キレる双子
久しぶりに会う人が分からないって、失礼なのかな?
今回、慶次はホノヒサの事がサッパリ分からなかった。
当たり前なんだよ。
だってヒト族の騎士だった男が、次に会った時にはモールマンになっていたんだから。
これは普通の日本人だった同級生が、金髪碧眼のイケメンになって現れたようなものだろう。
アジア系の見た目から欧米人だよ。
意味が分からないでしょ。
もしこれが整形だったとしよう。
金色に髪を染めて碧眼になっていたとしても、声帯は変わらない。
ヒントがあるのだから、もし何か言われたら少し言い返しづらい。
しかし、ホノヒサは身体が違うからね。
というよりも、種族が違うから。
こんなの分かるはずが無いよ。
だから僕は、慶次に対して怒ったりしない。
彼は悪くない。
これは仕方のない事なのだ。
それなのに自分が分からないのかって、ホノヒサが怒る方がおかしい。
僕も高校時代の同級生が、大学の時に会ったら太ってて気付かなかった。
アレも怒る方がおかしい。
え?
話が違う?
ホノヒサの身体を覆う岩は、真っ赤に変わっていた。
ホノヒサに向かって飛んできた落ち葉が、岩に当たる前に綺麗に燃え尽きていた。
それだけで、彼の表面が尋常じゃない温度だと分かる。
「対策だけで生きていられるのかよ!」
「出来るのでしょう。事実、ワタクシ達の前には、マグマの塊のようなモールマンが居るのですから」
太田の言う通りだ。
触れたらそれだけで、こちらが大火傷を負うのは目に見えている。
今のホノヒサを見る限り、太田やタケシのような接近戦が得意な者は、ほとんど手が出せない。
「慶次殿!慶次殿、無事か!?」
寝ながら頭を振っている、慶次の姿が見える。
気を失っていたようだが、無事なのか?
いや、マオエから両手でバツ印が出ている。
腕か足でも折っているのかもしれない。
「阿形達は?」
ホノヒサの蹴りは、相当な威力だったのか。
既に執金剛神の術を解いて、二人はゆっくりと立ち上がっている。
「クソがっ!ぶっ殺してやる!」
「モグラがぁ!ケツの穴から串刺しにすんぞ、ゴラァ!」
「え・・・。この二人、性格変わってない?」
「あ、あぁ。ちょっと怖いな・・・」
タケシとマルテがドン引きした様子で、阿形と吽形を見ている。
おかしいな。
アングリーフェアリーの名前は、帝国でも有名なはずなんだが。
もしかしてこの二人がそうだとは、知らなかったのか?
いやいや、自己紹介の時にそれっぽい事は教えてあったと思うし。
いつも紳士的だったから、忘れてたのかもしれないな。
「こんのやらあぁぁ!!」
「死にくされぇぇぇ!!」
「えぇ・・・」
味方から引かれまくりだな。
ウケフジとマオエも同じ顔をしている。
阿形達はどちらかと言えば、冷静なウケフジタイプだったし。
どんな連中よりも接しやすいタイプだったのかもしれない。
言ってしまえば、優等生だと思っていたおとなしい人が、いきなりヤンキーに変わったのと同じだからなぁ。
「お、おい!お前等、アイツは俺の炎で熱くなってるんだぞ!」
「知るかボゲェェ!!」
「熱なんざ気合でどうにかしろや!」
うわぁ、凄い根性論。
気合で高熱の中に突っ込んでいくのは、どうなんだ?
「兄ちゃん!」
「任せろや!」
あら?
思った以上に冷静なのか?
目の前まで行くかと思ったら、距離を取った。
しかもホノヒサを自分達の間に入れて、挟みうちでも考えてるのかも。
レイピアとスティレットを持つ二人。
二人は共に刺突武器の名手でもある。
「吽形」
「分かってる。千枚通しの陣!」
まずは吽形が、猛烈な連続突きを開始した。
それを太刀で防ぐホノヒサ。
「兄ちゃん!」
「真・千枚通しの陣」
反対側から同じく、連続突きを始める阿形。
これには防ぐ手立ては無い。
と思われた。
「兄さん、どうしたの?」
「アイツ、何かを呟いたんだよ」
身体強化をしているからか、離れた距離でもホノヒサの声が聞こえるらしい。
「何て言ってたの?」
「左手は任せたって」
左手は任せた。
どういう意味なのだろうか?
「俺に分かるわけが無い」
聞く前に先に答えられてしまった。
すると兄が、驚いた声を上げる。
「なっ!?アイツ、凄いぞ!」
「二人の攻撃を防いでる!」
僕も見て驚いてしまった。
左手は任せたの意味は、置いておこう。
しかしその左手で脇差を抜いたホノヒサは、右手で太刀を持ち吽形の攻撃を。
左手で阿形の攻撃を防いでいるのだ。
まさかの二刀流に、僕達は驚きを隠せなかった。
その中でも一番驚いているのは、タツザマだった。
「お、おかしい!」
「タツザマ、どうした?」
「アレは本当にスマジ・ホノヒサなのか?」
「いや、モールマンの王だろ。モールマンに食われて、精神だけが残ってるんじゃないか?」
タツザマの問いに淡々と答えるトキド。
「それもおかしいだろう。ならば身体の主導権は、モールマンにあるはず。それなのに騎士王国への恨みを考えると、ホノヒサが表面に出ている」
「そういえばそうだな。でもお前、自分で言ってる事矛盾してないか?さっきはホノヒサなのかと聞いて、ホノヒサが表面に出てきているって」
「そうだ。しかし拙者が知っているスマジとは、大きく違うのだ」
タツザマは混乱した表情で、何が何だか分からないといった様子だ。
トキドはそれを落ち着かせ、タツザマにゆっくりと話を聞く。
「落ち着いたな?何が違うんだ?」
「スマジの剣は、一撃必殺。それは知っているか?」
「話を聞く程度には」
「では分かると思うが、スマジの剣に二刀流はありえない。二刀流は片方で受け止めて、片方で攻撃をする。一撃必殺を理念とするスマジとは、合わないのだ」
「なるほど。だから別人なのではと?」
タツザマの意見を聞いて、納得するトキド。
しかしタツザマは逆に、自分で言っていて納得をしていない。
「だけどおかしいんだ。右手に持った太刀は、所々にスマジらしさが見え隠れしている。その証拠に、今それが起きたぞ」
タツザマが何かを言おうとした瞬間だった。
「ち、チクショウが!」
「吽形!」
ホノヒサが吽形の突きに合わせて、太刀で突きを弾くと、彼は上段から太刀を大きく振り下ろした。
吽形は半身を捻ってそれを避けたが、バランスを崩して倒れてしまった。
「トドメだ」
太刀を振り下ろそうとした瞬間、一人の男がその剣を横から叩く。
予想外の攻撃にホノヒサもバランスを崩したが、向こうはそれを利用して太刀で阿形を攻撃する。
それを避けた阿形だが、これで二人の必殺と思われた攻撃は、完璧に打ち砕かれる事となった。
「クハハ!二人がかりでも、傷すら負わせられないとはな」
「チックショウ!まだだ!」
「ちょっと待ちな!吽形さん達は休んでおきなよ。ここからは正義の味方、ミスタークエルボの出番だぜ!」
「うるさい!この仮面バカ!」
「か、仮面バカ!?」
吽形を助けたはずのタケシだが、まさか感謝されるどころか罵倒されるとは思っていなかった。
ビックリして声が裏返ると、そこにホノヒサの剣が襲い掛かる。
「仮面バカ!」
「わ、分かってる!」
大きく後ろに飛び退いたタケシ。
トキドによる炎の影響が残るホノヒサに近付いたからか、薄らと汗が滲んでいた。
「熱いな」
「熱いなら下がれ、仮面バカ!」
「もう!バカバカ言うのやめてくれない!?」
凹むタケシだったが、彼は一旦二人の言う通り下がる。
「ギュンター殿、狙えないのですか?」
「無理だな。当てる事は容易いと思うが、あの熱量だ。おそらく致命傷どころか、ちょっとした痛みを与えるくらいだろう」
太田に促されたギュンターだが、彼は自分が無力だと気付いていた。
しかし、ギュンターの横に居たマルテはニヤリと笑う。
「弓がダメでも、魔法なら!熱いなら、水で冷やしてしまえば良いのよ」
水魔法で大きな水の矢を作ると、彼女はそれをホノヒサへと投げつける。
「だ、駄目だ!阿形吽形!逃げろ!」
「え?」
僕が水の矢に気付き叫んだが、既に遅かった。
水の矢がホノヒサの胸に当たった。
その瞬間、大きな爆発がホノヒサを中心に起きる。
「阿形!吽形!」
「な、何が起きたのです!?」
珍しく狼狽えるウケフジ。
突然起こった爆発が、自爆だと思ったようだ。
「水蒸気爆発だ。大きな熱に水を掛けると、起こる現象なんだ」
「あ、あぁ!!」
マルテが膝から崩れ落ちる。
自分の攻撃で阿形と吽形を、殺してしまったと思ったようだ。
だけど、そうは問屋が卸さない。
「間一髪だった・・・」
「ウケフジ、助かったよ」
「いや、流石は魔王様。部下の為には、命を張って助けるその行動。感服しました」
「た、大した事じゃないからな!」
真顔で誉められたからか、照れる兄。
まず最初に動いたのは兄だった。
僕の声に反応して、すぐに前へと駆け出していた。
その直後に、空から急降下してきたタツザマ。
二人は阿形と吽形を抱えると、すぐに上空へと離脱していたのだ。
「爆発のショックで、二人とも気を失ってしまったけど」
「気付いたら暴れるでしょうな」
さっきの気性を見る限り、キレるのは当然と考える兄とタツザマ。
起こすのはやめて、安全な場所へ下ろす考えらしい。
だが、その直前に兄が異変に気付く。
「何かおかしいぞ。水蒸気が小さくなってる?」
「本当だ。何かが起きている?」
降りるのをやめた二人は、しばらく空から見ていると、それは突然起こった。
「お前がやったのか!」
水蒸気が突然収縮していくと、ホノヒサが手をマルテの方へと向けた。
「あ・・・」
絶望の表情で見ているマルテだが、そこは僕達の頼りになる男が立ちはだかった。
「ぬん!」
「太田!」
太田がバルディッシュを地面に叩きつけると、地面が大きく隆起する。
小山のように盛り上がった地面に、ホノヒサが放った何かが当たった。
「うおぉぉ!?」
軽く地面が揺れるくらいの爆発が目の前で起こり、流石のギュンターも慌てた声が漏れていた。
「チィ、お前にやられた事を返したやったのに」
「す、水蒸気爆発を返した?」
「フフン、ご名答だ。おいに遠距離攻撃は効かない」
「何だと!?」
水色の岩を持ったモールマンに似ているが、ホノヒサの方が上位っぽいな。
まさか爆発まではね返すなんて、想像もしていなかったぞ。
「あ、ありがとう」
「仲間を守るのは当然の事ですよ」
太田に礼を言う太田。
セリフはイケメンだが、顔はこちらをチラチラと見ている。
明らかに褒められ待ちなのが、残念な牛という感じだ。
「飛び道具も効かない。接近戦も出来ない。どうすりゃ良いんだ?」
「タケシ、珍しく弱気じゃないか」
「だって、俺じゃあ攻撃すら出来ないんだぞ!?」
言いたい事は分かる。
接近戦のスペシャリストだし、岩にすら触れられないタケシじゃ、遠くから石を投げるのが関の山といった感じだろう。
「クハハハ!ガン首揃えてその程度。ヒト族も魔族も大した事ないではないか」
「クッ!気合でやれば、超回復で何とかなるか!?」
売り言葉に買い言葉で、タケシが自分の能力に賭けて突撃しようとしている。
しかし、それを制した者が居た。
兄である。
「お前、強がってんじゃねーよ」
「・・・何?」
「あたかも自分には、攻撃が通じてませんみたいな事言ってるけどさ、ちゃんと見りゃ分かるんだよ」
見れば分かる?
僕達は兄の言葉通り、ホノヒサをマジマジと見てみた。
「あっ!」
「分かった奴も居るようだな」
タケシに気を失っている阿形を手渡すと、兄は一歩前へと出た。
「お前、効いてないフリしてるけど、ダメージはあるよな?その証拠にお前の覆っている岩、まだ真っ赤に燃えてるけど、ヒビが入ってるのが見えるぞ」




