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妖精の反撃

「お前達の力、帝国に見せつけてくるがいい」


 丹羽さんの一言を聞き、若狭から森の中へと入っていく二人。

 僕達は、見送るだけしかしていない。


「あの二人なら、何も心配無いでしょう。若狭を守る仁王とは、あの二人の事ですから」


 ギリーはあの二人を知っている。

 新兵器と聞いても、あの二人への信頼の方が大きいようだ。

 でも、そしたら何であんなに不機嫌だったのだろうか?

 少し不思議な気もする。

 そしてあの姿に似合わないアダ名。

 仁王とか、見た目からは絶対に想像出来ない。

 しかし強い事は間違いない。

 あんなに苦戦するとは思わなかったし。


【俺達、此処で待ってるだけ?】


 そうだね。

 何もしないのは申し訳ない気持ちになる。


「ハクト。屋台フル稼働で、ラーメン作ってくれない?」


「分かった!僕も何かしないと!って思ってたんだ」


 料理担当を全員集め、屋台へと走っていく。

 出来れば、妖精兵達の場所まで移動したいな。


「相談なんですけど、一部の乗り物を移動させてもいいですか?」


「何をする気だ?」


「前線から戻ってきた兵達に、料理でも振る舞おうかと思ってるんですけど。食材は積み込んであるので、若狭に負担は無いと思います」


 少し考え込んだ丹羽さんだったが、許可を得る事が出来た。

 スープ作りだけはずっとしているので、そこまで時間は掛からないだろう。


「僕等はどうしようかな」


「私と前線の確認でもしますかな?」


 前線の確認?

 そういえば、何かしらの監視魔法を使えそうなのを忘れていた。

 それは右顧左眄の森どころか、その外の森でも使えるという事か?

 もしそうだとしたら、この人の魔法範囲って相当広いな!


「どうやって確認するんですか?」


「今代の魔王様は知りたがりですな。そう急かなくても、説明致しますぞ」


 僕って知りたがりかな?

 そんなつもりは無いんだけど。


【気になる事は、とことん突き詰めてたけどな。昔からそういうところはあったぞ?】


 そ、そうなんだ。

 自分の事なのに知らなかった。


「今から使う魔法は、風魔法と草魔法の複合魔法です。私の草魔法は、森魔法とも呼ばれていますがね」


 草から森とか、レベルが違い過ぎるだろ。

 丹羽長秀の魔法は、それだけ凄いって事かな。


「諜報魔法、森の囁き」


 魔法を唱えると、風が森の方から吹いてきた。

 そこまで強くはない。

 春先なら気持ち良いくらいの風だ。

 その風に乗って、何か聞こえてきた。

 声・・・じゃないな。

 何の音だろう?


「マズイな。相当な規模を焼かれているようだ。森が残っていないから、あまり聞こえてこない」


 あ!

 そうか、この音は木が燃える音だ。

 パチパチっと何かが弾ける音は、キャンプで焚き火した時に聞いた事がある。

 ゴォォ!というもっと大きい音は、火炎放射器の音だろうか?

 戦闘音はほとんどしない。


「少し場所を変えよう。おそらく外の森は、ほとんど機能していない。火炎放射器だったか?帝国も恐ろしい兵器を用意してきたものだ」


 冷静に努めているようだが、少し額に汗が見える。

 予想より侵攻が早かったと思われる。

 阿形と吽形は、今どの辺りまで行ったのだろうか?



「燃えてますね」


「えぇ、凄い勢いで」


 金髪と銀髪の妖精は、お互いに向かって言っているのか、独り言なのか。

 ボソッと口にした。


「・・・私達の故郷を燃やす気ですか」


「それは無いでしょう。帝国は魔族を捕まえて、利用したいと言っているのですから」


「若狭が燃えれば、連行するのに尚更都合が良いのでは?」


「そういう考えもありますね」


「どちらにしても、許せませんね」


「そうですね。許せません」


 許さない。

 それだけは一致した二人は、音も立てずに走っていく。




「なんか怖いな」


 諜報場所を右顧左眄の森へと移したら、二人の会話が聞こえてきたのだ。

 あまり感情的でもなく、淡々と怒っている感じ。


「そろそろ限界か?」


 限界?

 防衛ラインの話かな。

 確かに帝国の侵攻も、右顧左眄の森までまもなくという所だろう。

 森が燃えている音が、右顧左眄の森からも聞こえるからだ。

 もし右顧左眄の森が燃え落ちる事になれば、それは若狭の喉元に刃を突きつけられるのと同意だろう。

 城で例えれば、この森が堀の役目をしているのだから。


「そろそろ接敵する頃か?」


「よく分かりますね。走る音どころか、足音も聞こえないんですけど」


「仕方のない事ですな。阿形達にすぐ気付けるのは、猫田殿や鳥人の一部の連中だけでしょう」


 猫田!?

 あの人、そんなに凄いの?

 獣人でも気付かないかな。

 ハクトなら気付く気もするけど。

 それと鳥人か。

 一度だけ会った事あるけど、あまり絡みは無かった。

 安土に戻ったら、少し話を聞いてみよう。


「動いたようですな」


 その一言から、火炎放射器の音とは違うモノが聞こえるようになる。




 二人は右顧左眄の森から外の森へと出る直前で、ようやく帝国兵を確認した。


「アレが火炎放射器ですか。魔王様の仰った通りの外見ですね」


「何故あの方がこんな物を知っていたのか、少し興味が湧いてきました」


「私もそれは興味がありますが、今は心に仕舞いなさい」


「それもそうですね。では行きますか」


「では行きましょう」


 静かな口調のまま、燃えている森の中へと消えていく二人。

 帝国への反撃が今始まる。




「ヒャッハー!森は焼却だー!」


 火炎放射隊の一人が叫びながら、森を炎の海へと変えている。


「妖精達は既に下がったか。全く手応えが無いな」


「そうだな。想像していたよりは弱い。王国の連中は、こんなのに手こずっていたのか?」


 他の隊員達も、大きな声で会話している。

 火炎放射器のせいで、大声じゃないと聞こえないのだ。


「お前達!油断するなよ?まだ噂のアレが出ていない。アレが出てきたら、すぐに分かるはずだ。もしアレを確認したら、即後退を開始する!」


 帝国兵が恐れる妖精。

 それを彼等が確認する者は、ほとんど居なかった。


「燃えろ!バーニィィング!」


 どこぞの熱血キャラみたいなセリフを吐きながら、炎を吐き続ける帝国兵。

 しかし、その彼の耳元で聞き覚えの無い声が聞こえた。


「お前が燃えろ」


 森が燃えている音が喧しく、大声でないと聞こえないはず。

 それなのに、静かな冷たい声がハッキリと聞こえたのだ。

 急ぎ振り返るも、やはり誰も居ない。

 叫び過ぎてテンションが上がったせいで、幻聴でも聞いたか?

 自分の中でそう言い聞かせた後、彼はまた炎を吐き出そうとした。

 その瞬間、彼の身体は漏れ出た燃料に引火して爆発。

 四肢が綺麗に爆散した。


「まず一人」


 静かな独り言がまた聞こえる。



「な、何だ?爆発!?」


「誰かの火炎放射器が暴発したのか!?」


 離れた場所から聞こえる、大きな爆発音。

 妖精からの攻撃が全く無いので、その爆発は味方からだと皆判断した。


「タンクは全てミスリル製だろ?頑丈が売りのはずなのに、欠陥品だったのか!?」


「それはおかしいだろ。だって俺達、訓練も含めて一度も爆発してないぞ?」


「あのバーニングバーニングうるさかった奴だろ?大方、テンション上がって、操作ミスでもしたんじゃないのか?」


 爆発に怪しむ者。

 冷静に考える者。

 自分はそんな事が起きないと、他人事のように思う者。

 三者三様に考えてはいるが、もしかしたら自分も危ないのでは?と、タンクの確認をお互いにしていた。


「やっぱり異常は無いな」


「俺達は整備もしっかりしている」


「爆発の恐れがあるのは、最初から聞いていた事だ。俺達は操作ミスの無いように慎重に行こう」


 そして再び、炎を吐き出そうとした。

 しかし炎を吐き出したのは、二人だけだった。


「おい!お前、仕事しろよ!」


 立ったまま動かない男に、一人が話し掛ける。

 返事をしない同僚に腹を立て、放射を停止して肩を掴もうとした。

 しかし前のめりに倒れる男の肩を、掴み損ねてしまった。


「え?」


「どうした!?何があった!?」


 倒れた男を起こそうと、もう一人も近付いていく。

 そしてその男もまた、途中で動かなくなった。


「おい!お前まで冗談はやめろよ?」


 倒れた男を抱き起こすと、彼はすぐにそれに気付く。

 胸に穴が空いている。

 それも丁度心臓のある辺りだった。


「ヒイィィィ!!」


 恐怖した男は尻もちを着き、後退りを始める。

 そのまま止まったもう一人の男の方へと、四つん這いで近付いた。


「し、死んでた!アイツ、死んでた!」


 太ももを掴み、見たままを彼に伝える。

 そしてその男もまた、掴んだ反対側へと倒れたのだった。

 倒れた男の首と胸には、大きな穴が空いている。

 よく見ると、血が大量に噴き出した後が周りには飛び散っていた。


「うわあぁぁぁ!!」


 殺された二人から離れようと、起き上がろうとしたその時。


「ハイ、死んでください」


 耳元で聞こえた声に、すぐに火炎放射器を向けて炎を吐き出した。

 その炎で自分のタンクが暴発。

 更には倒れた二人のタンクにも誘爆を起こし、その辺りの炎は一段と勢いを増した。


「ふむ。これはタンクより、人を狙った方が効率的かもしれないな」


 誰も居ない炎の海で、彼は独り呟いた。




 右顧左眄の森からの諜報だけど。

 あの二人、やっぱり恐ろしいな。

 最初はヒャッハー!とか聞こえて、また世紀末的な奴が増えたのかと思った。

 他にもバーニング叫んでうるさい奴とかだし、帝国兵は火炎放射器を変な奴にしか持たせてないのかと疑ったくらいだ。

 しかし、そんな疑いをかき消すかのように、急に爆発音が聞こえるようになった。

 何度か人の叫び声が聞こえた後、何度か続く爆発音。

 しばらくすると爆発音は無くなり、その代わりに恐怖に怯えた叫び声だけがたまに聞こえた。

 この魔法、夏の夜に使ったらちょっと怖いかもしれない。


「どうやら火炎放射器ではなく、人の方を始末しているみたいですな」


「そうなんですか?」


 僕もそっちの方が早いとは思った。

 でも、倒した拍子にスイッチが誤って入って、もし暴発に巻き込まれたらと考えたのだ。

 だから僕からは提案しなかったのだが。

 結局は予想していた性格の通り、効率重視でやり始めたって事か。


「全ての音が消えた。火炎放射器を持った連中は、全員倒したようだ」


 僕の耳にも、木々が燃える音だけが聞こえる。

 その後に続いた事が、僕は驚いた。


「五郎左衛門尉様。このまま追撃してもよろしいのでしょうか?」


 阿形達が話し掛けてくるまでは分かる。

 しかし、どのようにして返答するのか?

 それに興味があった。


「そうだな。適当な所まで追撃を許可する。しかし、残るはミスリルを装備した連中だ。無理は禁物だぞ?」


「御意!」


 なんと、普通に会話している。

 それって、もう諜報じゃなくない?

 会話まで出来ちゃうなら、通話魔法の方が正しくない?

 僕の驚きを他所に、丹羽さんは阿形吽形に指示を出していた。

 そして一時間後、何事も無かったかのように二人は若狭へと帰還したのだった。



「森の外側に居た兵は火炎放射隊とは違い、やはりミスリルを装備した連中でした」


 戻った二人の報告を聞いた丹羽さんは、次の段取りを考える。

 ミスリル装備の部隊に対して、どのような反撃に出るのか。

 丹羽さんがどのように考えているのか、僕も楽しみだった。


「右顧左眄の森へと誘い込む。短期決戦だな」


「森へ入れるのですか?危険なのでは?」


 此処を抜けられたら、目の前は若狭だ。

 若狭自体の防衛機能は、特に無いらしい。

 そうなると、妖精兵が普通に戦うしかなくなる。


「あの森は普通には抜けられん。だから迷ったところを、複数で囲んで各個撃破していく」


 森で迷う事前提の戦いか。

 何の準備もしていないヒト族に、あの森を抜けるのは不可能だとは思うが。

 しかし、火炎放射器だけが秘密兵器だったのか?

 それだけで若狭を攻める決断をしたのか?

 僕には到底そうとは思えなかった。


「万が一の事に備えましょう。僕の遠征隊も、戦力に加えてください」


「有難い申し出だが、よろしいのですか?」


「城下の皆の安全の確保が、一番の理由とでも思ってください。此処が壊れたら、皆が大変でしょ?」


「そういう事ならば、有り難く頼らせていただきます」


 当初は僕等は参戦しない予定だったけど。

 流石に手を貸さなかったから若狭まで攻められましたという自体になっては、もう後の祭りだ。

 それは丹羽さんも理解している。


「聞いたなお前達!僕等も防衛へと参加する。街の皆を守るぞ!」


 おぉ!という声に加えて、一際目立つ集団が居た。

 それはイッシー(仮)率いる、第三部隊だった。


「俺達の目的は分かっているよな?髪だ!俺達は髪の復活を目指して、此処までやって来たのだ!帝国などに邪魔されてなるものか!殲滅するぞ!」





 目的は違うけど、一番士気が高いから黙っていよう。

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