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陥没

 良かった。

 トキドが軽く引いていたのを見る限り、ベティのクドさは世界共通だったらしい。


 こういうのって国によっては文化が違うので、逆に好かれたり失礼だったりする事がある。

 例えば日本でゲップをすると下品だと言われて失礼に当たる。

 だけど中国では、ゲップは美味かった満足したという表現になったりする。

 ゲップの話に続き食べ物で言えば、中国は皿の上の物は全て食べちゃいけない。

 もうこれ以上は十分ですという意味も込めて、少し残すのがマナーらしい。

 それに対してインドでは、逆に全て食べ切らないと失礼に当たる。


 日本だって似たようなものがある。

 それは女性の好みだ。

 昔は女性といえば、ふくよかな人の方がモテたという。

 その方が健康的で、元気な子を産んでくれそうとか、そんな理由だった気がする。

 それに対して今は、痩せてる人の方が好かれるよね。

 ちょっとポッチャリした人の方が好きって人も居るけど、病的なまでに痩せていなければ皆同じだと思う。


 話を戻すと、ベティはかなりキャラが濃い。

 それは魔族としての感性でなく、ヒト族にもそう思われているという事だ。

 ある意味忘れられない存在だし、ベティという個性が出ていて良いのかもしれない。

 あまりに酷いと魔族、いや鳥人族がそう思われるので、少しは自重してほしい時もあるけどね。








 慶次が単機で急降下していくと、モールマンは一人逸れた慶次を追い掛けていく。

 格好の獲物だと判断したらしい。

 すぐに体勢を立て直した慶次だったが、既に周りはモールマンだらけ。


 慶次はモールマンの動きに備えた。

 対してモールマンも、馬鹿ではない。

 炎を吐けば、向かいの味方に当たると分かっており、全てのモールマンが尻尾による中距離攻撃を選択していた。



「クソッ!」


 先の尖った尻尾で、慶次の身体は傷ついていく。

 身体中に切り傷による出血や鞭で叩かれたような紫色の内出血の痕が残っている。


 トドメと言わんばかりに、再び尻尾を振るおうとした瞬間。

 上空からワイバーンによる炎が、モールマンに直撃した。



「慶次殿!」


「助かったでござる」


 トキドが先頭に立ち、ワイバーン隊を率いて急降下してきたのだ。

 それに続いて太田率いるトライク隊も、どうにか降りてくる。

 そこで慶次は、すぐに太田にこう伝えた。



「無理でござる。ワイバーン隊は拙者達よりも長い時間、訓練しているから出来ているでござる。次やったら、誰か墜落するでござるよ」


「ワタクシも同感でした。だからワタクシ達は、トキド殿のフォローという形で動きましょう」


「なるほど。それは俺達としてもありがたいな」


 慶次の必死の表情に、太田もすぐに同意。

 そして太田の提案には、トキドも賛同してくれた。



「ワタクシ達のような体力のある者は、囮となります。慶次殿のような者達は、ワイバーン隊と同調して強めの一撃を入れましょう」


「そうか。了解した」


「その役目、拙者も承った」


 ワイバーン隊とトライク隊の共同作戦が、ここに開始される。







 太田の作戦は、上手く機能していた。

 時間は掛かるものの、徐々にモールマンを落としていったのだ。


 トキドもそれを見て、マルエスタの作戦を成功させるべく、自分の体力温存を重視。

 彼は戦線から離れ、上空へと上がっていった。



「太田殿の作戦、上手くいったでござるな」


「トキド殿が本気を出せば、これくらいは容易く倒せると思いますけどね」


「悔しいが、同感でござる。地上なら負けないでござるが、空では彼に一日の長があるでござる」


 二人もマルエスタの作戦の内容は、理解していた。

 地上なら負けないと分かっていても、やはり悔しいものは悔しい。

 二人はその鬱憤をモールマンへぶつけ、少しずつ数を減らしていく。


 だが、そんな時だった。

 ワイバーン隊が何かの攻撃で、墜落していったのだ。



「どうしたでござるか!?」


「彼を助けるでござる!」


 ワイバーン隊が落ちれば、確実にモールマンの餌食になる。

 そうなればこちらの戦力は落ち、向こうの戦力は上がる。

 彼等は慌てて、落ちていく仲間の救出へ向かった。


 すると、彼等が何にやられたのかを理解する。



「下から矢が!?」


「しまった!ワタクシ達、高度が落ちていたんです!」


 慶次の急降下に加え、モールマンがやられて少しずつ高度が落ちている。

 太田と慶次は必死に戦っていたので、その事に失念していた。



「そうか。モールマンの力なら、この高さだと矢が届くでござるな」


「全員、助けたら高度を上げましょう!」


 太田の指示はワイバーン隊も聞こえている。

 だが、下からの矢の数が尋常ではない。

 仲間を助けようと高度を下げると、自分達もやられてしまう。

 彼等はそんなジレンマに、頭を悩ませた。



「地上の連中に、助けてもらえないでござるか?」


「駄目です。阿形殿達もタケシ殿も、何処に居るのか分かりません」


「それなら、魔王様に魔法で助けてもらうでござる」


「名案ですね!」


 慶次の一言で、太田は携帯電話を取り出す。



「もしもし?」







「へぇ、ウケフジって塩辛い食べ物が苦手なんだ。でも塩ラーメンはしょっぱくないよ。あ、電話だ」


 誰だよ。

 せっかくウケフジとのグルメトークに、花を咲かせているというのに。



「もしもし」


「魔王様、太田でございます」


「太田?空で戦ってるんじゃないの?」


「はい。苦戦中です。このままではトキド殿のワイバーン隊が、モールマンに食べられてしまいます」


「どうしてそうなる!?」


「地上からの弓矢による攻撃が、激化しまして」


「・・・のあぁぁぁ!!」


 マズイ!

 こっちに矢があんまり飛んでこなくなったから、てっきり諦めたものだとばかり思っていた。

 まさか標的を地上の騎士達から、ワイバーン隊やトライク隊へ変更していたとは。

 ウケフジとの会話が弾んだせいで、見落としてしまった。

 ・・・黙っておこう。



「横風で押し流せば、問題無いかな」


 風を起こす場所を、もう少し上空へと変更してみよう。

 よし、予想通りの結果だな。

 下から押し返すように風を起こしていたのだが、これはワイバーン隊を狙うのに、追い風になっていたようだ。

 だから今度は、上から斜め下へと風を起こすようにしてみた。

 すると矢は、ワイバーン隊にはほとんど届かなくなった。



「どうだ?」


「皆さん!今なら助けられますぞ!」


 僕との電話より、仲間の救出を優先しているみたいだ。

 太田が叫んだ事で、ワイバーン隊が降下していくのが見える。



「助かりました!流石は魔王様です」


「お、おう。また何かあったら、すぐに連絡するんだぞ」


 言えない。

 ウケフジとの会話が楽しくて、見てなかったから危険に晒してしまったなんて。

 口が裂けても言えない。



「どうしたんですか?」


「あ、うん。ワイバーン隊がちょっと危険に陥ったみたいでね。大丈夫よ?助けたから」


「そうですか。だったら良かったです」


 ウケフジにも黙っておこう。

 下手に本当の事を話せば、彼の性格だと罪悪感で潰されそうだし。



「あの弓矢隊ですね。トキド殿を苦しめたのは」


 二人で確認する限り、やはり凄腕も何人か居るようだ。

 ほとんどはワイバーン隊に届いていないのだが、何本か風を切り裂いて騎士やワイバーンの身体に刺さっている。

 トライク隊は幸いな事に、身体には当たらずにトライクだけに当たっているようだ。

 トライクは硬いので、矢の攻撃は全く致命傷にはなっていない。



「どうにかしないと、いつかは撃墜されそうですね」


「阿形達を差し向けるか?」


「個人だけで向かわせるのは、やめておきましょう。罠かもしれませんから」


 ウケフジはそれよりも、少しずつでも押し込んでいく方が無難だと言った。

 しかし、それだと間に合わないかもしれないな。



「僕が行こうか?」


「え?」


「ササッと行って倒してきちゃおうか?」


 こんな事言ってるけど、実際に行くのは兄なんだけどね。



「いや、それはちょっと・・・」


「やめとく?」


「それはそれで助かるんですけど。どうしましょう・・・」


 この提案、マズかったかな?

 ウケフジがかなり困っている。

 頼みたいけど、太田達から後から非難されそうって思ってそう。

 言わなきゃ良かったかも。


 ん?

 何かおかしいぞ。



「どうしましたか?」


「気のせいかな。少し地震があったように感じたんだけど」


「私は分かりませんでしたが」


 ウケフジは感じなかったという事は、勘違いかもしれないな。

 すると、今度はもう少し大きな揺れを感じる。



「気のせいじゃない!?」


「今のは私にも分かりました!」


 これは嫌な予感がする。

 初めてモールマンに遭遇した時と、同じような感覚だ。



「長く続きますね」


「大きくはないけど、長いなぁ。嫌な感じだ」


 僕達は地震によって緊張が走っているが、戦っている騎士達にはそれが伝わっていないようだ。

 戦っているのだから、地震なんか気にしていられないのかもしれない。



「あ!ワイバーンが!」


「急所に当たったのか!?」


 やはり悪い勘が当たってしまった。

 何本かある風に影響を受けない矢が、ワイバーンの首に刺さってしまったのだ。

 もしかしたら、風を読んで影響力の少ない場所で狙っているのかもしれない。



「地上へ落下していきます!」


「助けないと!」


 僕が兄へ頼んで、高台から飛び降りようとした瞬間だった。

 長く続いていた微振動が、突然大きくなる。

 そしてワイバーン隊の一騎が、地面へ落ちた。

 いや、落ちたように見えた。



「な、何が起きたんですか!?」








 僕達が高台の手すりに捕まり地震に堪えていると、弓矢を持ったモールマン達の地面が、急に陥没する。

 ワイバーンはそこへ落ちていくと、突然大きな手が出てくる。



「なっ!?」


「まさか、また巨体モールマン!?」


「さっきより大きいですよ!」


 地面から出てきた手を見る限り、阿吽が倒したモールマンよりかなり大きい。

 これは強敵だ。

 そう思っていた時が、僕にもありました。



「フハハハ!久しぶりに地上に出てきたぞ。・・・モールマンだらけではないか!」


「ジェラルディン!?」


「女王!?」


 高笑いと共に姿を現したのは、ジェラルディンだった。

 僕達は彼女を見て、すぐに理解した。

 マルエスタが呼んだ援軍とは、彼女の事だと。



「ジェラルディ〜ン!」


「地上人は何処に居るのだ?」


 駄目だ。

 ここからだと遠過ぎて、何も聞こえていない。

 そうだ!

 だったらこっちから連絡してもらおう。



「太田、聞こえるか?」


「き、聞こえています。驚きましたよ」


 空から見ても、やっぱり驚いていたか。

 太田は顔も合わせているし、ジェラルディンの頭なら太田の事を覚えているはず。



「彼女に言って、さっきの落ちた騎士を助けてもらえ」


「そうでした!」


 あまりの驚きに、やられた騎士を一瞬忘れていた様子。

 太田はすぐにジェラルディンの近くまで降下していくと、既に騎士とワイバーンが彼女の手の中にあった。



「ん?何だ、この生き物は?」


 ワイバーンを訝しげに見るジェラルディン。

 すると彼女は、突然口を開けた。



「トカゲと変わらんだろう。どれ、少し腹の足しにでもするとしよう」








「駄目!駄目です!駄目でーす!!陛下、ワタクシを覚えておいでですか?魔王様の右腕にして、最も近い重臣。太田でございます。彼等は空を飛ぶワイバーンを使役する騎士。食べ物ではないので、口を閉じて下さいませんか?」

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