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相撲

(・・・何を言っているのかな?)


 俺はおっぱいを揉みたい!

 出来れば大きいと嬉しいです!


(お前は何を言ってるんだ!これから勝負だって時なのに、そんな事考える余裕あるのかよ!)


 だって、心の中読まれてるかもしれないし。

 そしたらアイツ等だって、おっぱいの事考えるかもしれないだろ?


(アホか!)


 そんなに怒らなくてもいいじゃん。

 これでも真面目に考えて、思いついたのに・・・。


(もういいよ・・・)


 向こうの顔色を見ると、いつもと変わらないニコニコ顔。

 逆にこっちは、全く心の中が読めやしないな。


「何やら対策でも考えてたようですが、私達はそんな簡単に崩れませんよ」


 銀髪の方が答えた。

 金髪の方は何も言わずに、準備運動をしている。


「そっちの金髪の方が俺の相手かな?別に俺は二人でも構わないぞ?」


「阿形と申します。今回は私一人だけでお相手させていただきます。魔王様」


 軽く挑発してみたけど、効果は無さそうだ。

 むしろ俺が挑発され返された気がする。

 魔王様って言ってるけど、馬鹿にされた感じがするわ。


(ちょっと!挑発に乗らないでよ?相手はどんな事してくるか分からないんだから。隠形法っていうのには、注意してよね)


 分かってる。

 俺も本気でやるよ。

 俺達には守らなきゃいけない連中も居るからな。


「準備はよろしいかな?」


「こっちはいつでも大丈夫だ」


「私も問題ありません」


 丹羽さんの確認で、お互いに向かい合う。

 土俵は無い。

 とにかく相手の背中を地面に着ける事が勝ち。

 武器は無くても、問題無い。


「キャプテン!頑張ってください!」


 太田の応援が後ろから聞こえる。

 これで負けたら、もう太田に大きい事言えないな。

 絶対に負けられない。

 ん?

 別に構えは何でもいいのかな?


「はっけよい、のこった!」


 丹羽さんの掛け声でいきなり始まった。

 先手必勝!

 身体強化五割で、目の前の阿形へと一気に詰め寄る。

 というより、詰め寄ったつもりだった。


「は?居ないんだけど」


 目の前に居たはずの阿形は、既に居なかった。

 後ろの確認を最優先に、左右も見回す。


(上だ!)


 十数メートル上を飛んでる人影が見えた。


「それはずるくね?道具使っちゃ駄目なのに、どうしろってんだ」


「フフ、魔王様は飛べないのですか?」


 ムッカ〜!

 空なんか飛ばなくても何とでもなるわ!

 足に力を入れて、思いきり蹴り上げた。


「ハッハ〜!捕まえた。叩きつけてやる」


(それは駄目でしょうよ)


 え?

 何で?


「私がそのまま逆さまに落ちたら、貴方は背中から落ちますよ?」


「あ・・・」


(交代だ)




 僕は創造魔法で、足元に鉄の階段を作る。

 これでいきなり空から落ちる事は無い。

 ただ、下をしたらめっちゃ怖いけど。

 ツムジに乗ってる時よりは低いのに、階段ってだけで恐怖感がある。


「これが噂の創造魔法ですか。初めて見ましたが、結構ずるいですね」


「アンタが言うか」


 しかし魔法を使うにしても、創造魔法以外は簡単なモノ以外は詠唱が必要だ。

 正直僕では分が悪い。


「少し雰囲気変わりましたね。なかなか興味深い」


 そう言うと、また目の前から姿が消える。

 相手から目を離してないのに!


「クソッ!」


 僕は創造魔法を解いて、一気に地面へと降りた。

 急いで上を向いたが、そこには誰も居なかった。

 その直後、不意に後ろからとんでもない衝撃を受けた。

 トラックにでもぶつかった気分だ。

 当たった事無いけど。

 そんな事考えていたが、僕は十メートルくらい吹き飛ばされていた。

 背中から殴られたか張り手なのか、とにかく前からじゃなかったのが幸いだった。

 うつ伏せに地面を滑っていた。


「いってー!久しぶりにこんな擦り傷作ったわ」


 軽口を叩いたけど、実際はそんな余裕は無い。

 焦ったら負けだと思う。

 相手から目を離さず、どうにか打開策を考えないと。


「冷静に焦らないようにしていますが、内心ではどうしようか打開策を探っているというところですかね」


 こうも冷静に言われると、軽くイラっとするな。

 しかし分かった事もある。

 魔法は主に身体強化のみ。

 これが全開なのかは不明だけど、背中の羽で空を飛べるのと隠形法の組み合わせで、基本的に接近戦しかしてこない。


【お前だと、かなり相性悪くないか?】


 悪いよ!

 打開策も思いつかないし。


【もう一回代われ。だいぶ落ち着いた。それと隠形法だけど、なんとなく予測出来た】


 ホント!?

 この短時間で凄いな。




 さてさて、接近しての肉弾戦で俺が負けるわけにはいかんな。

 太田にダサい姿を見せるのも終わりだ。


「お得意の隠形法だけど、おかげさまで見破ったぜ」


 ピクッと眉が動くのが見えた。

 ニコニコ顔は変わらんが、口元がいつもと違う笑みだ。


「ハッタリですか?私を動揺させようという魂胆ですかね」


 口ではそう言ってるけど、読んでいるのだろう。

 少し警戒された気がする。

 そしてまた、目の前から消えた。

 その瞬間、左手を横へ物凄い勢いで出した。

 何かが当たった感覚があった。


「ビンゴだろ!」


 やはり予想していた通りだった。

 内心ヒヤヒヤだったが、上手くいったようだ。


(凄いな!どうして分かったの?)


 分かったかと言われると、分かってはいない。

 半分は勘である。

 何故見てたはずなのに、居なくなるか。

 それは、見ていない時に動いているからだ。


(何?禅問答みたいなのは)


 人には、どうしても見ていない時があるだろう?

 その瞬間に動いてたんだよ。


(・・・まばたきしてる瞬間か!)


 正解!

 だから意図的にまばたきをして、動くタイミングに攻撃したってわけ。


(それでも何で左側を通るって分かったの?)


 だからそこは勘だって。

 もしかしたら右だったかもしれないし、上だったかもしれない。


(何だそれ!危ねーな!もしかしたらすぐ横じゃなくて、離れた位置に行った可能性もあるんじゃん)


 いや、その心配は無いと思ったよ。


(何で?)


 アイツさ、言動から分かると思うけど、無駄が嫌いなタイプだと思うんだよ。

 だから、自分の技が見破られてない限りは、遠回りするような事はしないはず。

 それとなんとなく左側って言ったけど、多分アイツ右利きだと思うんだよね。

 振り返っていきなり殴るとしたら、右拳に勢いをつけられる左側に回ると思ったっていうのもある。

 右側を回ると、右拳を一度後ろに引いてから殴らないと、勢いがつかないからね。


(驚いたな。勘だって言っておきながら、ちゃんと見てるじゃないか)


 まあね。

 伊達にキャッチャーとして、打者のクセとか見つけてないよ。


「まさか、本当に見破っていたとはね」


「いんや、分からないよ?勘だったかもしれないし、そうじゃなかったかもしれない。お得意の読みで、当ててみなよ」


 挑発混じりに言ってみた。

 開いてるのか開いてないのか分からなかった糸目が、うっすらと開く。

 怒ったのかな?


「素晴らしい。伊達に魔王を名乗っているだけの事はあります」


 逆に褒められてしまった。

 まだまだ余裕がありそうだな。


「俺も少しだけ本気出すわ」


 身体強化を七割に引き上げる。

 今度こそ、とっ捕まえられるはずだ。

 地面を蹴り、阿形へと迫る。


「速い!?」


「今度こそ捕まえたぞ。絶対に逃がさん」


 左手で袖を掴んだが、右手は防がれた。

 俺の右手と奴の左手がガッチリと掴み合う。


「力比べか?お前、余力あるのか?」


「残念ながら、腕力には自信がありませんね。だから!」


 掴まれていた右手を振り解かれ、奴の左手が俺の襟を取った。

 その瞬間、俺の身体が浮いた。


「マズイ!」


 柔道の体落としのような形になり、俺は投げられそうになる。

 でも、これは柔道じゃない。


「なっ!」


 阿形の片足が盛り上がり、バランスを崩した。

 その瞬間に俺は組み手を外し、奴から離れた。


「なるほど。創造魔法で足元に鉄の塊を作ったんですね。応用力もあって、厄介な魔法だな」


 厄介なのはお前だ!

 柔道まで使えるとは思わなかったぞ。


(戦国時代だと、柔術じゃない?)


 そんな事はどうでもいい。

 しかし強いな。

 これは本気の本気で行くしかないだろう。

 まだ完璧に使いこなせるわけじゃないけど、手を抜いて勝てる相手じゃない。



「お前等、あの金髪に勝てると思う?」


 ラコーンが横の太田とイッシー(仮)に、声を掛ける。


「そうですね。ワタクシは負けないとは思いますよ。ただ、勝てるとは言い切れないですね。特に素手では」


「俺も同意見かな。というより、素手なら負ける。武器アリなら勝てる自信はある。仮面してるし、俺なら読まれないからな」


 そんな返答が来たのを聞き、ラコーン一人が焦っている。

 俺は勝てる気がしないとでも思っているのだろう。


「はあ、つくづくお前等も凄いと思ったよ」


 小声で呟くラコーンの声は、誰にも聞こえていなかった。



「さて、そろそろ本気出す」


「まだ本気じゃなかったんですか?てっきり本気なのかと思ってました」


 ムカッ!

 その笑顔で言われると、馬鹿にされてる感が強くなる。

 その笑顔を崩してみせようじゃないか。


「驚いてもいいぞ?へん、しん!トゥ!」


 高くジャンプして空中一回転。

 全身が光を放ち、俺は新たな姿となって着地した。


「キャプテ〜ンストライク!」


 バシッとポーズも決め、相手の反応を伺う。

 ニコニコ顔が崩れてたら・・・あ、全く変わってませんね。

 分かりました。


「姿を変えた程度では、私は驚きませんよ?」


「そのニコニコ顔、崩してやるよ」


 俺は更に走者形態へと変身し、一気に目の前まで移動した。

 その勢いのまま奥襟を掴み、両足を引っ掛けて押し倒した。


「・・・え?」


 押し倒されて空を見上げ、自分が背中を着いた事にようやく気付いた阿形。

 自分が何をされたのか分からず、今までのクールな声とは全く違う、子供っぽい声を上げた。


「俺の勝ち〜!」


「そこまで!勝者、阿久野!」


 丹羽さんの声で、周囲で見ていた者達も一斉に歓声を上げる。


「完敗です。何をされたのかすら分からなかった」


 倒れた阿形に手を差し伸べると、そう言って手を取ってきた。


「ハッハッハ!これでも魔王だからな!ちょっと負けるかと思ったけど」


「ハハッ!貴方は面白い人だ」


「それにお前、本来の姿ってのになってないだろ?まだ余力ありそうだもんな」


 そう。

 丹羽長秀には、本来の姿は禁ずると言われていた。

 その姿になっていたら、俺達の勝利は無かったのかもしれない。


「それはお互い様ですよ。たまに雰囲気が変わったのを感じましたが、おそらく本来は違う能力なのでしょう?」


 雰囲気が変わる?

 最初から至って真面目にやったつもりだけど。


(僕との交代の事を言ってるんだと思う。しかしほぼ初対面でそこまで読むなんて、本当に凄いな。太田とツムジ以外、僕等の区別が付く人なんか居ないと思ってたのに)


「それね。本来の姿というか、まあ奥の手みたいなものかな?」


「そうですか。そういう事にしておきましょう」


「阿形、どうだったかね?」


「五郎左衛門尉様。御覧の通りでございます。やはり先日、私の事を見破ったのは間違いではなかったと申し上げます」


 見破った?

 何の話だ?


「俺、何かしましたっけ?」


「私が女性達に囲まれた際、私の身体を見て仰ってましたよね?」


「あー、アスリート体型とか筋肉がとか、そんな話?」


「それです。私の事を初見で見破る人は、少ないんですよ?大体はこの姿に侮って、態度が大きくなる方が多いですから」


 なるほどね。

 俺がお尻タッチとかおっぱいダイブしに行ってなかったら、気付かなかった事だ。

 やはりアレは重要な事だったのだ。



「さて、魔王様。貴方の事は分かりました。それで、私に話とは・・・」


 話を切り出す丹羽さんの言葉を遮り、中庭へ妖精の兵がやってきた。





「申し上げます!ヒト族の大軍が森を燃やしている模様。このまま行くと、右顧左眄の森にも火が広がると思われます!」

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