最上階へ
貴方は幽霊を信じますか?
僕は勿論、信じません。
だってさ、幽霊って何なのよ。
人魂とかなら、勘違いで済むと思うんだわ。
それこそ暗い夜道を歩いていて、灯りがそんな風に見えたとかね。
でも、幽霊って何?
足が無いから幽霊?
死んでるから幽霊?
ゾンビだって死んでるでしょうが!
実体が無いモノなんか、信じられない。
たまたま鏡に映った人かもしれないし、ちょっとした見間違えみたいな感じかもしれない。
ハッキリ言おう。
触られないモノとかさ、どうでも良いでしょ。
向こうだって睨んできたりするだけでしょ?
実害無いじゃん。
だったらさ、見えていようが見えていなかろうが、どうでも良いんじゃなかろうか?
別に怖いから言ってるわけじゃないよ。
人気の無い道を歩いていたら、前を歩いていたと思った人が急に目の前に現れて、凄い形相で覗き込んできたりされたわけじゃない。
ここ交通事故の現場なんだよねって言われた場所で、首がおかしな方向に曲がった女の人が僕をジーっと見てたとか、そんなの信じないから。
もうね、興味本位の連中とかはダメ。
体験者は語るよ?
誰が何と言おうと、僕は幽霊が怖いんです。
僕達の前に姿を現した、大きなモールマン。
というよりは、身体の大きさを自由に変えられるモールマンと呼ぶべきか?
「アイツ、どうして大きくなったんだろう?」
「は?どうした、急に」
トキドが不思議そうな顔をしている。
こんな時に、変な事を気にする奴だな。
「だってさ、小さくても力は強かったんだろ?だったら見つかりづらいし、小さいままの方が良くないか?」
「なるほど。確かに」
兄はトキドの意見に賛成のようだ。
しかし二人とも、どうして大きくなったのかまでは分かっていない様子。
「お前はどう思う?」
兄が僕に意見を求めてきた。
どう思うと言われても、いくつか予想している点はあるけど。
「まずは、時間制限がある。小さくなったら、その分大きくならないと駄目かもしれない」
「おぉ!」
「他には、小さいと攻撃範囲がとても狭い。さっきから一部しか攻撃出来てないでしょ。それに小さいと移動にも不便だし」
「ほうほう。他には?」
「他にはって、これは僕の勘だからね」
あたかも正解のように捉えているけど、間違っていて後から僕に文句を言われても困る。
「とにかく、身体が縮小拡大出来るって分かったんだ。突然見失っても、辺りを探せば良いんだよ」
「承知した!」
結局はそういう事だろう。
何故とかどうしてとか、そんな事を気にするのは後で良いのだ。
「というわけで、タツザマが苦労した怪力の持ち主だけど。二人なら何とかなるでしょ」
「ハッ!そういえばそうだった!」
「トキドよ、甘いな。俺を誰だと思っていやがる!」
親指を自分に向けて、自信満々に胸を張る兄。
トキドはそれを見て、ちょっと悪い顔をしている。
多分、丸投げしようとしてるな。
「だ、誰と言われたら、魔王様じゃない?」
「そう!アイアム魔王!分かるかね?魔王は魔族で一番なのだ。太田の力が強いと言っても、俺も負けんからな」
「じゃあ魔王様が、アイツと戦ってくれると?」
「お前と一緒にな」
最後の言葉を聞いたトキドは、兄に見えないように舌打ちをした。
アテが外れたからだろう。
これだけ話をしていても、攻撃をしてこないあたり、兄の握り潰し攻撃はそれなりにダメージを与えていたのかもしれないな。
現に左腕は曲がっているし、まだ立とうとしていない。
「お二人さん、今がチャンスだと思うんだけど」
「何!?本当だ、全然立てないじゃん」
「これならトキドでも倒せるんじゃない?」
「俺でもって、言い方!でもその通りだ!」
トキドはまだ動くと思われる右腕を封じようと、右肩に突きを出した。
だが、まだ瀕死とまではいっていないらしい。
右手でガッチリとトキドの刃を掴むと、無理矢理に太刀を奪おうと引っ張り出した。
「ち、力強いな!でも、俺がこの剣を引けば、ってアレ?切れないの?」
刃を引けば、モールマンの手のひらはズタズタになるはず。
そう思っていたトキドだったが、彼の予想の上をいく結果になった。
ガッチリと強く掴まれている為、剣を引いてもびくともしないのだ。
血が出ていない事から、このモールマンは手のひらにも刃を通さない岩のような物があるのかもしれない。
「だが、俺は剣の腕だけじゃない。燃えちまえ!」
「おぉ!・・・んん!?」
「燃えないね」
炎がトキドの腕から太刀を通って、モールマンの腕へと伝っていった。
見ていて華麗とも思える技だったのだが、モールマンが火傷を負ったような気配は無い。
熱いとか感じているような苦痛の表情も無く、ただただ火が身体を覆っているだけだった。
「ど、どういう事!?」
「俺に聞くな!」
「た、助けて、魔王様!」
さっきの威勢は何処へやら。
トキドは兄に助けを求めた。
渋々動き始める兄を見たモールマン。
枚数不利は勘弁と言わんばかりに、また逃亡を試みる。
「逃すか!」
兄がモールマンに組み付いた。
身体を左右に振り、兄を振り落とそうとしている。
それに合わせてトキドも、太刀ごと振り回されていた。
「た、助けてー!」
「こ、こんの野郎!」
兄が突然モールマンの口を持つと、力づくで開き始めた。
「トキド!」
「へ?」
「外側は効かなくても、中は分からんだろ!う、コイツ小さくなって、また逃げようとしてやがる」
「そ、そっか!」
確かに兄の身体スッポリ入るくらいの口の大きさが、気付けば人形である僕と同じくらいまで縮んでいる。
このままだとまた、手のひらサイズまで小さくなるつもりだろう。
それを察したトキドは、太刀を手放して腰にある脇差を抜くとそれを口の中へ押し込む。
「外は燃えなくても、中はどうかな?」
先程と同じように、トキドの腕から脇差、そしてモールマンの口の中へと炎が伝っていく。
すると口の中で、急に爆発が起きた。
モールマンは煙を吐きながら太刀を手放し、その場で倒れ込んだ。
「や、やったか?」
「兄さん、それフラグだよ」
「いや、今度こそ倒したらしい」
モールマンはしばらく痙攣した後、全く動かなくなった。
ようやく二体目のモールマンを倒したか。
さっきの太田の攻撃は不意打ちでもあったので、実際には一体目と言っても良いだろう。
めちゃくちゃ強いというわけじゃないと思うのだが、やはり特殊な個体は面倒である。
「トキドさあ、どうして本気で戦わないの?」
「いやいや!十分本気だし」
「嘘だろ?又左と戦った時みたいに、めちゃくちゃ強い炎とか出せるじゃんか」
「魔王様、それ本気で言ってるの?あんな大きな炎を、ここで使ってみなよ。オーサコ城、壊れて無くなっちまうぞ」
「あ、なるほど」
兄はようやく理解したようだが、僕としてはその炎を一点集中させれば倒せた気もするのだが。
城が壊れると言っても、既に壊れたも同然くらいの被害状況だしね。
「何か言いたそうだよね」
「僕は別に何も言ってないよ」
「顔が言ってるよ」
口にはしていないけど、思った事が顔に出てしまったか?
なんて思うか!
「人形の僕の顔は、ずっと同じだっつーの!」
「まあまあ、落ち着けよ。それよりも上の階へ早く行こうぜ」
「ほ、ほら!魔王様もこう言ってる事だし」
僕も魔王だっつーの。
まあ良い。
こんなところで不毛な文句を言っても仕方ない。
上の階へ向かうと、予想外にモールマンとの接触は無かった。
接触が無かったというよりも、上手くやり過ごしたというのが正解か?
何が起きたのか分からないが、奴等は急いで下の階へ降りていった。
余程慌てていたのか、気配を消す事も無かったので、階段の近くでやり過ごすとそのまま最上階まで来る事が出来たのだ。
「どうして降りていったんだろうな?」
「トイレだな」
兄がトキドの尻を叩く。
「イテッ!冗談だよ」
「そんな分かりきった冗談なんか、言わなくて・・・ん?」
「どうした?」
「あ、僕も分かった。なんか揺れてない?」
兄は小さな揺れを感じると言った。
僕の場合は兄の背中に背負われているので、振動で気付いたというよりは建物に掛けられた物が微かに揺れている事で気付いた。
「ほら、やっぱり揺れてるよ」
「外での戦闘が激しくなったか?」
一番近くの窓から外を覗いてみると、タツザマ達は城から離れて戦っているようで、近くには居なかった。
「違ったね」
「まあ良いや。とりあえず、ハクト達を探そう」
「やっぱり最上階みたいだな」
「えっ!?もう見つけたの?」
兄が奥の部屋を指差すと、そこから呻き声が聞こえると言った。
タツザマは太刀を抜き戦闘態勢に入り、兄もそっと扉の近くに寄る。
「中で戦ってる様子は無いな」
「人質として囚われてる可能性は?」
「あるかもしれない」
小声で話す二人だが、モールマンは耳が優れている。
いくら兄が身体強化して聴力を上げていたとしても、モールマンがそれより劣っているとは思えない。
モールマンが中に居て人質を取っているなら、今頃僕達の行動は筒抜けなんじゃないかな。
というわけで、普通にハクトに話し掛ける事にした。
「ハクト、僕だ」
「おい!人質の可能性だって!」
「敵が居るかもしれないんだぞ!」
中から解錠されて、扉が開いた。
ハクトが普通に開けてくれたらしい。
「良かった。トキドさんも来てくれたんだ。中から話し声が聞こえてたけど、三人が来てくれて助かったよ」
「うん、敵なんか居なかった」
「俺も分かっていたけどね」
白々しく兄とトキドは、頭を掻きながら中へと入っていく。
中に入って気付いたのは、予想以上に怪我人が少ないという点だ。
それは生き残りが少なかったという事を意味する。
「二十人足らずしか居ないな」
「実際は十八人だよ。怪我人の数は七人で、残りは治療をしてくれていた人達なんだ」
「しかし!ハクト殿が居なかったら、全員やられていたかもしれない」
「オナキギャワ殿!?」
顔色が優れないオナキギャワが、ハクトの後ろから出てくる。
どうやら彼もやられて、城に運ばれていたようだ。
「城に来ているという事は、オナキギャワ殿は重傷だったのか?」
「恥ずかしながら、やられてしまいました」
気まずそうに話すオナキギャワだが、それよりも現状把握が優先だ。
「今、最上階には敵は居ない。何故かは知らないけど、モールマンは皆、三階より下の階へ降りていったからな」
「怪我人は動けそう?」
見た感じ、重傷者が運ばれたという割には、寝たきりの騎士は見当たらない。
既に治療は終わっているようで、自分で歩けるような連中しか居ないように見える。
「今ならもう大丈夫だと思う。ただ、走ったり戦ったりは無理かな。まだ血が足りなかったり、骨がしっかりとくっついてないからね」
「そうか」
となると、敵が集まっている時点でそれは考えていなかったけど、一階からの強行突破は難しいかな。
最上階からどうやって降りようか。
創造魔法をこの城を使って何か作ればとも考えたけど、もうボロボロ過ぎて下手に手を出すと、城自体が壊れそうなんだよなぁ。
「また揺れてないか?」
「ほ、本当だ」
最上階ともなると、揺れも大きく感じる。
負傷者からしたら、不安が大きく感じられるかもしれない。
しかし、負傷者が云々と言ってる場合ではなかった。
「お、大きいぞ!」
「外は・・・鳥が飛び出してない。城だけ揺れてるんだ!」
明らかにさっきと比べても大きい。
次の瞬間、僕達は自分達が落下している事に気付いた。
「うわあぁぁ!!」
「全員掴まれ!」
僕が魔法で作った網で、兄とトキドが負傷者や治療をした人達を、投げ網の要領で咄嗟に捕まえた。
床が一気に崩落したのだ。
「ど、どうして?」
「掴まれる場所があるなら、自分で掴まってくれ。ちょっと辛い」
トキドのギブアップ宣言により、手を負傷していない者達は壁や扉に掴まった。
「理由が分かったぞ」
兄が下を見ると、僕達はそこであるモノを目にした。
「ハーハッハッハ!臭い、臭いぞ!自意識過剰な企みと憎悪に満ちた臭いが、プンプンしよるわ!モールマン如きの手玉に取られる私ではないわ!」




