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重装騎兵と雑魚じゃないザコ軍団

「ヒャッハー!敵だぁ!敵を倒せぇ!」


 間違いなく雑魚キャラのセリフ。

 そしてあっけなく死ぬ奴のセリフでもある。

 俺達、敵キャラみたいになってきたな。


(ヒト族から見たら敵なんだよ。間違ってないんじゃないの)


 でも俺等、あんなに非道な事はしてきてないからな。

 今までの事を見る限り、俺達に正義はあると思うんだけど。


(あ〜、それ僕が一番嫌いな言葉ね。正義なんてモノは無い!敢えて言えば、どっちも自分が正しいと思って戦ってるんだから。俺正義だから、お前は悪ねって言ってるようなもんだよ。俺は正しいから、何をやっても問題無い。そういう考えだから、戦争が起きるんだ)


 ちょっと難しい事は、俺に話されても分からない。

 そういうのは長可さんとかとしてよ。


(元から期待してないからいいけどさ。とりあえず、うちの遠征隊の様子が知りたいな)


 それは確かに。

 万が一にも負ける事はないとは思うが。


「丹羽さん。うちの連中ってどんな感じ?」


「ハッ!まもなく会敵します。あのとらいくという魔道具ですか?音が独特なので、すぐに分かりますね」


 トライクって、分類上では何になるの?

 帝国とかには魔物扱いされたし、丹羽さんからは魔道具。

 ただの乗り物とは言えないんだろ?


(何だろね。魔力使ってるから魔道具なのかな?間違っても魔物ではないけど)


 トライクはトライクって分類でいいか。

 考えるの面倒だし。




 一方、若狭へと目指す重装騎兵隊は、楽観視していた。


「隊長、やりましたな。しかしこの魔道具、何故最初から使わなかったのですか?」


「外の森から使用してみろ。ただでさえ効果時間が短いんだ。この迷いの森に入る前に、すぐに見つかる事になるぞ。今まで使わなかったのは、そのせいだ。しかし今回は帝国側からの提案があった。共同作戦という提案がな」


 帝国は若狭へと攻め入る前、隣の王国への配慮なのか、それとも利用出来ると思ったのか。

 若狭への侵攻を伝えていた。

 そしてその侵攻に、同調する気はないかと案を出してきたのだった。

 今まで苦渋を舐めさせられてばかりだった王国は、ここぞとばかりに戦力を出した。

 今まで出さなかった重装騎兵隊に加え、存在すら隠し通してきた魔道具をも投入した。

 その結果が、今まで通過すら困難だった外の森を抜け、更には右顧左眄の森の奥深くまで無傷の侵入となったのだった。


「帝国の考えなど分からん。しかし、これほどの好機を逃す手はない!行くぞ!妖精どもに鉄槌を!」


 一際大きい重装騎馬を操る騎士が、皆を鼓舞する。

 その声に応え速度が上がり、まもなく若狭まで数キロという距離まで来たのだった。

 若狭が誇る仁王は、何処からか連れてきた巨人と戦っている。

 今なら守備は薄い。

 その状況は、正に自分達に全てが味方しているとさえ錯覚していた。

 若狭への侵入は既に決まっており、頭の中では蹂躙する自分達の活躍を描いている。

 取らぬ狸の皮算用とは、こういう場面で使うのだろう。

 そんな事を考えていると、聞き慣れない音が前方から聞こえてきた。


「何の音だ?」


「分かりません。しかし、かなりの速度で近付いてきています」


 聞いた事もない知らない音に警戒し、進行する速度を落とす重装騎兵隊。

 そしてそれが失敗だったと、後悔する事となった。




「土煙が見えているな。アレが重装騎兵だろう」


「ラコーン殿は、重装騎兵と戦った経験はおありか?」


 ゴリアテがラコーンへと質問する。

 確かにゴリアテやイッシー(仮)は、そのような物と戦った経験は無い。

 むしろイッシー(仮)は、存在すら知らないかもしれない。

 経験とは、大きな戦力にもなる。

 知ると知らないでは、対応の仕方が変わるからだ。


「直接戦った経験は、俺には無い。だが、ズンタッタ様から聞いた事はある」


 ズンタッタから聞いた話を二人の部隊長にも伝え、今後の対応策を練る。

 そして作戦は決まった。

 彼等の特性を生かしたやり方だった。


「俺がオーガとミノタウロスを引き連れ、正面から突撃する。ラコーン殿はその残りを上手く追い立てて、ある地点へと誘導。そして待ち構えたイッシー(仮)殿と挟み撃ちって形かな?」


「それが一番良いでしょう。部隊によって戦い方も変わるし、細かい連携を取るよりは大雑把にやった方が確実だと思う」


「俺もその意見に異論は無い。乗っている物が物なので同士討ちの心配も無いし、各々でやってしまおう」


「だな!あと若狭へは何人たりとも近付けない。それだけは間違っても失敗しないように!」


 三者の意見がまとまり、作戦へと行動を開始する。


「一番槍は俺達だぁ!行くぞ野郎ども!ヒャッハー!って、土煙が見えなくなったな。どうするか」





「何の音だかまだ分からんのか!?」


「申し訳ありません。なにぶん、誰も聞いた事が無いというので」


 速度を落とした重装騎兵隊は、相手が何か分からぬままゆっくりと進行していた。

 その進行速度のおかげか、意図せずにゴリアテ率いる第一部隊からの索敵を逃れていた。


「敵の新たな攻撃だと思うか?」


「それは無いかと。もしそうであれば、音が更に近付いてくるはずですから。何かしらの移動手段かと思われます」


「大方、魔物の鳴き声と言った辺りか。このままではラチがあかんな。仁王があの巨人に負けるとも限らない。そうなれば次は、俺達に矛先が向くだろう。重装騎兵隊が、その辺の魔物に負けるわけがない!速度を上げろ!」


 帝国とは手を結んでいる。

 しかし、奴等は巨人を出した辺りから若狭へは侵攻していかなかった。

 勝てば侵攻、負ければ撤退するつもりなのだろう。

 所詮は帝国軍人だ。

 俺達とは考えが違うのだ。

 そう思った重装騎兵隊長は、急ぎ若狭へと向かった。




「見つけました!土煙が上がっています!」


 オーガの一人が叫び、ゴリアテが確認する。


「俺達は運が良いらしい。目の前で相手が姿を現してくれたのだから!」


 アクセルを捻り、真正面から突撃を開始する。

 普通のバイクであれば、命知らずの馬鹿にしか見えない行動だった。


「ヒャッハー!王国は殲滅だぁ!」


「未確認の魔物!?複数が左から突撃をしてきました!」


「何!?妖精か!?」


「え!?オーガ!?ミノタウロスとオーガの部隊です!」


「オーガだと!?こんな所にオーガが居てたまるか!」


 妖精の都市を攻めているのに、何故か現れたオーガとミノタウロス。

 その事実は重装騎兵隊からすると、寝耳に水の大きな衝撃だった。


「突撃により、前後で部隊が分断されました!」


「仕方ない。そのまま挟撃しろ!見知らぬ魔物など、我等の敵ではない。魔物を狙って騎手を落とせば、重装騎兵の突進でどうとでもなる。オーガだろうがミノタウロスだろうが、踏み潰してくれるわ!」


 左から右へと突撃し通り過ぎようとしたゴリアテ部隊を、分断された重装騎兵達が挟み込む。

 そしてトライクへと攻撃を開始した。


「なっ!?硬い!外殻か!?」


「剣も槍も弾かれるだと!」


「近付いてくれてありがとよ。キャリアカー!騎士を狙え!」


 トライクの後ろに付いているキャリアカー。

 そのキャリアカーに乗っている者達が、一斉に大木を左右に突き出した。


「キャリアカー組!急ブレーキ!」


 キキィ!という音が聞こえそうなくらいの急ブレーキを掛け、一気に減速。

 その動きについていけなかった重装騎兵は、大木に引っ掛かり落馬した。

 そして後ろのトライクに轢かれていく。


「ギャアァァァ!」


「足が!俺の足が変な方向に!」


 鎧のおかげか死んではいないようだが、落馬の衝撃とトライクのせいで重傷だ。

 このまま放置しても問題無いと判断し、そのまま通り過ぎて行ったのだった。


「此処からはラコーン殿の仕事かな?俺達も追うぞ!ヒャッハー!」



「今のオーガ隊の攻撃で、約三割の重装騎兵と逸れました!」


「チィ!仕方ない。残った者で若狭へと向かう」


 振り返ると、分断された後方の一部が落馬していた。

 そして残った一部がオーガ達と戦闘を開始。

 今では七割ほどの戦力まで落ちていた。

 それでもまだ巻き返せると判断した隊長だったが、更なる追撃に言葉を失った。


「行け!」


 前方から再び同じ魔物に乗った魔族が現れた。

 しかも今度は、多種多様な獣人だった。

 そして言葉を失った理由が、後ろから指揮をしている人物。


「お前、ヒト族だろうが!しかもその鎧、ミスリルだな!帝国の人間がどうして此方を攻撃している!?」


「悪いが俺は帝国の軍人だが、王子派の軍人ではない。お前達が手を結んでいる連中は、クーデターを起こした反乱軍だ。俺達はそれを認めていない。よって、そんな連中と組んでいるお前達の敵だ!」


 隊長からすると、全く知らない話だった。

 他国の内情に詳しい王国の軍人など、ほとんど居ないだろう。

 それは彼も同じだった。

 そんな事は知らん!と叫びたい気持ちで一杯だったが、そこは堪えた。


「無茶だけはするなよ。少しずつ追い詰めろ!」


 ラコーンの指示で、キャリアカー隊から棍で重装騎兵を突いていく。

 徐々に流れを右へと向かわされ、若狭から少しずつズレていった。


「今だ!」


 前方から石の仮面を被った謎の男の掛け声で、更なる部隊が飛び出してくる。

 この部隊、多種多様な種族で混成されているが、何故かまとまっていた。

 見た目から違和感を感じないのだが、その理由まではこの瞬間では分からない。

 今はそれより、この連中を撒く事だけを考えなくては!


「前方のハゲ部隊はお任せください!」


 副長として部隊の一部を任せていた者が、前方へ飛び出した。


「ハゲじゃねえぇ!少し薄いだけだあぁぁ!!」


 石仮面の気迫に圧されたのか、なんと馬が動揺してしまった。

 それを見逃さなかった石仮面は、槍で副長の頭を刎ねた。

 返す槍で後方から付いて行った部隊にも攻撃を加え、なんと魔物を操りながら途中で後方の者に槍を渡していた。

 何をするのかと思いきや、速度を落とし前方を塞ぎ、そのまま剣で応戦。

 後ろの者は渡された槍で、彼の死角を補っていた。

 多種多様な種族なのに、連携がどの部隊よりも強い。

 お互いがお互いをカバーしているせいで、塞がれた前方を抜けるのは、ほとんど無理に近かった。


「気味の悪い仮面をしていて侮ったが、魔族にこのような武芸に多才な達人が存在したとは。諜報部は何をしていた!?」


 この場に居るはずもない者に激怒し、剣を振るう。

 既に逃げ場は無い。

 オーガから逃れ、裏切り者の帝国軍人に誘い込まれ、気味悪い仮面の男に塞がれる。

 先程まで描いていた若狭でしようとしていた事は、ただの絵空事となってしまった。





「前門のハゲ、後門の軍人か」


「・・・お前、ぶち殺すぞ?」


 ハゲを二度言われたイッシー(仮)は、何処ぞの妖精と同じようにキレている。

 仮面のおかげで気付かれていないが、余程ムカついているのか。

 目が血走るほど怒っていた。


「隊長さんよ。テメーは俺を怒らせた」


「黙れ!むしろ我が道を塞いだ貴様に、怒りを感じているわ!」


 怒りの隊長がイッシー(仮)へと斬りかかる。

 数度剣を交え、イッシー(仮)は感じたままを伝えた。


「お前、隊長の割に弱いな。頭も良くなさそうだし、コネか?」


「うるさい!」


「図星か。まあいい。お前は此処でくたばるのだから」


「誰が!此処で我等を倒したとしても、帝国の巨人がお前達を殺すだろう。無駄な足掻きだ。残念だったな!」


「その巨人って、アレの事だろ?宙を浮いてるけど」


「は?騙そうとしても無駄だ!そのような分かりやすい嘘、すぐに分かるわ!」


「いや、だって後ろへ倒れて・・・」


 ズドン!という音とバキバキ!という音を立て木々を薙ぎ倒し、巨大な何かが倒れる感じがした。

 振り返ると、先程まで見えていた巨人の姿が見当たらない。

 まさか本当に・・・


「戦っている最中に、本当に後ろを向く馬鹿が居るとは」


 すぐ近くで聞こえた声に振り返ると、目の前には刃が首へと迫っていた。

 そしてそれが、最後の光景となる。


「王国の人間って、比較的馬鹿が多いな」


 そう呟いたハゲ、もといイッシー(仮)は、残りの重装騎兵を斬り倒していく。

 気付くとそこには、ゴリアテとラコーンの姿もあった。

 逃げる者は見逃したが、大半は倒している。

 この場に居る王国兵は、誰も生き残っていない。





「ヒャッハー!俺達の勝利だぁ!」

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