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掛け違いその2

 好きな事と嫌いな事。

 好きな事と得意な事。

 これは必ずしも、同じなわけじゃない。

 絵を描くのが好きだからと言って、絵描きや漫画家になれるわけじゃないでしょ。

 洋楽が好きだからって、英語がペラペラなわけじゃないしね。


 大半の人って、何かしら妥協してやっていると思うんだ。

 仕事なんか、一番分かりやすいよね。

 誰だって、好きな事を仕事に出来ればと思うだろう。

 でもそれって、結構辛い事だ。

 ゲームが好きだからとプログラマーを選んだら、寝る時間が無いくらい忙しかったり、憧れのアパレル業界に入ったら、着る服は自腹で貯金が出来なかったり。

 好きな事を仕事にしたら、逆に嫌いになったなんて人も居るくらいだ。


 じゃあ得意な事を仕事にしたら?

 僕としては、こっちの方が正解なんじゃないかと思う。

 得意な事なのだから、手間取る事も少ないだろうし。

 やる気が無くても要領が良ければ、自分の時間も作れそうだしね。


 ベティも好き嫌いで相手を選んだわけだけど、相性はあんまり良くなかった。

 結局は、自分に合った仕事をこなした方が楽なんだよ。

 職業魔王という、半分無職に近い僕が言うのも微妙な話だけどね。








 トキドは黄色いモールマンを追って、ワイバーンと共に上昇していく。

 タツザマは前に居る赤いモールマンへ目を向けると、その巨体に思わず大きいなと呟いた。



「今度は貴方が相手ですか」


「なんだ、その残念そうな声は」


 タツザマは赤いモールマンの声に、憤った。

 トキドの時と比べると、明らかに下に見ているのが分かった。



「図体だけの奴に侮られるとはな」


「誰が図体だけですって?」


 突進してくるモールマンに対し、タツザマは軽々と避けてみせる。

 あまりに遅い攻撃に、タツザマはあくびが出そうだった。



「遅過ぎる!」


 通り過ぎたモールマンを背後から追い、抜き去る際に脇腹を振り抜いた。

 しかし振り返ると、モールマンにその傷は無い。



「なるほど。これが回復か。しかしお前の場合、タケシ殿と違って気持ち悪いな」


 身体を斬り裂くと、傷口が岩と一緒に動いているのが分かる。

 なまじ傷口が丸見えな分、その回復している様が見えて気持ち悪いのだ。



「失礼な。劣る能力しかない貴方より、マシですよ」


「誰が誰に劣るって?」


「分かりませんか?貴方はさっきの二人の、劣化版だと言っているんですよ」


「・・・聞かせてもらおうか」


 彼は心の中の怒りを抑え込み、赤いモールマンの言い分を聞く事にした。



 タツザマはハッシマー陣営としてトキドと戦った際、敗北している。

 実際には負けていないのだが、自分の中では敗北に等しいものだった。

 そして今回救援で来た、ベティという人物。

 ちょっと気持ち悪いが実力は確かであり、スカイインフェルノという名で帝国から恐れられていた人物だった。


 彼等は火力とスピードという面で、タツザマよりも優れている。

 赤いモールマンはそう言っているのだ。



「力でも速度でも負けている貴方に、私は何に対して高揚しろと言うのですかな?」


「確かに拙者は、二人より力は無いし、遅いかもしれん。だが、拙者の方が優れている事もある」


 タツザマはトキドから、ある事に対してはベティより優れていると言われていた。

 その力は彼にとって、大きな利点になる事も分かった。



「機転の速さですか?」


「違うな!」


 再び走り出すタツザマ。

 赤いモールマンはそのスピードについていけず、斬られるがままだった。



「だから、その速さでは私は」


「まだだ!」


 何も無い空を蹴ると、そのスピードを維持したまま再びモールマンへ迫る。

 今度は背中から逆袈裟に斬り上げた。



「何ですと!?」


「まだまだ!」



 上へ下へ。

 左へ右へ。

 狭い空間の中で、飛び回るように動くタツザマ。

 目で追うのが精一杯の赤いモールマンは、とうとう身体を丸くしながら防御に徹する。



「拙者はベティ殿よりは遅い。それは認める。だが、拙者の方が小回りは利く!」


 タツザマの実直な剣は、赤いモールマンの岩の隙間から、着実に傷を増やしていく。

 腕がガードしているのは、頭や首のみ。

 そして彼の速さに、赤いモールマンの回復力は追いついていなかった。



「調子に乗るな!」


 赤いモールマンは両腕を大きく広げると、身体全体を覆っていた岩を、全方向へと四散させる。



 赤いモールマンの身体の大きさだと、岩は小さくともタツザマの頭と同じくらいの大きさだった。

 そんな物が身体に当たれば、何処であろうと重傷である。


 避けられるはずが無い。

 足や頭に当たれば儲けもの。

 腕や腹でも、今までと同じような動きは不可能だ。



「残念でしたね」


 モールマンの膿んだような身体の表面に、少しずつ赤い岩が浮き上がってくる。

 回復さえしてしまえば、何度でも今の攻撃は使える。

 一撃で倒せなくとも、時間を掛ければ敗北する事は無いと、モールマンは勝利を確信していた。


 そんな時だった。

 モールマンの耳に、それを否定する言葉が聞こえる。



「残念なのはお前だがな」


 慌てて振り返るモールマン。

 そこにはタツザマが、上下反対で立っている姿が見えた。



「馬鹿め!」


 再び身体の岩を四散させようとするモールマン。

 しかしそれは起こらずに、タツザマがどんどんと落下していくのが見えた。

 そしてモールマンは今更、タツザマの横に大きなモノがある事に気付く。



「わ、私の身体!?」


「さらばだバケモノ。お前から教わった事は、肝に銘じておこう」


 落ちていくモールマンの首。



 タツザマは四散した岩を避けると、無防備になったモールマンの首を背後から刎ねていた。

 モールマンは振り返った時に首が落ちたのだが、当初自分が既にやられている事に気付いていなかった。

 自分の身体を見て、初めて敗北したと悟った。

 モールマンは言葉が出ない口を動かすと、地面に落ちる前にその意識が遠くなっていくのを感じたのだった。








 タツザマが赤いモールマンを屠る前、その下の空域では静かな戦いが行われていた。



 何度も空に擬態して、姿をくらます青いモールマン。

 背後や足下、頭上に出てきてはその爪でベティを襲っていた。

 だがそれは、全て不発に終わっている。



「何故だ、何故当たらない!」


「アンタ馬鹿?それをネタバラシするはず無いでしょ」


 呆れながら言うベティだったが、それを聞いたモールマンの焦りはかなりのものだった。



 しかし実際のところ、ベティも微妙なラインで踏みとどまっているのだった。


 ベティが攻撃を避けられているのは、その特殊な耳によるものだった。

 ベティは遠くの音まで聞こえるくらい、聴力に優れている。

 そんなベティでも分かるのは、攻撃する為に姿を現す瞬間なのだ。

 姿を消している間は青いモールマンの能力なのか、本当に何も分かっていなかった。


 ベティはネタバラシするはずが無いと言っているが、それもそのはず。

 全てを分かっていないのだから、言えるはずが無かった。


 それでも攻撃が当たらないモールマンからすれば、全て見切られているように感じてしまうものだ。

 ベティの余裕のある態度と言葉に、モールマンは焦りが募っていく。



 そしてその焦りは、モールマンの切り札を発動させる事になった。



「だから、分かってるのよ!」


 背後に回っていると思ったベティは、左手に持った双剣の一本を後ろへ突く。

 ベティには、剣が岩に当たった手応えがあった。

 この双剣なら、青いモールマンの岩も貫ける。

 ベティは、左手に力を込めた。

 勝利を確信したベティは振り返り、モールマンの姿を確認した。



「え?」


「奥の手である」


 首筋にヒンヤリとしたものを感じる。

 ベティは急下降すると、その爪が真上から出てきたものだと初めて知った。



「なっ!?」


 会心の一撃だと思っていたモールマンは、避けられた事に驚愕する。



 ベティが急下降したのは、たまたまだった。

 振り返ったベティが見たのは、中身のモールマンは居ない人型をした青い岩だけだった。

 そして聞こえた、奥の手という言葉。

 背後を取られ、前には岩がある。

 そう思ったベティが取った行動が、急下降だった。

 実際には背後ではなく、頭上だったのだが。

 それに気付かなかったベティは、急下降していなかったら首を斬られていた可能性が高かった。



「まさか、そんな手があったなんて」


「クソッ!」


「もうかくれんぼは、終わりかしら?」


 姿を消さないモールマンに、ベティは見上げながらそう聞いた。

 しかしベティには、確信があった。

 擬態出来たのは、あの青い岩があってこそだったと。

 岩を脱ぎ捨てたモールマンには、空と同じ色になる事は出来ないはずだと思っていた。



「姿を隠すだけが俺の力じゃない!」


「水!?」


 モールマンの口から吐かれたのは、大きな水の球だった。

 しかしそんな攻撃は、普段から食らっている。

 右手の剣で真っ二つにすると、剣から湯気が上がる。



「な、何だその剣は?」


「知りたい?これはね、アタシの為に作ったおニューの双剣よ」


 ベティが持っていた双剣は、安土製のものではなかった。

 彼の剣は上野国産の双剣で、作ったのは領主である滝川一益だった。


 最近では安土製の物が出回っており、上野国もうかうかしていられないと、領主自らがその力を奮っていた。

 そんな一益の作った逸品が、今のベティの愛剣だった。



「コレね、面白いのよ。クリスタルが一つずつ入れられるのだけど、併せるとまた違った効果が出るの」


「な、何だ?何が起きている?」


 ベティは二本の剣を併せると、剣から霧が発生する。

 その辺りは雲のようになり、お互いの姿を隠した。



「コレはね、火と水の魔法をクリスタルに封じてあるの。両方使うと、こうやって霧が発生するだけど」


「ど、何処だ!?」


 爪を振り回しながら水球を吐き出すモールマン。

 その攻撃が何かに当たった気配は無い。



「見えない場所から攻撃される恐怖って、どんな感じ?」


「クソッ!」


 耳元でベティから囁かれると、モールマンは爪を振り回した。



「恐怖に駆られて逝きなさいな」


 再び耳元で声が聞こえると、自分の身体が上下半分になっている事に気付く。

 青いモールマンは、そのまま地面へと落ちていった。








 トキドはハズレだと思っていた。

 赤いモールマンは戦いづらかったが、まだ攻撃がしやすかった。

 それに対して黄色いモールマンは、なんとなく触れたくないという気持ちにさせられたからだ。

 見た目が虫のようで、なんとなく忌避感を感じていた。

 だがこうも思った。



「お前、何でその姿になったの?」


「は?」


 気持ち悪い見た目に、どうしてなったのか?

 トキドは逆に、興味が湧いたのだった。



「だから、どうして他のモールマンとは違う姿になったのかって、聞いてるの」


「そんな簡単な質問でしたか。見て分かるでしょう?この美しい姿に惹かれたからですよ」


 ホースのような口から出てきた言葉に、トキドは首を傾げる。

 本当に理解が出来ていなかった。

 それを見た黄色いモールマンは、同じ事を口にした。



「他の追随を許さない四枚の翼。敵を掴むのに適している六本の手足。この美しいフォルムに、惹かれたのです」


「ゴメン。全然分かんない」


「なっ!?」


 もう一度説明を聞けば分かるかと思ったが、トキドはやはり理解出来なかった。

 そして、黄色いモールマンに対してこう言った。







「あのさ、蝶とかって遠くから見るから綺麗に見えると思うんだわ。でも、それをハッキリ見てみると、虫特有の複眼とかちょっとね。結論から言うとお前、気持ち悪いんだわ」

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