入り乱れる三階
同族嫌悪と呼ぶべきなのか?
ベティは見つけた金色に輝く岩を持つモールマンに、とても苛立ちを感じていた。
モールマンにもオカマが居る?
信じられないけど、あり得なくはない話だと思う。
理由は簡単。
食べられた人が、そっちの人だった場合。
ただ僕は、この世界でベティのようなあからさまに分かるくらいのオカマの人を見た事が無い。
今僕達の世界では、トランスジェンダーという言葉でベティのような人達も、受け入れられやすい空気になっている。
まあベティは、トランスジェンダーとは少し違う気もするけど。
正直な話、トランスジェンダーやら性同一性障害やらジェンダーレスやら、一般人には調べないと分からない言葉が沢山あって、ベティがどれに当てはまるのか分からないのが本音なんだけどね。
ちなみにこの世界では、そんな言葉は存在しない。
多分ベティのような存在は、本来受け入れられないのかもしれないね。
彼の場合は強いから、弱肉強食の魔族の中でその我を押し通す事も出来るんだろうけど。
もしかしたらモールマンに食べられた人は、そんな心の内をモールマンを通して表に出してるのかもしれない。
なんて思ったけど、オカマ同士って仲が良いイメージなんだよね。
ただ単に、性格が合わないだけかもしれない。
火事と喧嘩は江戸の華。
と言っても、ここは江戸じゃない。
それに加えて城だって、江戸城どころか大坂城を模している。
そんな燃える城の中で、敵味方入り乱れての戦いか。
正直、こっちに不利な条件が多いよね。
そんな僕達が一階から入って早々に出会ったのは、上からモールマンと一緒に落ちてきた、ベティだった。
「ごおるあぁぁぁ!!死ねえぇぇぇ!!」
「・・・ベティ?」
鬼のような形相で落ちてきたベティ。
しかし僕達が彼に気付くと、その表情は一変した。
「あらぁ!魔王様じゃないの!」
「お、おぅ・・・」
あまりの変わりっぷりに、ちょっと引くレベルだ。
兄もこれを見て、僕と同じ事を思ったらしい。
錯覚でも見てたんじゃないかと思うくらい、今はいつもの顔つきである。
「・・・二人、三人?」
「勝手に喋ってんじゃねえぞ!」
押さえつけてるモールマンの顔を、グーパンチで殴るベティ。
おい、キャラが違い過ぎるだろ。
こんなの子供に見せられんぞ。
「ベティ、ソイツを捕縛するぞ」
「分かったわ。っと!何よコイツ!」
このモールマン、どうやら力はベティよりも強いらしい。
腕力に物を言わせて、ベティの拘束から無理矢理脱出した。
「気色悪いお前だけなら、倒しようもあったんだけど。悪いが一度、仕切り直させてもらう」
「こんの!誰が逃すか!」
火の中に飛び込んでいくモールマン。
僕達の予想通り、熱には強いのかもしれない。
ただ、ベティもそれを追って燃え盛る場所へ飛び込んでいった。
「追うか?」
兄はいきなり追う事はせず、僕に確認を求めた。
あのモールマンの足なら、兄が走れば追っても追いつける気はするけど。
それよりも生き残りを助ける方が、先決かな。
「単独行動は危険だけど、アレだけ騒いでれば誰か気付くと思う。ベティを追うより、生き残りを助ける事に専念しよう」
「そうか。じゃあ一通り一階から見て、火を消しながら上を目指すとするか」
兄は火の強い場所へ向かうと、僕が後ろから水を掛けるのだった。
思ったより少ないのか?
僕達は今、三階に来ている。
その間、生き残りにもモールマンにも出会わなかった。
「どう思う?」
「うーん」
何と答えるのが正解なんだろう?
敵が少ない気がする。
思った以上にやられているね。
その割に、死体の数が少ないかな。
兄の質問には、色々な意味が含まれている気がした。
「食われちゃったのかな?」
「どうだろう。だったらもっと、モールマンと接敵してる気がする」
「ってなると、上の階に逃げているかだな」
希望的観測だけど、僕も兄も死体の数が少ないのは、そういう理由かなと思った。
ただし、そうなると気になる点もあった。
城の中に運ばれていたのは、重傷者が主である。
その中には自力で動けない者も、多々含まれていたはず。
そんな彼等が、どうやって上の階に行けたのか?
「・・・救助者が居る?」
「ハクト達か!」
「そうかもしれない」
「きっとそうだ。アイツがそう簡単に、モールマンにやられるはずがない。だからきっと、ハクト達が上へ連れて行ったんだ」
そうなると、問題もあるな。
城の警備は少なかった。
怪我人を治療出来る医者とかは多い方だけど、戦える人となるとそうは居ない。
モールマンの追撃を、どうやって退けたんだろうか?
「考えていても仕方ないか。兄さん、上へ行こう」
「そうだな。早く上の階に行って、助けを・・・」
兄が急に黙ってしまった。
どうしたんだ?
「どうしたの?」
「シッ!何か来る」
耳を研ぎ澄ます兄だが、僕には何にも聞こえない。
だが、それはすぐにやって来た。
「なっ!?モールマン!?」
「オラァ!逃げてんじゃねーぞテメー!」
モールマンが壁を突き破って、倒れ込んできた。
そしてその壊れた壁の向こうからは、トキドが太刀で肩を叩きながら歩いてくる。
「トキド!?」
「オウ!中に入って来たのか」
「下がれ!また何か来るぞ!」
トキドが僕達を見つけて、こっちに向かってこようとしたが、兄はそれを手で制する。
どうやら他にも、ここに向かっているらしい。
「うっしゃあ!あ、ヤバっ!」
今度は反対側から、タケシがドロップキックでモールマンを吹き飛ばしてきた。
穴を開けたからか、ヤバイという声が聞こえる。
「何だぁ?」
「トキドさんか。え?モールマン増えた?」
トキドが張り倒したモールマンと、タケシがドロップキックをかましたモールマン。
色は違えど、やはり特殊な個体のようだ。
「このクソ野郎が!」
「う、上からだ!」
今度はベティが、モールマンの腹を踏みながら落ちてきた。
気付けば三階は、穴だらけでボロボロである。
「また増えたな」
「あら皆さん、お揃いで」
「金色のモールマン!?」
タケシが金色に輝くモールマンを見て、微妙に興奮している。
岩が金色なだけで、本物の金ではないと思うんだけどな。
「クソッ!拙者には変なのしか来ないのか!?」
タツザマの声が、何処からか聞こえる。
ベティが空けた穴からか?
となると、四階にはタツザマが居るという事か。
タケシが単独行動で、太田と慶次の姿が無いのは気になるが、皆モールマンを圧倒しているのか、余裕の表情だ。
ただ、モールマン側もそんなにダメージがあるようには見えない。
「タツザマ殿!?上に居るのか?」
「トキド殿か!?」
「誰と相手している?」
「分からん!」
「は?」
相手が分からんとは、意味が分からん。
トキドも同じ気持ちなのか、大きくジャンプすると、四階へと上がった。
「誰も居ないじゃないか」
「姿形は見えないだけで、居るんだよ!ほらっ!」
「ぐおっ!な、何だ!?」
激しい金属音が聞こえる。
どうやらトキドの鎧が発した音らしい。
「姿は見えんが、確かに居る」
「どれどれ?」
タケシも面白そうな敵だと思ったのか、上へと行こうとすると
、トキドとタツザマが穴から落ちてくる。
「ぬあぁぁ!?」
「な、何で落ちてきたんすか!?」
「違う!押されたんだ!」
トキドとタツザマは、見えないモールマンから押されて落ちてきたようだ。
タケシはその巻き添えで、二人の下敷きになっている。
「ねえ、このままだと乱戦になるわよ」
「それは微妙だな」
乱戦になると、行動に制限が出来てしまう。
ベティやタツザマのように、速さで勝負するような連中だと、狭い空間は命取りになりかねない。
「どうする?」
「僕が決めるの!?」
兄がまた聞いてきたけど、戦っているのは僕達じゃない。
それを決めるのは彼等だと思うんだけど。
「いや、魔王様に決めてもらった方が良い」
「そうね。アタシもそう思うわ。正直なところ、あの金色クソ野郎はムカつくけど、相性は良くないと思うのよね」
「相性か。拙者達はさっき学んだばかりだな」
ベティは頑丈な金色のモールマンは、自分には荷が重いと言う。
だからこそ冷静な他人から、相手を決めてもらった方が良いと考えているようだ。
「だったら俺が決めて良い?」
「兄さんが!?」
思わぬ発言にちょっと驚いた。
モールマン達は逃げようとしているので、皆が再び張り倒して押さえつけている。
「ちゃんと決められるの?」
「バッカ!俺、ずっとお前の行動を見てたんだからな。そしてモールマンの岩の色から、ある程度の傾向を見つけたのだ」
「な、何だってえぇぇ!!」
タケシのわざとらしい驚きに、兄は得意げに話し始める。
「モールマンは岩の色で、その特性が決まる。だからこそ、皆をそれに合わせて当てはめれば良いのだ」
「うん、それは分かるよ。だから、それをどうやって決めるかって話なんだけど」
「待て待て、慌てるな。どれどれ、金色と銀色。それに紫と謎のモールマンか」
謎のモールマンの色は不明だが、タツザマが手こずっていたのは分かる。
ただ、銀色と紫は初見だ。
兄にはその能力が分かるのか?
「で、金色は頑丈だってのは聞いた。銀色と紫は?」
「聞くのかよ!」
「だって見た事無いし、もしかしたら俺が思ってるのと、違う能力かもしれないじゃん」
そりゃそうだけど。
戦ってた連中も首を横に振ってるし、分からないんじゃないか?
「よし、それならこうしよう。金色はタケシが戦え」
「俺?」
「頑丈な岩を持っているらしいからな。斬ったりするよりも、打撃とか投げ技の方が効果があると思うんだ。タケシの破壊力なら、問題無いだろ」
ほほう。
確かに金色の相手は、タケシが理に適っている。
僕もそう思っていたし。
「じゃあ、他は?」
「銀色はタツザマで、紫はベティ」
「は?俺は?」
「トキドはよく分からん奴と、戦いなさい」
「何じゃそりゃ!」
トキドの不満げな声が、三階に響き渡る。
だが他の二人は、素知らぬ顔をしている。
「拙者が銀色、ベティ殿が紫」
「流石は魔王様ね。アタシ達にピッタリだわ」
「何が?何がピッタリなの?」
トキドの質問に言い淀むベティ。
するとベティは、聞こえなかったかのようにタケシに話し掛ける。
「ねえ、アナタの力でコイツ等、外にぶん投げてくれない?このままだとこのお城、崩れるわよ」
「そうだな。拙者も頼む」
「分かった!ヨイサ!ホイサ!」
タケシが銀色のモールマンの片足を掴むと、タツザマの立っている方にある窓へぶん投げた。
そしてベティの方には、紫色のモールマンを投げる。
ついでだと言わんばかりに、タケシは金色も外へと投げた。
「それじゃ、拙者達はこれで」
「オホホホ!失礼」
「ず、ずるいぞ!俺は!?」
聞こえないフリで外へと出ていく二人。
そしてタケシも、飛べないのにそのまま三階から飛び降りた。
「トキド、頑張れ」
「何を!?」
肩をポンと叩く兄だが、トキドは結構お怒りの様子。
やはり勝手に決められた挙句、相手が何処に居るのか分からないのは不満らしい。
「よ、四階に居るって。俺達も上がるからさ」
「僕達も一緒に探すよ」
兄はトキドの機嫌を取ろうと、手伝うと言い始めた。
まあ見つけるだけなら、生き残りと一緒に探せるし。
別に良いかな。
そう考えていると、トキドから危険な言葉が口から出てきた。
「・・・見つけないと、四階全体を燃やすからな。それでも見つからなかったら、アンタ等がやってくれ。俺は他のモールマンを探す。水の魔法が使えるんだ。火も消せるし、一石二鳥だろうよ」




