お化け?幽霊?
猫を被る。
意味はほとんどの人なら分かるだろう。
この言葉を使う場合、大半は女の人を思い浮かべるだろう。
僕のイメージでは、合コンとかに行った女性がこんな感じだよねと思ってる。
そりゃあカッコ良い男性には、少しでも良く見られたいという気持ちは分かる。
意識をしていなくても、猫を被る女性も居るんじゃないかな?
そして僕の中では、女性以外でも使ってると思われる者達が居る。
それは子供である。
彼等はクリスマスや正月シーズンになると、途端に良い子になる。
これはまさしく、猫を被ると言っても良い。
本性を隠して、おとなしく振る舞う。
意味合いとしては、あまり良いものではないと思う。
でもね、それは気になる人には、少しでもよく見られたいという願望が起こしたものなのだ。
女性然り子供然り、大目に見てやっても良いと思うんだよ。
ただしベティ、テメーはダメだ。
アレだけ汚い言葉を吐いておいて、僕の前では満面の笑みである。
僕は思ったね。
彼は越中国では、パワハラをしているんじゃないかって。
普段は下々の連中に、とても厳しいんじゃないかって。
慕われているのは、見せかけだけなのでは?
僕、この戦いが終わったら、詰問してみようと思うんだ。
そして、この言葉がフラグにならないように、頑張ろうと思います。
トキドの機嫌は、かなり悪い。
そういえばトキドは、最初にオーサコ城へ向かっていたんだった。
「僕達と合流する前に、誰かと会った?」
「会ったぞ。上の階でハクト殿とオナキギャワ殿が、モールマンに襲われていてな。そこを俺が助けに入ったわけだ」
「えっ!?そんな話、俺達聞いてない!」
「そういえば、今初めて言ったな。多分だが、負傷したオナキギャワ殿を介抱していたんじゃないか?」
コイツ!
かなり重要な話じゃないか。
モールマン探しに集中していて、忘れてやがったな。
「その話し方だと、無事助けたのは分かるんだが。その後はどうしたんだ?」
「分からん。そのモールマンも特殊な色をしていたんだが、奴が下の階に逃げたから、俺は追ってここまで来たんだ。その途中でも、違う色とあったけど」
「なるほど。どう思う?」
兄は僕にハクト達の様子について、質問をしてきた。
ハクトの性格なら、怪我をしたオナキギャワと別行動を取るとは思いにくい。
となると、彼と一緒に居るはず。
「オナキギャワと一緒に、負傷者を助けに回ってるんじゃないかな?」
「やっぱりそう思うか。そうなると、下の階に降りてくるより上の階へ向かったと考えるのが、普通だよな」
「妥当な線だね」
しかもそうなると、下の階で会っていない太田と慶次の動きも気になる。
もしかしたら、二人と上の階で合流してるのかもしれない。
「決めた!トキドはオレ達と一緒に、最上階を目指そう」
「は?」
「えっ!?見えない敵の相手っていうのは?」
「居るのか居ないのか分からん敵の相手をしていたって、仕方ないじゃん。だったら一番戦力を必要としていそうな、ハクト達の所に駆けつけるのがベストじゃないか?」
むむ!?
兄にしてはマトモな意見である。
確かにその考えは否定出来ない。
「それにさ、もしかしたらその見えない敵ってのは、俺達の足止めが目的なのかもしれんよ?」
「そうか!最上階へ行かせない為に、見えない攻撃で不安にさせようって魂胆か!流石は魔王様だ。そんな裏まで考えているとは」
「ナハハハ!まあね。俺くらいになれば、それくらいは読めちゃうからね」
たまたまそんな気がしただけで、別にそうと決まったわけじゃないのに。
よくもまあ、胸を張って言えるものだ。
癪だが、僕も今回は賛成かな。
「上を目指せば、その見えない敵も出てこざるを得ない状況になるかもしれない。無視して攻撃してこなければ、それはそれで良し。最上階を目指そう」
「よし来た!そっちの方がモールマンに会う確率も高いだろう。行くぜ!」
トキドの機嫌も直ったし、結果オーライだな。
見えない敵は本当に居たらしい。
僕達が上の階へ向かうと、奴は行動を開始した。
「イテッ!」
「ウボァ!」
「・・・何か当たった?」
やはり兄もトキドも、見えない敵に背後から攻撃されていた。
僕にもしてきているみたいだが、やはりミスリルで出来た人形には、そこまでダメージは与えられないようだ。
「アンタ等、やっぱちょっとおかしいわ」
「え?何が?」
「鎧着てる俺がめちゃくちゃダメージ食らってるのに、何で普通の服のアンタは、イテッ!の一言で済むのよ?」
「それは・・・何故?」
おいおい、本人が分かってないじゃないか。
仕方ないな。
「トキド達の鎧って見た目は変わっても、あくまでも普通の鎧でしょ?」
「そうだな。一部の連中は防御力が上がったりするけど、大半はそのままだと思う」
「僕達は見た目はそのままだけど、身体強化で全てが強化されるから。だから身体強化が上手なら、その辺の鎧なんかよりはるかに頑丈だよ」
「・・・魔族ってズルイ」
「まあな。太田なんかは、俺よりも防御に優れた身体強化だし。ベティは速さに特化してるんじゃないか?」
「なるほど」
しかし、これで分かった。
タツザマが言っていた事は本当で、僕達には気付かない何かが居るという事だ。
「このまま上に行くと、負傷者に危険を持っていくようなものだし。ここで倒しておかないと駄目かも」
「そうなると、コレの相手が俺?冗談キツイなぁ」
攻撃力がかなりある見えないモールマンに、トキドはちょっと不安な様子だ。
さっき言っていた、この階全てを燃やすという方法を取れば、倒せなくもないだろう。
でも特殊なモールマンの共通点として、炎に耐性がありそうな気がする。
もしかしたら無駄な攻撃で、城にダメージを与えるだけになるとも言い切れない。
「兄さん、ここは僕達も手伝おう」
「え?手伝うの?」
「随分と嫌そうに言うね・・・」
「そんな事無いよ!トキドの活躍の場を、俺が取っちゃ悪いかなってね。俺も久しぶりに出たから、俺がやっても良いんだけど。そこはやっぱり騎士王国に名高い、トキドさんの活躍の場を奪っちゃう事になるから」
「そこまで言うなら仕方ない!今回は魔王様に活躍の場を、譲ろうじゃあありませんか!」
「え・・・」
馬鹿だなぁ。
下手な言い訳したせいで、逆に自分が追い詰められてるじゃんか。
トキドは満面の笑みで、どうぞどうぞと言っている。
こんな特殊な敵と戦うより、他のモールマンと戦うまで体力を温存したいってのが本音か?
「どうしよう?」
「自分でそう言っちゃったんだ。やるしかないね」
「俺も手伝わないとは言ってないから」
ちょっとズルイ気もするけど、トキドも手伝うと言ってくれている。
三人で戦えば負担は楽になるだろうし、上手くいけばどうにかなるだろう。
「だったら手っ取り早いのは、三人で背中を守り合う事だろう」
「背中に壁を付けるのは?」
「壁ごと突き破ってこないとも言い切れないよ」
「分かった!そしたら外側の壁に、背を向ければ良いんじゃない?そしたら外からは、攻撃されないぞ」
駄目だこの二人。
思考回路が似通っている。
「それさ、真正面から不意打ちで攻撃されたら、キミ等城の外に吹き飛ばされて真っ逆さまに落ちてくんだよ。分かってる?」
「あ・・・」
二人とも口をポカーンと開けて、同じ顔をしている。
やっぱりその考えは無かったらしい。
「だからこそお互いに背を向けて、前からの攻撃に備えるんだよ」
「分かった。前からの攻撃に備えよう」
二人とも背を向けて、前方を注視し始める。
数分すると二人とも飽きてきたのか、少しダレてきた。
「ハァ、来るなら早く来いよなぁ」
「ホントだよ。見てるだけって飽きるよな」
「ホントホント。魔王様、分かってるね」
似た性格でも、ベティと金色のモールマンとは大きく違い、こっちは仲がよろしいようで。
二人とも前は見ているが、集中力が切れて話し始めてしまった。
だが、それでもやる事はやる。
そこは兄の凄いところである。
「ん?何か動いた」
「え?誰か居たか?」
この階の炎は、全て消火している。
生き残りは誰も居ないし、他のモールマンも見当たらなかった。
つまりこの階には、僕達以外に誰も居ないはずなのだ。
「人じゃない?というか、モールマンでもない?」
「もしかして、お化けとか幽霊?沢山死んでるし、居ないとも限らないか」
「トキド!怖い事言わない!」
トキドがくだらない事を言ってくれたせいで、僕が不安になってしまったじゃないか!
・・・兄さん何も喋らないし、余計に怖くなってきたんだけど!?
「兄さん?」
「・・・」
「何か喋ってよ!」
「・・・」
「もしかして幽霊に乗り移られた?」
「トキド!」
「・・・」
ぬあぁぁぁ!!
本当に動かないし、何も喋らない。
本当にヤバイのか?
「に、兄さ〜ん?」
「・・・」
「マジで喋れえぇぇ!!」
「居た!」
その瞬間だった。
兄が唐突に、猛スピードで前へ出た。
そしてヘッドスライディングのような姿勢で飛んでいくと、両手で何かを掴んでいる。
「おっしゃあ!ゲットだぜ!!」
トキドと僕は、何が起きたのかサッパリ分かっていなかった。
とりあえず理解出来たのは、兄が幽霊に乗り移られたわけじゃないという事だけ。
「ど、どうした?」
「ゲットって、何か捕まえたの?」
「おうよ!イテッ!テメー、暴れるんじゃねぇ!」
兄の二の腕に力が入っている。
虫とかを捕まえるような感じではなく、本当に力を込めている感じだ。
「何を捕まえたんだ?」
トキドと僕は兄に近付いてみた。
兄の両手の中を覗き込むと、僕達は二人揃って驚きのモノを目にする。
「モ、モールマン!?」
「ちっさ!こんな小さいモールマンも居るのか!?」
「でも、力はかなりあるんだぜ。多分、ジャイアントも食ってると思う」
この姿で怪力持ちとか、本当にヤバイだろ。
コレは確かに、タツザマも手に負えないな。
「魔王様、潰しちゃえ!」
「だな。フン!」
兄が更に力を込めた。
モールマンが小さな声で、何か呻き声のようなものを上げた気がする。
すると、僕達は更に驚く事になる。
「な、何だ!?」
兄が両手を力強く握っているのだが、それよりも大きな力が働いているのか、兄はどんどん手を広げていく。
「だ、駄目だあぁぁ!!離れろ!」
兄が諦めるくらいの力。
兄は両手でサッカーのスローインのように、両手を上げて中のモノを地面に叩きつける。
余程大きな力で叩きつけたのか、下の階へと貫いていった。
穴から何が起こったのかと覗き込むと、僕達は驚愕の光景を目にする事になる。
「なっ!?」
「巨大化した!?」
「ん?あの個体、見た事あるぞ」
僕とトキドが驚いてる中、兄は冷静に言う。
どうやら兄は、自分の手の中のモールマンが徐々に大きくなっている事に、気付いていたようだ。
「あんなの見た事無いだろ!」
「いや、僕も見覚えがある気がする」
兄が冷静にだったからか、僕も落ち着いて見てみると、それは見た事があった。
「あ!」
「思い出した?」
「あぁ。あの大きなモールマン、タツザマがオーサコ城に来て最初に相手にしていた、巨大なモールマンだ。太田にバトンタッチしたと思ったら逃げた奴だよ。あんな巨体で逃げても、すぐに見つかるだろと思ったけど、小さくなれるとは。アレじゃあ見つからんわけだ」




