掛け違い
個人行動と集団行動、どちらが好きですか?
好みの話なので、どっちが正しいとかは無いと思ってるんだけどね。
戦いだと個人戦と集団戦があるが、これは自分の好みなんて気にしていられない。
相手が徒党を組んで攻撃してくる事もあるし、逆に一人の時に狙ってくる事もある。
どちらに対しても対応出来ないと、それは自分がやられるかもしれないと考えておかないといけない。
でもそんな話は抜きにして、どっちが好きかというのがある。
例えば、ご飯を外に食べに行くとしよう。
その時に誰かと一緒に行くのが好きか、それとも一人で行くのが好きか。
前者だと、誰かと一緒じゃないと心細いとか、ワイワイ話しながら食べたいとかあるんじゃないかな。
逆に後者なら、誰かに合わせて店を選ぶのが嫌で、好きな時に好きな店に行きたいと考えるだろう。
今食べたいのに、友達と合流するまでに気が変わる事もあるからね。
絶対に誰かと一緒じゃないと嫌だって人とか、一人での行動が楽なんだよねって人も居る。
どっちかを否定すると、自分も否定されるかもというのを覚えておいた方が良い。
正解は無いのだから、そういう考えもあるんだと認めるのが無難な考えだと思います。
ベティも黄色いモールマンも、他から見たら変わらんよって話でした。
黄色いモールマンは細い口から、妙な液体を吐き出している。
自信満々に答えるあたり、身体に害をなすのは間違いない。
「やらせないわよ」
細い口を、双剣で切り落とそうとするベティ。
それを見た黄色いモールマンは、不敵な顔をする。
モールマンは手脚を広げ、ベティを迎え入れた。
「捕まえました」
「な、何よ!?」
モールマンと目が合うと、ベティは心底嫌そうな顔をしている。
虫のような複眼がベティを見据え、ホースのような口がベティの顔へ近付いていく。
顔に酸を吐きかけるつもりなのだろう。
両腕をガッチリと固められ抱き締められているベティには、それを避ける術は無い。
避ける術は無いのだが、彼にはまだ出せるモノがあった。
「気持ち悪いわね!唾液なんか吐きかけようとするんじゃないわよ!」
「フゴッ!」
「フゴッ!ですって。気取ってても、言う言葉はフゴッ!ダサいわぁ」
ベティは四本の手脚で固められ腕や翼は動かせないが、頭だけは自由に動かせていた。
そんな彼がやった事。
それは頭突きである。
勢いよく頭を後ろに振り、顔目掛けてぶつける。
顔の中央辺りに頭をぶつけると、黄色いモールマンの上の二本の手が緩んだ。
残りの二本はまだ、ガッチリと握られている。
しかし上の二本が緩んだ事で、身体を振れる幅が大きくなった。
ベティはここぞとばかりに頭をガンガンと振り続ける。
「あ〜、頭クラクラするわ・・・」
モールマンの額を守る岩にもぶつけていた為、ベティの頭から流血している。
何度もぶつけて脳震盪でも起きたのか、ベティはいよいよ頭をぶつけなくなった。
だが、それはモールマン側も同様だった。
とうとう二本の手が緩むと、ベティはボーッとした頭で落下していった。
「どうしたんですか?」
赤いモールマンの問い掛けに、答えないトキド。
彼は少し前から異変を感じていた。
手足が痺れている。
太刀を握れない程でもなく、自分で立てない程でもない。
しかし、力を込めようとしてもどうしても入らなかった。
このままだと、太刀を振ってもすっぽ抜ける可能性がある。
何故急に、手足が痺れてきたのか分からない。
時間が経てば治るだろうと考えた彼は、時間稼ぎに徹していた。
「・・・なるほど。もしかして身体に異変を感じてますね?」
「何を根拠に、そんな事を言うんだ?」
平静を装うトキド。
しかし赤いモールマンは、チラリと視線を上にやった。
トキドは罠だと思い、それを無視する。
「貴方には見えていないと思いますが、上の空域から黄色の鱗粉が落ちてきています。彼の鱗粉は、身体に異常をきたす毒が含まれていますからね」
「身体に異常をって言うなら、お前も何か異常があるのか?」
「私は無いですよ。だが貴方はありますよね。今ご自分で、お前もと言いましたから」
「ぐぬっ!だが、致命的ではないぞ!」
まさかモールマンに、言いくるめられるとは思わなかった。
トキドは苦虫を噛み潰したような顔をして、渋々それを認めた。
「致命的でなくとも、私が優位に立ったのは事実です」
赤いモールマンが、巨体に似合わないスピードで迫ってくる。
「国江!」
トキドが叫ぶと、ワイバーンが一拍遅れて動き出す。
乗っていたトキドは、自分が痺れているのだからワイバーンも同様だったと、今更ながら気付いた。
国江は避けきれず、赤いモールマンと接触する。
「国江、大丈夫か?」
フラフラとよろめきつつ、体勢を立て直すワイバーン。
赤いモールマンは振り返ると、また突撃を開始する。
「左!右!」
余計な事を言わず、方向だけを指示するトキド。
国江はそれに従い、紙一重で何度も避けている。
「人馬一体、とは呼ばないか。しかし貴方達からは、同じような言葉が合いますね」
「余裕ぶっていられるのも、今だけだからな」
「実際に余裕があるんですけどね」
「ぐぬぬ!バーカ!バーカ!」
トキドの負け惜しみに近い言葉を聞いているモールマン。
返す言葉で、トキドは語彙力を失った。
そんな残念なトキドが、ある事に気付く。
彼はそれを気付かれないようにする為、久しぶりに攻勢へと出た。
「やはり精彩に欠いてますね。さっきよりも攻撃が浅いですよ」
「いや、これで良いんだよ」
「何を言って、んぐっ!?」
赤いモールマンは話そうとすると、上から重い何かが頭に落ちてきた。
舌を噛んだモールマンは、口から血が吹き出している。
「な、何が?」
「よしっ!やったぜ!」
頭の上に落ちてくるように誘導したトキドは、成功に喜んでいる。
だが、その直後に気付いた。
落下してきたという事は、意識が無いのではないかという事を。
「すまんな、ベティ殿。きっとタツザマ殿が助けてくれるはずだ」
「ハァハァ・・・」
立ち止まる事なく動き続けるタツザマ。
とうとう息が上がってくると、少しずつそのスピードが落ちてくる。
そうなると、いよいよ青いモールマンが姿を現し始めた。
「疲労で顔色が悪いぞ」
「なっ!?」
背後から声が聞こえ、タツザマは慌てて前へと移動する。
直後に振り返るものの、やはりそこには既にモールマンの姿は無い。
「もはや、時間の問題だな」
「まだまだ!拙者の足が折れるまで、立ち止まるわけにはいかんのだ!」
「それなら折れるまで待とう」
「その前に、お前を見つけ出してや・・・ん?」
タツザマは前へ後ろへ、上へ下へ移動しているのだが、そんな中で何かが落ちてくるのを確認する。
上からの攻撃かと思いよく見てみると、それは人の姿をしている事に気付いた。
「・・・ベティ殿!?」
思わず、ベティの落ちてくる方へと走るタツザマ。
難なくキャッチすると、背後から攻撃されるのではとすぐに移動する。
「ベティ殿?ベティ殿!?」
「う、う〜ん。ハッ!王子様!?」
タツザマにお姫様抱っこをされている事に気付いたベティは、すぐにタツザマの首に手を回す。
その瞬間、タツザマは両手を離した。
「ぬおぉぉ!!アンタ、危ないじゃないの!」
「気付いたなら、自分で飛べるのだから飛んで下さい」
「なんて辛辣な王子。でも、そこが良い」
熱い視線を送るベティ。
タツザマはそれを見て、身体を大きく震わせる。
そんなタツザマをベティは、真顔で再び蹴り飛ばす。
「何を!?」
蹴り飛ばされた瞬間、また青いモールマンの爪が視界に入るタツザマ。
助けられたと理解すると、彼は消えた爪の行方を目で追った。
「すまない。助けられた」
「それはお互い様よ。それに、今更ながら気付いたわ」
「何にですか?」
今ならベティが近くに居るので、青いモールマンに細心の注意を払う必要が無い。
タツザマはベティの言葉に、耳を傾けた。
「アタシ達、代わった方が良いわね」
「代わるとは?」
ベティの真意が分からないタツザマは、再度聞き直した。
するとベティは、タツザマの手を引きながら移動する。
「こっちよ」
「む?」
青いモールマンの爪が、タツザマの横を空振りする。
消える爪を目で追いながら、ベティの言葉を待つタツザマ。
「今ので分かったと思うけど、アタシが青いモールマンと戦った方が良いのよ」
「拙者では役不足だと?」
「違うわ。相性の問題よ。アタシのワガママが発端だから、二人には迷惑掛けちゃったけど。タツザマちゃんなら、アタシの方が青いモールマンと相性が良いって、分かるでしょ?」
「それはまあ・・・」
青いモールマンの攻撃に気付けない自分と、爪が出てくるタイミングが分かるベティ。
答えは言わなくても一目瞭然だった。
「アタシが青の相手をする。トキドちゃんは今、二体と相手をしているかもしれないから、急いで行ってあげて」
「そう言うのであれば、青いのはお任せする。ベティ殿も、気を付けて」
「任せて!こんなキワモノの相手はさっさと終わらせて、王子の帰還を待ってるわ」
ベティは投げキッスをするが、タツザマはそれを全力で避けた。
そして脱兎の如く、上へと逃げていく。
「あの野郎、アタシのキッスを避けやがったわ」
残されたベティは、一人呟いている。
トキドは焦っていた。
ベティを助けなかった事で、上から黄色いモールマンまでやって来てしまったのだ。
痺れの原因である黄色いモールマンがやって来た事で、尚更赤いモールマンの巨体が避けられなくなってしまった。
今の彼は、ベティが戻ってくる事を願って、動かない山のように堪え続けていた。
「やはり私達の方が強かったですね」
「美しい私の力を借りて、無様に赤の力に潰されなさい」
「な、何が美しいだ!お前と比べたら、まだベティ殿の方がマシってもんだぜ」
「・・・赤、肉片も残らないようにしてやりなさい」
トキドの言葉に、怒りを露わにする黄色いモールマン。
赤いモールマンはそれに応え、トキドへ突進を開始する。
そんな時、赤いモールマンの足が斬り落とされた。
「何?」
「ベティ殿!じゃない?タツザマ殿!?」
「拙者ですまないな」
てっきりベティが戻ったと思い喜ぶトキドだったが、助けに来たのがタツザマで拍子抜けすると、タツザマは不満顔で答えた。
「そ、そんな事は無い!ちょっと驚いただけだから。それにしても、どうしてタツザマ殿が上に?」
「ベティ殿から言伝だ。拙者達は相手を間違えていたと」
「相手を間違えていた?」
「青いモールマンの攻撃が避けられるベティ殿が、奴の相手を。拙者とトキド殿が、此奴等の相手をするべきだったのだ」
「なるほど。だったら俺達も変わった方が良いな」
トキドはすんなりとベティの案を受け入れると、黄色いモールマンへ炎を放射する。
「トキド殿が黄色いのを相手するのか。ならば、拙者が赤というわけだな」
「結局、全員相手が交代か。ボタンの掛け違いみたいだな」
「掛け違いか。確かにその通りだ」
タツザマは赤いモールマンを、四方から斬り刻む。
元の位置に戻ってくると、タツザマは太刀を見て手応えを感じた。
「なるほど。確かに全く違うな」
「それなら俺は!」
炎を身体に纏ったトキドが、黄色いモールマンを大きく蹴り飛ばす。
それを追いながらトキドは、タツザマに対して手を振った。
「ソイツはタケシ殿のような、回復系の力がある。俺よりも速いタツザマ殿なら、回復する前に倒せるだろうよ。頼んだぞ!」




