第一異世界人発見
無理だ。もう我慢の限界だ。
「肉が食べたーーーーーい!!!!肉が食べたいいんだよおぉぉぉ!!!!」
(僕も米が食べたい・・・)
「米か!米も食べたい!」
此処で生活して一週間、流石に!流石に魚と果物だけの食生活に飽きた!
これで飢えたりしないのは分かってるよ。
こんな所で生活してるんだから、贅沢な悩みなんだとも思ってる。
しかし、食べたいものは食べたい!
だったら動物を狩ればいいじゃない!
って思うだろう。
でもね、仮に動物を狩ったとしよう。
・・・どうやって解体するの?
丸焼きにするにしても、血抜きとか必要でしょう?
そんな事出来ませんよ!
出来ないどころかやり方すら知らないよ!
血抜きとか動物の解体の仕方なんて、ネット動画に上がってるハズが無い。
いや、上がってるかもしれないけど、そんな事を調べる日本人って居る?
地方に行けば知ってる人も居るかもしれないけど、私達はシテーボーイですよ?
死語なんだろうけど繰り返し言ってやる。
アイアムシテーボーイ。
「食べたい!食べたい!肉が食べたい!」
倒れこみながら、手足をジタバタさせる。
俗に言う、買って!買って!お母さんこれ買って!である。
まあこのように駄々をこねたところで、誰も用意してくれるわけじゃないんだけどね・・・。
(兄さん、服が汚れるからやめて!洗濯がめんどくさい。それに駄々をこねたって、見てる人なんか居ないよ)
「なんだよなんだよ!もういいよ!どうせ俺は魚釣りが似合う男なんだ。これからは俺の事を釣りキチ健ちゃんって呼ぶがいいさ!」
ムスッとした顔で立ち上がり、川へ釣り糸を垂らす。
今日もご飯は魚だな・・・。
ため息をつきながら川を見ボーっと見ていた。
自分が監視されている事にも気付かずに。
俺がその子の事を見つけたのは二日前だ。
年齢は分からないが、おそらくまだ子供だろう。
親とはぐれたのか、もしくは親をヒト族に連れていかれたのか。
半日ほどしても親が戻ってこなかったので、一人で生活をしているのだと思われる。
最初は保護をしようと考えた。
しかし、それをしなかったのには理由がある。
魔法を使ったのだ。
ただ魔法を使うだけなら特に問題は無い。
しかし俺が見て驚愕したのは、その魔法が無詠唱だったからだ。
普通、魔法には詠唱が必要である。
高位の魔法使用者になると詠唱短縮が出来る人も居るが、無詠唱ともなると殆ど居ない。
それこそ子供のうちから無詠唱なんて、聞いた事も無かった。
その日は夕方まで様子を見た後、俺は村へと走った。
この事を村長へ伝えなくては!
村へ戻った俺に下された指令は、その子供の監視だった。
今は監視だけだが、もし村に害をもたらすようなら・・・。
おっと気がそれてしまった。
と言っても、この子がやっているのは毎日変わらない。
いつ作ったのか分からない大きな小屋を拠点に、魚や果物を取り食事。
たまに魔法を使用しているが、その時だけはドキッとする。
何せ無詠唱だから、いきなり何かが現れるのだ。
木を加工したり地面から何かを作り出したりしているが、何の魔法なのだろうか?
今では二日前より完成するのが早くなっている。
無詠唱でも脅威的なのに、更に熟練度を高めるとは。
敵対したくはないものだ。
二日ほど観察した結果、それほど危険ではないと思える。
思えるのだが、一点だけ不可思議な事があった。
たまに独り言を言うのだ。
しかも会話をするようにブツブツと言っている。
たまにブツブツ言いながら笑ったり怒ったり。
ナニコレ怖い。
親とはぐれたことで、精神的にまいっているのだろうか。
少し可哀想だなと感傷的になる時もあった。
しかしそんな同情をしていたら、ヤツに動きが!
「肉が食べたーーーーい!!!!」
急に駄々をこね始めたのである!
怖い!誰も居ないのに駄々をこねる子供とか、怖いだろ!
つーか勝手に食べればよかろう?
その辺に居るウサギでも狩って食べればよかろう?
「米か!米も食べたい!」
ふと何かを思い出したのか、米も食べたいと言い出した。
まあ米はたしかに食べられないな。
ん?もしかして、これなら・・・。
俺は自分が思いついた事を伝えに村に戻った。
村長を始め、村のえらいさんも概ね賛成してくれた。
「あ~!今日に限って釣れない!しんどい!」
(まだ一時間位しか経ってないよ。もう少し頑張ろう)
「釣れないと果物だけだからな。もう少し頑張るか」
「釣れますか?」
「いや~、今日は全く釣れないですね。こんなに釣れないのは久しぶりです」
「そうですか~。場所変えると良いかもしれませんよ?」
「此処以外の場所、あまり知らないんですよねぇ」
「他の場所教えましょうか?」
「それはありがたいですね!」
なんとも親切な人が居たものだ!
(ところで兄さん、誰と話してるの?)
・・・誰!?
俺は勢いよく振り返った。
「おおうぅあ!!誰!!?」
「はう!?俺は怪しい者じゃない!」
後ろを振り返ると、そこには猫が居た。
ただしただの猫ではない。
二足歩行の猫だ。
いわゆる獣人と言われる存在だろう。
「キターーーーー!!!!」
「えっ!?何が?」
猫型獣人が来たと言われて周りを見渡している。
来たのはアンタだ!
とうとう異世界ちっくな展開ですよ!
初めての獣人に対して、もう色々とガン見である。
顔から肉球まで・・・って、手袋しとるんかーい!
「えっと、いきなり声を掛けてすまない。俺はこの近くの村に住んでいる猫田だ」
「え?あ、自分は阿久野です」
名前がおもいきり苗字っぽいんだが、どういう事なんだろう?
異世界ってもっと、マイケルとかトムとか横文字っぽい名前じゃないの?
「ところで此処で何してるんだ?」
「えー、魚釣って食べたり果物取って食べたり?あと魔法の練習くらいですけど」
「此処で生活してるのか?親は?誰か他には居ないのか?」
うーん、質問攻めだ。ちょっとめんどい。
(兄さん交代だ)
「ちょっと前から此処で生活しています。生まれた時から親とは一緒ではないので、何処に居るかは分かりません。一週間前まで一緒だった人も居ますが、今は一人で行動しています」
【おい。親と一緒じゃないというか、この世界に親とか居ないだろ!つーか一週間前に誰と一緒だったんだ?】
ここで異世界から召喚されましたとか言うのも、おかしいでしょ!
だってこの姿って魔王だよ!
種族とか知らないけど、そんな事言ったら余計に怪しまれると思う。
【それもそうか。で、一週間前の件は?】
それは神様って事で。
最初からいきなり、此処に一人ってのもおかしいでしょ?
【なるほど。まあ神様とちょっとだけ一緒だったと、そう言えなくもない・・・のか?】
「なるほどな。その一緒だった人物は戻ってくるのか?」
「いや、此処での生活をある程度教えてくれただけで、帰られました」
「そうか」
猫田さんはそう言うと黙って考え込んでしまった。
新しい釣りスポットでも探しているのだろうか?
「キミ、もしここに居る必要が無いのなら、一緒に来ないか?魚と果物しか食べてないみたいだし、少しくらいなら食事も用意出来ると思うが」
な、なんだってーーーー!!!!
この二つ以外の物が食べられるのか!
「良いんですか!?」
「キミに問題が無いのであれば大丈夫だよ」
【なあ、信用していいのか?】
(もし僕等に危害を加えるつもりなら、釣り糸垂らしてる間に後ろから襲われてたよ)
そのまま立ち上がり、釣り糸を引き上げた。
「よろしくお願いします!」