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連合

 重装騎兵という虎の子を出した王国は、大半の戦力を失い敗走。

 そして巨大化するという小石、魂の欠片を使って巨人を送り出した帝国も、巨人の敗北を確認したところで外の森からも撤退を開始。

 若狭の防衛圏内で、両軍の戦力は見当たらなかった。


「ひとまず危機は脱したと言って良いでしょう」


 丹羽さんは溜息を吐きつつ、腰を下ろした。

 ようやく落ち着けると感じだろう。

 重装騎兵が魔道具で目の前まで迫ってきた時は、流石の丹羽さんも焦りを隠せなかった。

 してやられたとは思う。

 今思えば、あの作戦を考えた指揮官は、なかなかの手練れだ。

 歴戦の猛者が、指揮を取っていたに違いない。

 それでも勝ったんだから、とりあえずはアレをやるべきだろう。


「戦勝会、やるぞー!」




 大歓声に包まれた城下で、俺達は戦勝会という飲み会を始めた。

 避難をしていた町民達も協力してくれ、若狭という都市でしか手に入らない物を使った料理が振る舞われた。

 こちらからは勿論ラーメンだ。

 屋台には城で働く者以外に町民も行列を為して、大賑わいである。

 そんな中、コンプライアンスに引っ掛かりそうな事案を発見!



「阿形、吽形。お前達は酒飲んで良いのか?」


「魔王様。私達はとっくに成人してますよ」


「なんだとぉぉ!!俺よりも背が低いのに、酒が飲めるなんて。羨ましいな・・・」


「右顧左眄の森で取れた果実で作ったジュースもありますから。美味しいですよ」


 美味いのは分かってるよ。

 飲んだ事の無いジュースというか、見た事すら無い果物もあったし。

 見た目は柑橘類なのに、味は梨みたいな物もあったりして、楽しめてはいた。

 でも、こういう席ではやっぱりお酒が飲みたい。


(なんか一人だけバイクで来ちゃって、お酒お預け食らってる気分だね)


 それは分からん。

 俺、免許持ってないし。

 それにしても妖精って一言で言っても、意外と多種居るんだな。


(それは僕も思った。ギリーはグレムリン。丹羽さんはスプリガンだっけ?それで阿形達がスプリガンとフェアリーのハーフか)


 俺の中で妖精ってのは、虫みたいな羽が皆生えてるものだと思ってた。

 でも丹羽さんもギリーも生えてないし、思っていたのと違ったな。


(羽が無い妖精とか、丹羽さんくらいの身体の大きさだと、人と見た目が変わらないしね。言われなきゃ分からない人達も多そう)


「魔王様。今回は誠にありがとうございました。魔王様の部隊がいらっしゃらなければ、この若狭は混乱の渦に巻き込まれていたでしょう。阿吽の為に魔王様御自身が出陣されたり、重ねてお礼申し上げます」


 深々と頭を下げてくる丹羽さんだったが、それは今するべき事じゃない気がするんだけど。

 領主が頭なんか下げるものだから、兵も町民も困惑しちゃってるじゃないか。


「そういうのは明日以降で良いよ。今は無礼講。兵も町民も領主も、パーっと楽しまなきゃ損ってもんだろ?」


「そうですか?そうですね。兵達には労いを、町民には安心を与えなくてはなりませんね」


 そこまでは考えてないんだけどね。

 俺はただ、飲み会で固い話が苦手なだけだ。

 上司というか、俺の場合はOBが来て、皆が緊張するのとかが嫌いだった。

 そういう人に限って、空気悪いな〜とか言うし。

 だったらそのOBが率先して、もっと楽しい空気作ってくれよ!って言いたかった。

 現実は上下関係的に言えないけど。


(スポーツの上下関係は厳しそうだもんねえ。その点僕は帰宅部だったから。気が楽だったよ)


 別に悪い事だけじゃないんだけどな。

 話戻せば、上の人間が固い話をしちゃうと、下の者は楽しめないぞってだけ。

 だから丹羽さんには、もっとはっちゃけて貰いたいものだ。


「ところでキャプテン」


「ん?太田か。なんだ、何かあったのか?」


 太田が神妙な面持ちで話し掛けてきた。

 まさか、帝国が転進して攻めてきたとかじゃないだろうな!?


「ワタクシ、今回何もしていないんですが。いつ出番があるのでしょうか?」


「知らねーよ!」


 コイツ、自分が俺の護衛だと分かって言ってるのか?

 お前の出番が来たら、逆に駄目なのに。

 その夜、不完全燃焼太田は別として、多くの者は楽しんでいた。




 そして翌日。

 装いを新たに、佐和山城に元々の来訪の目的を伝えた。

 それは安土での開墾を、魔法で手伝ってもらう事。

 ギリーの話では、若狭に居るノームやノーミードに頼めば、はるかに楽になると言われて、此処までやって来たのだった。

 阿形との相撲。

 帝国と王国の襲撃。

 そして今、ようやく交渉といった形になったのである。

 交渉担当として長可さんが一緒に来たのだが、今まではほとんど料理担当の手伝いくらいしかしていなかった。

 ここに来て初めて、交渉担当として仕事をしてもらう事となった。


「元海津町の町長を務めていた、森長可です。今回は今更ではございますが、魔王様の代理として交渉を担当させていただきます」


「既にお会いしておりますが、今一度。若狭にて外務を担当しています、ズモでございます」


 なんとギリーの知り合いのズモさんが、外務担当者だったとは。

 見知った人だったからか、話もスムーズに進みそうだ。

 というか、此処からは俺よりお前の方が話をした方が早そうだな。


(そうだね。それは言えてる。まあ長可さん達に任せているから、僕の出番も無いとは思うけど)




「魔王様。少し二人でお話しをよろしいでしょうか?」


 会議室で話の邪魔にならないように、少し離れた所で椅子に座って足をブラブラ遊ばせていたら、丹羽さんに声を掛けられた。


「此処じゃない方が良いですか?それとも端の方でお話しします?」


「私の私室で如何でしょう?」


 領主の私室か。

 ちょっと気になるね。


「分かりました。移動しましょう」



 丹羽さんの部屋は、とても豪華とは言えない感じだった。

 むしろ落ち着く、シンプルな作りだ。

 実務から戻って寛ぐには、とても良い部屋だと思う。

 部屋に入り一通り見回していると、丹羽さんが本題に入ってきた。


「昨日の出来事なんですが、少々伺いたい事がありまして。阿吽の為に右顧左眄の森に向かった際の事です」


「何か変わった事ありました?」


「大アリですよ!」


 思い当たる節が無いな。

 何かあったっけ?


【俺も分からない。興奮して言ってくる辺り、何かあったんだろうな】


「あの時、城からグリフォンに乗って行かれましたよね?」


「あぁ!行きましたね。なんだ、ツムジの事ですか」


「名前まであるとは。やはり見間違いではないという事ですな」


 飛び出した時、何か城の物でも壊したのかと思った。

 兄さんならやりかねないし。


【おい!お前、俺の事をそんな目で見てたのか】


 あくまでも可能性がある程度にはね。

 まあ全然違うみたいだからいいじゃない。


「そのグリフォンが何か?」


「魔王様。グリフォンがどのような存在か、ご存知ですか?」


「王を導く何とかだったような?」


「王を導く幻獣です。他にも八咫烏がおりますが、魔王様はグリフォンに選ばれたという事でしょう」


 八咫烏?

 そんなモノも居るのか。


【それは俺も知ってる。サッカー日本代表で出てくるヤツだ。まあ何でサッカーに八咫烏なのかは、よく知らないけど】


「そしてグリフォンに選ばれた魔王は、信長様だけだったという事もご存知ですか?」


「え!?そうなんですか?」


 それは初耳だったな。

 ツムジのお母さんが、信長を乗せてたってのは聞いたけど。

 何で他の魔王は出てこないのかと思ったら、僕等以外は居なかったのね。


「先代もその前の魔王も、グリフォンや八咫烏が目の前に現れた人は居ないんですよ」


「知りませんでした」


「私はね、魔王という人は居ないと思ってるんです」


 ん?

 それは魔王を否定するって事?


「そしたら先代魔王とかは、何だというんです?創造魔法使えたって聞きますが」


「私から言わせれば、創造魔法は血継魔法です。ただ単に、血筋で使えるだけだと思っています」


「そうすると、もしかして先代魔王が帝国と戦争した時は」


「えぇ。一兵足りとも派遣しておりません」


 なんと!

 かなり強気な発言だな。

 下手したら魔王も帝国と戦争する前に、若狭と戦争する可能性もあったんじゃないのか?


「でも僕は魔王だと認めた。それはグリフォンを見たからだ」


「その通りでございます」


 なるほど。

 右顧左眄の森から戻ってからの急な態度の変化は、ツムジを見たからか。


「貴方は信長様以来の魔王です。どうか、魔族を。この世界を導いてください」


 そして二人しか居ない部屋で、跪く。

 確かに昨日は皆の前で頭下げるなとか言ってたけど、二人でもあまりしちゃいけない気がする。


「僕はそこまで優秀じゃないですよ。今も長可さんが居なければ、交渉なんて出来ないですし。誰かの助けが無ければ、やっていけない子供です」


 実際に此処に来たばかりの頃は、二十歳超えたばかりのヒヨッコだったし。

 精神年齢的には、あまり成長していると自分では感じない。


「それは信長様も同じです。あの方はヒト族。魔法が使えるわけでもなく、突出した武力があったわけでもない。しかしその類稀な才能で魔族を導き、天下統一を果たした唯一王でもあります。魔王様は、信長様とその点は似ておられる」


 そうやって聞くと、確かに共通点はあるかもしれない。

 日本から来たのも同じだし。

 でも、たかが大学生と天下人を一緒にするのはどうなんだろう?


「若狭は魔王様の傘下に入ります。何卒、よろしくお願い致します」


「ちょっと待った!いきなり傘下に入ると言われても困る。

 安土ですらまだ上手く統治出来てないのに、若狭もお願いしますとか。そんなの無理だから!」


「それならば、安土と若狭で、連合を組織しては如何でしょう?魔王様を頂点として、魔族を統一する連合です。おそらく、帝国と王国は同盟を組んでいます。魔族を捕らえたい帝国と魔族を虐げたい王国では、少し理念が違いますが。それでも利害は一致しているのでしょう。それは今回の事で、証明されたと思われます」


 連合か。

 それならまだ僕等にも出来る気がする。


【なあ、連合と同盟って何が違うのよ?】


 うーん、兄さんに分かるような説明の仕方が思いつかない。


【お前、俺を馬鹿にしてるのか?】


 そんな事は無いけど。

 なんだろう。

 水道のホースのノズルに例えるなら、ストレートとかジェット、フルが連合。

 シャワーが同盟かな?

 要は一つにまとまる事が連合で、複数が同じ方向に向かうのが同盟。


【おぉ!なんとなく分かった。そしたら俺達は、魔王をトップにした連合になるわけか。それで魔族に対して襲撃をするっていう意味で、同じ方向を向いてるのが帝国と王国の同盟ね。それで合ってる?】


 合ってる合ってる。

 それを丹羽さんは提案してきてるわけだ。

 でも気になる事がある。


「丹羽さんはその連合に、全ての魔族が賛同すると思いますか?」


「・・・難しいでしょう。まずドワーフですね。あの都市は確実に帝国寄りの考えです。それと木下殿も不明かと。むしろ木下殿は、安否確認も出来ていない様子。下手をすると、既に捕虜になっていてもおかしくないですね」


「それでこの連合、魔族がまとまると思いますか?」


「他の魔族はまとまるでしょう。私の方から書状を送れば、信頼度も上がりますし。懸念は柴田殿くらいかと。門を堅く閉ざしたままらしいので。それとこの連合の利点はもう一つあります」


「利点?何ですか?」


「中小の町村に知らしめて、魔王の元に集ってもらえるという事です」


 自分から集まってくれるのは助かるな。

 でも、どうやって教えて回るんだ?


「それ、どうやって知らしめるつもり?」


「簡単ですよ。諜報魔法の応用で、木々を通して伝えたり出来ます」


「では、その広報は丹羽さんに任せてもいいと?」


「勿論です!」


 それなら異論はない。

 面倒そうな事をやってくれるなら、旗頭になるくらい屁でもない。


「分かりました。連合の件、受けましょう」


「では、ここに魔王連合が成ったと宣言します!」




 宣言するって言ってもさ、丹羽さんの私室で二人だけしか居ないから、誰も聞いてないんだけどね。

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