。

 他にも安土から、武器や防具、その他便利な物を若狭へと送る事も考えている。


 三つ目、これは主にオーガや獣人達が派遣される。

 妖精族は魔法は使えるが、体力的には劣る。

 ヒト族と対峙したら、接近戦になると負ける恐れもある。

 魔法に耐性のあるミスリル製の防具に包まれた帝国兵が若狭へと侵入したら、全滅の可能性もあるからだ。

 領主である丹羽さんみたいなスプリガンなら、大きくなって戦えるかもしれない。

 けど、それも数の暴力には負けるだろうとの見解だった。

 それに対して、接近戦が得意なオーガや獣人達が前線を張れれば、戦術戦略の幅が増えるだろう。

 すぐ近くに王国があるので、防衛に力を入れて損はないのだった。


 そして四つ目。

 これは特に大きな意味は無い。

 若狭でラーメン屋を作ってほしいという、城下の町民の願いを聞き入れただけだった。

 此方としても、おいおい支店を出すつもりだったので、ありがたい申し出になった。

 支店を出すには少し早い気もするけど、遠征隊の料理担当の人間を支店長に据えて、いつかは妖精族の店長へと切り替えていけばいいだろうという話になった。

 これには阿形達も喜んでいた。

 もしかしたら若狭限定メニューとかも出来るかもしれないし、俺達もそうなったらいいなと楽しみな事が増えたのであった。


「というわけでございます」


「分かった。それじゃあ既に支度は出来ているのか?」


「若狭から派遣するノーム達は選抜しております。後はそちらの部隊が問題無ければ、すぐにでも出発出来るかと」


 そういう事ならば話は早い。

 太田を呼び出して、すぐに出発の準備をさせた。



「安土では時間が掛かれば掛かるほど、食料難となっていく。皆を安心させる為、すぐに出発しよう」


 そういう事で、起きて半日で若狭を出る事となった。

 そんなに急がなくてもという意見もあったが、俺達の馬鹿な行いで寝てた時間が勿体ない。

 だから急ぐ事にした。


「丹羽さん、今後ともよろしくお願いします」


「人形魔王様も、お元気で」


「それと、阿形と吽形にはコレを」


 太田に持たせていた大きな袋を渡す。


「これは?」


「中身は二人に合わせて作った防具です。武器は作ったけど、防具は作ってなかったのでね。動きやすいような仕様にしたつもりなので、隠形法にも支障が無いはずです」


 そう言って、二人に太田が手渡した。

 その場でサイズが合っているか確認してもらったが、弟の見立ては間違っていなかったらしくピッタリだった。


「ミスリルの防具なんて高価な物。ありがたく使わせていただきます!」


 二人は感激しながら頭を下げていたが、少し戸惑いがあった。

 あのキレっぷりを見ると、同一人物とは思えないんだよね。

 普段はこんな丁寧なのに。

 ストレスでも溜まるのかな?


「さて、急ぐとしよう」


「それでは、またお会いしましょう!お元気で」


 若狭という大きな都市を協力者に迎えた俺達は、安土への帰路に着いた。





「あ!思い出した。お前達が帝国の巨人から貰った小石だ!既に出発してしまったし、また会う時で良いか」

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