試験内容
丹羽さんからの勧めで、今日は休む事になった。
代表者には各自部屋が割り当てられたが、どうやら俺と長可さん以外は下の階に降りて、皆と過ごすみたいだ。
まあ、その辺は個人の考えなのでお任せする。
「今夜は此方の部屋でお休みくださいませ。明日の朝、お迎えに上がりますので、よろしくお願い致します」
仲居さんのような格好をした女性に案内され、俺は部屋へと入った。
八畳くらいの広さの和室。
第一印象は、温泉旅館って感じだ。
ベランダへと出てみると、これには驚いた。
露天風呂があるじゃないか!
俺は仲居さんが部屋から出たのを確認し、すぐに素っ裸になった。
「はぁ。俺、もう満足だわ。でも、此処から帰りたくないな」
(何言ってんだよ。風呂も良いけど、明日の試験の事も考えないと)
夜空が綺麗だなぁ。
日本と違って、星がよく見える。
星座とかよく分からないけど。
(おーい、帰ってこーい!現実逃避するなー)
うるさいな。
分かってるよ。
でも風呂入ってる時くらいは、ゆっくりしようぜ。
部屋付き露天風呂のある旅館なんて、日本でも行った事無いんだから。
(それはそうだけど。じゃあ。もうこうしよう。頭使うのは僕。身体使うのは兄さん。これで良いね?)
もう全然それでOK。
今日は風呂に入りながら、マッタリしようよ。
(丹羽長秀が敵か味方か分からないんだから、ちょっとは緊張感持ってよ?)
こんな良い部屋を用意してくれるんだから、わざわざ変な事してはこないでしょ。
日々の疲れが出てきたかな?
俺、もう眠くなってきたわ。
明日の試験に備える為にも、ちょっと早いけど寝よう。
(頭にしろ身体にしろ、明日に備えるなら休んだ方がいいか。僕も寝よう。おやすみ)
布団の中で気持ち良く寝ていると、ノックの音の後に扉が開く音が聞こえた。
「おはようございます。その様子だと、満足いただけたようですね」
昨日の仲居さんが部屋に入ってきた。
朝食の準備が出来たので、呼びに来たとの事。
本当に旅館に来た気分だな。
「朝食後、領主様から試験の内容についてお話しがあるとの事です」
メシの後にいきなり試験の話かぁ。
ちょっと気が滅入るな。
(腹をくくって、頑張るしかないでしょ)
そうだな。
俺が身体を動かす事で、負けるはずない!
(僕はちょっと心配だけどね。この世界の歴史についてとか聞かれたら、ハッキリ言って分からないから。読み書きは出来ても、流石に歴史までは分からん)
俺じゃなくてお前が弱気なのって、結構珍しいな。
どんな試験かは置いといて、とりあえずメシ行こうぜ。
「キャプテン、おはようございます!」
太田に朝の挨拶をされたけど、これには度肝を抜かれた。
朝の食事は、俺達全員だった。
東京ドームより広いか?
おそらく500人全員であろう人数が、バイキング形式で料理を取っている。
端から端まで行くと、おそらく軽く五分は掛かるだろう。
しかしこの部屋、あの大木のどの辺りなんだろうか。
こんなスペース、大木の中でも限られそうなんだけど。
「魔王様、試験の事については何か聞かれましたか?」
ゴリアテは試験内容が気になるようだ。
此処まで来ておいて、試験で話が変わるってのはどうかなって感じだしなぁ。
むしろ、まだ本題にすら入っていない。
ノーム達が来てくれなければ、結局は無駄足って事になる。
「まだ聞いていない。この食事が終わったら、教えてくれるらしい」
「キャプテン!色々と取ってきました。やっぱり育ち盛りは沢山食べないと」
太田が取ってくるというので任せたが、これは確実に失敗だった。
俺の背丈と同じだけの量って、どう考えてもおかしいだろ!
高校時代だって、流石に一食でこの量は食ってないわ!
「ゴリアテ、お前まだ食べられるよな?」
「はい?ええまあ、まだ半分くらいは余裕ありますかね」
目の前の量を見て察したのか、一緒に食べてくれる事になった。
オーガの体格なら、これくらいは食べてくれるはず。
「って、オイィィィ!!お前、肉食ってないじゃねーか!」
「いやだって、脂肪分は要らないので。ササミとかそういうのは食べますけど、後は野菜で十分ですね」
そうだったあぁぁ!!
コイツ等、無駄に肉体美に拘る連中だったわ!
この目の前にある揚げ物、どうしろというんだ。
無理だ。
この量は絶対に無理だ。
誰か、へるぷみー!
「子供がはしゃぎ過ぎて、沢山取り過ぎたって感じか?」
「さ、さいだ・・・イッシー(仮)!体調は良くなったのか?」
「おかげでバッチリだ。この城に入ってから、すこぶる良くなったよ。部隊長なのに、迷惑掛けて申し訳なかった」
「よし!それなら一仕事頼みたい」
「まさか、目の前のこの量を食べろって言うんじゃないよな?」
先に言われてしまったので、目を逸らして口笛を吹いた。
フス〜プス〜という空気音しか出なかったけど。
「冗談やめてくれよ。俺はアラフォーだぜ?流石に食う量も減ったし、脂凄いのは朝からは無理だわ。頑張って食べるけど、期待しないでほしい」
朝から何でこんな事になっているんだ・・・。
太田も脂で逃げたし。
自分で持ってきておいて、ふざけた奴だ!
「第三部隊、集合!」
え?
まさか、仕事でもないのに此処で呼ぶ?
「皆で手分けして食べるぞ」
「え・・・。残すのは駄目なんですか?」
それはごもっともな意見なのだが、それは俺が許さない。
自分が持ってきたわけじゃないが、バイキングやビュッフェといった形式で残すのは、マナー違反である。
やっている人も居るが、見てるだけで腹立たしい。
「馬鹿野郎!作ってくれた人に申し訳ないだろうが!」
どうやらイッシー(仮)も同じ意見のようだ。
部隊員を動員してなんとか食べ切ったので、これで良しとしよう。
太田は後で殴る。
「試験内容について発表する!」
食事を終えた後、俺達は昨日と同じ部屋へ案内された。
今回は先に丹羽長秀が待っていたが、堅苦しい挨拶は抜きにして、いきなりそう言われたのだった。
「今回の試験は相撲。相撲で判断させてもらう」
試験内容が相撲?
相撲で何を決めるんだっての。
(普通の相撲かな?)
それだ!
何か特別な相撲に違いない。
「相手の背中を地面に着けたら勝ちだ」
ん?
ほとんど一緒だな。
「膝や手を地面につくのは?それと関節は極めてもいいのかな?」
「どれも構わない。とにかく相手の背中を地面につけた方が勝ちとする」
うーん、俺の知ってる相撲とは違うな。
モンゴル相撲ってこんな感じ?
(モンゴル相撲の事なんか知るわけがない。でももしかしたら、昔の相撲と近いのかもしれない。信長って、相撲大好きだったから。相撲が強かった人は、自分の部下にしちゃうくらいだったらしいよ。それに丹羽長秀って、信長とガキの頃から知り合いだったはず。その頃から相撲やってたんじゃない?)
そうなんだ。
って、この人も信長と同じ時代の人って事か!?
(いや、日本の丹羽長秀の話ね。この人はどうか知らないけど、でも信長が相撲好きだったくらいは知ってると思うけど)
ちょっと聞いてみようか?
「質問なんだけど。相撲にしたのって、信長の影響?」
「ほう。何処でその知識を?確かに初代丹羽長秀様も、信長様達と相撲をしていたと聞いているが。有名だったかな?」
そうなのか?と、振り返って太田の顔を見る。
太田はコクコクと頷いていたので、有名なのだろう。
いや、長可さんが知ってたら、有名って事か。
太田は信長マニアと言っても過言じゃないから、知っていて当然かもしれない。
「有名かどうかは知らないけど、こっちには生粋の信長好きが居るからね。丹羽さんが知らない事も知ってるかもよ?」
「それはそれは。とても心強い方ですな。ではその相手だが。阿形!吽形!」
ん?
その名前聞いた事あるな。
なんだっけ?
修学旅行?
(奈良だよ。東大寺南大門、金剛力士像だ)
東大寺南大門?
何処だっけ?
(もう!勉強くらいしとけよ。つーか、浅草の浅草寺にもある像だよ)
あー!
なんとなく思い出した。
って、あの像!?
金剛力士って言うのか。
名前に力士って入るくらいだから、相撲も強いのかな?
(それはどうだろう?でも丹羽長秀が呼ぶくらいだから、強いって考えて間違いないでしょ)
しかしお前、自分の出番が無いと分かったからか、随分と喋るようになったな。
饒舌だっけか。
(ハ、ハハハ。そんな事は無いぞ、マイブラザー。今でも丹羽長秀の事を警戒しているからね)
ギクッ!って音が聞こえた気もするが、まあいい。
俺の相手が呼ばれても来ないのは、どういう事だ?
「既に来ていますよ?」
バッと足元を見ると、昨日会ったあの二人の妖精だ。
ハッキリ言おう。
心の声が漏れてるのか分からんが、こっちの事を見透かされている感覚がある。
そしていつの間にか背後や足元に居て、正直な話をすると不気味な存在だ。
「阿形、吽形。お前達のどちらかが、魔王を名乗るあの子と相撲で勝負しなさい」
「仰せのままに」
二人とも同じ仕草を一糸乱れぬ姿で行った。
とても優雅な仕草で、俺は見入ってしまった。
「魔王様、魔王様!」
ギリーが小声で話し掛けてきた。
どうやら、この二人について何か話があるらしい。
そういえば昨日もこの妖精ツインズに会ってから、不機嫌な顔してたっけか。
「良いですか?彼等は丹羽様の両腕です。右の阿形、左の吽形と呼ばれる武人なのです」
武人?
あの二人が?
丹羽長秀の子供なら未だしも、配下で両腕と呼ばれる強さを持つなんて、想像も出来ないな。
「あの二人と戦うというなら、此方も遠慮はしていられないので。とにかく気をつけてほしいのは一つ。あの二人から意識を離さないでください。彼等は隠形法という技を使い、自分の意識外から急に攻撃を仕掛けてきます」
隠形法?
たまに漫画とかで聞くけど、どんな技だかまでは知らないな。
(名前の通りなら、姿をくらます技なんだろう。急に背後や足元に現れたのは、その技を使ったからか)
気をつけてほしいって言われても、どうやって気をつけるんだ?
それに気になる事がある。
「体格差が大きいけど、それでもやるの?」
「ハッハッハ!既に勝った気でいるのかな?まあキミ一人なら、阿形だけでも十分だろう」
ムッ!
なんか馬鹿にされた感じがする。
感じ悪いな。
「それと武器の使用は禁止。逆に魔法の使用は、身体強化も含め特に問題は無しとする」
という事らしい。
最悪、お前と交代の可能性もあると思ってくれ。
(うーん、なんか普通の相撲では無さげだなぁ。組み合ってやるって気がしない)
「それと先程の質問だが、先に答えておこう。阿形」
「ハッ!」
跪く金髪の方の妖精が、丹羽さんの呼びかけに応じた。
アレ?
見間違えじゃないよな?
(うん、姿が大きくなった)
俺とほぼ同サイズまで大きくなった。
これはかなり驚きだ。
「そんなに驚く事かね?彼等は、スプリガンとピクシーのハーフだ。スプリガンの特性くらいは持っているさ」
何その特性。
初めて聞くんですけど。
(僕もそこまでは知らん。初めて聞いた。巨大化?それとも肉体の拡大縮小?どちらにしろ似たようなもんだろう)
俺と同じサイズにしたって事は、本来ならもっと大きくも出来るって事か。
「では、中庭の方に移動しよう」
大木は五本くらいかと思っていたら、更に奥の方にも別の大木があった。
中庭と呼ばれる場所を囲んで、合計で十二本の大木が立っていたらしい。
表側から見えるのが五本だけだったわけか。
「五郎左衛門尉様、本気を出してもよろしいのでしょうか?」
「自らそう言ってくるのは珍しいな。だが本来の姿は禁ずる」
本来の姿?
それを出さずに勝てるってか。
俺もナメられてるなぁ。
「そのような目で見られても、ナメてなどおりませんよ。むしろ警戒してるからこそ、というべきですかね」
「それはどうも」
何で心の中が読まれるのかな?
(表情からバレてるとか?)
でも、読まれるのは俺だけなんだよね。
もし心の中全てが読まれているなら、ツムジみたいにお前の事もバレてるはずだから。
(それもそうだ。冗談で言ったけど、表情とか身体の仕草とか。そういうのから読み取ってるのかもしれない)
そうか。
じゃあ思い切って、変な事を考えてみよう。
俺はおっぱいが揉みたい!