妖精都市
溜まってるのかな?
とても元気な姿を見せてくれたわけだが、仮面のおかげで顔色は分からない。
あまり言いふらす必要もないけど、敢えて言おう。
そこまで大きくないです。
そこまで大きくないです。
大事なことなので、二回言いました。
【誰に言ってんだよ!でも、そこまで大きくないです】
兄さんだって言ってるじゃないか!
【勝ったな・・・】
あぁ。
「どうするの?このまま寝かせる?」
ハクトも気になってはいるが、この姿を他の人に見せるのは彼の股間に・・・ではなく、沽券に関わる。
アレだけの騒ぎを起こしておいて、いざ見舞いに行ったら股間が富士山だった。
こんな事が広まれば、彼はもう部隊長ではなく、ただの変態としか見られないと思われる。
それは僕等としても困るのである。
おそらくはまた体調不良に陥っても、先程の解毒で何とかなるだろう。
少し不安も残るが、二人を周囲から見られないようにキャリアカーに乗せ、そのまま進む事にした。
「あの姿、迷惑を掛けた部隊の連中が見たら怒るよなぁ」
「生理現象なんだから、仕方ないとも思うけど。でも、確実に印象は悪い」
ハクトですらそう思ってるんだから、他の連中なんかもっと怒るだろうな。
いや、呆れるの間違いか?
どちらにしても、部隊長としてはやっていけない事に変わりはない。
「魔王様。私が付いていながら、申し訳ありません。しかし、以前はあのような罠は仕掛けられていなかったはずなのですが」
「おそらく帝国のせいだろう。帝国の王子、名前なんだっけ?」
【ヨアヒムなんちゃらだったと思う】
「それそれ!そのヨアヒムなんちゃらって王子が魔王を名乗って、魔族に喧嘩売って回ってるからでしょ。防衛機能を強めたって事じゃない?」
ギリーには伝えてないけど、多分ヒト族にしか毒が効かないのは、そのせいだと思う。
ん?
でもそうすると、魔族への警戒は薄いのか。
もしかして、ドワーフが裏切った可能性がある事を知らないのかな?
いくつか疑問点が出てきたけど、やっぱり直接聞くのが手っ取り早い。
「右顧左眄の森に入ってから、本来ならどれくらいで若狭に着くんだ?」
「徒歩でしたら、魔物に出会さなければ二日も掛からないですね。長くても三日は掛かりません」
それなら、トライクだと一日掛からないだろう。
そろそろ食料も残り少ない。
尽きる前に到着の目処が立ったのは、朗報だったかも。
「そういえば、この森で食用に使える植物はある?」
「大半は食べられますよ。あまり知られていない物もありますし、貴重な物もあります。ほら、胡椒なんかも見えますね」
この森、胡椒が出来るのか。
本来ならインドとか、暑い国原産だった気もするけど。
右に胡椒、左に梨。
土地も季節もバラバラ過ぎて、ワンダーランドの世界だな。
しかし、果実があるのなら飢える事は無い。
迷っても、魔物に出会わなければ問題無いだろう。
「面白い森だな。これを売れば、若狭の財政は潤うんじゃないの?」
「別に右顧左眄の森じゃなくても、都でも作れます。丹羽様は兵糧が無くなるのが許せない人なので、余るほどあるはずです。それと、私が都を出る前に、新しい事を試みていましたが、それは上手くいかなかったようですね」
「失敗した事業は、何だか分からないの?」
「私のような下っ端妖精には、そこまで詳しくは・・・。それに都を出ようとする者に、機密内容を漏らすとも思えませんし」
そりゃそうだ。
ライバルが居たら、そんな重要な事は尚更教えない。
何をしようとしたか分からないけど、失敗したのなら協力を申し出て成功したら、それは交渉で有利に働くかもしれない。
あくまでも仮定の話だけど。
でも知っておいて損は無いはずだ。
「もうまもなく到着出来ます」
「何で分かる?」
「花の香りがしてきてますので」
花の香り?
別に何も匂わないけど。
むしろ森の木々や草の青々しい臭いならする。
「僕には全然分からない。何か特別なのかな?」
「大半の人は分かりませんよ。分かるのは妖精族と、犬の獣人等の一部の方のみだと思います」
フェロモンみたいな特殊な匂いかな?
僕等じゃ無理だと思っておけばいいか。
「到着しました!此方が若狭への入り口となります」
うーん、見た目が少し怖い?
何かの木に荊棘が巻き付いている。
その間に門があるけど、門自体はそこまで特別ではない。
「アレは月桂樹に荊棘が巻き付いているんですよ。栄光には痛みが伴う。だったかな?」
【月桂樹が何で栄光なんだ?】
あんまり覚えてないけど、ギリシャ神話で月桂樹から作った冠を、勝者に渡してたとかだったと思う。
アポロンだったかな?
【お前、本当によく知ってるな】
ゲームとか漫画、アニメの知識だから。
そんなに大した事無いよ。
「門番が来ましたね。あまりに大勢なので、ちょっと驚いてるみたいですが」
確かに門の方から、二人組が歩いてくる。
見た目は僕と変わらない背丈だ。
鎧は着込んでいるけど、お世辞にも似合っていると思えないな。
小さい子供が兵隊ごっこしてる感じに見える。
「お、おおお前達、何者だ!」
めっちゃ声が震えてる。
僕みたいなガキンチョも居るのに、そこまで怖いか?
【そりゃ、乗り物の方にビビってるんだろ。こんな物見た事無いだろうしな】
そういえばそうだった。
見た事の無い物に乗って現れたら、それはビックリする。
しかもそれが大量にあったら、恐怖に感じても仕方ない。
「はじめまして、こんにちは。僕はマオ。魔王だ」
「ハァ?」
子供が大人を差し置いて、いきなり魔王だって名乗ってくる。
そんな事言われれば、素っ頓狂な声が出てもおかしくはない。
まあ、それが狙いなんだけどね。
「僕が魔王だって言ってるの」
「何で子供が魔王なんだよ!」
緊張は解けたようだ。
友好的な交渉がしたいのに、そんなにビビられてると困るんでね。
「貴様!その態度は何だ!此方におられる方を魔王様と知っての事か!」
知らないからそう言ってるんだろうが!
つーか太田が威圧的に出たから、また震えちゃってるじゃないか。
このバカチンが!
「イタッ!え?何でワタクシ、叩かれるんでしょうか?」
「バカタレ!門番を威圧して入れてもらえなかったら、どうするつもりだったんだ!?」
しゅんとする太田は放っておいて、門番とまた話をする。
「すまない。ちょっと此処の領主に話があって来たんだ」
「丹羽様に?素性も知れない輩を通すわけにはいかない!」
「私の身分を調べてください。私はグレムリンのギリー。佐和山城で働いていた事があります」
「城で?少し待て」
門番の一人が中へと走っていった。
しかし佐和山城?
城まであるのか。
既にイメージと違う若狭という都。
この分だと、城も予想とはかけ離れているに違いない。
中に入るのが、楽しみになってきたぞ!
「ギリー殿の確認が取れました。城の方にも連絡したところ、お通ししろとの事です」
急に丁寧な対応になった。
しかも城まで入れるとは。
もしかしてギリー、結構有名人?
「魔王様。参りましょう」
「ほえ〜、凄くファンタジーな街並みだな」
変な声を出しつつ、周りを見ながら歩いていく。
これが渋谷とか原宿なら、完全なお上りさんだろう。
いや、僕は今その状態だったわ。
都に初めて来たお上りさん。
「他の町とは違うでしょう?これが若狭の街並みです」
ギリーの説明通りだった。
大木の根本に扉が付いていて、大木の一本一本が家になっているらしい。
基本的には二階か三階みたいだけど、改築も可能で更に上には増やせるとの事。
妖精族に合わせたサイズかと思いきや、ヒト族くらいなら通れるくらいの扉の大きさ。
エルフやそこまで大きくない獣人なら、普通に入れるだろう。
ただし太田、テメーは駄目だ。
意地悪ではなく、流石に入らないと思われる。
なので、オーガの連中も難しいかな?
「この花は街灯になっております。夜になると、勝手に光るんですよ」
鈴蘭を上に伸ばしたような植物が、等間隔で道路の左右に咲いている。
夜になるとこれが光るとな。
めっちゃ幻想的な風景になりそう。
こんなの女の子と来たら、惚れてまうやろ。
来る相手、居ませんけど。
「この道を真っ直ぐ行けば、佐和山城です。丹羽様に直接お目通し頂けるかは、まだ分かりませんが。でも入城許可まで頂けたのは、大きいと思います」
「普通は中に入れないの?」
「そうですね。初めての人はまず無理です。今回は魔王様の名前を出したからか、僕の身分が明らかだからか。どちらかが理由だと思われます」
城にすら入れないのが普通なのか。
じゃあ城主に会うなんて、もっと難しいかな。
極力早くお願いしたいけど、急かすと逆に印象悪くなりそう。
「アレが佐和山城です」
「何だこりゃ!?大木が変形してる?」
五本か?
今まで見た事もない大木が密集して、大きな塊になっている。
枝と枝が、大木の幹にくっ付いているのが見える。
枝と言っても、街で見かけた家の幹と同じくらいの太さはありそうだけど。
大木を繋ぐ通路みたいな感じかな?
「あの天辺に、丹羽様が居られる間があります。近臣の方しか入る事はほとんどありません。私も数度だけしか入った事はないです。信長様の命日である日に行われる鎮魂の儀だけは、城で働く全員が玉座の間に集まります」
やっぱり信長崇拝者っぽい。
僕の予想は当たってるかもしれないな。
「それで、城の中に入れたとして、会える可能性あるのか?」
「なにぶん初めての事なので、私にも見当がつきません」
流石に会えないかな?
でも、そうすると何故城まで呼ばれたか分からない。
監視下に置きたいから?
それなら、魔法でも監視すればいい。
一行を城下で目立たせたくなかった?
でも大勢過ぎて目立つ事この上なかった。
結局、理由も分からんな。
そんな事考えてたら、城門まで着いてしまった。
「ギリー殿、お久しぶりです。中へ御案内します」
「おお!ズモ殿か!?久しぶりですな。この度はよろしくお願いします」
どうやら案内人まで用意されてるらしい。
しかもギリーの知り合いだ。
「魔王様、私の同僚だったズモ殿です」
「阿久野真王と申します。よろしくお願い致します」
「・・・魔王?帝国の方ではないようですが」
やはり情報が遅い。
通信機器も無いこの時代だと、時間差が大きくあってそう簡単には知られないみたいだな。
という事は、ギリーだから城に入れたって事だろう。
「此方におられる方こそ、真の魔王!マオ様であらせられる!」
太田がドヤ顔で説明している。
もう顔がうるさい。
お前のせいで、怪訝な顔で見られてるぞ。
変な目で見られつつも、城の中へは入れた。
大木の中は思った以上に広く、二十人くらいが横に広がっても、余裕で通れるスペースがある。
天井も思ったより高いが、あれだけの大木ならこれでも十階以上はありそうだ。
「代表者数名以外は、此方でお待ち下さい。代表者の方々は私の後をついてきてください」
数人の代表者を選んで、別室へとな?
これはもしかして、いきなり丹羽長秀に会うチャンスか!?
「数名とは何名ですか?」
「そうですね。五名までにしましょうか」
五人か。
まずは自分とギリーは確定。
そして代表者だけというなら、此処から先はそれなりの身分の人が居るはず。
いきなり交渉という可能性もあるので、長可さんが三人目だ。
後は護衛で太田とゴリアテ。
戦闘力だけならイッシー(仮)が良いのかもしれないけど、未だに体調が優れない。
護衛どころか、逆の立場になりそうな気さえする。
それを考えると、太田とゴリアテが無難な線になるのだろう。
「ギリー、太田、ゴリアテ、長可さん。この五人で先に行く。後は待機だ。体調不良のラコーンとイッシー(仮)に代わり、蘭丸が代理でまとめてくれ」
「分かった。城内で戦闘なんかならないだろうし、俺でも大丈夫だと思う」
蘭丸ならまとめられるだろう。
まだ若いけど、皆も一目置いているし。
「此方で指示があるまでお待ちください」
長いツルのような物で作られたエレベーターもどきに乗り、上の階へと移動した。
案内された部屋は、洋風に近かった城内とは打って変わって、純和室だった。
畳の上には、何故かお茶が用意されている。
部屋の奥には窓があり、外を覗く事が出来た。
結構な高さである。
上を見るとまだ天辺には遠かったので、中層階くらいなのかもしれない。
しばらく待たされて、何もする事が無かった。
仕方なく窓から外を見ていると、隣の大木に小さな妖精が二人いるのが見えた。
見えたというか、見間違い?
気付いたら居なかったのだった。
「見間違いじゃありませんよ」
「おわっ!ビックリした!」
振り返ると、さっき向かうの大木に居たはずの妖精が二人、何故か部屋の中に居た。