空の編成
藁にもすがるという言葉があるけど、これは意外と誰でも当てはまると思う。
今回、沼田とアグーは地上が近いと思って独断で動いてしまった。
その結果がモールマンによる落盤の罠に嵌ってしまったのだが、これには僕も分からなくもない。
そもそも暗い地底の中に長時間居るというのは、普通の人間なら精神的に弱ってくるものだと思う。
閉所恐怖症や暗所恐怖症の人は、論外だろうね。
そんな中で一筋の光が差し込んできたら、誰でも地上に近いと思うだろう。
弱い部分は誰にでも、何かしらある。
ダイエット中に甘い物が我慢出来ない人。
高い買い物をしようと貯金を頑張るが、結局は断念する人。
ちなみに僕は、試験前にゲームが我慢出来ない人でした。
人の心の弱い部分を、うまく突いてくるやり方。
ムカつくけど、それはとても有効的なやり方だ。
もし誰かが沼田やアグーを非難したとしたら、僕は彼等を全力で援護すると思う。
だってさ、これって僕も含めて誰でも引っ掛かりそうだもの。
もし自分に同じような事が起きた時、僕はあの時にフォローしたから!と、皆に知っておいてもらいたい。
だから僕が騙されても、皆は非難しないでね。
下から突き出てくる身体。
沼田とアグーは、その腕と声を聞いただけで誰だかすぐに理解した。
「女王!?」
「ジェラルディン様、それを倒せば一気に形勢は傾きます」
マルエスタは冷静に、そして冷酷にモールマンを倒してくれとジェラルディンにお願いする。
彼女の身体全体が姿を現すと、モールマン達の動きが変わった。
「わ、私を助けなさい!」
モールマンとメメゾが、一斉にジェラルディンの方を向く。
そしてジェラルディンがモールマンを掴んでいる右手へと集中攻撃をしようとしていた。
「なるほど。本当にこのモールマンの指示を聞くようだ」
右手の中のモールマンを見るジェラルディン。
そして彼女は、右手でメメゾを殴り始めた。
「な、何を!?ぶほっ!」
エティーモールマンは凄い勢いで振り回され、何かを言おうとしたがすぐに黙ってしまった。
その間、ジェラルディンは右手でメメゾを殴り、左手に持ったメメゾでモールマンを叩いている。
「お、恐ろしいな」
「俺、絶対に逆らわない」
アグーですら引くその所業。
マルエスタはそれを見て、流石は自分達の女王だと誇らしげに胸を張っている。
二人はそれを見て、やはりジャイアントは少し感性が違うなと実感するのだった。
「どれ、この辺りのモグラ共は倒したが」
気付けばモールマンの死体が散乱している。
千切れたメメゾも多く、ジェラルディンの周りは死体だらけだった。
そして思い出したように、右手の中を見るジェラルディン。
「ほう、生きていたか」
感心するジェラルディンに、マルエスタは非情な宣告をする。
「握り潰して下さい」
「ふむ」
「ぢょ、ぢょっどまっで!ウギュッ!」
何かを言おうとしたエティーモールマンだったが、ジェラルディンが力を込めると口から大量の血を吐き出す。
グッタリとして動かなくなったのを見て、彼女は右手のモールマンをマルエスタの前へと放り投げる。
「これで良いか?」
「流石は屈強で精強で、そして風光明媚なジェラルディン様です」
「ふ、風光明媚?」
屈強で精強というのは、理解出来る。
しかしジェラルディンの何処に、風光明媚な要素があるのか分からない。
沼田は思わず、それを口に出してしまった。
「褒めるなマルエスタ。さて、そこの黒いの」
黒いの。
明らかに黒光りした肉体を持つ沼田の事なのだが、彼は知らんぷりを決め込んだ。
しかし再び呼ばれると、もう無視は出来ないと覚悟を決める。
「ななな何でしょう?」
「お前、アタシの部下に変な事を言わせていたな?」
「ほあっ!?ちょちょちょちょっと待って下さい!それは私の指示ではなく、マルエスタ殿の」
「腹筋板チョコとか切れてるとか、どういう意味だ?」
「えぇ・・・」
ジェラルディンからしたら、純粋な疑問だった。
ジャイアントは類い稀なる学習能力があるが、女王はその中でも別格。
そんな彼女でもまだ地上の知識で知らない事があるのだと、それがどういう意味なのか知りたかっただけだった。
しかし、それは沼田にも答えづらい質問だった。
何故なら、それくらい凄いという以外に意味は無いからである。
「女王様、まだ戦闘の最中です。答えは全てが終わってからでもよろしいかと」
「それもそうだな」
マルエスタのフォローのおかげで、命拾いした沼田。
しかし彼はこの戦いが終わるまでに、腹筋板チョコの意味を必死に考える事となった。
「クソッ!もうなるようになれ!」
ジェラルディンの登場により、天敵であるメメゾもほぼ制圧し、数は互角までになっていた。
しかしモールマン側はエティーモールマンが敗北した事で、勢いは既にこちら側へと傾いており、勝利は時間の問題となっている。
「女王、ここはもう勝利目前です。なので、地上へお向かい下さい」
「地上へ?何故だ」
「モールマンの王を名乗る輩が、地上で地上人と徒党を組んでおります。見ておくのも損はないかと」
「モールマンの王だと?シアラを誑かしたと思しき奴か!」
自分を嵌めたシアラという女王と、通じていたと思われるモールマン。
彼女はそれを聞いて気持ちが昂っている。
「残りは僕達で十分だと思います。女王はどうぞ地上へ」
「うむ!何かあれば、呼ぶが良い。では後は任せた」
ジェラルディンはそのまま上方をパンチで穴を空けると、そのまま上に向かっていく。
するとある箇所から、土がパラパラと落ちてきた。
「お、おいおい!あの辺りって落盤した場所じゃないか!」
「あ・・・」
再び始まる落盤に、ジェラルディンはお構いなしで突き進んでいく。
気付くとモールマンが、二割くらい生き埋めになっていた。
「・・・女王の最後の置き土産だったんだ」
「そ、そうですね。おかげで更に楽になりました」
沼田とマルエスタがそう思い込んでいると、今度は自分達の上からも土がパラパラと落ちてくる。
皆はそれに気付いて、すぐにこの場から退避し始めた。
他のジャイアントを率いて全員がその場から下がると、途端に上から岩や土が落ちてくる。
「危なかった。女王危険」
「ホントだよ。台風一過みたいな感じだ」
「台風?何ですかそれ?」
マルエスタに台風を説明する沼田。
するとマルエスタはそれ聞いて、面白いと笑っていた。
「言い得て妙ですね。フフ、確かにあの方は、モールマンからすれば災いと言えるでしょうし」
「でも、これで地底からの回り込みは防ぐ事が出来たかな?」
「そうですね。僕達の残りの仕事は掃討戦です。あと一息、頑張りましょう」
地底での戦いに決着が見えた頃、空では戦いが続いていた。
翼の生えた大型のモールマンが、トキドのワイバーン隊とベティ率いる鳥人族の連合軍と戦っている。
「お前等、モールマンはワイバーンよりも身体が大きい。一人で倒そうとせず、複数で当たれ」
トキドの指示に、ワイバーン隊は三人一組のグループへと分かれていく。
一人がモールマンの攻撃を防ぐと、二人は左右からモールマンへ攻撃。
しかしモールマンも、伸びた爪と長い尻尾で、左右のトキド隊に応戦。
真ん中の一人は炎を吐かれたが、同じくワイバーンが炎を吐いて相殺していた。
「一体を相手にするのに、なかなか手強いな」
トキドが一人呟くと、後ろから高笑いが聞こえてくる。
「オーホッホッホ!苦労しているようね」
「佐々殿」
「ノンノン」
人差し指を左右に振るベティ。
彼はわざわざトキドの前まで回り込み、二回手を叩いてからポーズを決める。
「ベティよおぉぉぉん!!」
空に木霊する、ベティよおぉぉぉん!!
それはモールマンをも困惑させた。
「今よ、殺りなさい」
それに見て冷静に指示を出すベティ。
鳥人族は動きに精彩を欠いたモールマンに、攻撃を開始する。
「ね、狙ってたのか?」
「まさか!自己紹介よ。アイアムベティ、OK?」
「お、OK」
「オーライ。プリーズコールミーベティ。アハン」
「へ?」
「プリイィィズ!コールミー!ベティ!」
無駄に力が入るベティに、トキドは戸惑いを隠せない。
何度か模擬戦で戦ってはいたが、ここまでクドくなかった。
以前にも増してキャラが濃いと、トキドは軽く引いている。
「プリイィィズ!!」
「べ、ベティ?」
「グッド!じゃあアタシは、上のモールマンを倒してくるわ。アナタ達は、下の太田殿達を手助けしてあげてね」
「分かった」
今までのやり取りは必要だったのか?
トキドは疑問に思いつつ、それを突っ込むと絶対にややこしくなると、それを頭から消した。
しかし言われた通り、少し下の空域では、太田と慶次のトライク隊が戦っている。
問題はトキド隊が手こずるモールマンに、彼等は更に劣勢だという事だ。
「このモールマン、本当に厄介でござる!」
「確かに。一体で同時に攻撃出来るのが面倒ですな」
太田は持ち前の体力で、モールマンの尻尾は食らっても耐えていた。
爪をバルディッシュで防ぐ事は出来るが、問題は口から吐かれる炎だけはどうしようもなかった。
更に大変だったのは、慶次である。
彼の攻撃範囲は中距離。
爪による攻撃は無いのは幸いだったが、こちらも攻撃が出来ないのだ。
槍を伸ばすと尻尾がそれに対応して弾いたりしてきて、槍が手元に戻ってくる前に炎が襲ってくる。
逆に攻撃を躊躇っていると、尻尾と炎の同時攻撃が待っていた。
「身体が大きいから、攻撃も重いですよね」
「地上なら負けないでござるが、ちょっと厳しいでござるな」
踏ん張りが効かないトライクの上では、体重の軽い慶次は尻尾による攻撃でもいちいち吹き飛ばされる。
太田なら耐えられるのだが、慶次は吹き飛ばされるが故にモールマンから集中的に攻撃を浴びせられていた。
尻尾で吹き飛ばされた先に、他のモールマンが炎を吐いている。
やられはしないが、食らうのは覚悟しないと駄目だな。
そう思い歯を食いしばる慶次だったが、目の前に炎の玉が横切っていく。
「よお、大丈夫か?」
「助かったでござる。が、大丈夫ではないでござるな」
「だろうな」
トキドは慶次がピンボールのように弾き飛ばされるのを、何度も上から見ていた。
ワイバーン隊もワイバーンへの負担を軽くしようと軽量級の連中が多いので、慶次の気持ちが分かるのだ。
「三人でも厳しい。だから四人編成に変更する」
トキドの指示によって、ワイバーン隊は編隊が変わっていく。
四人一組によるダイヤモンド型のフォーメーションへと、変更された。
「洗練されていますね」
「こっちもイッシー殿が居れば、楽になるでござるが・・・」
「ワタクシ達も、トライクで四角くなりましょう!」
ワイバーン隊を真似て、トライクでダイヤモンド型のフォーメーションになろうとする太田達。
すると、慣れていない彼等はガチャガチャと隣のトライクとぶつかっている。
「痛っ。え?あら?」
ハンドルバーが隣のトライクと接触した慶次。
すると彼は斜めに急降下を始める。
「ぬあぁぉぁ!!お、落ちるでござるうぅぅぅ!!」




