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対決信号機

 空は広いな大きいな。

 こんな童謡があった気がする。


 改めて思ったけど、確かに上を見たら空が広かった。

 ジェラルディンが呟いていたのは、ある意味日本の現代人が田舎に行った時に思う事と、同じかもしれない。

 ジェラルディンは地底という空が見えない場所に、普段から居る。

 そして僕もそれは同じだ。

 大学の研究室で部屋に篭り、外なんか気にした記憶は無い。

 家との往来で外を見上げる事は無く、たとえ見上げたとしても、周りは大小のビルに囲まれている場所である。

 そんな場所で生活をしていれば、空が広いなんて感想は決して出なかったんじゃないかな。


 ちなみに兄も、同じような感想だった。

 野球の球場に普段から居た兄だ。

 外に居る機会が多いし、扇の要であるキャッチャーポジションから大きな声で叫んだりしている。

 そんな時空が目に入るのだから、僕としてはそんな印象は無い。

 しかし兄が言うには、やはりそこにはスタンドや照明というような人工物が否が応でも目に入ってしまう。

 球場が狭いか広いかという感想ならあるが、空が広いなという気持ちにはならなかったらしい。


 空が広い。

 当たり前の事だけど、そんな当たり前に気付くのが遅かった、今日この頃です。







 トキドはその異変に対し、すぐに斬りかかろうとした。

 だが、どうしても敵の姿が見当たらない。



「何処だ?誰に斬られたんだ?」


「もうこの近くには居ないみたい」


 ベティがそう言うと、トキドは構えていた太刀を下ろす。

 トキドとタツザマは周りを警戒しつつ、ベティの足の傷を気にしている。



「その怪我で戦いに支障は?」


「問題無いわよ。アタシはタツザマちゃんみたいに、空を走るんじゃないんだから。これが翼だったら危なかったけど」


 タツザマ今の言葉で、ようやく蹴られた真意に気付いた。



 ベティがもし手で突き飛ばしていたとしたら、それは腕が斬られるのではなく、もしかしたら背中の翼をやられていた可能性があった。

 そうなれば彼は、確実に戦いにおいて必ず不利になる。

 最悪の場合、戦力ダウンどころか戦場から撤退していたかもしれない。

 そうなればタツザマ達は、二人で三体を相手にする必要があった。

 手で突き飛ばすのではなく蹴り飛ばした事で、彼はそんな状況を回避したのだと、その瞬時の判断の速さに改めて驚愕したのだった。



「何よ、ジロジロ見て。アタシの美貌に惚れちゃったのかしら?」


「・・・」


 その驚愕が一瞬で萎えてしまうタツザマ。

 トキドはタツザマの顔付きが変わったのを見て、笑いを堪えている。


 そこを赤いモールマンが、再び上昇してきた。



「よく青の攻撃を避けられたな」


「アンタ、そんな大きな豚みたいな図体で喋れるの!?」


「豚とは酷いな。姿は似ているとは自分でも思うが、あんな家畜と一緒にしないでほしい」


 姿に似合わず、意外と理知的な話し方をする赤いモールマン。

 更に黄色いモールマンが、青いモールマンの言葉に続く。



「美しい私の前では、赤とキミ達はそんなに変わらないけどね」


「美しい!?誰がどの面下げて言ってんのよ!」


 黄色いモールマンのキザったらしい言葉に、ベティは鳥肌が立ったのか両腕を掻きむしる。

 トキドとタツザマはベティの言葉に対して、似たり寄ったりの存在だなと思っていた。



 二体のモールマンが話し掛けてきた事で、三人は改めて周囲を警戒した。

 こうなると、三体目のモールマンが近くに居る可能性が高いと思ったからだ。

 そしてその考えは、間違えではなかった事を示している。



「後ろね!」


 三人が一気に振り向くと、そこには青いモールマンが無言で立っていた。



「よく分かったな」


「アタシをナメないでほしいわね」


 ベティは口では強がりを言っているが、それでもここまで接近されなければ気付けなかった事に、自身の中で不満はあった。


 青いモールマンは、赤と黄色のモールマンの横へと移動する。

 右から青黄赤と並び、信号機と同じ並びになった。

 しかしこの世界に、信号機は存在しない。

 三人からこの並びが、信号と同じだというツッコミは無かった。


 それよりも三人は、これからどうするかという方が気になっていた。



「アタシは別々に戦う方が良いと思うわ」


「何故?」


「だって全員で戦ってみなさい。あの青いモールマンから目を離す時が、絶対にあるわ。もしそうなったら、もう一度奴を見つけ出すのは至難の業よ」


「なるほど。そうなったら俺達も、気になって他の二体に集中出来ないかもな」


「となると、一対一だな」


 ベティの考えに賛同する二人。

 最初に気付いたベティなら再び見つけられるとは思うが、それでも他の二体が邪魔をしてくるのは間違いない。

 そうなると逆に不利になるのは、こちら側である。



「だったら、誰がどれと戦うんだ?」


 トキドの質問にベティは即答する。



「アタシが黄色いのとやるわ!」


「別に構わないが、一応理由聞いても?」


「だってアイツ、自分が美しいとか言ってるのよ!このアタシを差し置いて、何様のつもり!」


「それは・・・」


 アンタも同類だろ。

 そう言いかけたトキドは、言葉を飲み込んだ。



「自分が蝶だなんて思ってるみたいだけど、認めない。誰が何と言おうが、アレは蛾よ。蝶だと勘違いしている野郎は、アタシが踏み潰してあげる」


「そ、そうですか。では拙者達は残りの赤と青だな」


 ベティの迫力に負けて、敬語で答えるタツザマ。

 どちらと戦うか、トキドと目を合わせた。



「だったら俺は・・・赤かな。悪いけど、俺じゃ青い奴は見つけられそうにない」


「そうか。ならば拙者が青い奴を相手しよう」


 珍しくトキドが、自分より相手の方が優れていると認めている。

 タツザマはそんな相手と戦うのなら、不足は無いと気合を入れた。



 三人は話し合った後、お互いの相手の前へと移動する。

 すると三体のモールマンは、その意図をすぐに汲み取った。



「なるほど。一対一が希望ですか」


「一対一なら私達に勝てると思うなんて、烏滸がましいですね」


「黙りなさい!この蛾モドキ!」


「誰が蛾ですか!美しい私に僻むのは当然として、もっと自分を磨いてから言葉を選びなさい」


「キイィィィ!この気持ち、言葉で言い表せない!」


 ベティは頭を掻きむしる。

 それを見ていた黄色いモールマンは、ベティを指して上昇を始めた。



「美しい私には、高い場所が似合う。上に来なさい」


「アタシに命令するんじゃないわよ!」


 命令するなと言いつつ、その指示に従うベティ。

 すると青いモールマンも動いた。



「ならばこちらは、下へ行くとしよう」


 勝手に下降していく青いモールマン。

 それを見たタツザマは、奴を追い掛けていく。



「じゃあ必然的に、私の相手は貴方ですね」


「そういう事だ」


 トキドは太刀を構えると、赤いモールマンは動き始める。



「やりますか」







 青いモールマンが止まると、タツザマは太刀を構えた。

 目を離さない。

 彼は一瞬の隙も見逃さないと、青いモールマンを凝視する。

 しかし、青いモールマンは動かなかった。

 動かないモールマンに少し焦れ、彼は瞬きをしたその時、その姿を見失った。



「ど、何処に消えた!?」


 慌てて左右を確認するタツザマ。

 振り返っても誰も居らず、段々と焦りを感じてくる。

 そこで気付いたのが、ここは空の上だという事。

 上や下からも攻撃される可能性があると、下を向いた直後だった。



「ぬおっ!?」


 モールマンの鋭い爪が、ふくらはぎを突き刺そうとしていたのだ。

 慌てて前進した彼は、移動した先で再び振り返る。

 しかしそこには、既にモールマンの姿は無い。



「しまった・・・」


 完全に術中に嵌ってしまった。

 タツザマはそう思うと、突然背中に違和感を感じる。

 身体を前屈させると、背中に痛みが走った。

 背中には薄く斬られた痕が残っていた。



「今度は背後から!だが、これならどうだ!?」


 タツザマは突然、バックステップの要領で距離を取る。

 そして突然、色々な方向へ走り始めたのだ。

 背中を斬られたタツザマが考えたのは、とにかく動く事だった。



 彼は自分のケモノの力である、蒼虎の能力に自信を持っていた。

 自分のスピードには、そう簡単に追いつけるものではない。

 自分は全く相手を見つけられないが、如何に見えない敵でも追えない相手には攻撃が出来ない。

 そう考えたタツザマの、攻撃を食らわない苦肉の策だった。


 そんな苦肉の策だったが、かなり効果は抜群のようだ。

 縦横無尽に空を駆けるタツザマに対し、モールマンは一瞬姿を見せては消えていく。

 タツザマはそれを見て、自分の策が悪くなかった事を実感した。



「確かに速い。しかし、いつまでそれが維持出来るかな?」


 青いモールマンはタツザマに聞こえるように言うと、それから一切の攻撃をやめた。







「お前の相手はこの俺だ。残念だったな」


「何が残念なんです?」


「風林火山がある俺に、お前の攻撃は通用しないという事だ!」


 疾きこと風の如し。

 トキドは乗っていたワイバーンの背中を蹴ると、一直線に赤いモールマンへと駆け出す。

 すれ違いざまに太刀を振り抜くと、先回りしていたワイバーンがトキドを待ち構えていた。

 ワイバーンの手綱を掴み、再び乗り込むトキド。

 手応えはあったと振り返ると、そこには斬った痕など全く残っていなかった。



「ど、どういう事だ?」


「残念ですね。私には貴方の攻撃は効かないようです」


「そんなわけあるか!」


 速さで駄目なら強さで。

 侵掠すること火の如し。

 彼は得意の炎を太刀に纏うと、モールマンの腕を掻い潜りながら一太刀浴びせる。


 赤い岩を砕き、肉を裂いた感触が手に残っている。

 肉の焼ける臭いがしてくると、トキドは致命傷を与えたはずだと手応えを感じていた。



「だから、効かないと言っているでしょう」


「どうしてだ!?」


「そんな遅い攻撃では、私には届かないんです」


「な、何だ!?気持ち悪い!」


 身体の表面が流体状に動いていく。

 タケシの持つ再生能力と似ているが、少し違っていた。

 だが、再生はしている様子だ。



「貴方なら、いつかは私を倒せそうですね。しかし、他の二人がやられたら、一気に形勢は傾きますけど」


 トキドなら自分を倒せる。

 しかし赤いモールマンは、下を見ていた。

 同じく下を見ると、タツザマが誰も居ない中で動き回っていた。

 タツザマの分が悪いと、赤いモールマンは暗に言っていた。

 彼が負ければ、青いモールマンが合流する。

 トキドはそれまでに赤いモールマンを倒さなければ、勝利は無いと言われていたと気付いた。







「このブサイク!アンタなんか、アタシの敵じゃないのよ」


「下品なブサイクですね。言葉遣いからして、程度が低いと分かります」


「んまぁ!ホント腹立たしいバケモノ。もう良いわ。アタシの慈悲で苦しまないように、一瞬で殺してあげる」


 ベティは超加速で黄色いモールマンに接近すると、手に持った双剣で首を刈り取ろうとした。

 しかし彼は、それを簡単に避けられてしまう。



「おかしいですね。一瞬はもう過ぎてしまいましたよ」


「たまたま避けたくらいで偉そうに。次こそはアナタの最期よ」


 しかし二度目の攻撃も、軽々と避けられてしまった。

 ベティはその直後、不思議な感覚に襲われる。



「何よこれ。手が・・・痺れてる?」


「フフフ、まだ動けるんですね」


「どういう意味かしら?」


 震える手を見た後、ベティはモールマンを睨みつける。



「言葉の通りですよ。私の鱗粉はね、相手の動きを封じられるんです」


「・・・へぇ」


 手は痺れているが、まだ足や翼に影響は出ていない。

 今の言葉を聞く限り、このままだと危険だと判断したベティは、すぐに距離を取る。

 それを見た黄色いモールマンは、余裕のある声でこう言った。








「あら、良いんですか?貴方が距離を取って私の鱗粉を避けるのは良いですが、そうすればこのように、酸を下に垂らすだけですから。貴方は良くても、下の人はどうでしょうね?」

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