赤青黄
ジレンマに悩まされた事はありますか?
彼等は仲間を助けたいのに、行ったらやられるのが目に見えているというジレンマに苛まれていましたね。
見捨てた事を後悔するのか、自分も死ぬかもしれない中で行くのか。
かなり重い選択だったんじゃないかな。
ちなみに僕も、そんなジレンマがあった時もある。
一番大きなジレンマは、就職するのか否かという点だ。
僕は大学で、それなりに結果を出した方だと思う。
そのまま大学院に進む事も出来たんじゃないかと、自慢ではないが自負している。
でもそれは、プロの選手になる兄に金銭面でおんぶに抱っこと、全て頼る事を意味していた。
兄はそれでも、気にしないんだろうなというのは分かっている。
でもね、僕が嫌だった。
対等な関係が崩れる気がしたから。
兄弟として一緒に育ってきたのに、片方だけが先に進むような感覚。
そんな事で関係性が崩れないと頭の中で思っていても、心がそれを拒否する。
なんとなく分かってはいたんだけど、僕は兄に対してだけは負けず嫌いだったんだよね。
運動では勝てなくても、それ以外では勝ちたい。
ちなみにどっちが先に彼女が出来るというのは、未だに勝負すら出来ていません。
悲しいね。
危なかった。
考えてみれば、ジェラルディンにとってワイバーンは初見なのかもしれない。
フィオレラは地上へ興味を持ってたみたいだし、エレベーターがあったくらいだから知っていてもおかしくないけど。
ジェラルディンは地上の事よりも、モールマンとの戦いに明け暮れているイメージだし。
太田が止めてくれてなかったら、間違いなくトキドがジャイアントに宣戦布告してたと思う。
「あ?本当だ、背中に地上人が乗っていた。すまんな、気付かなかった」
そっと下ろすジェラルディン。
騎士に対しても謝罪・・・だよな?
すまんと言ってるんだから謝罪だろう。
多分、ワイバーンは敵じゃないとこれで認識されたはずだ。
「女王陛下、空のモールマンはワタクシ達がどうにかしますので、その弓矢を持っている連中をどうにかしてくれませんか?」
「どちらも殲滅してくれる!と言いたいところだが、アタシも飛んでいる奴を相手にするのは骨が折れる。だから地上のモールマンだけにしておこうかね」
太田の説得が効いたようだ。
彼女は見下ろすと、モールマンと騎士が戦っているのが目に入る。
弓矢を持ったモールマンというのを探したが、そんなに見当たらなかった。
「そんなに居ないぞ」
「・・・陥没した地面に埋まってしまったのかも」
ジェラルディンが登場した時、辺りは大きく陥没している。
そこは確かに、トーリ軍を食べた弓矢を持ったモールマン達が居た場所だった。
太田の言葉を聞いた彼女は、連れてきたジャイアントに指示を出す。
「土に埋もれているなら、弓なんか引けまい。地中で潰すぞ!」
「え?また潜るんですか?」
「何だ?不満か?」
首を横に振るジャイアント。
太田は彼が副官だと、すぐに理解する。
そして彼が、ジェラルディンに振り回されている事も。
「地上人、太田と言ったか。奴等はアタシ達が始末する。空は任せたぞ」
「承知しました」
ジェラルディンは、トライクに乗り浮いている太田を見上げる。
そして一言残し、彼女は再び地中へと潜っていった。
「空は広いな」
「今のうちでござる。怪我人は一旦、自陣へ戻らせるべきでござる」
太田に代わり、慶次がトキド隊と連携を執っている。
空を飛ぶのが困難な騎士とワイバーンは、トライク隊が複数でロープに繋いで運ばれていく。
しかしそんな場面を、モールマンが見逃すはずが無かった。
「ベティィィィィビクトリィィィィフォーメーション!!」
上空から、物凄い勢いで巨大な何かが落ちてくる。
モールマンの部隊と正面からぶつかったそれは、奴等を貫き慶次達の横で立ち止まった。
「危ないところだったわね」
「助かったでござる。しかし、今のは?」
慶次の質問に、ベティは胸を張って答える。
「見た?アタシ達の新しい力よ。鳥人族がちゃんと戦えば、あんなモグラちゃんはワケ無いのよ」
「そうでござるか。でもそれはベティ殿が居るからではござらんか?」
慶次の新たな質問に、ベティは眉を顰める。
「どういう意味かしら?」
「ベティ殿は、マルエスタ殿から特殊なモールマンの相手を頼まれていたでござるな?では、そのモールマンも皆で戦うでござるか?」
「どんな相手か分からないもの。それは無いわね」
「だったらベティ殿が彼等から離れた場合、どうやって戦うのでござるか?」
「なっ!」
ベティは口に手を当てて、ショックを受けたような顔をしている。
そしてそれは、後ろに続く彼等も同じだった。
「か・・・」
「か?」
「考えてなかったわ」
「駄目でござる」
「そんな事にすぐ気付くなんて。慶次ちゃん、恐ろしい子!」
「普通はすぐに気付くでござる」
再びショックを受けるベティ達鳥人族。
慶次はそれを見て、鳥人族に対する印象がちょっと悪い方へと変わった。
「どうするのか、決めたでござるか?」
「決めたわ!アナタ、アタシの代わりに任命するわ」
慶次を指差すベティ。
慶次はそれを見て振り返る。
誰も居ない事を確認した慶次は、自分だと理解した。
「意味が分からないでござる。というか、鳥人族の戦い方なんか、知らないでござるよ」
「こまけぇ事は良いんだよ。とにかく!アナタが指揮を執りなさい」
あからさまに嫌そうな顔をする慶次。
これならトキド隊の方が、はるかにやりやすいと内心で思っていた。
「慶次殿、何をしているのですか?」
「お、太田殿!そうでござる!彼の方が向いているでござるよ」
全てを擦りつけようとする慶次。
太田は話を聞いていなかったので、首を傾げている。
しかし、ベティは譲らなかった。
「ダメよ。彼は明らかにパゥワァタイプでしょ。アタシ達の強みは、スピードとテクニックなのよ。彼ではアタシ達を活かしきれないわ」
「ハァ、すいません」
活かしきれないと言われ、何かダメ出しをされたと思い、意味も分からず謝る太田。
慶次は逃げきれないと判断して、溜息を吐いた後に承諾した。
「どうなっても知らないでござるよ」
「大丈夫よ。アナタは適当に見えて、そうではないわ。頑張りなさいな」
「・・・分かったでござる」
見透かされたようであまり良い気持ちではないが、貶されたわけではないと分かっていた為、慶次はそれを言葉にしなかった。
すると、ベティの顔付きが変わる。
「ごめんなさいね。アタシ、そろそろお仕事しなきゃいけないみたい」
「どういう事でしょうか?」
「トキドちゃんから、エマージェンシーコールよ」
ベティは大した説明もせず、上空へと上がっていく。
彼等は見上げると、そこには大きな火が空に浮かんだのが見えた。
タツザマは、一人空を移動していた。
モールマンとは接触せず、自分のコンディションを確かめるかのように飛んでいたのだ。
そこに現れたのが、トキドである。
彼はモールマン達を太田達に任せ、空を移動しているタツザマを見つけてそちらへ飛んできたのだ。
「本当に飛べるんだな。飛べるというよりは、空を走っていると言った方が正解か?」
トキドは間近で見る空に浮かぶタツザマを見て、信じられないといった様子。
彼は背中に翼が生えたわけでもなく、普通に空に立っていたからだ。
タツザマはそんなトキドの心の中など露知らず、自分の事で精一杯だった。
「トキド殿か。まだこの能力は、自分でも把握しきれていない。すまんが足手まといになるやもしれん」
「ハッ!お前に限ってそれは無いだろ。心配するな。もう一人の男・・・男で良いんだよな?」
「失礼ね。アタシはオカマよ」
「出た!」
知らぬ間に背後を取られたトキド。
お化けでも出たかのような声を出すと、トキドは背中をおもいきり叩かれる。
「ゴホゴホッ!痛いって」
「ハッ!なかなか良い筋肉してるわね。ふむふむ、その足首の筋にふくらはぎ。アナタ、アタシの好みよ」
トキドを無視して、タツザマの足を見るベティ。
そんなベティの言葉に、青ざめるタツザマ。
そんな悪ふざけの時間も、ベティの真顔で終わりを告げる。
「上から何か来るわよ」
「上から!?」
かなりの高度に居る三人だったが、それ以上の高度から何かがやって来ると言われ、手のひらで太陽の光を遮りながら確認する。
「散開しなさい!大きいわ!」
トキドとタツザマは、すぐさま左右に散る。
ベティもその場から離れると、大きな赤いモールマンがすぐ横を落ちていった。
「赤い!」
「アレが要警戒と言われているモールマンか!」
トキドとタツザマが見下ろすと、赤い色にすぐに反応する。
となると、青と黄が近くに居るはず。
トキドとタツザマは、すぐに周りを見回した。
すると今度は、黄色いモールマンが何かを垂らしながら上から降りてくるのを確認する。
それを見ながら避けると、落ちてきた物が妙な液体だと分かった。
「よだれか?」
「汗かもしれない。な、何だコイツは!?」
「これまたバケモノに拍車が掛かってるわね」
黄色いモールマンが同じ高度まで降りてくると、トキド達はそのモールマンの異形の姿に驚いた。
他のモールマンと違い、首は長くて象の鼻のようにグネグネと動く。
手は無く、翼が四枚生えている。
そして鳥のような足が四本という、見た事も無い姿をしていた。
「い、色々な生き物を、ごちゃ混ぜにしたような姿だな」
「翼が四枚の生き物って何よ」
「・・・虫ではないかな?」
タツザマの虫という言葉を聞き、トキドは思い出したかのように叫ぶ。
「蝶だ!」
「蝶ですって?」
「長い口は蜜を吸うのにあるし、羽は四枚だろ。足が四本なのは虫の証拠だ」
「オバカね。虫なら足は六本でしょ?」
トキドが自信満々に答えているが、それを看破するベティ。
しかしそれに対してタツザマが、補足を話し始める。
「ベティ殿、あながちトキド殿は間違っていないかと」
「どうしてよ?」
「蝶は四本にしか見えないですが、実は退化した足が二本あります。だから実は見えないだけで、何処かに足があるのかもしれません」
タツザマの説明にへぇ〜と頷くトキド。
妙な事に詳しいなと、改めてタツザマの新しい一面を知るのだった。
それに対してベティは、何故か顔を真っ赤にしている。
「どうしましたか?」
「ん〜!許せない!許せないわ!」
「オカマのヒステリーとか、気持ち悪いだけだぞ」
「アンタ、殺すわよ。というか、アレが蝶だなんて許せない!」
「どういう意味ですか?」
「だって、美しくないもの!見てよ、完全にゲテモノよ?あんなのが蝶だなんて呼びたくないわ。そうよ、アレは蛾。蝶じゃなくて蛾だと考えれば良いんだわ」
二人は思った。
ゲテモノというのなら、隣のオカマも負けていないと。
しかし二人はそれを口にしない。
口にしたら、後で何をされるか分かったものじゃないから。
「でもよ、赤と黄色は居たけど、青色は何処へ居るんだ?」
ベティも二体しか気付いておらず、三人で見回している。
するとベティは、急にタツザマを蹴飛ばした。
「な、何を!?」
タツザマは何かを言おうとすると、ベティの足から出血しているのを見て、言葉を飲み込む。
「危なかったわ。まさか、アタシが見落とすレベルの擬態の持ち主なんてね」




