オーサコ城乱戦
暇潰しに何をするか。
これって結構、難しいものがあるよね。
九鬼の爺さんがやろうとしていたのは、相撲だった。
河童は相撲が好きとは聞いてるけど、暇潰しでやろうって考えがよく分からない。
河童からしたら、暇さえあれば相撲するのか?
普通、暇だからって相撲は無いでしょ。
これが文化の違い?
僕なら本を読むとか、考え事をするんだけど。
地底の場合は本なんか読めないから、考え事かなぁ。
しかしこの暇潰し、冒頭でも言ったが意外と難しい。
例えば宿直のような仕事。
見回りの時間以外は暇だったりする。
待つのが仕事という感じになるが、その待っている間の時間潰しが難しいのである。
最初は暇なんだから楽だなと思っていても、いざこれが続くと苦痛で辞める人も居るらしい。
そもそも何もしないって、辛いよ?
家に居ても何もしない時間って、あんまり無いと思うんだよ。
何もしてないと言っても、実際は寝てたりするわけで。
本当に何もしないでボーッとしてる時間って、一日に何時間もあるわけじゃない。
特に何が言いたいかってわけじゃないけど、暇だから相撲しようと言えるだけ、爺さん達は時間を潰すのが上手いのかなって思った。
オナキギャワは、ベッド横の信号弾を奪うように取ると、慌ててベッドから出ようとした。
しかし血が足りないからか、フラフラとしながら窓辺へ向かっている。
「やらせるかよ」
「それはこっちのセリフだよ!」
フラフラのオナキギャワに突進するモールマン。
ハクトはモールマン以上のスピードで走り、間に割って入ると、ナイフをモールマンに突きつけた。
「甘いわ!」
ナイフを素手で掴むモールマン。
ハクトはナイフを引き抜き、モールマンの手を引き裂こうとする。
その瞬間、ナイフに異常な熱を感じたハクトは、ナイフを手放してしまった。
「熱っ!と、溶けてる!?」
手放したナイフで攻撃をされないように注意して見ると、ナイフは柄の部分を残して落ちていた。
「お前は焼けてもらっては困る」
「っ!?」
抱きつこうとしてきたモールマンの脇の間をすり抜けて、間一髪避けたハクト。
再びモールマンと対峙すると、オナキギャワが外に向かって信号弾を打ち上げたところだった。
「ハクトくん、キミはここから逃げるんだ!」
「駄目ですよ!まだ怪我が治っただけで、戦える身体じゃないんです!」
太刀を構えるオナキギャワだが、まだ力が入らないのか切先は震えている。
それを見たモールマンは、鼻で笑った。
「ハッ!地上の連中にやられるような雑魚に、本気出すわけねーだろ。食う価値も無い奴は、さっさと死ね」
大きく開いた手のひらが、オナキギャワの顔を掴もうとしている。
伸びてきた腕を、峰打ちで叩き落とすオナキギャワ。
しかし岩を打った事で、その反動からか太刀を落としてしまう。
「うぅ・・・」
「オナキギャワさん!」
オナキギャワはフラッと倒れそうになると、そこをモールマンが前に出た。
両手で肩を掴むモールマン。
「うわあぁぁぁ!!」
服が焼け落ち、その下の肉が焼ける臭いが部屋に充満する。
「やめろ!」
ハクトは水魔法をモールマンとオナキギャワ目掛けて放つと、部屋中に水蒸気が発生してしまった。
「しまった!」
視界が悪くなった部屋の中で、モールマンはオナキギャワを捨てハクトへと近付いていく。
「捕まえたぁ!アレ?」
「誰が捕まるか!」
ハクトは部屋の中の音を聞き、モールマンが何処に居るのかを把握していた。
自分の後ろから近付いてきている事に気が付くと、彼は咄嗟に前へと大きく出ていた。
「仕方ない。こんな手は使いたくなかったが」
水蒸気が部屋の窓から抜けていった頃、ハクトは見てしまった。
オナキギャワの首を掴み、持ち上げているモールマンを。
「このままへし折られたくなかったら、お前から近付いてこい」
「ひ、卑怯な!」
「卑怯で結構。全ては勝てば良い。負ければただの肉と化すだけだ」
力を込めるモールマン。
オナキギャワの首から、聞こえてはいけないような音が聞こえてくる。
「来ないなら仕方ない。コイツを殺して次へ行くとしよう」
「え?」
次へ行くという言葉に反応するハクト。
何が狙いなのか、サッパリ分からなかった。
「お前は魅力的だが、別にお前だけが狙いではない。こんな所で時間をかけていられないのでな」
「何が狙いだ!」
「馬鹿か?言うわけが無いだろう」
モールマンの腕に、より大きな力が入る。
オナキギャワの顔が、赤から青くなってきた。
「仲間に見捨てられたな。死ね」
モールマンがトドメだと力を込めた。
「お前が死ねえぇぇ!!」
モールマンは背中からおもいきり蹴り飛ばされて、部屋の中央へと飛んでいった。
誰かが窓から飛んできたのだ。
「だ、誰だ!?」
「その手を放せっつーんだよ!」
太刀を腕の岩の隙間に突き刺すと、モールマンはオナキギャワを掴んでいた手を放した。
「と、トキドさん!」
トキドは信号弾が上がった地点へ、国江を最速で飛ばした。
まだ飛ばした地点から、煙が残っている。
急ぎ煙の下を辿っていくと、そこにはモールマンが背中を向けて、ハクトと対峙している姿が見えた。
そしてそのモールマンの手には、誰かが首を掴まれているのを確認する。
彼はそれを見て、後先考えずに勢いよく窓から飛び込んでいった。
「その手を放せっつーんだよ!」
前のめりに倒れたモールマンに剣を突き刺し、手を放した事を確認する。
「ん?オナキギャワ?」
「た、助かりました・・・」
ハクトに引きずり出されると、オナキギャワは彼の背後へと回る。
トキドはそれを見ていると、モールマンに足を払われた。
「うおっ!?」
「前後を挟まれたか・・・。ならば!」
床に手を当てるモールマン。
すると床がオレンジ色へと変色して、溶けていく。
「アチッ!」
「さらばだ」
モールマンは床を熱で溶かして、下の階へと逃げていった。
トキドはそれを見て、すぐに溶けた場所へと飛び込もうとする。
だがその直前になり、ハクトにモールマンの事を尋ねた。
「っと!行く前に、奴の狙いは何だって言ってた?」
「分かりません。ただ、狙いは僕だけじゃないみたいな事を、言ってました。それと時間を掛けていられないとも」
考えるトキド。
だが無駄だと判断し、すぐに穴へと飛び込んでいった。
「お前達は外へ避難しろ。出来れば、怪我人を全員連れてな」
去り際にそう言っていくと、すぐに何処かへ行ってしまった。
「歩けますか?」
「もう大丈夫だ」
頭に血が上ったからか、彼はしっかりと立っていた。
走れはしないものの、歩く事に問題は無いないと言い、辺りを見回してから部屋を出ていく。
「何処へ逃げるんだ?」
「上に行きましょう。さっきモールマンは、下に行きました。見た感じ翼は生えていなかったし、多分空から来たんじゃないと思うんです」
「なるほど。だが、上に逃げた後は?」
考え込むハクト。
助けが来なければ、上に行っても時間稼ぎにしかならない。
トキドという救援は来たが、彼以外は見当たらない。
どうするのか迷った結果、仲間を信じる事にした。
「とにかく上へ行きましょう。トキドさんが来てくれたんです。他にもこっちに向かってくれていると思うんです。僕達は上の階の怪我人をまとめて、最上階へ避難しましょう」
「し、城が燃えてる!?」
下の階から所々、火の手が見える。
そして城の近くに来ると、人の焼ける臭いが外まで漂っていた。
「マルテ殿は水魔法が使えたでござるな?」
「えぇ」
「ならば拙者と一緒に、城の周りを飛ぶでござる」
「だったら、火の手が強い場所へ向かってくれる?一気に消火するわ」
「承知したでござる」
慶次は下降していくと、火の手が強い場所へとトライクを向けた。
「何か来るわよ!?」
水魔法で消火しているマルテが、城の中から人影が飛び出してくるのを見た。
その瞬間、何かがフライトライクへと飛びついてくる。
「ぬおっ!?落ちる!」
飛びついてきた何かに、トライクから振り落とされる慶次。
マルテもその後に来た何かに飛びつかれ、同じように下へと落とされていた。
「この!」
掌底で飛びかかってきたモノを弾くと、それが淡い黄色をしたモールマンだと気付く。
「初めて見る色でござるな」
「ククッ!当たりを引いた」
爪をこちらへ向けると、その先から電撃が飛んでくる。
慶次は慌てて飛び退くと、マルテが鮮やかな水色の岩で覆われたモールマンに、マウントポジションを取られている事に気付いた。
動かないマルテを見て、慶次は慌てて槍を伸ばす。
「おっと!」
槍は簡単に弾かれてしまったが、マルテの顔が見えた。
まだ食われてはいないが、もうそれは間近に迫っている。
「魔族を食べるのは初めてだ。いただきます」
大きな口を開ける水色モールマン。
慶次はそれを邪魔しようとするが、レモン色のモールマンが邪魔をしてくる。
「マルテ殿!」
口がマルテの頭を齧ろうかという時だった。
空から大きな影が降ってきた。
「お逝きなさい」
太田がバルディッシュを全力で頭目掛けて振り下ろすと、モールマンの岩をも砕き、そのまま左右真っ二つになった。
「う、う〜ん」
「気を失っていただけみたいですね」
「太田殿!」
慶次がホッとするのも束の間、すぐに目の前のレモン色モールマンへと意識を切り替えた。
だがモールマンは、何も言わずに背を向けて走り始める。
「に、逃げた!?」
思わぬ行動に唖然とする慶次だったが、マルテと太田と分かれるのは得策ではないと考え、追うのを踏み留まる。
「おーい!」
上から降りてくる太田のトライク。
しかし、乗っている二人はそれどころじゃなかった。
「馬鹿野郎!お前のトライク大き過ぎて、僕じゃ運転出来ないんだぞ!」
「マジで勘弁して下さいよ!いきなり飛び降りるから、コレも落ちていくし。墜落するかと思ったわ」
タケシの協力でなんとかなったが、危うく落ちて死ぬかと思った。
タケシの奴は怪我がすぐに治るんだろうけど、僕はそうもいかんぞ。
兄と交代すれば死にはしなかったとは思う。
それでも無傷とはいかなかっただろう。
「すいません。マルテ殿の危機が目に入ってしまい、飛び降りてしまいました」
「う、うん。分かれば良い」
「俺も。むしろマルテを助けてくれて、サンキュー」
落ち込む太田に、僕達はこれ以上文句は言えなかった。
現に太田が飛び降りなければ、マルテは食われていただろうし。
でも、せめて言ってから飛び降りてほしかったな。
「しかし魔王様」
「分かってる」
太田が視線を向けたのは、オーサコ城である。
下の階から燃えていて、段々と黒い煙が上がっていた。
もう少し遅かったら、信号弾ではなく黒い煙で異変に気付いていただろう。
これで分かった。
信号弾は、モールマンに襲われている事を示唆していた。
「魔王様、マルテ殿が倒れた今、消火出来るのは魔王様しか居ないでござる」
「そうだね。そしたら僕が、トライクに乗りながら消火しよう」
魔法を使うだけなら、人形でも問題無い。
この状態を見る限り、兄にトライクを運転してもらい、僕が消火に専念するのがベストだろう。
【久しぶりに俺の出番か】
敵の位置も僕より察知出来てるし、期待してるよ。
「我々はどうしますか?」
「そうだなぁ。というより、トキドとタツザマとベティはどうしたんだ?」
先に行ったはずなのに、三人の姿が見当たらない。
もしかして、他で交戦中か?
「ま、魔王様!」
再び城の中から、何かが飛び出してきた。
「クソッ!何だこの馬鹿力は!拙者では到底・・・皆!あ、太田殿!このモールマンの相手を代わってはくれぬか!?」




